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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第78章 天覇繚乱祭編

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1888/3936

第1859話 天覇繚乱祭 ――延長戦――

 カイトとセレスティアの戦い。それはカイトの正体の一端が彼女に露呈してしまう、という事態に陥りながらも、なんとか世間一般への正体の露呈は避けられて終わりを迎えていた。と、そんな試合から二十分。長い歴史において初となる事態で、天覇繚乱祭は想定外の終わりを迎えていた。


「……うおぉぉぉ……すげぇな。ディガンマと引き分けやがった」

「あいつってあれだろ? 前にお前がラエリアの屋敷で戦ったっていう」

「ああ。ランクSでも相当な猛者だ。それと引き分けたか。まぁ、ディガンマも中々に疲労はしていた様子だが……それでも相手も猛者だったな。とはいえ……」


 大会実行委員会は大慌てだな。カイトは大会の長い歴史で初となる、準決勝の両試合が引き分けという事態で終わりを迎えた事を受けそう思う。


「中々に面白い結末になったもんだ。オレの知る限り、歴史上唯一じゃないかな」

「そうなのか?」

「ああ。最終ブロックで引き分け、というのは実は無いわけではない。が、それが全部になると、こうもなる」

「へー……」


 確かに引き分けが珍しいというのはソラもわかるが、実力者同士の戦いになるとどうしても相打ちという事も起き得る。両者共に猛者だ。交わされる攻撃の威力はとてつもないもので、時としてお互いの攻撃を相殺しながらも、お互いその相殺の余波でやられる事だってある。

 いくつかの伝説ではあまりに強大な攻撃のぶつかり合いで二人の英雄が相打ちになった、という事があるとブロンザイトから聞かされてもいた。それを知るソラとしては引き分けという結果で終わった事に特段の不思議はなかった。


「で……良いのか?」

「何が?」

「あの子」


 ソラはカイトに向けて、何かを言いたげな――もしくは問いたげな――セレスティアを指し示す。準決勝のあの後、結局カイトは何も答えぬまま終わっていた。


「……ま、あっちはあっちで色々とあるのさ」

「ふーん……」


 改めて言う事は無いのであるが、結界の中の会話は誰にも聞こえない。外からの横槍を無くす為に内側の声も届けられないし、何より猛者同士の戦いだ。音も時に人を殺せるほどの轟音になる事がある。

 となると、どうしても観客や他の出場者の為に、こうするしかなかったのだ。無論、談合などされない様に少しでも可怪しいと思えば、その時点で審判が介入する。


「……一応聞いとくけどさ」

「あ?」

「お前のこれとか、ってオチ無いよな?」

「お前な……」


 小指を立てるソラに、カイトは盛大にため息を吐いた。これにソラが笑う。


「いや、お前だからありえるじゃんか」

「あのなぁ……ダチの子孫だ、あの子は」

「え?」

「大昔……真紅の髪を持つすごい英雄が居た。その英雄の子孫だ」

「へー……強かったのか?」


 カイトの言葉に、ソラは興味深げに問い掛ける。それにカイトははっきりと断じた。


「強い? そんなレベルじゃない。あの子の祖先は正真正銘、オレと互角の英雄だ」

「……? それ、どういう意味だ?」


 カイトは間違いなくこの世界最強の戦士。それは揺るがされない事実だ。それ故にこそ<<死魔将(しましょう)>>達は策を練り、なるべく真正面からカイトと戦わない様にしている。それこそが彼が最強である証左だ。が、それ故にこそ、彼の言葉の意味が掴めなかったらしい。


「そのままだ。あいつは、オレと互角。皆はオレが世界一と言うが。あいつとオレは互角だ。いや……」


 おそらく、あいつの方が上なんだろう。カイトは今は居ないからこそ、そして彼には返しきれない恩を感じていればこそ、彼の方が上と素直に認めていた。まぁ、そんな事を言ってしまえば、逆もまた然りだ。なので本当に互角であり対等な相手なのであった。


「?」

「……なんでもない」


 どうでも良い事か。ソラにとってはどうでも良い話であり、何よりこんな事を言った所で遥か彼方の過去を知らねば何もわからないのだ。それ故、彼は何も語らない事にする。そうして、カイトは結局何も語らぬまま、その場を去る事にした。が、そんな彼はふと気配に気付いて、顔を上げた。


「あっはははは。だろうな」

「……どした?」

「はぁ……今、結構気分良いんだけどなぁ……」


 唐突に笑い出したカイトに、ソラが訝しむ。が、これに対してカイトからは寒々しい気配が迸る。


「っ」

「先生。わかってます?」

『うむ、うむ……どうやら焦れずに待っていてくれた様子じゃな』

「その様子で」


 まぁ、当然だろう。カイトも武蔵も来ていた相手を理解していればこそ、この流れはあまりに自然過ぎて異論が出なかった。そんな二人の視線の先に居たのは、言うまでもなく石舟斎と源次の両名だ。

 二人はまるで自分達も観客であるかの様に振る舞いながら、会場のモニターの上に立っていたのである。そんな両者はモニターに接続されていたスピーカーの一つを乗っ取って、声を発した。


『おぉおぉ、中々に見事な試合じゃったのう』

「「「!?」」」


 試合が終わって轟いた実況でも武蔵でも無い声に、会場全体が静まり返る。


『さて……儂はあまり長々とした話は好かん。故に手っ取り早く申させて頂くと、かような場を狙わぬのはありえぬ……はぁ』

『はぁ!』

「「「……」」」


 敵襲。それを読み取った武芸者達が一斉に襲いかかったものの、源次の一太刀により為すすべなく吹き飛ばされてしまっていた。彼らはランクSでも上位に位置しているのだ。

 いくら大会に参加した猛者だろうと、最低でもディガンマクラスは無いとどうにも出来ないだろう。そうして為すすべもなく倒された猛者達を見て会場は先ほどまでと同じく静まり返り、しかしその意味は全く違う様相を呈していた。


「「「きゃぁああああああ!」」」」


 会場全体で悲鳴が轟く。これが何を意味するか、なぞわかりきったものだ。とはいえ、このままではパニックだけで死人が出る。故に、カイトは即座に声を上げた。


「静まれぇええええ!」


 ただでさえよく通るカイトの声だ。それは混乱の最中にあっても、良く通った。そうして、全ての視線が彼へと集まる。が、ここで彼は何かを言うではなく、ただある方向を指差した。


「……仁龍様がいらっしゃる」

「仁龍様だ……」

「燈火様もご一緒だ」


 カイトが指差した方向に居たのは、仁龍と燈火だ。カイトは二人の要請を受けて、声を上げたのである。この場で最も効率的に事態を食い止められるのは彼だ。が、その後を最も最適に治められるのは、この二人で間違いなかった。そうして、燈火が口を開いた。


「……お客人。この大会は確かに、身分などを一切問わぬ戦いではある。なので客に、それも観客に来意は問わぬのが、筋であろう。が、お客人には少々、来意を問わせて頂きたい」

『かかかかか。決まっておろう。この場には今、世界中の猛者が集まっておると聞く。ま、大半がこれに触れる事さえ叶わぬ俗物であった様子じゃがのう』


 燈火の問いかけに、石舟斎は笑いながら有象無象に過ぎなかった、と明言する。そうして、そんな彼は更に続けた。


『とはいえ、この世界でも有数の猛者である事は事実。それを一掃せよと言うのが、道化師殿の命令。であれば、ここを襲わせてもらったというに過ぎぬ。いや、まだ襲ってはおらぬがのう』

「ほぅ……狙いは武芸者だけと」

『儂はそうじゃのう。基本、儂は命令には従うが故、それらのみを狙う。が、儂一人ではどうにもならぬでな。他にも手は打たせて貰った』

「なっ……」


 響いた轟音と現れた魔物に、燈火が思わず力なく崩れ落ちる。現れたその姿を、彼女は克明に記憶していた。


「頭が八つ……山をも超える巨体……」

「あれは……」

「『八岐大蛇(やまたのおろち)』……」


 誰かが、絶望と共にその名を告げる。それはかつて、この国で最優と言われた剣士であり燈火の姉である月花に致命傷を負わせた魔物。厄災種が一体だった。石舟斎らはこれを持ってきたのである。そしてそれには、さすがのカイトも絶句した。


「なっ……お、おいおい! マジかよ! あいつら、あんなのまで操れる様になったのか!」

『かかかかか! ま、そこらは儂らは知らぬよ。単に儂らはこれを使えと言われ、使うだけじゃからのう。それに此度は儂らが相手とはならぬしのう』


 石舟斎は笑いながら、使役される『八岐大蛇(やまたのおろち)』を見る。使役されるが故に『八岐大蛇(やまたのおろち)』は動かず、しかし号令一つでいつでも動ける様子だった。


「誰だ……誰がどうやって使役している」


 カイトは焦る内心を抑え、必死でどうすれば戦略的な勝利が得られるか考える。この状態だ。石舟斎との決着だなんだなぞ言ってられなかった。


『かかかかか。まぁ、あれは弟弟子への土産物とでも思え。中々に楽しめる相手じゃろうて』

「楽しめるかよ……ちっ。どうする……?」


 どうするもこうするもない。内心でカイトは自身にツッコミを入れる。答えは決まっている。なんとかして『八岐大蛇(やまたのおろち)』を倒さねば、中津国どころか普通に自領地まで壊滅しかねない。なんとか、せねばならなかった。


「あー、くそっ! やるっきゃないか!」


 考えた所で、答えなぞ決まっているのだ。であれば、とカイトは苛立ち一つで武器を召喚する。と、そんな彼に武蔵が声を荒げた。


『カイト! こっちは儂が』

「知ってます!」

『かかかか! そうであったな……では、石舟斎殿。ご指導ご鞭撻の程、よろしくお願い致す』

『かかか……よかろう。親の世代として、少々指南してやろうな』


 先程までの好々爺然とした態度から一変、飄々としながらもどこか歴戦の戦士と言い切れる荒々しさが石舟斎から放たれる。

 それに危機的状況だと言うのにその場の武芸者達は揃って息を呑み、固唾を飲んで見守ってしまう。が、そこに。武蔵の怒声が飛んだ。


『何をやっておるか! すでに敵は目の前! お主らの武芸は何を守る為にある! 急げ! 彼奴らとていつまでも待ってはくれぬぞ!』

「っ、おい! 走れる奴は全員走れ!」

「街の外に防衛線を構築しろ!」


 武蔵の怒声で、武芸者達が休息に統率を取り始める。そんな彼らを横目に、仁龍はゆっくりと動き出した。


「やぁれやれ。どうやら大きゅうなっても泣き顔は変わらんのう」

「……え?」

「カイト。聞いておるな。補佐と隠蔽は全てこちらでやってやろう。助力は一度じゃ」

『あいあいさー』


 一度で十分。カイトは人の世にはあまり関われない事になっている仁龍の言葉に、気軽に応ずる。相手が化物だから、なんなのだ。彼とて人にありては規格外と言われる存在。相手にとって不足なしでしか無かった。


「さぁ……儂も久方ぶりに酔い醒ましをするかのう」


 ゴキゴキ。仁龍は骨を鳴らし、獰猛な笑みを浮かべる。相手は厄災種。少しは歯ごたえがある相手だ。そうして、彼は真の姿を晒す。無論、立場上介入はさほど出来ない。今回は特に、これを人が使役しているという事情が存在する。そうなってしまうと、今度は人と人同士の問題となってしまうからだ。が、ここは曲がりなりにも彼の領地となっている。故に、少しだけなら手助けをしてやれた。


『おぉおおおおおお!』

「「「……」」」


 歴史上たった数度だけ響いた仁龍の咆哮が、鳴り響いた。それは声量に反して中津国どころか遠く皇国の果てまで響いたという。そうして、直後。人類には唯一人を除いて到底成し得ない一撃が、迸った。


「「「……」」」


 星さえ揺るがす様な一撃が仁龍の口から放たれ、遥か星の彼方へと消えていく。それを人類は只々見守るしか、出来なかった。


『些か、削ってしもうたかのう……さぁ、時は稼いでやった! 後は人の底力を見せてみよ!』

「「「おぉおおおお!」」」


 これこそ、真なる神の一撃。神を超え、魔をも超え。全てを超えた真なる龍神の力に、その光景を目の当たりにした全ての者たちが雄叫びを上げる。たった一撃。それだけの支援だ。だというのに、『八岐大蛇(やまたのおろち)』は大きく吹き飛ばされた様子だった。しかもそれだけでなく何かしらの力が込められていたのか、大したダメージは無い様子なのに動きを見せなくなっていた。


「やるなぁ、爺……さ、やるかな」


 そんな武芸者達と仁龍の姿を横目に、カイトもまた準備運動を行っていた。幸い、軽い準備運動はした後だ。暖機は十分だ。後は、駆けるだけである。とはいえ、相手は厄災種でこちらは相棒(ユリィ)支援係(ティナ)も欠いている。故に、彼は少しだけ本気を露わにする。


「……アル・アジフ。ナコト……双龍紋を解放しろ」

『またか……あれは身体への負担がキツイぞ』

『何時か死ぬ……あ、何度か死んでた』

「うるせぇよ。四の五の言わずにやれ」


 四の五の言っていられる状況ではないのだ。故にカイトは楽しげに笑って、かつての力を取り戻させる。そうして、彼の双腕に龍を思わせる紋様が浮かび上がる。とはいえ、これを起動したから、とすぐに行くわけではない。


「つぅ……効くなぁ……だが、これで何時でも行ける。ソラ!」

「おう!」


 カイトの掛け声を受けて、ソラが声を上げる。どうやら彼も気合十分らしい。


「即座に街の防衛線に加わる! 観戦に来ている面子を指揮し、隊列を整えろ!」

「おう! 何人か借りる!」

「任せる! 先輩!」

「ああ!」

「街に散っている冒険部の全員を集めてくれ! その後、隊列を整え街の防衛線に!」

「了解! 陸上部の奴らは全員、俺と共に来い! 駆け足用意!」

「「「おう!」」」


 この状況だ。優れた単騎が居た所で大した意味は無い。如何に効率的に。如何に連携を取るかが重要だった。そうして、カイトは矢継ぎ早に指示を出して防衛線の構築を支援するのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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