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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第78章 天覇繚乱祭編

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1883/3945

第1854話 天覇繚乱祭 ――妖刀・諸刃――

 カイトと黒羽丸の戦い。そこから少しだけ、時は遡る。それは大会の本戦が開始される数日前。丁度カイトがアリス、暦を伴って水仙の店から帰ってきた後の事だ。彼は少しだけ外に出ると述べて、一人アルミナと合流していた。


「これを、貴方にだそうよ」

「ふーん……これを、ねぇ……」


 カイトがアルミナから受け取ったのは、木蓮流壊滅に関する新聞の記事の切り抜きだ。元々彼も水仙が何かしらの付喪神だとは気付いていた。が、この時はまだ何の付喪神かまでは理解できておらず、ここでようやくそれを悟った。


「なるほど……木蓮流の最上大業物の中で唯一黒刃ではないと言われる名刀<<百合水仙(ゆりすいせん)>>。その付喪神だったのか。それで、あの子がその使い手と」

「<<百合水仙(ゆりすいせん)>>……それはまた」


 すごい物が居たものね。カイトの解説にアルミナが思わず驚きを口にする。彼女は武器に興味があるわけではないが、職務上非合法に盗まれた物などを回収する事もあるので有名な流派の最上大業物についてはおおよそ把握しているらしかった。


「ああ。木蓮流……本来は木練流と言われる特殊な配分での配合を行った木炭と練炭の混合物を多用する一門。ここの流派では業物になればなるほど、持ち主の力に呼応して黒く変容していく。最上大業物ともなれば、常時黒刃となる。が、<<百合水仙(ゆりすいせん)>>はその中で唯一どれだけ力を通しても白刃のままな一振りだな」


 カイトはアルミナの言葉を受けて、<<百合水仙(ゆりすいせん)>>の概要を語る。これを彼が何故知っているのか、というとかつての持ち主がそう語っていたのを聞いていたからだ。

 水仙その人はカイトが知らない様に語っていたが、実際には会って話をしていた。水仙が知らなかったのは、激闘の結果当時の木蓮流の鍛冶師に預けられ、調整を受けていたからだ。丁度その頃にカイトは当時の持ち主と会っていた、というわけである。


「で……現場から一振りの刀が盗まれたのを見ていた、と」

「信じるのかしら?」

「信じるさ。手荒に扱わねば、武器は持ち主を決して裏切らないからな」


 少し楽しげなアルミナの問いかけに対して、カイトは笑って水仙の言葉を信じると明言する。そうして彼は新聞の切り抜きと共に添えられていた手紙を、再度確認する。


「盗まれたというのは、木蓮流開祖が打った妖刀<<諸刃(バビルサ)>>。名前だけは、オレも聞いた事があったがね」

「私もあるわ」

「あははは。やっぱり?」


 アルミナの言葉に、カイトは困り顔で笑っていた。とはいえ、この<<諸刃(バビルサ)>>。奇妙な名もさることながら、また別の事情で有名だった。


「そもそも実在さえ疑われていた妖刀なんだが……まさか実在していたとはね。木蓮流が開祖最大の一振りにして開祖最大の失敗作と言われるぐらいだから、存在していないものだと思っていたんだが……」

「何より所以も所以だものね」

「まぁな……」

「<<諸刃(バビルサ)>>の名が示す様に、切った本人が死んでしまうという奇妙な逸話を持つ……だっけ?」


 相変わらずの困り顔のカイトに対して、アルミナが一応の確認として聞いておく。こういった武器の関連だとやはりカイトの方が詳しい。聞いておいて損は無いだろう。


「そう。バビルサ、というのはイノシシの一種。自分の牙で死んでしまう、という逸話がある生き物だな。その名を当てはめられるぐらいだから、もし実在していたとて何かそう誤解されるだけの呪具の類かと思っていたが……はてさて」


 どうなのだろうか。カイトは木蓮流の伝説的な刀について、少しだけ考える。が、答えが出るはずがなかった。なにせ同じく木蓮流の名刀である水仙さえ知らないのだ。カイトが知るわけもなかった。というわけで、彼はこの場での考察を諦めて、後は流れに任せる事にするのだった。




 さて、時は戻り再び天覇繚乱祭第二回戦第一試合。カイトは今までの戦いから、黒羽丸と<<諸刃(バビルサ)>>についての考察を終えていた。それ故、彼は会話をする為に一度戦意を収めた。


「うん? どうしたんだ? まだまだこれからだろう」

「ああ。戦いはまだまだこれからだ。が、その前に後腐れなく戦う為に終わらせておきたい事があってね」

「終わらせておきたい事?」

「ああ……一つ、つかぬことを聞かせてもらいたい」

「答えられる事なら」


 カイトの要請に対して、黒羽丸は何時もの優雅な笑みで頷いた。それに、カイトは一つの名を出した。


「<<諸刃(バビルサ)>>」

「っ」

「やはり、聞き覚えがあるという事か」


 ぴくり、と頬を動かした黒羽丸に、カイトが獰猛な笑みを浮かべる。どうやら、水仙が言っていた事は正しかったらしい。そう判断した。そうして、彼は更に話を進める。


「さて……これはとある人物から、オレに持ち込まれたタレコミなんだが……木蓮流壊滅のあの日。事件の直前にその<<諸刃(バビルサ)>>の在り処を知った人物が木蓮流以外に一人居るらしい」

「……それが、私とでも?」

「いや?」

「おや」


 獰猛に笑ったまま首を振るカイトに、黒羽丸は思わず意外感を得ていた様子だった。それはそうだろう。今の流れは明らかにそう告げるべき流れだ。が、カイトは全てを理解していればこそ、ここで首を振ったのである。そうして、彼は再び口を開いた。


「その人物の名は……黒羽丸。事件の真犯人だ」

「……ほぅ。では、私は黒羽丸ではないと?」

「ああ……さて。少しだけ話は変わるんだが。オレは実は地球で少し魔術的な揉め事に巻き込まれた事があってね。勿論、地球には魔術が無いという建前上、オレや極少数の関係者以外誰も知らない」

「ほぅ……それは興味深い」


 カイトが何を言いたいのか。黒羽丸はわずかに興味深げに目を見開いた。が、流石にそこで語られた内容を聞いては、苦味を浮かべるしかなかった。


「実は地球では今密かに、魂だけを抜き取って別人が入り込むという事件が起きていてね。それの対応で中身と外見が入れ替わった相手は見極められるんだが……あんたは、わからなかった」

「……」


 カイトの言葉に対して、黒羽丸は何も言わない。どうやら何を言えば良いか判断しかねているらしかった。そんな彼に、カイトは更に叩き込む。


「というわけで、オレはまぁ、あまり頭は良くなくてね。なんで実際に剣を交えてみたんだが……その<<黒牙(こくが)>>。盗まれたにしては手に馴染んでいる。盗まれたとは考えにくい。であれば、答えは一つ。元々あんたの持ち物だった」

「それについては認めよう。これは元々、私の持ち物だった」

「だろうな……さて。それで。話を<<諸刃(バビルサ)>>に戻そうか。これには伝説的な話として、切った筈が切った者が死んでしまう、という曰くがある。これがどういう意味なのか……好事家達の間でも良く話の種になる内容だ」


 どこか諦めにも似た様子で笑った黒羽丸に、カイトは追及の手を緩めない。もうすでに答えは出ている様なものだが、どうせだ。最後まで確認するだけだった。


「これについて、オレはこう読み解いた。切った相手と切られた相手の魂を入れ替えてしまうのではないか、とな。で、切られた傷についてはそのまま相手の身体に残る。結果、切った当人は切られた者の身体に入り込み、死んでしまうわけだ。ま、どう考えても失敗作だな。無論、そんな事が出来る時点で傑作でもあるだろうが」


 どう捉えれば良いのだろうか。カイトは半ば困った様に笑い、解説を終える。そうして全ての推測を語った後、彼は改めて問いかけた。


「そんな所だろう……どうかな、イズナ」

「はぁ……」


 イズナ。そう言われた黒羽丸は、今までの優雅な様子から一変どこか粗野さがにじみ出る。そうして、彼は諦めた様に肩を竦めた。


「正解だ。俺は黒羽丸なんぞじゃない。木蓮流のイズナだ」

「やっぱりな……にしても、随分と無明流が馴染んでいる様子だが。それも身体が記憶していたのか?」

「……元々、俺も無明流なんだよ。黒羽丸の野郎とは同期だ」


 心底黒羽丸が嫌いらしい。黒羽丸の事を語るイズナの顔は心底嫌そうだった。とはいえ、それにカイトは然程の興味はなかった。道理だからだ。


「ふーん……なんだよ。親の跡を継ぐのが嫌とかか?」

「ちげぇよ……いや、違わなくも無いが」

「どっちだよ」


 どうやらイズナは割と粗野な人物らしい。カイトは彼にツッコミを入れながら、そう思う。そんな彼に、イズナは口を開いた。


「お前は知らねぇだろうが……弟な。あいつぁ天才だった。素直に、勝てねぇと思っちまった。ま、元々向いてねぇとは思ってたからな」

「それ、言えよ」

「言えるかよ。兄ちゃん兄ちゃん、って後ろをトコトコ付いてくるチビに嫉妬してます、なんてよ」


 少しだけ気恥ずかしげに、イズナはかつて居た弟についてを語る。そんな彼に、カイトは一応問いかけた。


「で、敢えて自分が放逐されるように仕向けたってわけか」

「……そういう事だ」

「なるほどねぇ……」

「……お前、俺の言葉をやけに素直に受け入れたな」


 それはそれは、と楽しげに笑うカイトに、イズナは訝しげに問い掛ける。これにカイトが告げた。


「ああ、それは簡単だ。<<黒牙(こくが)>>を何度も間近で見せて貰った。良く手入れがされている。間違いなく最上の状態だ……これを剣士が出来るとは思わん。鍛治師の仕事だ。来歴を洗い流したが、黒羽丸という男の来歴に鍛治師の経歴は無い。何より木蓮流が滅んだ今、そこまでの手入れが出来るのは居ないはずだ」

「……ちっ」


 なるほど、納得だ。昔取った杵柄というか、三つ子の魂百までというか。カイトの一切の歪みも濁りも無い<<黒牙(こくが)>>を見て告げた言葉に、イズナは舌打ちする。

 これをここまで完璧な状態にするのだ。並々ならぬ努力があった事が窺えた。少なくとも、分捕ったにしてはあまりに大切に扱っていた。であれば、答えは一つしかない。


「で? 俺を捕らえて引き渡すのか?」

「無理だろう、それは。よしんば黒羽丸の罪状が明らかになったとて、今度は中身がお前と来た。逆に中身がお前だという事で告訴しても、今度はそれを証明する術がない。さっきのオレの解説はあくまでもオレの推測。喩え<<諸刃(バビルサ)>>があったとしても、証明できるのはかの伝説の勇者ぐらいなものだろう。法律も対応していないしな」


 ここが、カイトにとっても頭の痛い問題だった。なにせ法律が今回の事態に対応できるか、と言うとそんなわけがない。

 では魂を元通りにしたら、とも思うが事件は遠い過去だ。イズナの本来の肉体は荼毘に伏されている。黒羽丸の魂とて、すでに輪廻の彼方だ。今更過去の事件をほじくり返したとて、どうする事も出来なかった。


「……じゃあ、なんでお前わざわざ」

「んー……仕事?」

「仕事?」

「前金で受け取っちまったんだよ。お前が本当に下手人か見極めてくれってな。マジだったら引き渡すつもりだった」


 が、この様子だ。イズナが犯人である可能性は低いだろう。剣士だからこそ、カイトには<<黒牙(こくが)>>に込められた鍛治師の誇りが見て取れた。それが失われていないのだ。

 であれば、これ以上何かを言う必要はない。今後もイズナには黒羽丸として無罪放免で生きて貰えば良いだけだ。若干彼としては苦い思いだろうが、それしか手は無かった。


「さ、これで仕事は終わり。後はお前と決着を付ければ、この試合も終わりだ」

「はっ! 行くぜ」

「おう、来い!」


 ようやく素を出せるからか今まで以上の覇気を見せるイズナに、カイトもまた覇気を滲ませる。そうして、再び戦いが始まるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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