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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第79章 手がかりを探して編

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第1877話 手がかりを求めて ――ラエリア――

 『八岐大蛇(やまたのおろち)』討伐から一週間。中津国復興の支援などをして忙しく過ごしていたカイトであるが、それも一区切りついた事を受けて改めてラエリアへと出立する事になっていた。というわけで、カイトは必要な人員を飛空艇に乗せると、シャーナの飛空艇の艦橋の椅子に座っていた。


「良し……各艦艇、状況の報告をせよ」

「イエス。各艦艇……発進準備良し。何時でもどうぞー」


 カイトの要請に、アイギスが各艦隊の状況を確認しながら報告する。なお、この飛空艇もティナの改造を受けている為、基本カイト達だけで動かせる様にされていた。

 なのでアイギスが計器類をチェックする為の専用の球状のコンソールの中に居て、ホタルが専用シートの上に寝そべって直接飛空艇に接続しコントロールしていた。


「よろしい……」

「「レッツゴー!」」


 カイトの視線を受けて、ソレイユとユリィが楽しげに号令を発する。そうして、ゆっくりと飛空艇が離陸を始め、シャーナの飛空艇を中心としてシアの護衛艦隊が中津国を飛び立った。

 先に言われていた通り、この艦隊はすべてカイトの指揮下に入っている。そして防御能力の関係でシアもシャーナもカイトの乗るシャーナの飛空艇に乗っている。なので、この臨時編成の艦隊ではこのシャーナの飛空艇が旗艦だった。


「さて……」


 飛び立った艦隊の状況に問題が無い事を確認し、カイトは一つ息を吐いた。これで後は道中魔物に襲われなければ問題無い。後は暇を潰すだけで良かった。と、そうしてどうやって暇を潰そうか考えていた彼に、ユリィが問いかける。


「で、カイト。取り合えずどうする?」

「とりあえずティナと灯里さんの確認から、かね」

「そっち、問題起きそうにないんだけど」

「起きたらやばいしな」


 現状、この艦橋にティナと灯里は居ない。運び込んだ重力場制御装置の最終チェックをしていたのである。そこのチェックは船を預かる者の一人として、せねばならない仕事だった。と、そんな事を口にしたカイトに、ソレイユが問いかける。


「ねぇ、にぃー」

「ん?」

「どんなのなの? その重力場制御装置って」

「普通の魔導具だ。理論の一部に地球の技術が使われてるってだけでな。興味沸かんと思うぞ」

「でも見るー」

「というより、暇だしユリィもオレもそっち行くから、ってだけだろ」

「そうとも言える」


 カイトの指摘に、ソレイユは楽しげだった。彼女としてはカイトやユリィと一緒なら大抵の事は楽しいらしかった。なお、言う必要は無いと思うが、彼女は本当に重力場制御装置に興味はない。カイトの指摘通りだった。


「というわけで見に来たよ!」

「どういうわけじゃ……」

「あははは……で、調子はどうなんだ?」


 ソレイユの言葉に肩を落とすティナへと、カイトが問い掛ける。一応今はストップしている様子で、中央に据え付けられた魔石はなんら発光はしていなかった。


「うむ。一応動きそのものに不具合はない。今は一応最後の調整をちゃっちゃとやっとる所じゃな」

「そうか……にしても、あの人もまじ天才だな……」

「そうでもないわよー。純粋な科学技術で作ってるの見てるしそれに参加してるから、それ再現してるだけだし」


 普通はその再現が出来ねぇよ。カイトは内心で思わずツッコミを入れる。とはいえ、コンソールの前で何かの作業をしている灯里の気を散らすのも憚られた為、何も言わないでおいた。というわけで、彼が問いかけるのは別の事だ。


「で、それは兎も角灯里さん。一応聞いておくけど、本気で来るのか?」

「うん、まねー。だって見たいじゃん。そんな面白そうなの」

「まぁ、面白いっちゃあ、面白いけど……」


 相手は大地の賢人や大精霊に最も近い者と言われる存在なんだがなぁ。カイトは灯里が会いたいと言っている相手の事を思い出し、少し笑う。とはいえ、それでアウトかと言うとそうではなく、相手の大地の賢人もそれを楽しむだろうというのが理解できた。


「まぁ、良いか。どうせあっちももうわかってるだろうし」

「そうなの?」

「ああ。あの爺さん、エネフィアの事なら何でも知ってるからな。情報屋よりいろいろな事を知ってるぞ。まー、本人は別にそんな感覚も無いらしいんだがな」

「ふーん……」


 元々大地の賢人は精霊の類だと言われているのだ。なので世界のシステム側である以上、多くの物事を知っていても不思議はない。そこを鑑みれば、灯里にも不思議は無かったらしい。


「ま、見に行けば良いんじゃね? 相手、一応ラエリアじゃあ大賢人とか言われてるけど詳細知ってる人そんな居ないだろうしなぁ」

「そーなの?」

「ああ。ラエリアの昔話じゃあ、普通にお爺ちゃんみたいな人として描かれてるからな」


 実際にはそんなものではないのは、ラエリアの王族であったなら誰もが知っている事ではあった。現にシャリクがクーデターを起こす際彼の下へ行った時、彼は地面に手を当てて会話を行っていた。それを鑑みれば、まっとうな人の形をしているとは思えなかった。


「で、それはともかく。終わったら休めよー」

「はいはーい」

「うむー……にしても、あやつ。平然とソレイユに抱きつかれて来おったのう」

「あれ、他の人に見られたら変態扱いされそうなのにねー」


 後ろ手に手を振って去っていくカイトを見ながら、その背にへばりつくソレイユを見て二人は頬を引き攣らせる。とはいえ、そんなカイトはその後もしばらくその格好のまま各所をうろついて、適当に時間を潰す事になるのだった。




 さて、カイト達が中津国を出発して数日。少しだけ急ぎ足で飛空艇を進ませた一同であったが、何事もなくラエリアへと到着していた。今回も今回で到着したのはラエリアの首都だ。

 そこでカイトはひとまずシャーナをラエリアの近衛兵達に預ける事になるのであるが、そこでカイトは久方ぶりの人物に出会う事になった。それはラエリアの国境を通り抜け、ラエリアの国軍による護衛を受けている最中の事だ。


「お久しぶりです、バリーさん」

「ああ。君も元気そうで何よりだ。昔の伝手から話を聞いて目をやったとは聞いていたが……もう問題は無いのか?」

「ええ。冒険者なら何時もの事ですしね。目玉が吹き飛ばない限りは、早々の事で引退にもなりませんよ」

「はははは。そうだな」


 カイトが再会したのは、元冒険者で現軍属のバリーだ。基本的に彼はシャリクの腹心にして動かしやすい戦力――元冒険者としてそちらにも伝手がある為――としてカウントされているらしく、今回の出迎えも任されていたらしい。

 無論、カイトとも顔見知りという点もある。下手に知らない相手に出迎えさせるより、カイトとしても随分やりやすい。というわけで、カイトはそんなバリーと少しだけ雑談を興ずる。


「で、そちらはまた大きな傷を作りましたね」

「ああ、これか。二ヶ月ほど前か。地方貴族の不正を暴く際に裏ギルドの奴らと戦ってな。こちらも万が一に備えて冒険者を雇ってはいたが……危うかった」


 カイトの言葉を受けて頬に新たに出来ていた大きなキズを撫でながら、バリーは一つ笑う。それに対して、カイトはどこか安堵した様に笑った。


「もう最近は裏ギルドに依頼する様になってきましたか」

「流石に、表には見向きもされん様になった」

「後もう少し、ですかね?」

「ああ」


 カイトの問いかけに、バリーは少しだけ気楽に笑う。少し前にカイトも戦っていたが、裏ギルドは非合法な存在だ。傭兵達とは違い、完全な犯罪者やお尋ね者である事も多い。

 そんな者たちに依頼する様になってきたという事は即ち、バリーの言う通りまっとうな冒険者達はもう依頼しても受けなくなってきた、という事だろう。趨勢がシャリク側に完全に傾いた証拠だった。故にバリーも気楽になっていたのである。


「寄らば大樹の陰とは言うが。もう後半年もすれば、こちらが完全に制圧出来る……ああ、そうだ。それで思い出した……シャリク陛下が君に礼を言いたい、と言っていた。腕利きのギルドと引き合わせてくれて感謝する、と」

「あははは……いえ。私も本当に偶然得られた縁で。驚きでした」


 二人が口にしていたのは言うまでもなく、<<死翔の翼(ししょうのつばさ)>>だ。紹介状を受け取ったグリムはその後色々と考えた結果、カイトの紹介を活用する事にしたらしい。その旨とシャリクより感謝の手紙がラエリアの大使館を通じてカイトへともたらされていた。


「俺も驚きだったがな。まさかグリムが代替わりしていたとは」

「知らなかったんですか?」

「ああ。元々あそこは中小の傭兵ギルドだった。俺が軍に入った頃に代替わりしたらしく、その当時はゴタゴタで知らなかったんだ。腕の立つ奴が入った、までは聞いていたがな」


 カイトの問いかけにバリーは正直に知らなかった事を告白する。なお、知名度であればバリーが率いていたギルドと先代までの<<死翔の翼(ししょうのつばさ)>>はトントン、一般向けであればバリーが上で、冒険者達であれば<<死翔の翼(ししょうのつばさ)>>が上という所だった。それが今代のグリムに変わった途端、一気に<<死翔の翼(ししょうのつばさ)>>が上になったという所らしい。


「その腕の立つ奴が、今代と」

「ああ。一年と少しでギルドをすべて掌握したんだ。大したもんだ」


 確かに古参や当時の幹部達が何人も疫病で死んでしまったという事はあるが、それでも全員が死んだわけではないのだ。それにも関わらずギルドマスターを継承したのであれば、それは周囲の理解も得られた上での事だろう。よほどの腕と人望があったのだ、とバリーにも察せられた。故の彼の賞賛に、カイトも一つ頷いて同意した。


「ええ……それ故、紹介させて頂くのが良いかと」

「ああ。いや、奴との会合は俺も同席したが。あっぱれな態度だった。こちらの居並ぶ軍の高位高官やシャリク陛下を前にしても奴は一切気負わず、堂々とした姿だった。顔こそ仮面で隠していたが……見事な論説でこちらを納得させられたよ。あれは俺を超えているな。ランクSというのも頷ける」

「へぇ……」


 どうやら伊達にギルドマスターをやっていて、更にはカイトの伝手も受け入れる強かさを持つわけではないらしい。居並ぶ高位高官達をすべて論破して、仮面を身に着ける事を納得させたらしい。

 とはいえ、勿論それだけではないらしく、きちんと自分が別人が成り代わっているわけではない事を証明する方法も提案しての事だそうだ。そこまでされては流石に軍としても腕利きという事で譲歩せざるを得ず、認める事になったそうである。


「で、そういう君はどうだった? 本部の奴から君と出会った、と聞いたが」

「本部というと……<<天翔る冒険者ヴェンチャーズ・ハイロゥ>>の?」

「ああ。本部には割と伝手はあってな。天馬に乗っていたそうじゃないか」

「あはは」


 どうやら天馬と言ってもエドナの事を知っているらしい。楽しげな顔でバリーは笑っていた。とはいえ、あまり長々と雑談をしているわけにもいかない。なのでカイトは本題に入る事にした。


「それで、シャリク陛下は?」

「ああ。陛下は城にてお待ちになられている。が、先にシャーナ様との会合を終わらせた後、会議に入りたいとの事だ」

「わかりました」


 今回、カイトの来訪にはいくつかの目的がある。一つは冒険者ユニオン協会で行われる総会に出席し、対<<死魔将(しましょう)>>における冒険者達の支援に確約を取り付ける事。これは元々決まっていた事だ。が、それと共に先の中津国における襲撃を受け、シャリクとの会合を行う事もあった。これは皇国側の依頼でもあったので、今回のカイトは大使としての側面もあった。が、何分急な決定だ。色々と話し合わねばならない事はあったのである。そうして、彼はバリーの紹介を受けてそこらの話を詰める文官達と話を行う事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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