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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第80章 ユニオン総会編

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1932/3938

第1903話 ユニオン総会 ――初代の迷宮――

 初代ユニオンマスターにして、<<天翔る冒険者ヴェンチャーズ・ハイロゥ>>初代ギルドマスター・アレグラス。そんな彼が残した訓練場に挑む事になった冒険部一同であるが、そんな一同の引率にカイトは立っていた。


「良し……先輩。冒険部各員の状況は?」

「問題無い。挑む奴は全員、揃って支度を終えている」

「良し」


 瞬からの返答に、カイトは一つ頷いた。ここから行くのは戦闘前提の迷宮(ダンジョン)だ。準備はしっかり整えねばならなかった。そうして挑む者たちの統率を執り移動を開始したわけであるが、その道中。瞬が興味深げにカイトへと問いかけた。


「それで、訓練場はどんなのなんだ?」

「それはオレよりそっちの二人に聞いた方が良いだろ。挑んだ事があるからな」

「それもそうか」


 カイトの言葉に道理を見た瞬は、その指摘に従ってコロナとアルヴェンを見る。これに、コロナが口を開いた。


「あ……えっと、<<天翔る冒険者ヴェンチャーズ・ハイロゥ>>の訓練場は冒険者の基礎が問われる訓練場、です。だから<<天翔る冒険者ヴェンチャーズ・ハイロゥ>>では冒険者の基礎が学べているかを試す為、初代様の遺した迷宮(ダンジョン)にある初代様の墓へたどり着くのが、入団条件です」

「なるほど……初代の墓に挨拶をしてこい、というわけか」

「それも、あるんですけど……」


 良い考えじゃないか。感心した様な瞬の言葉に、コロナは少しだけ困った様な顔を浮かべる。これに、瞬は首を傾げた。


「違うのか?」

「はい……あの迷宮(ダンジョン)。さっきも言いましたけど、冒険者の基礎が試される場所なんです。なので初代様の墓はその基礎を修めた、と初代様が認めて下さる領域にあるらしくて……」

「……とどのつまり、今の多くの冒険者達は初代が認める領域にも到達していない、と?」

「……はい」


 少しだけ照れくさそうに、コロナは瞬の言葉に頷いた。一応今の基準であれば、ランクCにも到達すれば冒険者としては一人前。胸を張って依頼を受けられる。事実、冒険部に限らず数多ギルドで一番多いのはこのランクCだ。が、ランクC程度では墓までも至れないのが、現実だった。そんな現実に、アルヴェンが盛大に愚痴る。


「てーかさ。ぶっちゃけ無理だって。そもそも前提条件三人パーティだろ? まぁ、一部バルフレアさんみたいなぶっ飛んだ人は良いんだろうけどさ。そもそも三人集めるのも難しいって」

「三人? 試練は三人居ないと受けられないのか?」

「いや……そうじゃなくてさ。一人でも良いらしいんだけど……実際、バルフレアさんは一人で墓参りしてる、って話だし……」


 どこか煮え切らない様子で、アルヴェンが説明に困った様にコロナを見る。それに、コロナが苦笑した。


「途中、チームワークを求められるんです。それで、罠によっては三人解除に必要だったりして……」

「冒険者たるもの、誰が相手でもある程度の連携が取れねばならない。それが無理だというのなら、一人で三人分の活躍をしやがれ……だ」

「「……」」


 少しだけ楽しげに初代の言葉を嘯いたカイトに、コロナとアルヴェンが目を丸くする。とはいえ、聞いたことが無かったわけではないらしい。


「そういうこと……あんたもバルフレアさんから聞いてたのか?」

「ああ」


 三百年前だがな。カイトはアルヴェンの問いかけにそう嘯いた。前に言われていたが、彼はこの<<天翔る冒険者ヴェンチャーズ・ハイロゥ>>の入団試験に臨んだ事がある。

 その時のパーティというのが、カイトとユリィに、道案内として先代のユニオンマスターに命ぜられたのがバルフレアなのであった。その道中で聞いたのである。なお、流石に当時でこの三人だ。墓には普通に到達したとの事であった。


「ま、そういうわけで。三人一組か本当に自信があるのなら一人で、だな」

「ああ……俺達はどうすれば良い?」

「当然、三人一組でしょ。というか、そうじゃないと流石にキツイよ。伊達に八大の入団試験じゃないだろうし」


 瞬の問いかけを受けて、ユリィがカイトのフードから顔を出す。彼女もまた今回挑む迷宮(ダンジョン)に入った事がある。なのでその厄介さは身に沁みて理解している。こういうのが当然だった。


「それもそうか」


 ユリィの指摘に、瞬は僅かに鎌首をもたげていた単独踏破への欲を捨てる。彼とて冒険者だ。初代ユニオンマスターが課した試練に初手から舐めて掛かるつもりはなかった。

 そうして、歩く事少し。<<天翔る冒険者ヴェンチャーズ・ハイロゥ>>のギルドホームの前へとたどり着いた。そこでは一仕事終わらせたバルフレアが待っていた。


「よぉ、来たな」

「バルフレアさん」

「よ」


 深々と頭を下げたアルヴェンの言葉に、バルフレアが右手を挙げる。そんな彼に、アルヴェンが問いかける。


「バルフレアさんも行くんですか?」

「ああ……ま、本来なら何か話すべきなんだろうが、生憎俺も時間なくてさぁ……行くならさっさと行って来いってウィザーの奴が煩いわけ」

「は、はぁ……」


 そんなものなのだろうか。流石にアルヴェンもバルフレアを前にしては何時もの調子とは行かず、曖昧な生返事だった。そうして、ひとまず一同はバルフレアに案内されて『リーナイト』から出てすぐの山へと向かう事になる。

 と言っても、街から出たと言ってもどうやら整備はされている様子で、魔物が出る様子はなかった。一同――と言ってもカイトら一部は別だが――は気付かなかったが、高度な魔物避けの結界が編まれているらしい。そうして、バルフレアへと瞬が問いかけた。


「山に向かうんですか?」

「まぁ、正しくはある。正確には山の麓が目的地だ」

「? 山の麓? あの森……林? ですか?」

「ああ……あそこからもう<<天翔る冒険者ヴェンチャーズ・ハイロゥ>>の入団試験が始まる」

「はぁ……」


 見るからに普通の雑木林にしか見えないが。瞬はバルフレアが目指す雑木林を見て首をかしげる。そうして、更に十分ほど。一同は雑木林の前にたどり着いた。


「良し……こっからが、初代様の遺した迷宮(ダンジョン)だ。基本的には三人一組か、自信があるなら二人、もしくは一人でも良い。ま、そこは好きにしろよ。ああ、一応言っておくが、中で死ぬ事は無いから安心しろ」

「? そなの?」

「ん? あ、そか。二回か三回前の改変で変わったんだよ。今回もそのままだな」


 少しだけびっくりした様子のユリィの問いかけに、バルフレアはそう言えば彼女も知らない事を思い出してしっかりと言及する。なお、これをどうやって調べたかというと、特殊な魔導具があるらしい。それで死なないで外に出される形式だとわかったそうだ。


「ま、そりゃ良いか。とりあえず後は入ってみりゃわかる。チーム編成だけはしっかりなー。中では変えられないからなー」


 ひらひらー、と手を振りながら、バルフレアが一足先に背を向けて雑木林に入っていく。そうして、数歩。彼の姿が唐突に闇に飲まれて消え去った。それに、全員が目を丸くする。


「なんだ?」

迷宮(ダンジョン)、なんだろ……さぁ、全員言われた通りパーティ編成はしてるな! 支度と覚悟が出来た奴から、順次入ってけ!」


 カイトは手を叩いて、冒険部一同へと行動を促す。そうして彼は今回の挑戦に臨む面子の大半が雑木林へと消え去ったのを見届ける。そんな彼に、同じ様に見送る形となっていたアルヴェンが問いかけた。


「あんた行かないのか?」

「オレも行くぞ? 単に最後まで見送って、帰るなら帰る奴らをしっかり見極めないといけないからな」


 やはり個々人によって色々と考えはある。なのでここに来て引き返すのなら、それも良しだ。まぁ、今回は幸いな事に死なない、という事がわかっていたのでとりあえずは挑むだけ挑んでみるか、というのが大半だ。特に見送る必要は無さそうだった。そんな彼に、アルヴェンが僅かに感心した様に告げる。


「……ギルドマスターって大変なんだな。バルフレアさん見てると楽そうに見えるけど……」

「当たり前でしょ……ほら、私達も行くわよ」

「あ、おい! 引っ張んな!」

「頑張ってねー」


 ユリィがアルヴェンを引っ張って、最近仲良くなったらしい同じ年頃の女の子の冒険者と共に雑木林へと消えていくコロナへと手を振る。アルヴェンが残っていたのは、コロナとその女の子の支度が整わなかったからだ。そして彼らが去った事で、残ったのはカイトを筆頭に今回参加した幹部だけになる。

 まぁ、わかりやすく言えばカイトとユリィに、瞬と藤堂、綾崎の三人だ。後者三人が冒険部の筆頭戦力。一番奥深くまで到達出来るだろう面子だった。そしてカイトと同じく、他の面子が入るのを見届ける役目を負っていたのである。そうして雑木林へと消えていった最後の一組を見送ったわけだが、そこで瞬が僅かな不安を滲ませた。


「魔術師二人に近接一人だが……大丈夫なのか?」

「いや、そもそも今のコロナ達の実力じゃ、墓まで行けないさ……だろう?」

「まな」


 カイトの問いかけを受けて、最初に消えた筈のバルフレアの声が聞こえてくる。そうして、雑木林へと消えた筈の彼が雑木林の影から現れた。


「バルフレアさん?」

「おう……今回カイトと一緒に行く事になっててさ。まぁ、<<天翔る冒険者ヴェンチャーズ・ハイロゥ>>のギルドマスターとしての仕事だ。一応、これでもギルドマスター。ギルドで管理している迷宮(ダンジョン)なら、ある程度までなら危険が無い事ぐらいは確認しとかねーと」


 確かに、それはそうだ。瞬達三人はバルフレアの言葉に思わず納得する。先に彼も言っていたが、まだこの迷宮(ダンジョン)は最下層まで誰も到達していない。

 バルフレアなら単独でも最後まで到れるだろうし、時にはそうしているそうだ。が、やはり何が起きるかわからないのが迷宮(ダンジョン)だ。しかも、初代ユニオンマスターが遺した迷宮(ダンジョン)だ。殊更油断するべきではない、と判断していた。

 なのでバルフレアも基本は単独で挑む事はなく、時にはアイゼンに頭を下げて同行してもらう事もあるとのことだ。今回もそうするか悩んでいる所に、カイトの申し出だ。渡りに船と受けたのであった。そんな彼に、瞬が驚いた様子で問いかける。


「でも、意外です。貴方なら一人でやる、と言うのだと思っていました」

「あっはははは。良く言われる。けど、これがなぁ」

「んだよ」

「あっははは。お前とは正反対で、なおかつ逆に思われるんだよな」


 どこか恥ずかしげにそっぽを向いたカイトに、バルフレアは肩を組みながら笑う。そうして、そんな彼が笑いながら告げた。


「逆だ。俺がどうしてどんな辺境の地からも生き延びられると思う?」

「え? え、っと……強いから、ですか?」

「違う違う。危険な事はしない、ってだけさ。どんな状況でも対応出来る様に準備して、その上で想定外の状況が起きても適切に対処する。それだけさ」


 当たり前といえば、当たり前。そんな当たり前の事をバルフレアは語る。が、これこそが全てだというのが彼の言葉だった。そんな彼に、カイトが腕を振りほどきながらため息を吐いた。


「まー、そうっちゃそうなんだが。オレが何かする時は大抵面倒事が起きてる時ばっか。準備した所で無駄だし、出来る事も無いしな。いきあたりばったりこそ、我が人生」

「てわけ」


 楽しげに、バルフレアがカイトの言葉に笑う。勿論、カイトとしても準備が出来る場合は万全を整えて挑む。が、その事に掛ける本気度が違っていた。

 それに何より、彼の場合はあまりにぶっ飛んだ状況に追い込まれてしまって、結局冒険になってしまう事が多すぎた。準備が出来ない事の方が多かった為、準備が出来ていない状況でも行ける様になったのである。その結果、準備が若干おざなりになる事があるのであった。というわけで、そんなカイトに笑うバルフレアが、改めて瞬達に告げる。


「ま、お前らも頑張れ。さっきはああ言ったが、実は墓まで行くと合流は出来る。セーフポイントだな。そこで会おうぜ」

「あ、はい。じゃあ、お先に」

「おう」


 バルフレアの激励に、瞬が一つ頭を下げて雑木林へと向かっていく。それに合わせて藤堂と綾崎もまた雑木林へと消えていき、最後のパーティが出立した事でカイト達もまた雑木林へと入っていくのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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