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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第80章 ユニオン総会編

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1929/3938

第1900話 ユニオン総会 ――来訪――

 ユニオンマスターにしてギルド<<天翔る冒険者ヴェンチャーズ・ハイロゥ>>のギルドマスター・バルフレア。彼の要請を受けて行う事になったランクEX同士の冒険者による模擬戦。それはカイトが地球で培った尋常ではない技術を披露し、バルフレアもまた完璧な体術を披露する戦いとなっていた。そうして、模擬戦が終わった後。バルフレアは久方ぶりに掻いた汗を心地よさげに拭っていた。


「ふぅ……すげっえ気持ち良い。やっぱ身体動かすの、面白いよなー」

「知らねぇよ」


 子供の様に楽しげに、バルフレアがカイトへと絡みつく。そうして腕を組む彼に呆れた様にカイトは笑いながら、ユリィから投げ渡されたスポーツドリンクを口にする。


「ふぅ……サンキュ」

「うん、お疲れー」

「ああ」


 スポーツドリンクを口にしたカイトにそのまま腰掛けるユリィであったが、そのままバルフレアへと向き直る。


「にしても、バルっち。前に見た時より速くなってない?」

「そりゃそうさ。この三百年。病気以外で一日も訓練を欠かした事は無いからな」

「お前が病気なんのかよ」


 バルフレアの言葉に、カイトが笑いながらそうツッコんだ。ツンドラ地帯の海に飛び込んでも、溶岩流の中に飛び込んでも平然とする奴である。病気になる前に彼の熱気で病原菌がくたばりそうだ、というのがカイトの言葉であった。これに、バルフレアが目を細める。


「なるわい」

「何に」

「風邪。夏に腹出して寝てたら風邪引いた」

「「子供か」」


 有り得そうというかあり得る。カイトもユリィも有り得そうであり得なくて、しかしやっぱり有り得そうな事に思わず素面でツッコミを入れた。カイトがもう一人居ると言わしめるバルフレアだ。

 カイトと同じ様に本当に孤児院で昼寝をしている事があったりする。そんな彼だ。腹を出して寝て風邪を引く、と言われれば素直にあり得ると思えた。なお、カイトの方は夏だろうと布団にくるまらないと寝られないので、腹を出して寝る事は皆無らしかった。


「まー、夏風邪は馬鹿しか引かないって言うから不思議ないかー」

「だわなー」

「どういう意味だ!」

「「そのまんまの意味」」


 カイトとユリィは、声を荒げるバルフレアに異口同音に声を揃える。というわけで、そんなカイトは呆れながらバルフレアに笑い掛ける。


「まー、お前らしくてよかった。その子供っぽい所こそ、お前の最大の持ち味だからな」

「うるせぇやい……ま、それは兎も角。お前は随分体術のレベルアップしてるな」

「言ったろ? 地球で師事してた相手が化け物じみた腕だって。これを全身でやるんだぞ。化け物以外の何者でもない」


 カイトは地球で学んだ身体強化と身体制御の魔術を浮かべ、思わず苦笑する。改めてしっかりと見てみれば、これがどれだけぶっ飛んだ魔術かよく理解できた。


「<<歯車の鎧(ギア・メイル)>><<魔術の歯車(スペル・ギア)>>……色々と呼ばれるが。総じてぶっ飛んだとしか思えん」

「はー……」


 バルフレアはカイトの腕を補佐する身体強化の魔術を見て、感嘆のため息を吐いた。これはバルフレアが見通した通り、本当に無数の魔術式で構築された魔術だった。

 それこそ、ここまで繊細な魔術は見た事がない、とティナに絶賛されたほどの魔術だった。無論、その対価は非常に難しい技術を要求される、という所であるが。そんな魔術を見ながら、バルフレアが本当に興味本位で問いかけた。


「何を考えたらこんな魔術作ろうなんて思えるんだ……? 非効率の極みだな」

「あっははははは。姉貴の考えてる事なぞわからんわ。あの人、本気で作りたいから、ってだけでこういうの作るしなぁ……化け物だ、化け物。あれを人知の及ぶ存在と思うのが間違いだ」


 罵詈雑言なのか称賛なのかよくわからないカイトの言葉の最中。丁度カイトが間違い、と言ったその瞬間だ。かつて飛来した真紅の槍が飛来する。それに、バルフレアが泡を食った。まぁ、無理もない。唐突に飛来したのだ。


「敵か!?」

「……いや、すまん。これ姉貴のだ」

「カイトー。メモ落ちたよー」

「あいあい」


 そんな事だろうと思った。口は災いの元。そう言わんばかりに飛来した真紅の槍を地面から引っこ抜き、カイトはユリィが差し出したメモを読む。中身は単純。後で覚悟をしておけ、というだけだ。


「はぁ……何時仕掛けた、あの姉貴……好き放題やりすぎだろ……」


 くしゃくしゃ、とカイトはメモを丸め投げ捨てる。大方、罠を仕掛けた以上は仕掛けた当人には発動した事がわかる様になっているのだろう。逃れる術はなかった。そうして投げ捨てられたメモは一瞬だけ火を纏うと、それだけで消し炭になった。


「はぁ……ま、そういうわけで。色々とぶっ飛んだ女傑だ」

「お、おう……」


 ぶっ飛びすぎだろ。バルフレアはどうやら敵襲ではなかった槍を見て、僅かにドン引きする。そうして、カイトはこれ以上は何か話す気が無くなったのか、一休みするべく訓練場を後にするのだった。




 さて、カイトとバルフレアの模擬戦から明けて翌日。カイトは朝一番に改めてバルフレアの所へと向かっていた。とはいえ、今回は彼と瞬だけではなく、冒険部でも幹部といえる各部の部長達と、コロナとアルヴェンの二人も一緒だった。そんな集団に囲まれて、コロナがおずおずと横のカイトへと問いかける。


「あの……良かったんですか? 私達も一緒で……」

「ああ。今回、そもそも連れてきたのはそのためでもあるしな。久方ぶりの知り合いも多いだろうし、向こうだって元々同じギルドのギルドメンバーの子供なんだ。会いたい奴だって多いだろうさ」


 そもそもコロナもアルヴェンも一度はこちらに顔を出した事がある。<<天翔る冒険者ヴェンチャーズ・ハイロゥ>>に入れなかったのは、実力が足りずに入団試験を突破出来なかったからだ。

 その後は武者修行を兼ねて<<天翔る冒険者ヴェンチャーズ・ハイロゥ>>の一部――コロナの父親らなど――が懇意にしていたヘクターに声を掛け、預けたのである。そしてそんな彼が彼らの教育に良い――当時は当然だが大大老が存命――と故郷が近いから、という理由でエネシア大陸に連れて行き、今に至るのであった。


「で……アルヴェン。お前何緊張してるんだ?」

「何って……ユニオンマスターだぞ! 普通緊張するだろ!」

「でも会った事あるんだろ?」

「あるけどさぁ……」


 前にバルフレアがコロナの事を見知っていた様に、ヘクターに預けた後もバルフレアはちょくちょく二人の様子を見に行っていたらしい。ああ見えてマメな男だ。そして実力としてもどこへだって行ける。十分に可能だろうし、不思議はないだろう。

 が、やはり相手は伝説の存在とも言えるのだ。アルヴェンは緊張している様子だった。そうして、そんな二人と共に歩く事少し。先のユニオン本部の横。<<天翔る冒険者ヴェンチャーズ・ハイロゥ>>のギルドホームへとたどり着いた。


「ここが……八大の一つ。<<天翔る冒険者ヴェンチャーズ・ハイロゥ>>のギルドホームか」

「ウルカの<<暁>>とはまた違う趣があるだろう?」

「ああ」


 カイトの問いかけに、瞬が笑って頷いた。ウルカはなんというか一言で言い表せば巨大。規模もそうだが、それに見合った規模のギルドホームを有していた。が、ここはなんというか、一言で言い表せばまさにファンタジー。ゲームや小説に出てきそうな正しく冒険者の巣窟という様相だった。そうして、カイトは特に臆することなく真正面から<<天翔る冒険者ヴェンチャーズ・ハイロゥ>>のギルドホームの門戸を叩く。


「おっとっ……」

「こりゃ、またかね……」

「若いのに、バカしちゃってからに」


 まぁ、この時期の八大の本部だ。打倒して名を上げようとするバカは多いらしい。しかもここは冒険者達の自治領。そこまで厳しく取り締まられるわけではない。殊更、討ち入りは多かった。

 が、やはり流石は八大。慣れているらしい。カイト達が冒険者でギルドである事を見て取ると、楽しげに臨戦態勢を整えている様子だった。それ故、もう何時もの事とばかりに<<天翔る冒険者ヴェンチャーズ・ハイロゥ>>の古株や幹部の一人と思しき冒険者が口を開いて、カイトへと問いかける。


「小僧。どこのだ?」

「ああ、喧嘩をしに来たわけじゃない。旧縁を頼みに、誼を結びに来た」

「あ? 旧縁?」

「ああ」


 カイトは訝しげな幹部の言葉に一つ頷くと、敢えて隠しておいたコロナとアルヴェンに頷いた。それを受けて、二人がおずおずと前に出る。そんな二人を見て、歓声が上がった。


「あぁー! コロナちゃん!」

「うそっ! あ、アルヴェンまで!」

「おぉ! あの時の小僧か! でかくなったなぁ! ヘクターの奴、てんで様子教えねぇから、なにしてんだって心配してたぞ!」

「マジかよ! アルヴェンの小僧にグラツィオのたどった道のり故郷見せる、とか言ってただろ!? なんでここに!? もう終わったのか!?」


 カイトが二人を総会に連れてくる、というのを知っているのはこの場には誰も居ない様子だった。一応バルフレアには伝えたが、彼の性格から<<天翔る冒険者ヴェンチャーズ・ハイロゥ>>に頻繁に情報共有を行うとは思えない。本当に唐突に現れた様子だったろう。なお、カイトの事を見知った幹部達は彼のいたずらに乗って、後ろに引っ込んでいる様子だった。


「あ、おい! ちょっ! 撫でるな!」

「お久しぶりです!」


 ここらはやはり当人の性格と愛嬌の差が出ていたのかもしれない。周囲に半ば強引に撫ぜられ恥ずかしげに振り払うアルヴェンに対して、コロナは何人かは礼儀正しく応対している様子だった。無論、それに合わせてアルヴェンの扱いは雑だったし、コロナの扱いはまるで可愛い妹を扱うかの様に丁寧だった。

 そもそも二人は一応この<<天翔る冒険者ヴェンチャーズ・ハイロゥ>>のギルドメンバーの子供だ。一応八大の規則として入れないだけで、彼らからすると身内も同然なのだろう。

 というより、そうでなければわざわざ裏でこそこそ守ろうとなぞしないだろう。そしてその代表と言える男もまた、楽しげに笑って声を上げる。どうやら誰かが急いで報せに行った様子だった。


「よぉ、アルヴェンにコロナちゃん! 久しぶり!」

「バルフレアさん! お久しぶりっす!」

「バルフレアさん」


 やはり流石はユニオンマスターにして、カイトと並んでのランクEXの冒険者と言う所なのだろう。流石のアルヴェンも頭を下げて敬う姿勢を見せていた様子であった。


「おう! で、コロナ。前の時は悪かったな。ろくすっぽ話せないで」

「いえ……あ、そうだ」

「ん?」

「あの……みなさん、ありがとうございました。おかげでなんかカイトさんのギルドにも入れて貰えて……」

「「「……」」」


 以前のアーベント王国での一件に対して深々と頭を下げたコロナに、周囲の<<天翔る冒険者ヴェンチャーズ・ハイロゥ>>のギルドメンバー達が呆気に取られる。そうして、少しの後。全員が肩を組んだ。


「おい……この子が本当にグラツィオの子供か? 俺ら、前の時別大陸居て知らねぇんだよ」

「マジだって。嘘じゃないって」

「いや、あり得ないだろ。あのバカの子供だぞ? 女見るなり口説いてた様な男の子だぞ? こんな礼儀正しい可愛い子が出来るわけないだろ。どこかで取り違えられたんじゃないか?」

「いや、反面教師って可能性も……」

「「「あー……」」」


 どうやらコロナとアルヴェンの父親は相当なナンパ男だったらしい。今の礼儀正しいコロナのあり方を見て、彼女らの事を写真や伝聞ぐらいでしか知らなかった面々は大いに驚きを隠せなかった様子だった。


「というより、あんたら。一応リアマの子でもあんだから、そこ勘案しなさいよ」

「「「あー……」」」

「リアマちゃんの子ならあり得る」

「あのバカの血はリアマちゃんに負けたか」

「なるほど。そりゃグーだ。あのバカの血を継いだ子が出来なくて正解だ」

「「「うんうん」」」


 どうやら一方の母親の方は、この素直さと礼儀正しさを見て納得できる性格だったらしい。そうしてそんな二人を連れてきたカイトへと、先の幹部が謝罪する。


「いやぁ、疑って悪かったな。まさか二人を連れてきてくれるなんてよ」

「てーか、お前。よく見たら昨日ウチのバスターに挨拶に来てた小僧か。なんだよ、ってことはバスターも知ってた、ぐげっ」

「バスター言うな、バスター」


 バスター呼ばわりされたバルフレアが、そう呼んだギルドメンバーを殴りつける。どうやらあまり良く無いあだ名らしい。


「ま、そういうわけでさ。昨日の時点で連れてきてた事知ってたんだけど、ま、そういうわけでさ。どうせなら驚かせるか、って」

「だ、だからバスターなんじゃ、ぐぎゃぁ!」

「あんかいったかー?」

「な、なんでもありません……」


 一体バスターとはどういう意味なんだろう。コロナはそう訝しみながら、殴り倒され頭を踏み抜かれピクピクと痙攣する顔なじみに困惑を隠せないで居た。と、そんな彼女とアルヴェンに、バルフレアが告げた。


「良し……二人共、よく来たな。あんま他のギルドの奴をほいほい招いたり、他のギルドの奴にこう言うのはあんまよくねぇんだが……お前らは特別だ。いつでも来い」

「「ありがとうございます」」

「ああ……それと、カイト。二人をよく連れてきてくれた。感謝するぜ。それと、歓迎しよう」

「有り難うございます」


 一応、ここではカイトは格下のギルドだ。一応先の幹部には幹部とギルドマスターで応対したが、相手が同格のギルドマスターであれば敬うべきだった。こうして、カイトは正式に八大ギルドの一つ<<天翔る冒険者ヴェンチャーズ・ハイロゥ>>と誼を結ぶ事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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