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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第79章 手がかりを探して編

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第1878話 手がかりを求めて ――遣い――

 シャーナの久方ぶりの帰国の護衛兼ラエリアの西部にあるユニオン本部にて行われる総会に出席するべくラエリアへと戻ってきていたカイト。そんな彼を出迎えたのは、ラエリア内紛において何度かやり取りを行っていた元冒険者のバリーだった。

 そんな彼との少しの雑談の後、彼は何人かの文官や軍高官との間でやり取りを行い、シャーナの護衛に関する打ち合わせやラエリアと皇国との協力体制の構築に向けた話し合いを行う事になる。そうして、入国から半日。朝方になり、飛空艇はラエリアの首都へと到着していた。が、そこで見た光景に瞬は思わず気圧されていた。


「すごいな」

「ああ……まぁ、先の事を鑑みればしょうがなくはある」


 改めて言うまでもない事であるが、シャーナは現在のラエリアではかなりの信望を得ている。特にシャリクのクーデターの後、景気や治安は大大老達が治めていた時より良くなっている事を民達が実感しているからだろう。その立役者とも言える彼女の帰還とあって、民衆達は両手を挙げて歓迎の意を示していた。


「で……お前、何故礼服なんだ?」

「ああ、シャリク陛下に会う事になっているからな。中津国での事を話さないといけなくなった」

「なるほどな……」


 確かにあの事件を考えれば必須か。瞬はカイトの言葉に納得を示す。勿論、これは表向きの内容だ。これはラエリア側の事情が多分にあり、シャリクは今後の事を考えてカイトを英雄として遇する事にしたようだ。結果、なるべくカイトも露出させたいのが彼の思惑であり、シャーナの傍に立つ姿を民衆に見せてほしかったのである。


「……ま、そこは考えても無駄だし、言うだけ無駄か」

「? どうした?」

「いや、なんでもない」


 ここらのさじ加減は瞬の得意とする所ではない。確かに彼も少しは戦略や戦術に理解を示せはするものの、如何せん彼はソラとは違い前線指揮官に近い。なので後ろでふんぞり返るより自分で敵を蹴散らす方が得意なのだ。

 というわけで、今回は実務としても実質としてもカイトが総司令官として立っていた。何より、適材適所という言葉もある。というわけでそんな考えに基づいて、カイトは自身が矢面に立つ事にしていた。と、そんな彼らが飛空艇の昇降口で待っていると、従者達を引き連れてシャーナがやってきた。


「シャーナ様……懐かしいですね、そのお姿は」

「ふふ……これを着ると、帰ってきた気になります」

「初めて出会った時を思い出します」


 シャーナの服装を見ながら、カイトは僅かに微笑んだ。彼女の服装であるが、かつてラエリアにて女王として着ていた服装だ。先代の女王である以上、それ相応の服装を求められていた。であれば、これしかなかった。なお、別にこれしか持ってきていないわけではなく、他にもいくつものドレスを用意してきていた。


「色々とありましたが……やはりここは私にとって故郷なのでしょう」

「ふるさとは遠きに在りて思ふもの……そんな言葉が日本にはあります。異国にいればこそ、そう思えるのでしょう」

「貴方も、帰った時にはそう思うのでしょうか」

「どうでしょう……まだ帰っていませんから」

「そうでしたね」


 カイトとシャーナは僅かながら、雑談を交わす。ここらは単に緊張を紛らわせる為、とでも思えば良い。そうして、適度に緊張をほぐしたカイトとシャーナは連れ立って、ラエリアの地へと降り立つ事にするのだった。




 さて。カイトがラエリアの地に降り立って少し。彼は懐かしの部屋に通されていた。


「ここねぇ……ま、良いんだがね」

「シャリク陛下からのご指示となりますが……変更の場合は聞き届ける様に、と」

「いや、ここで良いよ。ここも悪くないし、シャーナ様の部屋も近い。元々護衛を言い遣っている以上、良い判断だろう」


 城の従者の言葉に、カイトは笑って椅子に腰掛ける。そんな彼の部屋は、以前に彼が通されていた従者の部屋だ。と言っても、流石に今回はカイトを招くという事で調度品の類やらは見直されており、きちんとした客間としての体裁が整えられていた。

 なお、後に聞けば以前の内紛の折り、戦闘でこの部屋も荒れたそうだ。なのでそれに合わせてきちんと客間として通用する様に作り直されたとの事であった。カイトがここを選ぶ可能性を考えての事だったらしい。そうして従者が去った後、カイトは一人虚空へと声を掛けた。


「ふぅ……で、アルミナさん」

『あら。まだ私が居た事に気付いていたのね』

「気付かないと思うか?」


 カイトは笑いながら、どこかに隠れ潜むアルミナへと笑い掛ける。とはいえ、これにもきちんとした理由があった。


「気付かせてくれる様にしてた、という事は逆説的に言えば帰るんだろ?」

『ええ……伝令、来てるのよ』

「ん?」


 アルミナの指摘を受けて、カイトは窓の外へと視線を向ける。そうして見えたのは、一羽の黒い鳥だ。それも単なる黒い鳥ではなく、闇の如き異様な黒さを持つ烏だった。が、その目のみが闇の様な金色を湛えており、まるで死に見つめられているかの様な印象を受けた。


「あれは……長の遣いか」

『ええ……ああ、そっか。貴方には見えるのよね』

「これでも死神の神使でもあるからな」


 カイトはアルミナの問いかけに対して、一つ頷いた。まぁ、明らかにこの烏は尋常な生命ではない。なのでこれは使い魔の一種で、アルミナが所属する暗殺者ギルドの中でも幹部達のみが視る事が出来る長の使い魔だった。そうして、そんな二人の見守る前で闇の如き烏が、まるで窓なぞ無いかの如く部屋の中に入ってきた。


『……闇打ち払う者よ』

「長の遣いよ。久しく、長とは相見えなかったが。息災、変わりないか?」

『然り……主人も久しく貴殿に会っていない事を気にされていらっしゃった』


 長の使い魔はカイトの問いかけに一つ頷き、一応の社交辞令を交わしておく。その言葉は非常に流暢でこの使い魔の主人、ないしは製作者の技量が伺い知れた。そんな長の使い魔の返答に、カイトも一つ頷きを返す。


「そうか……それで、アルミナさんに用事か?」

『そうでもあるし、そうでもないとも言える』

「「?」」


 カイトとアルミナは長の使い魔の言葉に首を傾げる。元々長の言葉は理解し難い、というのはわかった話だったのであるが、それはそれとしても今回はよくわからなかった。


「どういう意味だ? それは即ちオレにも用事と?」

『然り……端的に言うと、主人が来られる』

「「……」」


 当初、カイトもアルミナも長の使い魔が言っている意味が理解出来ず思わず一時停止してしまう。今確かに、長が来るという様に言われた様な気がしたのだ。


「……待ってくれ。長が来る?」

『然り……この地の王より呼ばれ、来られる』

「何をするつもりだ」


 長の使い魔の言葉を聞いて、カイトは即座に剣呑な雰囲気を醸し出す。暗殺者集団の長。それはカイト自身が一切の虚飾無く唯一自身を暗殺出来ると言い切れる人物だ。それを呼び寄せる必要性がカイトには理解出来なかった。


『安心召されよ。主人が貴殿を害する可能性は皆無。もしその様な依頼があるのであれば……必然、その者の末路も定まろう』


 くくく、と長の使い魔が笑い、カイトへ危害が加わる事はあり得ないと明言する。とどのつまり、もしこれがカイトやその近辺への暗殺の依頼などであれば長が間違いなく始末を付けてくれるという事だ。


「……そうか。長の遣いの言葉を信じよう。それで、それなら尚更何故に長が来る」

『此度、この地の王が各地より腕利きを呼び寄せている事はご存知か』

「いや……総会に合わせての事ではなくてか?」

『然り。事の次第と事の規模から、主人は直々に動くのが最適とご判断された。それに伴い、<<黄昏(たそがれ)>>にも同行せよとのご下知だ』

「……何が起きている? 差し支えなければ、オレにも教えてくれ」


 真正面から戦ったとて今の瞬達にも到底勝ち目がないアルミナに、それを遥かに上回り真正面からとてランクSの冒険者達を圧倒出来る暗殺者ギルドの長が揃って何かに臨むというのだ。ここまで来るともうカイトには純粋な興味が芽生えていたらしい。


『それはこの地の王より聞くと良い。また、貴殿から主人が来る事を伝えてくれまいか』

「それは構わんが……とどのつまり、オレが出る会議に長も来ると?」

『然り』

「ふーん……」


 どうやら今回の会議ではそれなりに大きな内容が話し合われるらしい。カイトはそう判断する。そしてそれなら、その時に事情も話されるという事なのだろう。彼はそう判断した。


「わかった。それならそうしよう」

『かたじけない』

「ああ、そうだ。一つ聞いておきたいんだが……長は?」

『……はぁ。わからぬ。長の動きだけは私にも掴めん』


 カイトの問いかけに、長の使い魔は一つ深い溜息を吐いた。これは優れた暗殺者だからこそなのかもしれなかったが、使い魔にも長の同行はわからないらしい。

 なお、基本指令は長が出しているのに間違いは無い。ただその出し方は使い魔に繋がるパスを使ってのものだそうで、下手をすると使い魔や側近達でさえ一年も顔を見ない時もあるとの事であった。が、それにカイトは一つ笑った。


「そうか。その意味でも、変わりないか」

『あの方だけは、永久に変わらぬのやもしれぬ。それ故、貴殿に親近感を得ているのやもしれぬ。永久を生きる者。永久を歩む者。永久に変わらぬ者……貴殿なら、主人の御心を理解し得るかもしれぬ』

「さてな……」


 カイトは長の使い魔の言葉に困り気味に肩を竦める。これについては長当人にでも聞かねばわからないことだし、真実は長だけしかわからない事だろう。そうして、そこらの話を終えた長の使い魔は用事は終わったと羽を広げる。と、そんな長の使い魔にアルミナが問いかける。


『長の遣いよ』

『何だ』

『私はどうせよと?』

『……ああ、それか』


 一瞬先ほど伝えたのではないか、と思ったらしい長の使い魔であるが、その言葉の意味を理解して浮かびかけた身体を再び下ろす。


『……それは好きにすると良い。主人より会合までの間どうせよ、会合の後どうせよ、という指示は聞いていない。ただ、戻る時に長と戻れば良い』

『では此度の任の後、長は帰られると?』

『それは……わからぬが。長が戻られるのであれば、戻る方が良いだろう』


 再度長の使い魔は困った様な顔を浮かべる。が、その言葉は道理だろう。というわけで、その言葉に従う事にして、会合までの間を過ごす事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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