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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第80章 ユニオン総会編

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第1898話 ユニオン総会 ――ユニオンマスター――

 ユニオン総会に出席する為、ユニオンの本部にやって来ていたカイトと瞬。そんな二人はひとまず受付にて出席を報せる申請を行うと、そのままレヴィの案内を受けてアイナディス、ユリィと共にユニオン本部の奥へと通されていた。

 そうして進んだユニオン本部の最深部。ユニオンマスターの執務室で、バルフレアが待っていた。そんな彼はカイトの姿を見るなり、顔に歓喜を浮かべた。


「よぉ! 来たか!」

「おう。お前も流石に今回ばかりは起きるか」

「あっはははは。まぁな……ああ、ウィザー。出迎え、悪いな」

「状況把握をするのに移動時間を使わせて貰ったので問題はない。何より、何ら用も無く行ったわけでもないしな」


 バルフレアの言葉に対して、レヴィが盛大にため息を吐いた。そもそも出迎えなら彼女でなくても、以前の大陸間会議の時の様にユニオンの職員が行えば良いだけの事だ。

 それがわざわざ最高幹部とも言える彼女が出向いたのだから、シアの状況確認以外の理由が無いわけがなかった。が、これにアイナディスが首を傾げた。


「何かありましたか?」

「ああ……が、これはカイトに聞ければ良いのでな。念話で片付けた」

「そういうことで」

「はぁ……」


 元々レヴィを連れてきたのはカイトで、二人の間に何があってユニオンに紹介したかは誰も知らない。一応ユリィが知っているそうだが、彼女も何も語らなかった。というわけで何かがあるのだろう、という所でアイナディスも納得する。そうしてそこらの会話に区切りを付けた所で、バルフレアが問いかけた。


「で、ひとまず。皇女殿下の護衛に不足は?」

「おいおい……これでも一応、オレの正規の婚約者だぞ? 不足は出さんさ。皇国としても使者だ。万が一が起きない様に、厳重な警備をしてる。無論、シャーナ様もな」

「そか……まぁ、とりあえず。お前の仲介、って事で話の進め方は良いと思う。お前ももう一端の冒険者。ランクAに相応しい実力を持ってる。その言葉に耳を傾けない奴は居ないだろう。更に言えば、レイの孫を国としての使者に選定した、ってのもベストだな」

「前者は知らんが、後者はたしかにな」

「……」


 いきなり語られたバルフレアよりの非常に真面目な論評に、瞬は思わず呆気に取られる。何時もあのいい加減な彼が、とんでもなく真面目な論評を行ったのだ。驚くのも無理はない。そんな彼に、レヴィが小声で告げた。


「呆けるのも無理はない。奴はいい加減に見えてその実いい加減だが、ユニオンマスターに相応しい男は誰だ、と言われれば間違いなく奴の名が出るぐらいには有能だ。身内の場では、真面目に語る事の方が多い」

「そ、そうなんですか……」


 どちらが本当のバルフレアなのだろうか。カイトと共に皇国の今回の策について論評を交えるバルフレアに、瞬はそう思う。そんな彼を横目に、カイトとバルフレア、ユリィとアイナディスの四人は真面目な会話を繰り広げていた。


「で、どうした方が良い? とりあえずオレが前に出て論ずるか、シアに任せるか」

「レイシア皇女で良い。流石にお前が国の代行として出るのは筋が違うだろうし、それに理解を示す奴は少ないだろう。雑多な奴なら良いんだろうがな。流石に八大は納得しねぇよ」

「私はどちらでも構いませんが。その判断は正しいものですので」

「そりゃ、そっちとウチ、バーンタインの所はだろう? 後はクオンとジュリウスの所もか。が、それ以外の所でカイトの事を知ってるのは居ない。しかも、他は全部皇国とは縁が薄い。下手に下に見られるのは皇国としても望まないだろう」


 カイトの言葉に意見を述べたバルフレアは、自身の言葉に口を挟んだアイナディスに何時もの調子とは違う様子で指摘を加える。これに、アイナディスもまた納得を示した。


「それはそうですが……むぅ。そこら、どうにかするべきかとも思うのですが……」

「それを言うなよ。というか、それこそ本当ならユリィ。お前がやるべきじゃねぇかよ」

「まー、そりゃそうなんだろうけどねー」


 バルフレアの指摘に対して、カイトの肩で寝そべるユリィはため息を吐いた。確かに、彼女もまたカイトと共にランクEX冒険者。しかも伝説の勇者の相棒だ。彼女にはある程度では済まない発言力がある。それが冒険者なら殊更だ。


「一応さー。私、カイト抜きの部隊とはある程度の距離を置いてるしさー。だから一応皇国の姫君が総司令官になっている以上、私が出張るのは筋が違うのよ。しかも私、モロ戦闘員じゃないし」

「そりゃそうだ……って、わかってるって」

「だよねー」


 バルフレアだし。ユリィは自身の言葉に同意した彼に、呑気に仰向けになる。所詮今の彼女は単なるマスコットキャラ。真面目に動くつもりは無い様子だった。そんな彼女は仰向けになりながら、更に道理を指摘する。


「まー、何よりそんな事言っちゃったらそもそもカイトが本気で立つのが最適でしょ」

「そりゃな。が、それも案外悪い手だしな」

「「それな」」


 カイトとユリィはバルフレアの指摘に声を揃える。カイトが立てば万事解決。そう誤解している者は少なくないが、そんなわけがなかった。というより、おそらく何ら威圧効果は無いだろう、というのが大凡の見立てだった。

 まぁ、それがわかるのはおそらくソラレベルの軍略と知性を学べばで、瞬にはさっぱりだったらしい。故に彼は一人会話から距離を置いていたレヴィに問いかける。


「……どうして悪い手なんですか?」

「ん? ああ、奴らの会話か。まぁ、理解を求めるのは酷か……簡単だ。カイトはどれだけやっても一人だ。複数人を相手に出来るわけがない」

「……? あいつなら全員纏めて掛かってきても勝てるのでは? あいつも確か出来る、って断言してますし」


 何度も言われている事であるが、カイトは本気で戦えれば<<死魔将(しましょう)>>と当時のティステニア、大将軍に軍団長ら全てを纏めて相手にして勝てるという。

 実際、当人もこと戦闘においてなら最強は伊達ではない、と断言しており、周囲もカイトならやれるだろう、と明言していた。なのでこのレヴィの指摘は道理に反しており、正しいようには思えなかった。


「それは一度に全員を纏めて相手にするのなら、だ。いくら奴が最強でも、エネフィアの端から端まで移動するのにどれだけの時間が必要と思っている。というより、それが分かればこそ、ティナの奴は<<転移門(ゲート)>>の研究を再開したんだぞ」

「あ……」


 言われれば納得だ。そもそも瞬その人も言及しているが、相手は複数人。カイトは一人だ。よしんばここにクオンとティナが加わり、単騎で三人抑え込めてもまだ一人余る。この上で大将軍らが暴れられてはどうしようもなかった。


「わかったか? 勇者カイトが居ればなんとかなる。そう思う愚民共がどれだけ多いと思っている。実際には居たとてどうにもならん。今回は防衛戦だ」

「ぐ、愚民ですか……」

「カイトを神格化し万能の存在扱いするなぞ、愚民以外の何者でもない。奴は奴が言う通り、チーターでもなんでもない。単なる人だ。どれだけ強かろうと、どれだけぶっ飛んでいようと、出来る事には限度がある。人である事がわかっているのなら、それぐらいはわかっておけ」


 キツイ言葉だ。そう思った瞬に対して、レヴィは只々苦言を呈する。彼女は優れた軍略家だからだろう。カイトの戦力をしっかりと理解していたようだ。とはいえ、そんな彼女は僅かに引いた様子の瞬へと、僅かに笑った。


「ま……それがわからないからこその愚民だ。愚民に理解を求めるなぞ、子供に数学を理解しろ、と言うに等しい。子供には子供に見合う算数にしておけ、というだけだ」

「は、はぁ……」


 どうやら預言者とやらの素は辛辣らしい。一応は執り成してくれているのだろう、と思う瞬は曖昧に笑いながらそう思う。と、そんな事を話している間にも、カイト達はひとまずの話し合いを終えていた。


「わかった。とりあえずオレは影に徹する。筋違い、ってのも確かにだからな」

「それで良いだろ。筋通すってのはウチの業界じゃ重要視される事だからな」

「あっははは。ヤクザな商売してるからなー、こっちの業界。面子と筋通せ、ってのが唯一の冒険者の共通ルールで良いかもしれないな」

「それな」


 カイトの指摘に対して、バルフレアが楽しげに笑う。やはりエネフィアと一言で言っても、地球と同じ様に住んでいる場所や土地で文化風習などが違う。そんな中で唯一大半の冒険者に通じたのが、人としての筋を通す事だった。最低限の筋さえ通せば冒険者は何も言わないし、言われないのであった。そうして一通りの真面目な会話を繰り広げた後、バルフレアは楽しげに問いかけた。


「で、そういえば。コロナとバカガキどうしてる?」

「ああ、どっちも元気だ。今回は連れてきてる」

「そか……で、お前のこった。行かせる気か?」

「あっははは。流石はユニオンマスター様。全部お見通し、ってわけか」


 バルフレアの楽しげな問いかけに、カイトもまた笑って言外に同意する。先にカイト自身が言っていたが、今回バルフレアに会いに来たのは一つはユニオンマスターへの彼に用事があったわけであるが、同時に<<天翔る冒険者ヴェンチャーズ・ハイロゥ>>ギルドマスターのバルフレアにも用事があった。とはいえ、現段階ではそれだけではなかったので、改めてその話を切り出す事にする。


「まぁ、それはそうなんだがな。同時にちょっと借りたくてな」

「うん?」

「いや、ちょっとウチの奴らにも経験値を積ませたくてな。訓練場、使いたい」

「行くのか?」


 バルフレアはカイトの申し出を受けて、瞬へと視線を向ける。これに、瞬ははっきりと頷いた。


「はい。行かせて頂けるんでしたら」

「そか……ま、小僧なら問題は無いだろう。前にバーンタインの奴も割と筋が良い、とは言ってたしな。実際、前にウルカで見た時も中々筋は悪くなかった」

「まぁ、攻略出来るのは先輩にそこらだけだろう。が、経験は積めるのなら積ませておきたい」


 今回カイトが申し出た訓練場は本来、<<天翔る冒険者ヴェンチャーズ・ハイロゥ>>が入団試験で使うものだ。それは流石は八大の名に相応しい難易度の迷宮(ダンジョン)であり、それ故にこそ突破出来るのは瞬ら上位層だけだろう、というのがカイトの考えだった。


「あー……まぁ、ウチの初代様が作った訓練用の迷宮(ダンジョン)だ。そこまで危険性は無いもんな。経験を積むには良いか」

「まな。オレも潜ってるし……今回も潜るつもりだ」

「そうだなぁ……俺も久しぶりに入るかなー」

「やめろ。今の貴様のどこにその時間があると思っている」


 カイトが入ると聞いて、久方ぶりにバルフレアも訓練場に入りたくなったらしい。そんな彼に対してレヴィが盛大にしかめっ面で苦言を呈した。


「そこはお前がなんとかしてくれ。最近座りっぱなしだし、朝の稽古ぐらいしかしてないからな。よく考えたら、アイゼンの奴も来るんだから、そこんところ考えとかねーと」

「はぁ……まぁ、たしかに貴様が無様に負けるとユニオンの風評にも関わるか。好きにしろ」

「おっしゃ!」


 どうやら結局として、レヴィはバルフレアの提案を認める事にしたらしい。まぁ、たしかにランクEXの冒険者が身体を鈍らせたのではユニオン全体どころか冒険者という職業そのものの風評にも関わりかねない。看板である以上、ある程度の腕は保持してもらわねばならなかった。


「おう、カイト。そういうわけだから、俺も行くわ」

「行くわ、は良いけどあんま手本にはなるなよ」

「わかってるよ。そこらは適当に手を抜くか、色々と考える」

「まぁ、お前が考えるのならそれで良いか」


 基本ユニオンマスターとしては手抜きが多いバルフレアであるが、冒険者としての腕は確かだ。ならカイトも信頼に値する、と判断し好きにさせる事にしたらしい。


「で、それはともかく。その前に一試合頼んで良いか? さっきも言ったけど、ちょっとここ暫く運動してなくてな」

「運動、というよりまともな戦闘だろ?」

「そうともいう」


 カイトの指摘に、バルフレアが笑って頷いた。後に彼が言う所によると、わざわざ最初から起きていたのはカイト――かアイナディス――との模擬戦の時間を捻出する為だったそうだ。そしてカイトにしても、ここ暫くはまともな戦いと言える戦いはしていない。動きたい所ではあった。


「わかった。じゃあ、行くか」

「おう」


 どうせ時間はあまりないのだ。なら、さっさと行くか。そう言うカイトの言葉にバルフレアもまた立ち上がる。そうして、二人は一度軽く運動するべく<<天翔る冒険者ヴェンチャーズ・ハイロゥ>>のギルドホームにある訓練場へと向かう事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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