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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第78章 天覇繚乱祭編

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第1874話 八岐大蛇討伐戦 ――戦闘終了――

 『八岐大蛇(やまたのおろち)』討伐戦。それは六時間にも及ぶ激闘の末、カイト率いる<<無冠の部隊(ノー・オーダーズ)>>の活躍により、人類の勝利で終わる事となる。

 そうして、戦いの後。道化師達が裏で暗躍を再開するまでの僅かな一時を過ごしていた丁度その頃。巨大な閃光と共に消滅した『八岐大蛇(やまたのおろち)』を見届けて、カイトは僅かに息を吐いた。


「はぁ……っと」

「流石に疲れたわ」

「私もー」

「ま、そりゃそうか」


 カイトは自身にお姫様抱っこを望んだカナタと、自身のロングコートのフードに潜り込んだユリィに僅かに笑う。彼自身、僅かな疲労感を感じてはいた。尋常ではない魔力量を保有する彼でさえ、これである。他は今ごろ疲労困憊だろう。


「というか、カイト。本当にまだ大丈夫なわけ?」

「うん?」

「いや、カイト……厄災種との戦いの時って何時も塞いでる魔力のパス、開くでしょ? 私達が六時間ぐらいぶっ続けで戦えるのってそれ故だし」


 まぁ、当然の話であるが、無補給で何時間も戦える様に人は出来ていない。それも相手は厄災種。ほぼ全力で常に戦う必要があった。精神的は兎も角、肉体的には保たないのだ。それをどうにかしているのが、カイトである。彼の無尽蔵にも等しい魔力を各員に融通し、戦っていたのだ。


「今回、ようやく私もほんちゃんのパスで魔力の融通貰ったけどさ。結構バカ食いしたつもりなんだけど」

「あら……私貰ってないわ」

「パス開通してないからな」

「じゃあ、早めに開通してもらおうかしら。勿論、性的な意味で」

「お前、本当に疲れてんのか……?」


 一応言うが、カナタも上空から広域に狙撃をしたり、上空に位置する強大な魔物が『八岐大蛇(やまたのおろち)』に引き寄せられて降下しない様に戦っていた。

 それ以外にも常に成層圏で待機していた事などを鑑みれば、かなり莫大な魔力を消耗した筈だ。カイトが文句一つ言わずに彼女を抱きかかえていたのは、本当に疲れていると思っていたからだ。そして現に見える限りの彼女の魔力保有量はかなりギリギリだ。顔も若干精細さを欠いていた。が、口は元気らしかった。


「ええ……実際、今日ばっかりは寝たいわ。普通の意味で。襲ってくれるなら良いけどね」

「なら寝とけ。少しでも楽にはなる」

「そうね……ふぅ……」


 どうやら本当に疲れていたらしい。カナタは少しだけ小さく息を吐いて、ゆっくりと目を閉じて寝息を立てた。彼女をしてこれである。どれだけの激闘だったかは、察するにあまりあった。

 実際、カイトが降下した時の下では戦士達が野営地まで戻る事も出来ず、死屍累々という具合で泥のように眠っていた。それほどだった。そうしてそんな彼女を起こさぬ様にゆっくりと降下しながら、カイトはユリィと先ほどの話へと戻る。


「で、オレが疲れてないか?」

「うん」

「まぁ、問題は無い。ぶっちゃけるとまだ余裕はある。勿論、言うほど余力がある、ってわけでもないが」


 なにせクオンやらにも魔力を融通していたのだ。勿論、部隊の数人には魔力のパスを通じて魔力を融通し、そこから全体へ送っていたりもする。これに加えて弥生にも魔力を融通している。即ち、冒険部全体でも彼の魔力が若干だが使われていたわけだ。これだけやって疲れないわけがなかった。


「でもまだ行ける、と」

「行けるさ。オレだからな」

「そか。でも随分目減りはしてる」

「それは否定せんさ。流石にオレもキツい事はキツい。厄災種を同時に二体とかは絶対にやりたくないからな」


 実際、圧勝に見える今回の勝利とて薄氷の上の勝利だ。戦力は大きく削られた。それに対して相手は魔物一体。どうにも厄介としか言い得なかった。


「まさか、厄災種までくりだしてくるとはな」

「何体持ってると思う?」

「わからん。それに造れるかもしれん……」


 そうなってくると、話は一気に面倒になる。カイトは脳裏に浮かぶ最悪の可能性を想定し、苦い顔を浮かべていた。一体でこれだ。状況が状況かつ場所が場所なので被害もこの程度で済んだが、どちらかが違うだけでこの数倍か数十倍の被害が出ただろう。


「……そろそろ、本気で動く事も考えんと駄目なのかもな」

「本気で、ねぇ……」

「厄災種は想定していなかった」

「出来るわけがないよ。どうやれば、そして誰がそれを想定出来るのやら」


 厄災種は言ってしまえば天災と一緒。誰もがそう述べる相手。それを操ろうというのは、大凡どんな国でも想像さえしない事だ。リスクリターンを鑑みた場合、どう逆立ちしたって不可能だからだ。

 成功する見込みも無いし、失敗すればその時点で全てが終わる。よしんば幸運にも万に一つで成功しても、暴走のリスクは常に付き纏う。あまりにリターンが見合っていなかった。


「……本当に、異世界からの侵略者パターンを想定するべきなのかもしれん」

「あり得るの?」

「あり得るのとは考え難い。だが、事実を事実として見れば、此方に分からねばならない事象まで幾つも隠されている。ここ……地球やエネフィア以外の世界にでも拠点が無いと到底出来ん」

「……」


 それはそうだけども。その場合、相手は大精霊達さえ騙せる様な勢力になってしまう。ユリィとしてはあまり考えたくはない事だった。


「……地球の拠点、かぁ。カイト。あっちは大丈夫かな?」

「……そうと信じるしかない」


 カイトは眼下に広がる青い星を見ながら、もう一つの青い星を思う。あちらにも家族が居る。が、今の彼には何も出来なかった。


「……ま、それはそれとして。こっちもなんとかせにゃならん」

「こっちも戦力は整ってるけど、向こうもかなり戦力値高そうだもんね」

「まぁ、な」


 それでも幸いなのは、あちらさんも此方を滅ぼしに来ているわけではないという所か。おそらく相手はやろうとすれば厄災種を同時多発で繰り出せる筈だ。

 そうなれば多くの国は簡単に滅ぼせる。こうなっては幾らカイトだろうとどうしようもないからだ。彼はどれだけ足掻いても単騎。一人なのだ。


「どうしたもんかねぇ……流石に、まだ手を離せんし」

「厄介ごとは片付かない、と」

「嫌になるな」


 カイトはユリィ言葉に深いため息を吐いた。何か一つ片付いたと思えば、次から次にトラブルだ。面倒も極まっていた。


「次は先輩か。こっちはまぁ、正体が分かってる分だけまだマシか」

「どうだか」


 カイトの言葉を聞いたユリィは、眼下の惨状を見た。この大凡はカイト達の戦いの痕跡だが、その残り半分程度は酒呑童子によるものだった。単騎で厄災種にも匹敵する被害を、彼は生み出したのである。彼は彼で危険だった。


「「……はぁ」」


 厄介ごとが無くならない。カイトとユリィは揃って盛大なため息を吐いた。そうして、二人はその厄介ごとを少しでも減らすべく、街へと帰還するのだった。




 さて。『八岐大蛇(やまたのおろち)』討伐から数日。街の復興がゆっくりと始まりだした頃に、カイトは時間を作れた事もあってシャーナのご機嫌伺いを行なっていた。


「そうでしたか。では、街に被害はさして、と」

「はい。幸い被害は建物のみとなりました」


 シャーナの問い掛けに対して、カイトはただ正直に報告する。なお、当然の事であるが、これはあくまでも街の一般市民に限った話だ。ここはカイト達が死守した結果、直接的な死傷者はゼロに抑えられた。これはあの場で戦った者たちにとって、何よりもの朗報だった。


「それは良い事です。民草に被害が出ない事。それが何より肝要でしょう」

「はい……」


 何はともあれ、カイトとしても街の市民達や観戦に来ていたお偉いさん達に被害が出なかったのは幸いだった。ここらは戦う力の無い者たちだ。ここに被害が出ては、何の為に戦っているのかわからなくなる。とはいえ、決して被害が無かったわけではない事は、二人もまたわかっていた。それ故、シャーナは僅かに悲しげな顔を浮かべ、問わねばならない事を問いかける。


「……それで、被害のほどは」

「今はまだはっきりとした数は出せませんが……三桁、という所かと」

「……軍の方々は大喜びでしょうね」

「……はい」


 シャーナの言葉に、カイトははっきりと頷いた。三桁。それはこの戦いで出た死者の数だ。死傷者の数ではない。総勢数万の兵士が参加し、結果一万人の死傷者が生まれていた。それほどまでに、この戦いは凄まじかったのである。だが、これは結果として見れば歴史的な快挙だった。それ故、カイトは改めてそれを口にした。


「……厄災種が出た場合、通常どの国も最低数万……妥当な数として数十万の死者を見繕います。それが、たった三桁。数百人の死者で済んだ。オレが居ないという点を差っ引けば、歴史的な快挙と諸手を挙げて喜んで良いでしょう」


 カイトが居なければ。全てはそれに尽きた。カイトとティナが居るか居ないかで、厄災種による被害は桁がいくつか変わっていた。今回もそれ故、各国の軍略家達は最低数万の死者を見繕っていた。

 それでも今回は出現した場所が天覇繚乱祭真っ只中の中津国、しかも仁龍まで近くに居るという事で少なく見積もった方だ。それが数百。死傷者全てを集めても数万だ。どれだけの驚きを以って伝わったかは、察するにあまりあった。が、それでも。死者は出たのだ。それに、シャーナは悲しげだった。


「……それでも、数百人が亡くなりました」

「ええ……奴らも本気なのでしょう。いえ……まだ本気ではない。奴らが本気で動けば、この程度の死者では到底足りない」

「それが、彼らなのですね」

「……はい」


 シャーナの問いかけに、カイトははっきりと頷いた。それが彼ら。世界の敵だった。


「何が目的なのでしょう」

「それは杳として……ただ、敵である事だけがそこにあるのです」

「そう……ですね。カイト。中津国への支援はどうなっていますか?」

「特には、何も」


 カイトはシャーナの問いかけを受けて、中津国への支援の現状を語る。今回、先に述べられていた通り、被害は建物だけ。その建物にしたって街一つだ。支援が必要なほどの被害は出ていない。この程度なら時折ある事でしかなかった。


「そうですか……今回はまだ、なんとか耐えられるほどの被害である、という事なのでしょう」

「いえ……そうではありません。今後を見れば、今回受けた被害は数百人ですが……あまりに手酷い被害を受けたと言うしかありません」

「そうなのですか?」


 カイトの否定に、シャーナは僅かな驚きを露わにする。先に言われていたが、今回の死者は全てを見渡して数百人と非常に少ない。が、その数百人が問題だった。


「現在、中津国には各国の腕利きが揃っております。その腕利き達が揃って死んだのです……各国の戦力が平均的に、目減りさせられました。しかも誰も彼もが他者に指南を与えられるほどの腕利きです。立て直しは容易ではありません」

「つまり、奴らは指導者を狙ったと」

「はい……そうと言うしかありません」


 今回、まだ何が<<死魔将(しましょう)>>達の目的だったかはカイト達にはわからない。なので有り得そうな理由を推測するだけだった。が、これは死者の少なさとは反比例して各国が頭を悩ませている所で、試合に参加していた腕利き達が軒並み死んだというのはあまりに頭の痛い問題だった。


「将の得難きを知る、と」

「知らぬ筈がない、と」

「そうですか……カイト。済まないのですが、一度兄と話をして頂ければ」

「かしこまりました」


 今回、戦力が目減りした事と厄災種を操ってくるという事はやはりどこの国でも問題になってくるだろう。特に後者は非常に厄介だ。国によっては支えきる事さえ出来ないかもしれなかった。そしてそれを支えるのが、大国の役目だと言える。

 そういう事を考えれば、大国であるラエリアと話をするのはカイトとしても悪い話ではなかった。そうして、彼は一度シャリクとの話し合いの場を持つべく予定を立て、中津国を発つ準備をするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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