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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第78章 天覇繚乱祭編

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1887/3941

第1858話 天覇繚乱祭 ――第三回戦――

 燈火との話し合いでイズナへの支援を確定させたカイト。そんな彼の一方で、七人衆の石舟斎と源次、吉乃の三人は天覇繚乱祭に集う戦士達を壊滅させるべく動いていた。そんな事態を知ることもなく、大会は第二回戦を終えて第三回戦へと突入していた。


『さぁ、ついに最終ブロックも第三回戦。後残す所数える所となってまいりました』

『うむ。今年は大番狂わせに相打ち数度、と近年稀に見る激闘続きであったと言ってよかろう』

『そうですね……やはり一番の大番狂わせと言えば、先生のご同朋でしょうか』

『うむ。あれがここまで生き残るとは、儂も中々に想定外よ』


 いや、当然だし残らなかったら後で修行のやり直しを命じるつもりだったが。武蔵は内心のそんな言葉をおくびも見せず、実況の言葉にそう告げる。そんな彼であるが、役者として演じるのは好きではないのでさっさと話を変える事にした。


『で、それで言えば儂としては一番の大番狂わせというかダークホースはやはり、この大鎧であろうな』

『そういえば……ミステリオ選手。予選大会の時は天音選手と同じ予選会場に出たとの事でしたね』

『うむ。この戦いの折りに、些か邪魔が入りお流れとなってしまったが……そういえばあの時は匿名希望で出ておったのう。今更名を明かすか』

『は、はぁ……』


 楽しげに笑う武蔵に対して、実況はその時の事を知らないので生返事という所だった。とはいえ、別に武蔵とて自分の所感を語っただけで、大した返答は求めていない。何よりこの反応はあまりに当然だ。なので彼は言うだけ言って、さっさと話題を変える。


『で、やはりコヤツも残るか』

『こやつ、と言いますと……ああ、ディガンマ選手ですか』

『うむ。こちらも中々に腕利きでの』


 ラエリア内紛の時にも言われていた事であるが、ディガンマは独自にレインガルドに渡り武蔵の一門と出会っている。そこでどうやら武蔵も彼の事を見知っていた様子で、こちらは最初から優勝候補筆頭として睨んでいたらしかった。そんな会話の一方で、カイトはすでに舞台上に上がって首を鳴らして次の試合に向けて気を引き締めていた。


「さぁて……」

『……』


 やだなぁ。セレスティアはやる気十分なカイトを見ながら、内心で密かにそう思う。以前からずっと否定されていたが、彼女の血はずっと告げていたのだ。彼こそが伝説の勇者の転生だ、と。

 それ故にこそ、どう相対して良いのかがわからなかった。が、だからこそカイトの側はやる気十分だった。それこそ、最初から二刀流で戦うつもりになるぐらいには、だ。そうして、とんとんとん、と数度飛んで屈伸を行うカイトは、ここでの彼らしからぬ様子で気合を入れた。


「うっし」

「……そちらは?」

『……何時でも』


 何時でも嫌です。セレスティアは言葉の後ろのみ敢えて言わず、それを以って返答とする。そうして彼女の返答を受けて、審判が口を開いて声を大にした。


「準決勝第一試合……試合開始!」

「『よろしくおねがいします』」


 試合開始と共に、両者が相手へと一礼する。そうして最初に切り込んだのは、なんとカイトだった。


「今日は気分が良いんだ。最初から、飛ばしてくぜ!」

『!?』


 まさかこんな行動に出るとは。カイトの想定外の行動に、セレスティアは思わず驚きを露わにする。が、これにカイトは容赦なく右手の太刀を振るった。


「はぁ!」

『っ、はっ!』


 振るわれた大剣に対して、セレスティアも即座に気を取り直して大剣を振るう。やはり彼女は戦乱の出だ。戦場で一瞬でも油断すれば死ぬ事を理解している。故に基本は常在戦場。即座に応対出来た。そうして右の太刀と大剣が衝突した直後。カイトは左手の太刀を振り抜いた。


『!?』


 速い。カイトの速度がいつも以上である事を見抜いて、セレスティアは思わず目を見開いた。


『それが貴方の本気ですか!』

「いいや?」

『!?』


 自身の二の太刀をいなしたセレスティアに対して、カイトはその背後に回り込んで平然と告げる。そうして、彼は一瞬で再度剣戟を叩き込む。


『っ! はっ!』

「……」


 振るわれる大剣に、カイトは刀の腹でそれを受け止める。そうして吹き飛ばされたカイトであるが、彼は一切の迷いなく即座に地面に足を着け、わずかに滑った後に即座に消えた。


『……』


 カイトはここで一切の余力無く戦うつもりだ。セレスティアはカイトの力を見て、そう理解する。その一方、消えたカイトはというと<<縮地(しゅくち)>>を連続させて短距離を移動しながら、セレスティアを撹乱していた。


『……』


 超高速で動くカイトを見ながら、セレスティアは意識を研ぎ澄ませる。カイトの速度は油断すれば危険だ。特に大鎧を纏った彼女では、本来の速度は出せないのだ。であれば、攻撃出来るのは一瞬。自身に攻撃を行おうとするタイミングだけだ。


『……はぁ!』


 一瞬を見定め、セレスティアが大剣を振りかぶる。それは確かにカイトの攻撃の瞬間を捉えていた。が、それでもその姿を捉える事は出来ず、空を切る。


「おらよ!」

『つぅ!』


 カイトの攻撃がセレスティアの大鎧を掠る。どうやら自身の攻撃が空を切ったのを見て、反動を利用してその場を離れたらしい。とはいえ、掠りはした。その結果、想定外の事態が起きた。


「……ごめん。これは想定してなかった」

「い、いえ……わ、私も一応きちんと留めたつもりだったんですけど……」


 がらがらがら、と音を立てて崩れ落ちたセレスティアの大鎧に、カイトもセレスティア自身も苦笑するしかなかった。どうやらカイトの一撃が掠った結果、余波で留め具が偶然にも外れてしまったらしい。これは流石にカイトもセレスティアも予想している事ではなかったらしい。気まずい雰囲気が流れていた。

 なお、後に原因を調査した結果、サイズに合わない大鎧を無理に着込んでいた結果、想定外の挙動を受けた事で留め具が外れてしまったとの事だ。規格外であるがゆえに魔術的な調整も仕様外で、それが両者が規格外の戦士の戦いという事で起きた事故らしかった。


「とはいえ……」


 これで本気で戦える。カイトは僅かに自身の胸に得も言われぬ歓喜が滲んでいる事を自覚する。そしてセレスティアもまた、なってしまったものは仕方がないと割り切っていた。


「赤き英雄よ……遥か太古の創世の龍神よ……」

「……」


 大剣を独特な構えで構え目を閉じて何かに祈るセレスティアの姿に、カイトはかつての友の姿を垣間見る。それは、かつて彼が太古の英雄に祈ったと同じく彼女らにとって遥か過去の英雄に祈る行為。彼女らの一族に伝わるルーティンの様な物になったのだろう。そうして何かへの祈りを経た彼女から、紛うこと無く英雄の風格が放たれる。


「……セレスティア・リオーネ・レジディア。参ります!」

「……あぁ、そうか」


 つぅ、と自らの頬を伝う涙の存在を、カイトは知覚する。自分達が繋げた想いと生命。それが、ここまで紡がれている。これほど嬉しい事はなかった。そしてそれ故、カイトは知らず口が開いた。


「……」


 浮かんだ儚い微笑みに、語られた何か。その言葉をセレスティアが聞く事は出来なかった。その言葉はあまりに小さく、そしてあまりに儚かった。が、それ故にこそ彼女も確信する。この男こそが、かつて自分を救った勇者なのだ、と。


「やっぱり……」

「さぁな。オレはカイト。それ以外の何者でもない……だから、来い!」

「はい!」


 かつて寝物語に聞かされ、今なお故郷では英雄として語られる勇者がそこに居るのだ。ならばセレスティアには子孫として、示す義務があった。血は紡がれ、誇りはここにあるのだ、と。そうして、彼女が消える。その速度は大鎧という枷を外した今、先ほどまでとは到底比べ物にならない速度だった。


「……」


 壮絶な笑みが、カイトの顔に浮かぶ。この速度。最初に思った通りだった。そうして、壮絶な笑みを浮かべたカイトは一切動く事なく、腕だけを動かして背後のセレスティアの攻撃を防ぎ切る。

 そんな彼は一撃を防ぐや否や、消えた。が、その直後。セレスティアもまた消える。本気の彼女は、カイトの速度を追えたのである。


「ああ、そうか! やっぱ、そうでなくちゃぁなぁ!」

「何がですか!?」

「お前の方がずっと強い」

「!?」


 自身へ向けての惜しみない賞賛を述べながら、それを上回る速度で背後に回り込んだカイトにセレスティアはゾッとする。ここまで速いとは。そう思った。が、そんなもの最初から想定内だ。彼こそが、伝説の八人において最強と名高い勇者なのだ。だからこそ、彼女は驚きを浮かべる事なく即座に自身の認識を修正してみせる。


「!?」


 自身の攻撃が空を切った。カイトは目で見るよりも早く、手応えからセレスティアが見事自身の攻撃を避けてみせたのを知覚する。まだまだ、彼女は速くなれるらしい。これにカイトはどうするか本気で悩んだ。


(もっと速く……出したいが。出したいが!)


 やれるのなら、全力を出し切らせてやりたい。余すことなく、自身の全てを見せてやりたい。カイトはそう思う。が、それを必死で抑え込んで彼はこれ以上の戦闘力の増大を避けた。かつての彼なら、そうしたかもしれない。が、今は違うのだ。


「……」


 消えたセレスティアを追う様に、カイトは彼女の気配を追いかける。そうして彼は即座に掴んで、消えた。


「!?」


 読まれた。セレスティアは自身が止まる一瞬前に消えたカイトに、そう判断する。そうでなければ一瞬前に動けるわけがない。そして読まれていたのなら、当然カイトはその先手を打っていた。


「はぁ!」

「いっつぅ! あいっかわらず馬鹿硬い!」


 大剣を地面に突き刺して逆立ちする様にカイトの攻撃を避けたセレスティアに対して、カイトは盛大に顔を顰める。彼女が避けた以上、当然彼の攻撃は空を切る。

 というわけで、彼の攻撃は丁度彼女の位置に居た大剣に衝突したのであった。そして彼女の大剣はかつての友の剣。神界で作られたあの世界でも有数の武器だ。とんでもなく硬かった。そんな彼の背を、セレスティアが踏みつけた。


「ごめんなさい!」

「ぐぇ! なんのぉ!」

「きゃあ!」


 踏みつけられたカイトであるが、気合でセレスティアを思いっきり打ち上げる。そうして打ち上げられた彼女を追撃する様に、カイトが地面を蹴った。そんな彼に対して、空中でセレスティアはすでに姿勢を整えていた。


「くっ……はぁ!」

「っと!」


 自身が追撃を仕掛けると同時に大剣を振り下ろしたセレスティアに、カイトが打ち落される。やはり刀と大剣だ。どうしても重量の差だけは避けられない問題だった。しかもカイトの場合、どうしても刀を普通の刀の状態で使わねばならない、という問題がある。こればかりは勝ち目が無かった。


「ふぅ……っと!」

「はぁ!」


 着地した直後に自身の背後に回り込んでいたセレスティアに、カイトは即座に刀を背後に回してその攻撃を防ぎ切る。そうして一瞬だけ攻撃が交わり、再度両者は消えた。が、常にお互いがお互いの姿を捉えており、声もまた捉えられていた。


「驚いたな」

「何がですか?」

「オレの読みは正しかった」


 超高速で交わる斬撃と斬撃の合間。まるで呼吸をする様に言葉が交わされる。そうして、カイトは歓喜をにじませた。


「強い。お前は、強い……あいつを思い出す!」


 カイトはセレスティアの背に、かつて居た友の姿を確かに見た。そしてそれ故、彼は楽しげに笑った。


「『何年ぶりだ! こうやって戦うのは!』」

(さぁな! もう忘れたよ!)


 声を掛ければ、それだけで返してくれる。彼は確かにそこに居る。そしてそれ故にこそ、カイトは自らの本当の力が僅かに発露するのが抑え込めなかった。


「!?」


 カイトの右目に浮かぶ真紅の灯火に、セレスティアが驚愕する。それに、彼女は困惑を得た。


「その目は! 何故貴方がその目を!」

「『ん? どうした?』」


 赤く輝く目を湛え、カイトは訝しげに問い掛ける。それに、セレスティアは止まるしかなかった。


「だって……その目は」

「『目? っ!』」


 しまった。ついうっかりかつての旧友の姿を幻視してしまったから、カイトはうっかり自身の右目が発露してしまっている事に気が付いていなかった。持ち得る筈の無い目。持っていてはいけない目。それを、何故カイトが。そんな想定も出来ない事実に、セレスティアは困惑のまま問い掛ける。


「貴方は……何者? まさか……」

「『……最初に言った筈だ。オレはカイト。それ以外の何者でもない。君が知っている者かもしれないし、そうではないかもしれない。ただ言えるとすれば』」


 ただ言えるとすれば。カイトはそこで言葉を切る。もはや晒してしまったものは仕方がない。諦めるしかない。状況として、仕方がない側面もある。だから、彼は言うべき事だけを述べた。


「『今のオレは君の敵だ。それ以上でもそれ以下でもない』」

「……」


 知りたい事は山程ある。聞きたい事も山程ある。英雄として、友として。友の子孫として。様々な想いがセレスティアの中に渦巻く。が、カイトの言う言葉があまりに正しかった。そうして、その言葉で彼女もまた気を取り直す。


「一つ。あの時貴方が言った事と同様にお願いがあります」

「『聞ける事なら』」

「もし私が勝ったら、全てを教えて下さい。貴方が何者で、何を見て……そして今の私達に何を想うのか。それを、教えて下さい」

「『……勝てたらな』」


 セレスティアの問いかけに、カイトは一つ笑う。これはいよいよ負けられない。そう思った。そうして両者はこれで最後と今までで最大の力を纏い、距離を取る。


「「『はぁああああああああ!』」」


 両者が同時に地面を蹴り、一気に距離を詰める。そうして二人が同時に大剣を振りかぶった。


「「『……』」」


 全ての者が見守る中で、勝敗が決する。そうして決した勝敗を見て、審判が舞台上へと上がった。


「勝負あり! この試合、勝者無し!」

「え?」

「あはは。しまった、としかこれは言えんのよ」


 尻もちを着いたカイトの胸には、大きな赤い筋があった。その一方、セレスティアの腹には横一文字に傷跡代わりの赤い筋が入っており、どちらももしこれが実戦なら致命打だった事が伺えた。


「当然だ。オレの太刀は君にとって、何百年も昔の剣……君の本能が。そして君の血がオレの太刀筋を知ってたのさ。あいつの……あの馬鹿のこった。どーせ、オレを模擬戦の相手としてガキ共に何千回も叩き込んでやったんだろうさ……本能的に、避けられたか」

「……」


 違う。おそらくカイトが本気で戦っていれば、負けたのは自分。セレスティアはそう思う。が、こればかりは様々な事情が絡むがゆえに仕方がない事であった。そうして、カイトは少しだけ痛む胸を抑えながら、舞台から降りるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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