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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第79章 手がかりを探して編

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第1875話 手がかりを求めて ――説得――

 厄災種が一体『八岐大蛇(やまたのおろち)』。それの討伐を終えて数日。カイトは中津国の復興が半ばまで行われたのを見届けて、ラエリアへの出立を行う事にしていた。が、その出立の間際。カイトは道化師の手の厄介さを改めて理解する事になっていた。


「なるほどね……ちっ」

「上手い手じゃのう。まさかこうも上手く乗せられるとは」

「馬鹿か。甘く見すぎだ……いや、オレが悪いか」


 カイトはティナからの報告を聞いた後、自身の悪手を悟りつつもこうするしかなかったのだ、と受け入れるしか無かった。


「かつての事を知る者はもはや少ない。奴らのヤバさを知る者もそれに比例して少なくなる……楽天的に考える者が多くとも、仕方があるまい」

「……オレが頑張りゃその分被害は減って、被害が減ればその分楽観的になられてしまう。そうなれば、か」

「うむ……非常に愚かしいというしかないんじゃが……むぅ……」


 ティナはどうする事も出来ない現状に、苦い顔だった。もし被害が大きければそれだけで悲壮感が生まれて様々な面で問題が出るし、最悪はパニックで国が滅びる事だってあり得る。が、彼らが頑張れば頑張ったで被害は減って楽観的になられて、相手が本気になった瞬間に途轍もない被害を受ける事になりかねなかった。


「まぁ、こればかりはどこかで痛い目に遭う事を承知するしかないだろう。各国の上層部も分かってはいる筈だからな」

「流石に、各国の上層部はそれを知るか」

「知ってて貰わにゃ困る。厄災種に三桁の犠牲で済んだ、なぞ技術の進歩を勘案しても奇跡的だ」

「お主という奇跡、か」


 結局は、そこに行き着く。何故被害がこの程度で済んだのか。それは言うまでもなくこの場にカイトが居たから、に他ならない。無論仁龍の支援も忘れてはならない。この二人が居ればこそ、被害はこの程度で済んだ。これを見誤り人類の力だと勘違いすれば、間違いなく国は簡単に滅んだ。


「勝手に人を奇跡扱いせんで欲しいがな」

「奇跡じゃろう。大凡数十万の犠牲を十分の一にしてしまうなぞのう」

「それでも、今回は奇跡に輪をかけた奇跡だ。オレだけじゃ到底どうしようもなかった。技術躍進に様々な要因があっての結果だ」

「それは、そうじゃのう」


 カイトの指摘に、ティナもまた一つ応ずる。こればかりは全てが上手く噛み合った結果だと現場の誰もが思っている。が、遠ければ遠いほど、誤解が生まれていた。


「……まぁ、こればかりは今のオレ達にはどうする事も出来んか」

「こればかりはのう」


 二人はまだ、公的な立場に復帰していない。それ故にこそ、直接的には注意喚起も出来ない立場だ。勝って兜の緒を締めよ、と言う事は出来なかった。とはいえ、これでひとまずの打ち合わせは終わったらしい。二人は重い空気を打ち払い、次に目を向けた。


「で。もう考えた所でどうにもならん事は置いといて。飛空挺の修理はどうなってる?」

「まー、旗艦は戻ってオーバーホールじゃなぁ。こっちはそもそも実験的過ぎてのう。航行する能力はあっても、航行させるべきではない」

「と言う事は、護衛艦隊含めで帰還か」

「旗艦だけにのう」

「うるせぇよ」


 コロコロと楽しげに笑うティナに、カイトは肩を落とす。とはいえ、これは確定らしい。


「いや、冗談は抜きにしても、帰投はさせる。六時間にも及ぶ戦闘は幾らなんでも試作機には重過ぎる。正直、幾つかの機関は焼き切れておるしのう」

「本当に戦闘する気は無かったのか」

「当然じゃ。あれはお主の魔導機……ある程度の技術的な検証は終わった実験機とは違い、本当にゼロベースの試作機。技術の検証機じゃ。とりあえず乗っけてみただけ、という物も多い」


 どこか驚いた様子のカイトに対して、ティナは呆れた様子だった。本当に出すつもりは無かったらしい。事実、後の彼女曰く、厄災種が相手でなければ――七人衆だけが相手なら出さないつもりだった――出すつもりは一切無かったとの事である。それほどの実験機だったとの事であった。


「まぁ、もうどうしようもない事は考えても無駄か……それで、シャーナ様の飛空艇は?」

「そっち、中々に面倒な感じでのう……若干損傷は見受けられるのう」

「破損の程度は?」

「小破……という所かのう。内部機構には一切の破損は見られん」


 まぁ、シャーナの守護はカイトにとって最大のお題目だ。彼女の警護は何より優先される事象で、今回冒険部としての彼はシャーナの護衛として主には街の防衛に回っていた、というのが公へのカバーストーリーだ。

 そこでシャーナの指示で機動力を活かして各所の支援を行っていた、というわけである。なので彼女の飛空艇にはほぼ傷は付いておらず、今回の戦いに参加した飛空艇の中でも最も損傷の少ない船だった。というわけでこれは彼の頑張りの結果、と言えるわけで彼もまた笑顔を浮かべる。


「そりゃ良かった……この視界の隅っこで呑気にトランプやってる馬鹿共が居なければな!」

「「「ほえ?」」」

「「え、あ……」」


 カイトの指摘に、ソレイユ以下ユリィと灯里が何が、という様な顔を浮かべ、セレスティアとシャーナは恥ずかしげだった。


「あ、いえ。失礼しました。シャーナ様とセレスはそのままで……」


 つい勢いで声を荒げてしまったが、その結果二人まで巻き込まれてしまっていた。それにカイトは慌てて謝罪しつつ、残る三人に柳眉を逆立てる。


「お前ら。マジ何やってんの」

「ト」

「ラン」

「プ」

「わーっとるわ、んなもん! てか、親和性高すぎだろ、あんた!」

「いやー、教師と教師だからさー。割と話するのよねー」

「ねー」


 カイトの指摘に、灯里が楽しげにユリィと笑う。何故灯里がここに。カイトとしては疑問でならなかった。しかも事もあろうにシャーナと共にトランプである。灯里と言えばカイトも納得だが、同時に納得出来るわけもなかった。


「いや、ねー。じゃなくて。どうやって入った」

「普通にティナちゃんに連れてきて貰ったー」

「……」

「そうカッカせんでも。理由があって連れてきておるよ」


 説明プリーズ。カイトはティナの弁明に、無言で先を促す。流石の彼も理由も無しに無関係の者をシャーナの前に連れて来て良いとは思わない。彼女は一応、立場上は亡命者だ。なので暦の謁見も許可を得ての事だし、それ以外についても基本は許可制だ。それを逸脱して良いわけではない。とはいえ、ティナの許可であれば可能は可能なので、とどのつまり彼女の許可があった、という事なのだろう。


「この飛空艇のオペレーターとして灯里殿に頼みたくてのう。此度の一件を受けて、万が一に備えてもう少しこの飛空艇の防衛機構のレベルを上げておきたい」

「それと灯里さんにどう関係が?」

「これにも重力場フィールドを設けようと思う。これの設置にはさほど時間は要さんので、もう終わらせた」

「おい」


 報連相はどこへ行った。カイトはティナの事後報告に、思わずツッコミを入れる。とはいえ、そう言っても無理な事情があった事もまた事実ではあった。


「そう言うがのう。お主、時間無かったじゃろ。かといって出発の時間は決まっている以上、事後承諾になったのは勘弁せい」

「むぅ……確かに、そりゃそうだが。いや、それはさておいて。なんでそこまで普通にやってるんだ、あんたは……」

「んー……なんとなく?」


 確かに灯里が必要となる理由にはカイトも納得が出来た。確かに厄災種という難敵を繰り出せる事がわかった以上、何をするにしても重力制御装置は必須だ。あれさえあれば、原理上は飛翔機との組み合わせで大気圏の離脱も可能だ。理論的には、飛空艇は宇宙船になれるのである。脱出においてこれ程の安全圏は無い。となると、専門家として灯里が居ても不思議はない。無いが、ここで灯里がシャーナやセレスティア相手にトランプをしているのは流石と言うしか無かった。


「まー……それは兎も角。ぶっちゃければさー……」

「?」


 何を言い出すかと思えば言葉を区切って唐突に立ち上がった灯里に、カイトは小首を傾げる。そうしてスタスタと歩いた灯里は、カイトの前に立った。


「?」

「ほりゃ!」

「ごふっ! いっつぅ……なにしやがりますか、このおばか様は!」


 唐突に胸に走った激痛に、カイトは思わず悶えて声を荒げる。灯里がおもむろに殴りつけたのだ。それも結構な威力で、である。が、それに対する灯里の目は、僅かな怒りを湛えていた。


「やーっぱそうか。あんた、ここから、こう……怪我してんでしょ。しかも結構な大怪我。あんた、分かりやすいのよ」

「っ」


 気付かれていた。カイトはあの六時間の戦いにおける自壊の痕跡を灯里が気付いていたのを受けて、思わず顔を顰めた。なお、分かりやすい、と灯里はのたまったが、そんなわけがない。

 実際気付いていたのはユリィとティナぐらいで、他は誰も気付いていない。寝所を共にした者たちも気付いていないぐらいだ。その中でも唯一寝所も共にせずに気付いた灯里の洞察力はやはりずば抜けていた、と言って良いだろう。


「……」

「……」

「……何言いたいか、分かる?」


 少しの沈黙の後、灯里が口を開いて問いかける。これに、カイトは返す言葉が無かった。が、これに灯里は怒るわけでもなく、おもむろにカイトを抱き寄せた。


「……あんたはもうちょっと自分の身体労わんなさい」

「おい、ちょっ!」

「にゃはは……いい? あんたが死ぬと悲しむ人は一杯いんの。何がなんでそうなってんのか、ってのはちょっと私にもわかんないけど。怪我してるぐらいはわかるわよ。もうちょっと力は抑えなさい。あんたの得意分野なんだから、それぐらい出来んでしょ」

「……」


 ただ怒鳴られるより何より、これはカイトにとって有効だった。頭ごなしに怒るでもなく、ただ受け入れその上で諭す。両者の立場がなければ出来ない事で、それ故にこそ恥ずかしそうに暴れていた彼だが、灯里の心情がわかっていればこそ諦めたのか力を抜いた。


「分かったよ。気を付ける」

「はい、よろしい。無茶をするのはしょうがないけどさ。もうちぃっとメリハリつけなさい」

「あいよ」


 どこか呆れた様に、しかしながらどこか恥ずかしげにカイトがため息を吐いて肩を竦めながらも頷いた。これだから彼女には勝てない。カイトは心底そう思うしかなかった。


「で、お前はこれが目的かよ」

「うん」

「ちっ……」


 あまりにはっきりとしたユリィの頷きに、カイトは恥ずかしげに舌打ちして顔を背けるしかできなかった。彼女自身、自分がカイトを止められないのをわかっている。

 というより、彼を止められるのは数少ない。無理をしやすい彼を理論的に止めるのであれば、それこそ灯里ぐらいしかエネフィアでは不可能だった。


「……わーったよ。無理はしない」

「ん」

「よろしい」


 カイトの改めての明言に、ユリィと灯里が一つ頷いた。というわけで、一つお説教が終わった後、カイトは改めて現状を問いかける事にする。


「で……はぁ。とりあえず現状は?」

「ああ、それならやったよー。青天井で予算付けてくれなくても、ただ私が動きやすい環境を整えるだけだからねー」

「というか、もう今更驚かんのだが……あんた、オペレータ出来るのな……」

「というか、灯里殿の洞察力と観察眼があれば余裕じゃ……」


 やはりティナをも恐れさせる灯里の洞察力と、彼女自身の賢さだ。それを以ってすればオペレーティングは余裕らしかった。ティナさえため息混じりだった。


「ああー。それ? 流石に他所様の補佐は出来んよ?」

「オレ専属かよ……」

「あによー。文句あんのー」

「適当にやられそうだからな!」


 灯里の洞察力は信頼に値するが、同時に彼女のいい加減さもまた信頼に値した。故にカイトはあまりに道理すぎる返答を述べるだけだった。そうして、その後はなんだかんだで何時もの二人の掛け合いを行いながら、しばらくの骨休めを行う事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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