第1888話 手がかりを求めて ――大剣――
シャリクの要請により、<<守護者>>討伐の任を受けた冒険者達。そんな彼らの連携により、<<守護者>>との戦いは進んでいた。そうして瞬の投槍とレヴィの魔術による連撃で地面に叩きつけられていた<<守護者>>は、近くに居た瞬へと襲い掛かる。
「っ」
来た。瞬は自分が見た事もない様な速度で向かってくる<<守護者>>を真正面に見ながら、槍をしっかりと握りしめる。流石に彼も<<守護者>>を相手に二槍流をやれるとは思っていない。
あれの難点はやはり一撃一撃が軽くなってしまう事だ。こればかりはスペックアップしようと変わらない。軽い一撃で重量級の攻撃を受け止められるわけがない。油断すれば、槍ごと真っ二つだ。
「……ふぅ」
緊張を吐息と共に吐き出して、瞬は意識を高速化する。そうして、迫りくる<<守護者>>の大剣をしっかりと目視して、その軌道上に槍を置く。
「ぐっ!」
なんだ、この一撃は。瞬は先の『八岐大蛇』との戦いで受けた源次綱の一撃より遥かに重い一撃を受け止めて、盛大に顔を顰める。一撃を受け止めただけで、僅かではない距離を地面を滑ってしまっていた。そうして僅かな拮抗状態の後、彼は大きく吹き飛ばされることになった。
「くっ!」
槍を地面に突き立てて、瞬は即座に減速。壁への激突を阻止する。まだ幸いなことに僅かに滑ったことで威力が減衰されていたのか、さほど吹き飛ばずに済んでいた。が、その直後。<<守護者>>が一気に彼へと詰め寄った。
「っ!?」
マズい。瞬は今の自分の姿勢を鑑みて、自身の窮地を悟る。が、問題は無い。その瞬間、盾を構えた状態で転移術でアルが前面に躍り出たからだ。
「すまん!」
「早く立て直して!」
「ああ! もう大丈夫だ!」
一瞬で立て直しを終えて、瞬が即座に槍を構える。そうして、直後。アルの構える盾へと大剣が激突する。
「っぅ!?」
まさかここまで重いなんて。アルは<<守護者>>が自分の想像を遥かに上回る存在であることを理解する。念の為に言うが、アルも瞬も揃って<<原初の魂>>を展開しているのだ。彼らの場合は前世の強さも相まってランクSの冒険者にも匹敵する戦闘力を一時的には得られている。
しかも、三人ともそれぞれの武器種においては天才とさえ言われる領域の才能を有している。それが揃いも揃ってこれだ。文明が滅んだのも納得だった。だが、やはり天才は天才。見えている衝撃に耐えることは容易で、そして今なら連携も取れる相手が居た。
「はぁ!」
ごんっ、という重量物同士がぶつかり合う音が響いて、<<守護者>>が吹き飛んだ。ルーファウスが横合いに突っ込んだのだ。そうして吹き飛ばされた<<守護者>>であるが、その直後に即座に虚空に大剣を突き立てて減速する。
「おまけだ!」
大剣を虚空に突き立てて停止した<<守護者>>に向けて、瞬が再度の投擲を行う。それはレヴィにより再度加速させられると、真正面から激突した。そうして更に押し込まれた<<守護者>>であったが、停止する少し前。勢いが僅かに弱まった瞬間、どういうわけか再加速した。
『!?』
明らかな驚きの気配が、<<守護者>>にあった。何が起きたかわからなかったらしい。まぁ、これは言うまでもなくアルミナの仕掛けた罠が作動して加速しただけだ。
とはいえ、こうも都合よく罠が発動するわけもない。彼女は自分の腕ではどうにもならないことを悟ると、罠をコントロールして適時最適な効果を発動させれる様に切り替えたのである。そうして、再加速した<<守護者>>の前にはグリムが待ち構えていた。
「……こぉおおおお……」
どうやらグリム当人は気も使いこなせるらしい。僅かに特殊な呼吸音が周囲に響く。そうして、気と魔力が一つに合わさって大鎌へと宿った。
「おぉおおおお!」
雄叫びと共に、グリムが大鎌を一薙する。それは再加速した<<守護者>>を両断せんとする意思を以って振るわれており、このままいけば大ダメージは免れない筈だった。
が、やはり相手は<<守護者>>。グリムが居ることを察知した<<守護者>>は、大剣を虚空から抜き放ち敢えて加速を更に付ける。そうして、その加速を器用に利用して回転し、グリムの大鎌に大剣を合わせることに成功する。
「!?」
ぎぃん。大剣と大鎌が激突し、大音が響き渡る。そして、直後。グリムの大鎌の刃が砕け散った。
「ちぃ!」
やはり無理があったか。グリムはそんな様子で、盛大に顔を顰めながらその場から飛び退いた。そうして彼は残る柄を棍の様に振り回し、続く<<守護者>>の追撃を阻止。更に加速して一気に引く。が、武器を喪失したグリムを、<<守護者>>が逃がすわけがなかった。
「させるか!」
再加速を行おうとした<<守護者>>に向けて、カイトが双剣で連撃を叩き込む。流石に彼の連撃だ。その速度を大剣で防ぎ切ることは容易ではなく、ゆっくりとだがその堅牢な鎧に欠けとひび割れが生じていく。が、そんな連撃もずっとは続かない。数秒後、鎧の赤いラインが光り輝いて一気に圧力を増した。
「っ」
「カイト!」
「サンキュ!」
圧力の放出により思わず身を固めたカイトを、ユリィが強引に後ろへと引き戻す。そして直後。彼の居た所を大剣が通り過ぎる。そうして更に大剣が通り過ぎた所を、レヴィらの魔術が乱打した。
「ふぅ……」
これで一瞬は立て直せる。カイトは僅かに乱れた呼吸を整えて、再度の交戦に備える。そうして乱打により体勢の立て直しを図る間に、カイトはグリムへと念話を飛ばした。
『武器は大丈夫か?』
『問題はない。拳一つでも戦える様に叩き込まれている』
『ほぉ……先代はすごかったのか』
『いや、自前だ』
カイトの賞賛に対して、グリムはまるで邪魔と言わんばかりに大鎌の柄を投げ捨てる。そうして、拳を握りしめた彼が魔術の乱打の切れ目を見て取って、一気に攻め込んだ。
「ふっ!」
叩き込まれた拳打の速度は、明らかに先の大鎌の比ではない速度だった。それこそ、先の大鎌を一撃叩き込む間にグリムの拳が三発は叩き込めるだろうほどの速度だった。
とはいえ、やはり拳。威力は落ちていた。連打で僅かに姿勢が揺れるも、低威力の拳打故に即座に<<守護者>>は立て直し、連打で僅かに動きは緩やかになりながらも平然と大剣を上段で構える。
「グリム! 離れろ! 威力が足りていない!」
「問題は無い」
瞬の声掛けに対して、グリムは連打をやめることなくただそう返す。そうして拳打でゆっくりになりながらも堰を切ったように振り下ろされそうになった大剣だが、振り下ろされるかに思われた直後。唐突に今までで一番の轟音が鳴り響いて、<<守護者>>が吹き飛んだ。その威力たるや、<<守護者>>が思わず大剣を取り落したほどだった。
「!?」
何が起きた。瞬は唐突に鳴り響いた轟音に、何が起きたか理解出来ず困惑する。グリムは確かに単に乱打していただけだ。それなのに、唐突に轟音が鳴り響いてその身体が吹き飛んだのである。
「……久方ぶりにやったから、些か発動までの速度が落ちたな」
「何をやったんだ?」
「単に内部に浸透する魔術を連続して叩き込み、同時に起動させただけだ。<<守護者>>の抵抗力が高く発動までに時間が掛かってしまった」
「間に合ったからよかったものの……間に合わなかったらどうするつもりだったんだ?」
「間に合わせる様にやった」
「……」
こいつもこいつでぶっ飛んでいるかもしれない。瞬はグリムの返答に、思わず呆気に取られた。その一方、グリムは先ほどの衝撃で吹き飛んでいた大剣へと手を伸ばす。
「<<守護者>>の持つ大剣……聞いていた通り、か。俺の一番手に馴染む重さだ」
グリムは大剣をまるで自らの得物の様に数度振り回し、僅かに獰猛に笑う。それは正しく彼にとってこれこそがあるべき姿だと言わんばかりであった。
「感謝する……拳でもやれるとは言ったが、武器が無くて困っていた所でな」
「まさか、その為に?」
「ああ。腕に多めに叩き込んだ」
どうやらグリムは拳打を敢えて肩や腕など、大剣を支えている所に多めに打ち込んでいたらしい。結果、今まで大剣を手放すことの無かった大剣を<<守護者>>が取り落とす事態が起きたのだろう。そうして、彼は僅かに腰を落として地面を蹴った。
「ふんっ!」
ずっしりと腰の乗った横薙ぎが、吹き飛ばされた<<守護者>>へと襲い掛かる。が、相手は<<守護者>>。世界側の存在だ。唐突にその手に新たな大剣が現れてグリムが奪取した大剣と激突する。
「ふんっ! はっ! てぇや! ……強度は同じか。これは良い物を手に入れたな」
三度剣戟を交えて、グリムは先ほどまで自分が持っていた大鎌より遥かに強度の高いことを理解してほくそ笑む。これなら、十分に攻撃を叩き込める。そう言わんばかりであった。と、そんな直後のことだ。唐突に彼の脳裏に声が響いた。
『……そのまま踏ん張れ』
「!?」
なにかが来る。<<守護者>>さえ気付けないなにかが迸るのを、グリムは声掛けにより注意することでなんとか気づけた。そして、<<守護者>>の背に金色の光が走った。
『……卑怯、とは言うなよ』
「……いや、見事な手前だ」
言われてなお、攻撃の瞬間が見抜けなかった。グリムは自身の真横を通り過ぎるシャヘルの声を確かに耳にする。どうやら誰も気付けぬ間に、その一撃を叩き込んでいたらしい。
そうして彼の腕に物凄い圧力が襲いかかり、同時に<<守護者>>の背に入っていた金色の光がさらなる輝きを増す。それはあたかも<<守護者>>の背からフレアが噴出し、グリムを押し込もうとしているかの様だった。
「ぐっ……」
「ふぅ……はぁ……おぉおおおお!」
ここが攻め時。それを察した瞬が一度だけ深呼吸をして、鬼の角を生やして鬼武者となり一気に攻め込んだ。それは増大した彼の出力を更に増幅させ、金色の光を貫いてその下にある<<守護者>>の鎧をも貫いた。
「こ、これで駄目なのか!?」
流石に常識はずれすぎるだろう。瞬は自身の槍を胴体から生やしながらもゆっくりとだが復帰しようとする<<守護者>>を見て、思わず笑う。今のはかなり強力な一撃だった。確かにグリムの一撃には及ばないかもしれないが、それでもヒビの入った所への直撃なら十分に思われた。
「それはそうだ……そいつは、モデル・レッド。赤騎士……蒼騎士と双対を為す近接戦闘特化型。何度倒しても起き上がるタフガイだ……双龍紋、限定解放」
このままやった所で苦戦は目に見えている。それ故、カイトはまだ足りないと判断。が、同時にやりすぎてはいけないし、何より本気でやると後で怒られる。結果、双龍紋を解き放ちながらも補佐を忘れていない。
『制御良し……というか、暴れすぎじゃぞ、この力!? なんじゃ、これは! 化け物どころの騒ぎではないぞ!』
「わかってたけど! ぶっ飛びすぎでしょ!?」
『それを、私達は何時も抑えているんだがな』
『いっそぶっ飛ばせば良いのに』
ティナとユリィがカイトの体内で暴れ狂う龍神と魔龍の力をコントロールし悲鳴を上げ、魔導書二冊は盛大にため息を吐いた。この四人がコントロールして初めて、まともにカイトの身体へのダメージを避けられるらしい。それほどだった。
「……<<真龍之一撃>>」
ごっ、という音と共に蒼い閃光の中に、復帰しようとしていた<<守護者>>が飲まれる。とはいえ、これで消し飛ぶなぞということはない。
「……これで、良いか」
「……凄まじいな」
「やるなら早くやれ。今なら、トドメを刺せる」
ぐらりと倒れ、立ち上がろうとしながらもその余力もないのかただ身悶えする様に<<守護者>>が僅かに蠢く。まだ死んでいないらしい。そんな<<守護者>>の様子を警戒しながら、グリムがバリーへとトドメを促す。そうして、直後。バリーの一撃が迸り、<<守護者>>がまるで崩れ去る様に倒れ伏すのだった。
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