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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第79章 手がかりを探して編

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第1889話 手がかりを求めて ――疑問――

 シャリクの要請を受けて行われることになった<<守護者(ガーディアン)>>の討伐。そんな討伐は冒険者達の活躍により、依頼通りバリ―がトドメを刺すことにより終了する。そうして、討伐の直後。グリムは僅かに嬉しそうに大剣を観察した。


「……」

「どうした?」

「いや、これは良い大剣だとな」


 妙に嬉しそうな自身に疑問を持った瞬の問いかけに対して、グリムはまるで慣れ親しんだ動きで大剣を地面に突き立てる。それは一切の力が入っておらず、言ってしまえばただ重力に任せただけと言い切れた。


「……見ろ。ただ地面に突き立てただけでここまで深く差し込める。が……こうやって魔力を通せば一気に抜けなくなる。これなら虚空に、地面に突き立てて踏ん張れる。切れ味だけでない良い大剣の証だ……そして」


 瞬が大剣に注目する前で、グリムは大剣を抜いて思いっきりその腹を殴りつける。そうしてその連打で灼熱するほどに連打を加えながら、今度は地面に突き刺してそのまま地面を引き裂く様に走り抜けた。


「……見ろ。あれだけの負荷が掛かっても、刀身に歪み一つ無い。これなら戦闘中に防御で高負荷が掛かっても、即座に攻撃に転じられる。これだけの強度……並の神剣や魔剣でもあり得ん。正しく、システム側の存在だからこそ出来る大剣。大剣という概念を具現化した<<具現化武装(リアライズ・ウェポン)>>。俺の知り得る限り、これ以上の物は神々の持つ<<概念武装(ファンタズマ)>>しかない」

「……お前、好きなのか?」

「何がだ?」


 瞬の問いかけに、グリムはどこかうっとりとした様子で大剣を見ながら問いかける。これに、瞬が告げた。


「武器」

「……悪いか」


 少し恥ずかしげに、グリムは大剣を背負い直す。彼も少しやっちゃったかな、と思わなくもなかったらしい。実際、話をしていた瞬以外のこの場の全員が呆気に取られていた。


「良き武器に心惹かれるのは、戦士の証だ。良い武器が欲しいと思うのは当然の事だ……こいつも、随分と頑張ってくれた。お前と……いや、豊久殿との戦いにも耐えてくれたのだがな」

「あ……」


 瞬は少し悲しげな様子で胸に手を当てる様なポーズで祈りを捧げる様にしてから大鎌の柄を手にとったグリムの言葉を聞いて、大鎌の事を思い出す。そんな彼に、グリムは首を振った。


「……気にするな。武器は消耗品。何時かは壊れる……俺も何本も壊した。これもその一つというだけだ。<<守護者(ガーディアン)>>相手に一撃叩き込めた。これも鍛冶師も満足だろう」


 文明さえ滅ぼしたほどの相手の鎧に傷を付けたのだ。武器としては大殊勲と言える。それで負荷が掛かっている所に、<<守護者(ガーディアン)>>の一撃を真正面から受け止めたのだ。敗北もやむなしだった。


「まぁ……外の団員達には少し悪いが、暫くは大鎌ではなく大剣を使わせて貰おう。<<守護者(ガーディアン)>>から分捕った大剣だ。ウチの逸話に華を添えるには十分だ」

「良いのか?」

「構わんさ。俺の様な流れ者を受け入れてその指示に従ってくれるぐらいには、柔軟な傭兵団だ。武器が壊れたぐらい気にしない」


 曲がりなりにも一年と少しの間一緒に居るのだ。その付き合いはカイトと瞬達以上だ。故に、<<死翔の翼(ししょうのつばさ)>>の事はグリムが一番良くわかっているのだろう。なら、瞬に言える事は何も無かった。


「……良し。やはりこれが一番しっくり来る。重さも丁度よい塩梅だ。当然か」

「元々大剣を持っていたのか?」

「ん? ああ。元々は大剣士でな……団長になった時から大鎌を使う様になっただけだ。が、やはり慣れん」


 瞬の問いかけに対して、少し苦笑するグリムはやはり慣れ親しんだ様子で大剣を背負う。その姿は瞬から見ても様になっており、妙に似合っている様子があった。そんな彼に、グリムは一つ頷いた。


「良し……今回、一番の収穫はこれだったかな」

「気に入ったのか?」

「ああ……暫く普段遣いには困らん」


 どうやらもう隠さなくても良いかな、と思うぐらいにはグリムは上機嫌らしい。瞬の問いかけに上機嫌に頷いた。なお、グリム曰く傭兵団として動く普段の戦闘では大鎌を使うが、隠れて動く時や彼一人になった時などには大剣を使う様にしていたらしい。

 なのでカイトへの助力に来た時に大鎌だったのは、逆に珍しい事だそうだ。それでも大鎌だったのは、グリムとしての名が必要だったから、という事らしい。


「……それで。依頼はこれで終わりか?」

「ん? ああ、そういえば……カイト。どうなんだ?」

「……ん?」

「ああ、依頼だ。これで終わりか?」

「ああ、いや、ここからあそこに入る」


 カイトは瞬の問いかけを受けて、以前に入った宝物庫を指差した。あそこにラエリアが求めるネックレスの素体があり、これを手に入れられれば任務完了だった。


「まぁ、問題はオレの方をラストアタックと認識しないか、だが……そこまではわからん。実際、そこらを試してくれ、というのも依頼の範疇だ」

「そうなのか」

「ああ……流石に情報が足りなすぎるからな。以前に手に入れられた資料にはラストアタックを保有条件とした、としてあたったが……他者がギリギリまで削った上でどうなるか、までは書いてなかった。そこまで想定出来ていなかったんだろう」


 実際、それが出来るのなら<<守護者(ガーディアン)>>も普通に討伐出来るしな。カイトはルーザーとやらのメッセージについてそう考える。彼らとしては<<守護者(ガーディアン)>>を倒せればなんでも良いのだ。方法なぞ問う必要は無かったのだろう。そうして、カイトは討伐の為に最深部までたどり着いた面々の支度を整えさせて、最深部の更に奥。宝物庫へと進む。


「さて……バリー中佐。あれが、目的と」

「ふむ……これが例のか」

「うむ。あの時撮影せんかったのがのう」

「金の君にあるまじき失態だな」

「言い返せんのう」

「……あれが目的のネックレスだ」


 気にしない事にしよう。カイトは自身を押しのけて前に出たジュリウスとティナを尻目に、話を進めさせる。それに、バリーも気にしない事にさせられた。


「……そうか。とりあえず、どうすれば良い? 俺が先に触るべきか、君が先に触れるべきか」

「ふむ……そこのマッド共。どうすれば良い」

「中佐が先で良かろう。が、少し待て。ジュリエット」

「ちょい待ち。こっち計器の設置とかで忙しい」

「余も分身を出す。ちょっぱやで終わらせよ」

「分身ならもう足りてるから、そっちの冊子と映像記録端末回収して」

「了解じゃ」


 もうこいつらヤダ。カイトは物凄い速度で解析を行うマッド・サイエンティスト三人衆に、思わずため息を吐いた。そんな彼に、バリーが慰めを送る。


「……大変だな、君も」

「はぁ……すいません、ウチの馬鹿とどこかの馬鹿が」

「い、いや……」


 何故<<知の探求者達(シーカー)>>のギルドマスターの分まで謝らされているんだろう。もう慣れているからか自然と頭を下げていたカイトに、バリーはそう思う。

 まぁ、暴走する時は彼も暴走しティナが謝罪したりしているので、釣り合いは取れているのだろう。と、そんなわけでティナ達が満足するのを待つ事になるのだが、そこでふとユリィが疑問を持った。


「そういやさ。今回の資料、意味無くない?」

「ん……まぁ、そりゃそうだがな」

「? どういう事だ」


 カイトとユリィの会話を小耳に挟んだバリーが不思議そうに首を傾げる。これに、カイトが説明を行った。


「ああ、この遺跡というか迷宮(ダンジョン)の冊子。前に確保された物と同じでしょうからね。今更手に入れても、と」

「ああ、そうか……そう言えば、すでに同系統の迷宮(ダンジョン)は攻略済みだったな」


 バリー自身は入った事がないのですっかり忘れていたが、実際には旧文明が遺した迷宮(めいきゅう)の攻略はこれが一つ目ではない。その際にもここにある書物や情報記録端末と同じ物が回収されており、ネックレス以外に必要な物は何も無いのであった。


「ということは、本当にあのネックレスだけか」

「ええ、そうなるんでしょう」

「……そうでも、なさそうじゃのう」


 ほぼほぼ骨折り損のくたびれ儲け。そう結論を下したカイト達に対して、回収した書物を一読していたティナが興味深い様子でそう告げる。これに、カイトが問いかけた。


「ん? どういう事だ?」

「ふむ……大凡内容は変わらんのじゃが……むぅ……」

「だから何があったのさ」


 興味深げに書物を読み込むティナに、ユリィが肩から覗き込む。が、これは彼女にはわからない事だった。


「……これの何が変なの?」

「ああ、お主にはわからんよ。前のを読んどらんからのう」

「じゃあ、何が違うの?」

「まず筆跡じゃ。これは書かれておる内容はほぼ一緒じゃが、筆跡と言語が違うのう」

「それ、つまり著者別って事だよな? 結構でかくね?」


 ティナの返答に、カイトが思わずツッコミを入れる。言ってしまえば翻訳の違いだ。勿論、それはエネフィアでは些細な差と言える。が、著者が別となると、彼の言う通りかなり大きな差が出ていると言えた。


「うむ……ふむ……これが何の差を生み出すのか。中々に興味深いのう……」


 本来、情報を遺したいだけなら著者を変え言語を変える意味は無い。同じ本を印刷機に掛け、量産してしまえば良いだけだからだ。が、そうしていないと言うことは逆説的になにか意図があったと考えられる。それ故、カイトがその意図について意見を問いかけた。


「なにか考えられる想定はあるのか?」

「ふむ……まぁ、まずあり得ん可能性ではあるが、印刷機が壊れてしまった可能性」

「あり得ん、という意味が理解できるな」


 印刷機が壊れてしまった、というのはまず場所や情報を遺した者の事を考えればあり得ないと言うしかない。旧文明には高度な技術力があった。地球にある一般家庭向けの様な小型プリンターもあった事もわかっている。

 その研究所にプリンターが無い可能性が皆無だろう。それら全てが壊れた可能性も無いだろうし、性能が悪くても製本しなければ良いだけだ。カイトがあり得ん、というティナの意見に理解を示したのは、そういう事だった。


「うむ。で、その次。大凡これが可能性として高いと思われるが……ぶっちゃければ、言葉が途絶えた場合に備えて、じゃな」

「言葉が途絶えた場合?」

「うむ……バベルの塔、と言えばわかる者にはわかろう」

「「あー……」」


 バベルの塔。それは旧約聖書に記される人類の驕りの象徴とも言える巨大な塔だ。詳しい話は省くが神の怒りに触れたこの塔の崩壊に伴って、人類から共通言語が失われたというのが、この塔の話の流れだった。が、これがわかるのはやはりカイトとユリィだけなのであって、バリーには理解不能だった。


「すまん。そちらにわかるという事はエネシア大陸か日本の逸話なのだろうが……俺にはわからん」

「うむ、構わぬよ、それで……そうじゃな。噛み砕き説明すれば、文明の崩壊に伴い、言語も失われよう。これは良いな?」

「……わからないではない。人の往来がなくなれば、その分方言などが多様化して言語が細分化するだろうしな」

「うむ。とどのつまり、その結果旧文明の言語が解読出来なくなってしまう可能性を考慮したのよ。言語があまりに変わりすぎると、翻訳の魔術が働かなくなってしまうやもしれん。よしんば働いても別の意味になってしまう事もあり得る。そういった事を鑑みて、という所じゃな」

「そんな事があり得るのか?」


 ティナの解説に、バリーは半信半疑で問いかける。まだ自分より賢い<<知の探求者達(シーカー)>>の冒険者達と対等に会話するティナの言葉だから信じられる所であるが、それでも完璧に信じられるわけではなかった。それに、ティナが翻訳魔術の限界を指摘する。


「翻訳の魔術とて万能では無い。精霊の言語や神の言語を筆頭に、翻訳出来ぬ言語は案外多い……相手はシステム側の存在じゃ。古き言語として言語を封じる事も不可能ではないかもしれんぞ」

「……」


 それは不可能ではないかもしれない。相手は<<守護者(ガーディアン)>>。常識の通用しない相手だ。今は人の言語と分類されている物を解読不能にしてしまう事だって可能かもしれなかった。


「ま、そこらについてももしやすると、これを読み解けばわかるやもしれん。著者が違えば書き記す事も些か異なってこよう。それは読み進めてのお楽しみ、という所じゃろうな」

「それについては金の君と我々の間で合意を得た。解析は請け負おう……では、バリー中佐。ネックレスの回収を」

「あ、ああ……良し。行けた」

「やはり、ラストアタックが条件か」


 これで確定だな。ジュリウスはそう呟いて、持ち込んだ手帳へとその情報を書き記す。そうして、目的のネックレスを手に入れた一同はその後は先の書物に違いが出来ていた事から、他になにか違いが起きていないか確認に時間を費やす事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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