第1887話 手がかりを求めて ――討伐戦――
ラエリアからの依頼を受けて、<<守護者>>討伐へと赴く事になったカイト。そんな彼はグリムやシャヘルと言った腕利き達と共に、最深部へと突入していた。そうしてたどり着いた最深部で待ち受けていたのは、以前と同じクラス2の<<守護者>>。が、そんな<<守護者>>は少しだけ違う様子があった。
「あれは……大剣? 鎧も事前情報とは些か違うな」
「パパ。あまり前には出ないで」
「ああ……だが……実に興味深い」
ジュリエットの注意に対して頷きながらも、ジュリウスは僅かに前に身を乗り出して興味深げに目を見開く。そんな彼の言う通り、今回の<<守護者>>の武器は2メートルほどもある巨大な体躯よりも僅かに大きい大剣だった。更には鎧もそれに合わせてか動きやすい様にカスタマイズされているらしく、若干だが差が見て取れた。
「……大剣か。カイト、どうする?」
「どうするもこうするもない。やるしかないものはやるしかない……アル、ルー。二人は基本は魔術支援を行う面々の防御や、窮地に陥った戦闘員の保護を主眼に動いてくれ。吹き飛ばされ追撃を食らえば、まず即座にお陀仏だ。一撃を防ぐ事にだけ、集中しろ」
「「了解」」
大剣という事はやはり攻撃力は先の片手剣と盾を持つ<<守護者>>よりも遥かに高いのだろう。その分防御力は低いだろうが、逆に言えば一撃でも貰えばそれだけで死ぬ可能性が高い事を意味していた。そうしてカイトは僅かに呼吸を整えながら、ついでグリムへと問いかける。
「グリム……鎧を着ていないという事は、速度は期待して良いか?」
「ああ」
カイトの問いかけに対して、大鎌を握るグリムが一つ頷いた。とはいえ、その大鎌を握る手は少しだけ白んでおり、力が入っている事が察せられた。やはり彼も<<守護者>>が相手では、僅かな緊張が避けられない様子だった。
「助かる……先輩。基本は避けに徹してくれ。攻撃は出来る時に出来るだけで良い。決して迂闊に攻め込むな……まぁ、初手でわかるだろうがな」
「……ああ」
カイトの助言に対して、瞬は強くなればこそだろう。見ただけで<<守護者>>が非常に危険だというのが理解できたらしい。僅かに身体が強張っていた。
「よし……ふぅ」
カイトは各員への指示を出し終えると、一度だけ深呼吸をして呼吸を整える。先にもそうだったが、相手は<<守護者>>だ。いくらこちらにティナやユリィが居るからとて、油断してなんとかなる相手ではない。そうして呼吸を整えた彼は、肩のユリィと一つ頷きを交わす。
「行くか」
「うん」
ユリィの返答と同時。カイトは地面を蹴って、先手を取る。それに合わせて、全員一斉に行動を開始した。そうして、各自が各自の動きを開始した直後。<<守護者>>もまた動き出す。
「っ」
自身に一瞬で合わせた<<守護者>>に、カイトは即座に停止して同じく大剣にも似た大太刀を合わせ打ち込み、真正面から切り合いを開始する。が、一撃が交わった直後。その瞬間を狙いすまして、ユリィが魔術を展開した。
「ふっとべ!」
ユリィの手のひらから閃光が迸り、攻撃直後の無防備な<<守護者>>を飲み込んでその体躯を吹き飛ばす。が、やはり妖精族の一撃だ。しかも彼女は<<原初の魂>>も使えない。吹き飛ばすに留まった。と、そうして吹き飛ばされた<<守護者>>の背後に、アルミナが立ち塞がる。
『ふっ!』
大剣を得手として愛用したアルテシアに対して、アルミナが得意とするのは短剣だ。攻撃力は大剣に比べれば皆無と言える。が、この短剣はそもそも物理的な攻撃力を重要視したものではない。
「む……あれは……」
迸った紫炎に、ジュリウスが僅かに目を見開く。アルミナの短剣であるが、これは刀身にいくつもの魔術的な刻印が刻み込まれた逸品だった。
とどのつまり、物理的な攻撃と見せかけてこの武器は魔術の補助を行う物だった。無論、刃引きはされていないので直接させばダメージは与えられるし、当たりどころが悪ければ普通に殺せる。が、メインはあくまでも魔術なのである。
『駄目ね……中身は無さそう』
『わかりきった事だ』
紫炎の中で僅かに動きを鈍らせた<<守護者>>が振り向いたと同時。まるでそれが自然な流れであるかのように、アルミナとシャヘルが入れ替わる。そうして、シャヘルの蒼炎が<<守護者>>を乱打した。そこに、グリムが大鎌を振りかぶる。
「おぉ! っ!」
大鎌を振りかぶり胴体を貫かんとしたグリムであるが、<<守護者>>の鎧の堅牢さに思わず顔を顰める事になる。今のは十分な威力が乗っていた。それでも、貫くには足りなかったらしい。僅かに鎧を欠けた程度だった。
そうしてそんな彼に<<守護者>>がカウンターを叩き込もうとした直後。その動きを見切っていたシャヘルが乱打していた蒼炎の動きを変えて、まとわりつかせる様にして動きを阻害する。
『距離を取れ』
「感謝する!」
シャヘルへと礼を述べたグリムがその場から飛び退いて、直後。薙ぎ払う様に大剣が振るわれる。その勢いはシャヘルの蒼炎さえ振り払い、更に余勢を駆ってシャヘルへ向けて大剣を向ける。
『……』
向けられる大剣に、シャヘルは微動だにしようとしなかった。そうして、直後。以前と同じく切っ先から真紅の閃光が迸る。
「っ! 長殿!」
バリーの踊ろいた様な声が、場に響き渡る。が、そうして真紅の閃光が通り過ぎた後には、平然とした様子のシャヘルが立っていた。そんな彼の声を聞きながら、こちらは驚きを一切浮かべていないジュリウスが用意を整えていた。
「あの程度でダメージが入る様な程度の低い防御はしていないか……ジュリエット。合わせられるか」
「ええ」
「よろしい……金の君。いざという時まで解析は任せる。こちらはひたすらに試行を重ねる」
「うむ」
ジュリウスの言葉に、ティナが一つ頷いた。おそらく、ここらは性質がそっくりだったのだろう。利害が一致したらしく、ジュリウスは表向き攻略の為としてティナには解析と万が一の支援を依頼していたそうだ。
先ほどにカイトも察していたが、ジュリウスはカイトとティナの正体を察していた。なのでティナに解析を任せ、自分達が手当り次第に思いつく事を試行する事にしたらしい。こんな時でも実験である。やはり頭のネジがいくつか飛んでいる様子だった。そうして、無数の魔術が父娘により放たれた。
『……参る』
迸る多種多様な魔術を横目に、シャヘルが僅かに風格を変える。そうして、次の瞬間。蒼炎が一斉に<<守護者>>へと襲いかかり、合わせてシャヘルもまたその手に金色の光を宿した。
「「「む」」」
「金の君。あれの解析も頼みたい」
「良かろう。ゴーレムのデータはこちらに回せ」
「取引成立だ。ジュリエット。解析のゴーレムを一台……いや、二台……いや」
「十台全部出しておくわ。何台あっても足りなくなりそうだし」
「そうだな」
「おい! そんな場合じゃねぇだろ!」
このマッドサイエンティスト共め。カイトは再度地面を蹴って<<守護者>>へと肉薄しながら、シャヘルの金色の光を見て興味津々という具合の三人に声を荒げる。とはいえ、その一方ですでにシャヘルは金色の光を片手に、<<守護者>>との打ち合いを始めていた。
「これは……すごいな」
暗殺者というものだから、てっきり真正面からの戦いは苦手だと思っていた。瞬は真正面から<<守護者>>と普通に切り合いを演ずるシャヘルに思わず驚きを隠せないで居た。
現にアルミナは基本は奇策や搦め手を得意としているらしく、初手で真正面からは通じないと察して今は各所に罠を仕掛けまわっている様子だった。が、シャヘルは黄金の輝きを剣の様に振るうのだ。暗殺者というより、普通の剣士と言われても信じられた。
「……」
そんなシャヘルと<<守護者>>の戦いを、瞬は遠目に見守る。彼が初手でやるべき事は、この戦いに自分がついていけるかどうかを確かめる事。それが出来ねば犬死するだけだ。
本来、これは戦闘前に決めておくべきだったのだが、やはり彼の戦闘力の増加がこの迷宮内部でわかったという事がある。カイトにもティナにも、それこそレヴィにも彼の戦闘力がどれだけかわからないのだ。なので彼に判断を委ねる事にしており、自分が足手まといにならないのなら参戦しろ、というのがカイトからの指示だった。
(……見える、な)
やはりシャヘルの速度はその攻撃の不可思議さも相まって半ば見えない状況だったが、<<守護者>>の攻撃なら十分に見切れた。故に彼は自分でもなんとか食らいつける程度にあると判断し、大きく息を吸った。
「おぉおおおおお!」
ビリビリビリ、と瞬の<<戦吼>>が迸る。相手は強敵。全力かつ本気でやる必要があった。そうして、シャヘルとの切り合いを演ずる<<守護者>>の後ろから、おもむろに襲いかかった。
『……』
猛スピードで襲いかかる瞬を見て、シャヘルがまるで影に溶ける様に消え去った。そうして唐突に消えた敵を受け、<<守護者>>の攻撃は空を切り反動に耐えかねて思わず僅かに姿勢を崩す。そこに、瞬が背後から一気に槍を突き出した。
「はぁ!」
どんっ、という音と共に、<<守護者>>が吹き飛ばされる。そうして吹き飛ばされた先には、アルミナが仕掛けていた罠が待ち構えていた。
『グリム』
「承った!」
アルミナの声を受け、グリムが一つ頷いた。そうして彼が地面を蹴って上空に飛んで、それと同時。吹き飛ばされた<<守護者>>は大剣を地面に突き立てて減速したものの、罠の場所にたどり着いて爆発に飛ばされる事になる。
が、それはグリムの所には向かっていない。当然だ。完璧に吹き飛ぶ方向をコントロール出来るほど、アルミナの罠も便利なものではない。故に、吹き飛んだ先にはカイトがジャンプで移動していた。
「はい、オーライオーライ……ふっ」
弓を構えていたカイトは、射線上に<<守護者>>が来る一瞬前に矢を放つ。それは<<守護者>>を捉えると、今度はグリムの方向へと吹き飛ばした。
「おぉおおおおお!」
グリムの雄叫びが迸り、彼が遠心力を大きく利用して大鎌を振りかぶる。その一撃は先の一撃を遥かに上回り、直撃すればいかに<<守護者>>だろうとただではすまないだろうほどだ。が、相手は<<守護者>>。並の相手と一緒にしてはならなかった。
「!?」
『合わせたか』
吹き飛ばされた<<守護者>>であるが、既のところでグリムの大鎌に大剣の腹を合わせていた。しかもその一撃を防ぐではなく敢えて衝撃を受けて距離を取るのに利用した様子だった。そうして、轟音を立てて<<守護者>>が封印の間の天井に激突じみた着地を行った。
「っ、おぉおおおお!」
天井に着地した<<守護者>>に向けて、瞬が大音声と共に槍を投げる。そこに、レヴィが魔術を仕掛けた。
「加速しろ」
槍の前に生まれた無数の魔法陣を通り抜けて、槍が一気に加速する。これに対して<<守護者>>は流石に回避は間に合わないと考えたのか、先端を槍へと向けた。
「……はっ」
槍を待ち構える姿勢を見せた<<守護者>>に、レヴィが僅かにほくそ笑む。それがわからない彼女ではなかった。そうして、最後の魔法陣を通り抜けた瞬間。槍が消えた。転移させられたのだ。
流石に、<<守護者>>もこれには対応しかねた。直後、どういうわけか衝撃と轟音のみが<<守護者>>へと襲いかかり、その身を地面へと叩きつけた。
「ほぉ……やりおる。槍の先端のみを転移させたか。流石にあの規模では気付けんか」
「この程度でやれるのか?」
「な、わけがあるまい」
地面に叩きつけられて停止する<<守護者>>を見ながら、ティナはジュリウスの言葉に首を振る。そして、直後。その言葉に違わず<<守護者>>が再起動を果たして、瞬へと一気に襲い掛かるのだった。
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