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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第78章 天覇繚乱祭編

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第1869話 八岐大蛇討伐戦 ――悪鬼の戦い――

 『八岐大蛇(やまたのおろち)』討伐戦の最中に起きた、瞬の二つ前の前世である酒呑童子の復活。源次を名乗っていた源次綱の大願であった彼の復活を受け、源次綱は酒呑童子その人との戦いを行っていた。

 そうして酒呑童子の得意技と言われる<<大山投げ(たいざんなげ)>>を一太刀に切り捨てた源次綱は、改めて酒呑童子と切り結んでいた。


「……」

「……」


 二人の悪鬼達は片や妖刀、片や二振りの大鉈の様な大太刀を振るいながら、周囲に破壊を撒き散らしていた。その様は正しく『悪鬼の戦い(オウガバトル)』。近付く者全てを破壊する世紀末の戦いだった。


「……」


 その片方。瞬という子孫の肉体を使い蘇った酒呑童子は、ただ悠然とその場に佇む。


「……懐かしい。大江山の麓での戦いを思い出す」


 響く怒声。轟く爆音。そういった物を自身の肌で、耳で、目で感じ酒呑童子は懐かしそうだった。これは豊久と酒呑童子の力の差と言えば良い。もはや何を言う必要もなく、豊久と彼であれば彼の方が強い。それも比較にならないほどの強さだと言って良いだろう。

 そして瞬という、本来の肉体の持ち主と比べても、である。だからこそ、今の肉体の主導権は正真正銘彼にあった。瞬が止められなかったのは、そういう理由だ。酒呑童子の支配力が強すぎるのだ。


「……」


 酒呑童子は自身に向かってくる『オーガ』の群れの一隊を見やりながら、僅かな笑みを浮かべる。その姿は鬼。自身と同じく鬼。が、魔物と人という差がある。それでも、彼にはかつての憧憬を思い出すのに十分だった。そしてそれ故に彼はかつての様に、一太刀で全てを切り捨てた。


「喰らえ、<<鬼喰右近(おにくいうこん)>>」


 まるで酒呑童子の意思を受けた様に、大鉈の様な大太刀が伸びる。無論、実際に伸びたわけではない。伸びた様な印象を受けるほどに斬撃が広がったのだ。その一太刀を受け、『オーガ』の群れが消滅する。それはまるで斬撃に飲まれるかの様で、喰らうという言葉が相応しかった。そうして、その斬撃の合間を縫って襲いかかる源次綱に向けて、彼は右手の大鉈に似た大太刀を振るった。


「切り裂け、<<鬼切左文字(おにきりさもんじ)>>」

「くっ!」


 自らに向けて放たれた『鬼殺し(オーガ・スレイヤー)』の力に、源次綱が僅かに笑う。向かってくる牙の様な斬撃は、正しく彼が求めていた物。代えがたい時の証だった。


「さぁ、目覚めろ! <<鬼殺・禍津(おにごろし・まがつ)>>!」


 吹き飛ばされながら、源次綱が自身の妖刀に向けてその全力を解き放つ様に命ずる。それを受けて、彼の妖刀<<鬼殺・禍津(おにごろし・まがつ)>>は今までより遥かに禍々しい力を放ち、酒呑童子の鬼殺しの力に食らいついた。


「ほぅ……」


 自身の鬼殺しの力をも食い尽くさんとする源次綱の妖刀の力に、酒呑童子が思わず僅かな喜色を浮かべる。


「懐かしい……そう言えば、最初の出会いもそんな形だったか」

「何時の事だ」


 酒呑童子の放った鬼殺しの力をいとも簡単に払い除け、源次綱が一つ笑う。彼もまたわかっていた。が、何時の事だ、と言いたくなるぐらいに彼にとっては過去の事だった。


「ふっ……思えば、お前の刀を奪ってやろうとしたのが全てのきっかけか」

「はぁ……これだから野蛮共の頭領は」

「くっ……言ってくれるな。あの時代、盗賊なぞありふれた存在だろう」

「……貴様らはどちらかといえば、土着の豪族と言う方が正しかったのかもしれんがな」


 今になり、源次綱はふとそう思う。平安時代も中期。まだまだ怪異は多く、そしてそれ故に政府の力も完璧に行き届くわけではない。現代には伝わらない土着の豪族は数多かった。

 その中の一つが、大江山を中心とした鬼の一族である酒呑童子を筆頭にした者達の正体だった。盗賊などと言われるが、彼らは決して盗賊というわけではなかったのである。


「変わるまい、貴様らから見れば」

「勝てば官軍負ければ賊軍、という言葉がある。ただ勝った我らが官軍だっただけだ」

「くっ……その真面目さ。変わらんな」


 万事を真面目に見る。そんな源次綱の変わらぬ性格に、酒呑童子が楽しげに笑う。


「当たり前だ。変わるわけがない。そして変われるわけもない」

「……」


 背後から響いた源次綱の言葉に、酒呑童子は微笑みながら背後に大太刀を回す。そうして、真紅の刃と漆黒の刃が交わった。が、相変わらず酒呑童子は泰然としたもので、一切振り返る事さえなかった。そうして背後を振り向く事なく斬撃を交える酒呑童子が唐突に振り向いた。


「っ!」

「ふっ……おぉおおおおお!」

「ちぃ!」


 直近で響いた大音声とそれがもたらした衝撃波に、源次綱は吹き飛ばされながらも前面に強固な障壁を展開する。そうして体勢を崩した彼へと、酒呑童子の斬撃が飛んだ。


「……喰らえ」

「吸い尽くせ!」


 酒呑童子が放った剣戟に対して、源次綱は空中で姿勢を整えて即座に妖刀を振るう。そうして生まれた両者の力のぶつかり合いは、周囲の魔物の群れをも無差別に食らい付くし、しかしお互いには傷一つ与えられなかった。とはいえ、力の衝突の余波で源次綱は更に吹き飛ばされ、ついには『八岐大蛇(やまたのおろち)』に激突する。


「良い足場だな」

「ああ。着地しやすかった」

「「はぁ!」」


 『八岐大蛇(やまたのおろち)』に源次綱が着地すると同時に、酒呑童子もまた『八岐大蛇(やまたのおろち)』の上へと移動する。転移術ではない。単に彼は普通に地面を蹴っただけだ。だのに、瞬間移動とさえ思えるほどの速度だった。そうして、そんな両者が今一番の剣戟を交え合う。


「む……」


 剣戟のぶつかり合いの勝者であるが、これは源次綱の勝利となったらしい。酒呑童子の顔に浮かぶ僅かな驚きを見るに、おそらく源次綱の身体改造による上昇率を見誤ったという所なのだろう。

 まぁ、酒呑童子の知識はあくまでも瞬が得た物がベースだ。なので完全に源次綱の能力を見切れているわけがなかった。そうして吹き飛ばされた酒呑童子はおよそ200メートルほど吹き飛ばされ、地面を僅かに擦って停止した。そんな彼の背後に、源次綱が転移する。


「小器用になった」

「こうでもせんと、貴様には追いつけん」

「くっ……」


 この程度で追いついたなぞ。酒呑童子は源次綱の言葉に思わず笑いがこみ上げた。確かに、源次綱は一千年前より遥かに強くなっている。もしかしたらかつての主人やかつての酒呑童子よりも強いかもしれない。が、それでも。今の酒呑童子には遠く及ばない。


「追いつく? これでか」

「!?」


 背後から響いた酒呑童子の言葉に、源次綱が思わず目を見開いた。見えなかった。そう彼の顔が如実に告げていた。


「不思議な事なぞ無い……あの豊久は違うかった様子だが……俺は瞬の技を全て使える」

「っ!」


 ちっ、と自らの頬を擦った槍の穂先に、源次綱は慌てて前へと飛び跳ねる。彼は知っている。酒呑童子は槍を使った事がない、と。だのに、今の槍捌きは熟練のそれだった。


「ふっ」

「ちっ!」


 再度放たれた槍に、源次綱は舌打ち一つしながらもそれを切り払う。が、切り払ってみて即座に理解した。確かに慣れは見て取れるが、そこまで恐れるほどではない、と。

 そしてそれは酒呑童子もわかっていた。単に使えると実演しただけだ。が、これは別のある事を示す事でもあった。そうして、再度酒呑童子が源次綱の反応し得ない速度で消えた。


「!? 貴様、まさか!」

「……今ごろ、気付いたか。最初から言っているだろう。俺は瞬の技を全て使える、と」

「そこまでとは、聞いていない」


 もはや笑うしかないとはこのことだ。背後で響く酒呑童子の声に、源次綱は思わず笑う。そうして、万事休すの状態の源次綱へとトドメの一撃を加えんと酒呑童子が槍を投げ捨て大太刀を生み出そうとした、丁度その時。彼ら二人を飲み込む鮮緑色の巨大な光条が二人の背後から放たれた。


「っ!」

「……くっ」


 どうやら、綱は命拾いしたらしい。酒呑童子は背後から迫る『八岐大蛇(やまたのおろち)』の攻撃に少しだけ笑う。

 ここは戦場だ。こういった横槍は日常茶飯事だ。故に僅かな気の迷いが生み出した好機を逃さず、源次綱が前へと出る。それに対して酒呑童子は追撃する事はなかった。面倒だが、源次綱が逃げた以上はこれを自身が防がねば被害を被る事になる。


「……はぁ」


 面倒くさそうに、酒呑童子は振り上げようとしていた大太刀を投げ捨てる。そうして彼はおもむろに、裏拳を放った。


「「「……は?」」」


 次の瞬間。起きた事態にカイトらごく一部を除く戦場全ての戦士が唖然となった。酒呑童子はただ軽く裏拳を放っただけだ。だというのに、『八岐大蛇(やまたのおろち)』の、厄災種の一撃が吹き飛んだのである。

 無論、今は『八岐大蛇(やまたのおろち)』も乱戦の真っ只中だ。この一撃はあくまで頭一つから放たれたもので、全力の一撃というわけではない。

 だが、それでも厄災種の攻撃に大差はない。数十人の重武装の戦士達が全員で分散し、全力で応じてなお一人一人に掛かる負担はアズラエルの一撃にも匹敵するほどの威力だ。それを、彼はまるで羽虫でも払うかの様に打ち払ったのである。


「ふむ……中々に面白い」

『……何がだ』

「いや、何……貴様の才覚だ。これは中々に使える」


 自身の内面から響く不貞腐れた瞬の言葉に、酒呑童子は掛け値なしの賞賛を送る。彼が今使っていたのは、瞬が編み出した<<雷炎武(らいえんぶ)>>の中でも禁じ手とされている<<雷炎武・禁(らいえんぶ・きん)>>。瞬では耐えきれない強大な力だろうと、酒呑童子にとってすれば痛くも痒くもない様子だった。

 そして酒呑童子の力に瞬が使えばグリムにも届き得た<<雷炎武・禁(らいえんぶ・きん)>>だ。到底源次綱が及ばないのも無理はなかった。と、そんな会話を繰り広げた酒呑童子に対して、虎口を逃れていた源次綱は僅かに闘気を解いた。


「……はぁ」

「……どうした」

「どうやら、今の俺では貴様には到底届かないらしい」

「当然だ。借り物の力で勝てると思ってもらっても困る」

「……貴様が言うな! 貴様とてその力は借り物だろう!」


 これほど自らの事を棚に上げた発言は無い。誰が聞いてもそう言うだろう酒呑童子の言葉に、一瞬呆気に取られた源次綱が思わず昔の様に声を荒げる。そうしてそれでまるで興が削がれたとでも言う様に、源次綱は残っていた闘気も捨て去った。


「……また会おう、友よ。そして一条家の子孫よ」

「逃げられるとでも?」

「ああ」

「む……」


 おもむろに現れた空間の裂け目に、酒呑童子は僅かな驚きを浮かべる。そしてその隙を逃さず、源次綱はその場を後にした。


「……逃げたか」


 何時もの事か。酒呑童子は自らの内心で追う気が一切起きていない事を自覚し、空間の裂け目から興味を失う。そんな彼に、瞬が問いかける。


『……追わないのか?』

「……興味はない。奴はどうせまた来る。それが、奴だ」


 正確に言えば奴らだがな。酒呑童子はそう思い、自らの仇敵にして親友の事を僅かに思う。そうして、彼はまるで残る全てに興味が無いかの様に、瞬へと肉体の主導権を明け渡した。


「……何?」

『……雑魚に興味はない。あの神話の大蛇は喰いでもあるだろうが……あの男が居る以上、俺の喰いでも減るだろう』


 あの男。それは言うまでもなくカイトの事だ。可能なら酒呑童子としてはカイトとも戦いたい所だったが、そうなると瞬の邪魔は避けられない。酒呑童子とて今はまだ目覚めたばかりで、万全ではないのだ。今戦うべきではない、と判断したのである。


「……戦いが無いので俺の肉体にも興味はない、と」

『く……くくくく……』


 瞬の言葉に、酒呑童子が楽しげに笑う。


「何だ」

『……そうだな。そう思っておけば良い』

「……」


 どうやら、一筋縄ではいかない状況になってしまっているらしい。瞬は自身に起きた何かを理解して、苦々しげにそう思う。が、今はそんな場合ではなかった。故に彼は酒呑童子が前に出たおかげで全快した肉体を数度確かめ、幸いな事にヘッドセットがある事を確認。司令部に連絡を取って、戦線へと復帰する事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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