第1863話 八岐大蛇討伐戦 ――戦線拡大――
灯里を乗せたマクダウェル艦隊旗艦が出発する時より、僅かに時は遡る。地球で手に入れた数多の力を使い『八岐大蛇』の攻撃をただひたすら一身に集めていたカイトであったが、そんな彼の努力の甲斐あって陣形の構築は完成する。
『大将! 左舷陣形の構築完了! 何時でも行けるぜ!』
「おし! なら陣形の構築が出来た場所から逐次戦闘を開始しろ! こちらは上空から全体の支援を行う!」
『あいよ! 間違ってもこっちの攻撃に巻き込まれてくれんなよ! あんたに当てると姉さんとか五月蝿いんだからな!』
「気を付ける!」
カイトは冗談めかした隊員の言葉に気軽に応ずる。そうして、街から見て左舷側から砲撃が開始され、無数の攻撃が放たれた。
『『『GYAXAAAA!』』』
爆炎が巻き起こり、閃光が迸る。そうして『八岐大蛇』の大声が周囲を鳴動させ、『八岐大蛇』は左舷の小さな障害物達に気が付いた。今までカイトという巨大な障害に注意を取られ、ほとんど気にしていなかったらしい。
「そっち! 二つ行く!」
『りょーかい! 頭ひとつひとつ潰せ! 一個は防御! 絶対に奴の攻撃範囲には入るなよ!』
『入ったら死ぬわよ!』
一つの陣営につき、頭二つ。それが出来る限度だ。無論、本来なら一つひとつ確実に潰していければ良いとはカイトも思う。相手があまりに強大だからだ。が、『八岐大蛇』が相手ではそれが逆効果になってしまう。
なにせ九個も頭があるのだ。強大な厄災種の頭八個を一気に抑え込み一つに注力するなぞ、到底出来るわけがない。出来るとすれば、本気になったカイトとティナだけだろう。ルクスやバランタイン達でも厳しいものがあるほどなのである。
『隊長!』
「ああ、見えてる! そっちも逐次やっていけ!」
『了解です!』
カイトは上空を飛翔し残る頭が左舷に集中しないように尽力しながら、他の陣形からの報告に矢継ぎ早に指示と伝令を飛ばしていく。そうして最初の左舷の攻撃から十分も掛からず、四方に散った四つの陣形が全て二つ――ただし街側のみ頭三つ――と交戦する事となった。
「良し……ティナ。作戦の第一段階完了。周辺の状況は?」
『よくはないぞ。わかりきった話じゃが』
「わかりきった話なら、さっさと要点をかい摘んで教えてくれ。時間が無い」
今は丁度全ての陣形が交戦を開始し、情勢を見極める為にほんの僅かな時間だけ手が空いた形であるだけだ。その間に報告を受けるだけ受けて、カイトは即座に次の行動だった。
『わーっとる。今観測結果を出させておる……出たぞ。『八岐大蛇』を中心として二時の方角から三十体。個体は不明。三時の方向から更に二十……これが直近十分以内に到着。その後は……ま、聞くだけ無駄と心得よ。後は逐次で来ような』
「でーしょうね。一応数聞いといただけ」
それに何より、全部ぶっ潰すだけだしな。カイトはティナの言葉に内心でそうツッコミを入れる。どうせ街の近くにまで来られた時点で、全て討伐するしか手はない。が、どれだけ同時に戦わねばならないか、というのがわかるだけでも戦略が変わってくる。重要な事ではあった。
「こちらの本隊の到着予定は?」
『二十分後じゃな』
「……敵増援の第一陣はこっちが抑え込むしかなさそうか」
『第一陣だけではなく、第二陣もじゃな。と言っても、こちらは街の左舷側から来る。応対は難しかろう。こちらは街の備え付けの砲塔と伊勢と日向でなんとかする。あの二体はこちらで借りるが、問題は?』
「無い……が、なるべく怪我をさせないように頼む……で、オレがやるべきは」
決まったな。カイトは陣形が構築された事で一旦は保つだろう四方に散る仲間達を見て、自身の為すべき事を決める。今、完璧な状態で戦えているのだ。何時までこれが保つかはカイトにもわからないが、少なくとも横槍が入られればマズい事だけは確定している。なら、為すべきことは一つだった。
「ティナ。不在の間の万が一は頼む。出た後は逐一指示を頼む」
『構わん。その為の余じゃ』
「あいよ」
ティナの手短な返答を聞いて、カイトは即座に虚空を蹴る。その速度はもはや音速なぞ超越し、第一宇宙速度にも到達しようかというほどであった。そうして瞬く間に移動した彼は、ものの数分で『八岐大蛇』の所へと向かう魔物の群れと遭遇する。
「見付けた!」
『接続……コントロール開始』
「上出来だ!」
以心伝心。カイトが指示を発するより前に自身に接続したナコトに対して、カイトは地面に急降下しながら賞賛を送る。そうして舞い降りた強大な魔力の持ち主に、魔物達が立ち止まった。
どうやらこれは『オーガ』種を中心とした群れらしい。物語に語られる鬼が纏う様な半裸に近い鎧を身に着け歪な武器を手に、高速で移動している所だったようだ。陣形を後ろ側から奇襲されでもしたら、間違いなく蟻の一穴に成りかねなかった。ここで仕留めておくべきだろう。
「時間が無い。一気に行く」
双龍紋を輝かせ、カイトは二振りの刀を解放する。幸い今は一人だ。一気に倒せる。そうして勇者の名に違わぬ力を垣間見せる彼が、地面を蹴った。
『『『!?』』』
元々『オーガ』は『ゴブリン』などの低級の魔物を率いて活動する事のある知恵のある魔物だ。無論思考体系が人とは異なるので会話は通じないと考えて良い。現にカイトが現れた瞬間、すでに攻撃が放たれていた。向こうも見敵必殺と言うわけであった。
「はぁ!」
一太刀で、一体の『オーガ』を葬り去る。時間は無いが、余裕はもっとない。下手に出力任せで戦って『八岐大蛇』との戦いに余力が残らない方が困る。なので使うのは、最低限。一撃で確実に一体を葬れるだけの力だ。
『ウテ!』
どうやら群れのボスが全体を統率しているらしい。半ば軍事行動じみた様子であった。そうして響いた声に応じて、『オーガ』の巨体に見合う矢が放たれた。それは鏃だけでカイトの顔もあろうかというほどの巨大さで、その威力と速度は『オーガ』の膂力に見合う速度だった。
「燃え散れ」
放たれた巨大な矢に対して、カイトは火炎を放って全てを塵に返す。そうして火炎と塵が舞い散る中で、彼は再度消える。狙いは、群れのボス。頭から潰すつもりだった。
「お前がボスか!」
『ッ!?』
「ちぃ! 避けるんじゃねぇよ!」
どうやら群れのボスに相応しいだけの力はあったらしい。カイトの攻撃に対して群れのボスは背後に飛んで回避しきる。『オーガ』の平均的な性能より倍程度は上だった。
以前にブロンザイトがソラに言っていたが、所詮魔物のランクは平均値を基に決定されるものだ。平均値以上の個体が居ても不思議はなかった。無論カイトもそれは想定しておおよその上限値は見繕っていたが、それ以上だったという事なのだろう。そうして仕留め損ねたカイトの前に、おそらく群れのボスの側近らしい『オーガ』の亜種が立ち塞がる。
(『オーガ・ナイト』! ちぃ! めんどくせぇ!)
『オーガ・ナイト』。それは読んで字の如くだ。『オーガ』の巨体に騎士の鎧や武器を装備させた物と考えれば良いだろう。ひときわ防御力に優れた個体だった。が、弱点が無いわけではないし、それを知らないカイトではない。
「アル・アジフ!」
『了解した』
カイトはアル・アジフに指示を出すと同時に、双剣を放り投げて異空間へと収納。両腕に展開していた双龍紋を一時的に抑制し、代わりに炎を纏わせ双銃を取り出した。
「クトゥグア!」
呼び出すのは、外なる神クトゥグアの力。神々さえ一撃で滅ぼす事の出来る出力で、一気に仕留めるつもりだった。そしてそんな彼の意を読み取って、ナコトが勝手に魔術を展開する。
『<<アトラク・ナクア>>』
『!?』
「上出来!」
『オーガ・ナイト』の影で、驚きに包まれる気配が伝わってきた。ナコトの呼び出した蜘蛛の糸により、群れのボスが捕らえられたのだろう。それを受けて、カイトは双銃を前に突き出して容赦なく引き金を引いた。
「くたばれ!」
放たれた二発の魔弾は炎神の力を纏い、一瞬で『オーガ・ナイト』の重厚な鎧を蒸発させその内側の筋肉の鎧を消滅させる。そうしてまるで何も無いかのように『オーガ・ナイト』を貫いてみせた二発の魔弾は螺旋を描くように飛翔し、群れのボスへと食らいついた。
「次!」
群れのボスの消滅を見届ける事なく、カイトは双銃を手放して弓を取り出し地面を蹴って空中へと飛翔する。そうして彼は空中で天地逆さまに一瞬だけ滞空し、地面に向けて矢を放った。それは地面へと直撃すると、あまりに咄嗟の事で浮足立つ『オーガ』の群れの真下から閃光が迸った。
「爆ぜろ!」
カイトの声に合わせて、地面が大きくめくれ上がる。そうして爆風が舞い上がり、『オーガ』の群れが空中へと放り出された。
「おぉおおおお!」
放り出された『オーガ』の群れに対して、カイトは大剣を両手で構えて雄叫びを上げる。すると大剣へと光が収束し、巨大な光の大剣へと生まれ変わった。
「はぁ!」
カイトは光の大剣を以って、空中に放り投げられた『オーガ』の群れをなぎ払う。その一撃は光の大剣が通り過ぎた後を跡形もなく消しとばし、後にはめくれ上がった地面の破片が落ちるのみだった。
「……ふぅ」
これで全てか。一体たりとも残っていない空中を見て、カイトが僅かに肩の力を抜く。そしてそれに合わせて彼の光の大剣が何処かへと消え去った。
「次。ティナ。状況は?」
『良くなった、と思えるのであれば、その楽観的思考は一度叩き直すべきじゃな』
「わーお。次弾は倒したより多いか」
『多いぞ。倍以上じゃ』
「ちっ。これだから厄災種は」
知らされた現実に、カイトは分かっていながらも舌打ちする。とはいえ、そんな事をしている間にも刻一刻と事態は悪化するのだ。急がねばならなかった。
「次は?」
『南南東。5キロという所じゃな』
「近いな。すぐに終わらせる」
『頑張れよー。こっちももう第二弾が……見えたのう』
「今日は団体客ばっかりか。満員御礼。大儲け出来そうだな」
ティナの言葉とその背後でゆっくりと動き出した魔導砲の駆動音を通信越しに聞きながら、カイトは一つ笑う。そうして彼はそのまま地面を蹴って、一気に移動する。本気の彼だ。5キロなぞあって無いが如くの距離だった。それ故に一分もかからず、魔物の群れを見つけ出した。
「『リザード』種か」
『雑魚』
『小物だな。放っておいても殺気だった魔物の群れとどこかで遭遇し終わるだろう』
「そうだが……」
巨大なワニのような魔物の群れを見ながら、カイトはアル・アジフの言葉に若干の道理を見る。先の『オーガ』の群れに比べれば吹けば飛ぶというしかない程度の小物だ。が、それでもカイトは杖を取り出した。
『やるの?』
「こいつらを操れる様な魔物が合流した方が面倒だ。中津国に生息する亜種は毒を持つ個体も少なく無い。毒霧をばら撒かれると、戦線が崩壊する可能性もある」
ナコトの若干ではない面倒臭そうな問い掛けに、カイトは無数の魔術を展開しながらそう答える。
この魔術は何かと決めたわけではなく、単に思いついたものを出しているだけだ。この程度で時間や思考を使いたくなかったらしい。
「よし。ティナ。こっちは小物だった。空中に機雷仕掛けて終わりだ」
『わかった。こちらはすでに団体様がご到着じゃ』
「不足は?」
『それは無い。余と燈火も控えておるしのう』
「なら、次だ。どこへ向かえば良い?」
『第三魔導機隊が苦戦中じゃ。救援に向かえ』
「あいよ」
魔導機の部隊はカイトと同じ様に魔物の群れを食い止めてくれている部隊だ。部隊なので小回りが利かないが、その分数を引き受けてくれている。ここが落ちれば一気に魔物の群れが街まで雪崩れ込む。支援は必須だった。そうしてカイトは戦場全域を駆け回り、ただひたすらに敵を殲滅していくのだった。
お読み頂きありがとうございました。




