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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第78章 天覇繚乱祭編

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1882/3941

第1853話 天覇繚乱祭 ――第二回戦――

 天覇繚乱祭最終ブロック第一回戦最終試合。瞬とリィルの戦いになったこの試合は、終始リィルが押しながらも最後の最後で瞬が意地を見せた事により、ドローゲームで勝者なしの結末に終わる事になっていた。

 そうしてほぼ全ての力を出し切ってなんとか歩いて中央に戻った二人は、一礼の後にお互いで支え合う様にして、試合会場の傍にある控えスペースに戻る事になった。と、その最中。瞬が小声でリィルへと問い掛ける。


「……まだ余力が残っていただろう。気を使う必要は無かった」

「……いえ、実の所私もさほど貴方の事を言えないんです」


 やはり瞬は誤解したままでしたか。リィルは少しだけ恥ずかしげに、瞬の指摘に首を振る。そうして彼女は瞬へと<<雷炎武・禁(らいえんぶ・きん)>>と同じ様に自身にとって<<紅翼天翔(こうよくてんしょう)>>が未完成の大技である事を告白する。


「そ、そうだったのか……」

「まぁ、こうなった立場上、あまりきつくは言えないのですが……あの戦い。逃げられれば私が負けていました」

「それはあまり俺が好きな戦法じゃないからな」


 リィルの指摘が正しいと思いながらも、瞬は苦笑する様に首を振る。そうしてそんな事を話しながら歩いた二人は、カイトとソラの所へと戻ってきた。


「よ、二人共お疲れ様」

「ああ……後一歩、という所だった」

「あはは。確かにな。あと一歩及ばず、という所だろう」


 もしこの戦いに審判やレフェリーが居てジャッジを下したのなら、リィルの判定勝ちだっただろう。それは瞬もまた認めており、本当にあと一歩及ばなかったという所だった。

 それでも相打ちという所になったのは、リィルが勝負を急いだ事が原因だろう。似た性格とはいえ、やはり戦略的な視点ではリィルに分がある。それ故に後の事を考えた彼女は、あそこで一気に押し切ろうとしたのであった。そんなカイトの返答を聞きながら、二人が腰を下ろす。


「ふぅ……」

「はぁ……」

「ま、しばらくは休んでろ。どうせ第二回戦はもうしばらく始まらん」

「? 始まらない? 何かあったのか?」


 やはり予選大会の折りに事件があったからだろう。本来なら間を置かず行われる筈の第二回戦が始まらないというカイトの言葉を受け、瞬がわずかに警戒感を露わにして首を傾げる。が、これにカイトは笑った。


「ああ、あったな……具体的には二人の戦いで試合会場が破壊される、という事態が」

「「……」」


 カイトの指摘を受けて、瞬とリィルは改めて自分達が戦った後を見る。まぁ、見るまでもなく試合会場はボロボロだ。今は大急ぎで修繕をしている所で、臨時で観客たちには試合再開の時刻が告げられて臨時の休憩に入っていた。


「ま、戦いである以上、これはよくある事だ。なんで、気にする必要も無いだろう」

「そ、そうか……」


 よく考えれば冒険部のギルドホームでかなりの力で戦えるのはティナの結界があったから。瞬は改めてそれを思い出し、思わず頬を引き攣らせていた。そうして第二回戦の開始まで、一同は僅かな間休息を取る事にするのだった。




 さて。試合が中断しておよそ三十分。舞台の修繕も終わり観客達も戻った事により、改めて試合が再開する事になった。


「さて、と」


 カイトは首を鳴らしながら、改めて対戦相手の事を思う。相手は黒羽丸。無明流のエース級だ。そして同時に、数年前に起きた木蓮流一門惨殺事件の被害者でもあった。


(……被害者、ね。はてさて)


 あの見る者を魅了する柔和な笑みの裏に隠れているのは、邪悪な笑みかそれとも。カイトはそう思いながら、舞台に上がる。そして同様に、黒羽丸もまた舞台に上がった。


「どうやら、私は運良く君と戦えるらしい」

「あははは。まぁ、そうみたいだな」


 先に言われていた事であったが、黒羽丸は茉莉花を倒したカイトとの戦いを望んでいた。それが二回戦での戦いとなると、十分な試合運びが出来るだろう。どちらも一回戦での僅かな疲労感は無い。十分に戦えるはずだ。


「さぁ、こちらはいつでも」

「こちらも何時でも大丈夫だ」


 舞台の中央に立ったカイトは、黒羽丸の言葉に同意する様に審判を見る。そんな両者の同意を得て、審判も一つ頷いた。


「では、第二回戦第一試合……はじめ!」


 審判の号令と共に、両者一つ頭を下げる。これはあくまでも試合だ。黒羽丸が何を考えているかは分からないが、少なくともそれは守っていた。


「さて……」


 カイトは黒羽丸と相対しながら、意識を研ぎ澄ませる。が、やはり相手も腕利きだ。そう易々とは、流れは掴めない。特に今だ。まだ試合開始すぐという事もあり、様々な意味で呼吸に乱れはない。まぁ、それ故にこそカイトは修練に使わせて貰っていたが。


(勢い……あり。逸る気持ちを抑えているな。年齢などに見合う年相応の気配はある)


 剣の才覚はあるだろうが、同時にセレスティア程に極まってはいない。気配や流れを読むカイトは、黒羽丸についてをそう読み取った。そうして待ちの一手を見せるカイトに、黒羽丸が焦れた様だ。


「っ」

「はぁ!」


 地面を蹴って一瞬でカイトへと肉薄した黒羽丸が、袈裟懸けに斬撃を放つ。それに対してカイトもまたなぞる様に逆位相の斬撃を逆袈裟懸けに放ち、相殺する。そんな彼に、黒羽丸は感心するように目を見開いた。


「ほぉ」

「どうした?」

「流石に私も君が使う武芸の素晴らしさは分かるさ。昨日、かの武蔵先生のお話も聞いていたしね。なるほど。これは茉莉花が負けたのは無理もない」


 無数の剣撃が交わる最中。黒羽丸は優雅に笑いながらカイトへと称賛と納得を送る。


「常に私の反対に攻撃を放ち、全てを相殺する。並大抵の技術では到底出来まい」

「それを読み抜けているあんたも、中々のもんだ。それにまだ、様子見だろう?」

「無論、そうだとも」


 カイトの問い掛けに、黒羽丸は笑って強撃を放つ。が、これは決してカイトの言葉を受けて出力を上げたわけではない。敢えてこれに対してカイトの強撃を誘発する為だ。そうして今までで一番の剣戟の音が鳴り響き、両者が僅かに身を引いた。


「「ふっ」」


 一歩引いた両者が、同時に刺突を放つ。それはカイトの技量も相まって、切っ先と切っ先がぶつかり合って停止するという凄まじい結果をもたらした。


「こ、これは……」

「遅い!」

「おっと。いや、失礼失礼」


 自分が当事者の片方とはいえ起きた現象に思わず呆けた黒羽丸であったが、その隙を見逃さずに刀を弾き右手で殴りかかるカイトに対して地面を蹴った。


「呆けるなよ。試合中だぜ?」

「あはははは。いや、まったくだ。が、流石に今の現象は見た事も無い。許してくれ」


 再度地面を蹴って肉薄するカイトに対して、黒羽丸は優雅に笑って剣戟を合わせる。ここで、攻守が逆転する。


「はっ!」

「ふっ!」


 カイトが打てば、今度は黒羽丸がそれに攻撃を返して相殺する。とはいえ、先ほどのカイトが神陰流の<<奈落>>を転用した相殺であるのなら、こちらは純粋に最低限の力を込めて攻撃を散らしたり受け流したりして相殺するやり方だ。それ故、カイトが守りに回った時とは違い点対称な剣戟ではなく、そしてまた剣戟だけで全てが片付くわけでもなかった。


「つぅ」


 ちっ、と擦ったカイトの突きを受け、黒羽丸の頬に赤い筋が入る。が、彼はこれを狙ってやった。無論、怪我を負う事が狙いではない。敢えて最小限の動きで回避する事こそ、彼の狙いだ。


「ふっ!」

「っ」


 カイトの突きを頬の傷を対価に辛くも避けた黒羽丸が、逆袈裟懸けに剣戟を放つ。が、次の瞬間。カイトの姿がかき消えた。


「!?」

「はぁ!」


 かき消えたかの様に見えたカイトであったが、どうやら一瞬で後ろに引いていただけらしい。緩急を付けた事で残像を残したのだ。そうして残像を囮にして攻撃を誘発させた彼は、一転して再度の突きを放つ。


「っと!」


 どうやら直撃の瞬間、手応えの無さから黒羽丸はカイトが残像であると理解していたらしい。屈伸に似た姿勢であった事からそのまま強引な跳躍をする事により、カイトの刺突を間一髪で回避する。が、やはり強引な跳躍であった事から、完璧に回避は出来なかった様だ。ズボンの裾の部分が大きく切り裂かれていた。


「ふぅ……裾が切れたな。この服は今回の大会の為に仕立てたもので、安くは無いんだが」

「足が切り飛ばされなかっただけ、まだマシだろ」

「いやはや、まったくだ。まぁ、ボロボロになればボロボロになるほど、この大会がそれだけ凄まじい大会だったという所だろうね」


 自身の必殺を躱された形の黒羽丸であったが、彼はあくまで優雅さを崩していない。まだまだ余裕が見え隠れしていた、という所なのだろう。どうやら、茉莉花以上の猛者らしい。間違いなく中津国でも有数の武芸者と言い切れた。


「確かにな……さて、続けよう」

「ああ」


 カイトの言葉に応じて、黒羽丸もまた再度刀を構える。そうして先に地面を蹴ったのは、今度もやはり黒羽丸だった。


「ふぅ! は! たっ!」

「……はっ!」


 繰り出される三つの太刀筋に対して、カイトは全て流れを読んで全てに最適解の攻撃をぶつけ相殺する。が、ここで彼は今度は先ほどとは違うとばかりに、加速した。


「ふっ」

「っと!」


 ぎぃん、という大きな音が響いて、火花が上がる。そうして刀と刀が離れたと同時に、カイトは両手で持っていた刀から左手を離し、左手一つでもう一振りの刀を抜き放つ。


「っ」


 抜いてきたか。黒羽丸はもう一振りの刀を抜き放ったカイトに対して、特段の焦りは見せなかった。なにせ彼が余裕を見せていたのは、まだカイトがもう一振りを抜いていない事を警戒していたからでもあった。

 二刀流が本質である相手に最初から本気で向かうわけにはいかない。そんな戦略的な視点があったのである。そしてそれ故、彼は二刀流となって速攻の抜き打ちを放つカイトに対して即座に反応出来た。


「はぁ!」

「この程度!」


 逆手持ちの居合斬りに対して、黒羽丸は軽やかに背後に飛んで射程距離を抜け出る。それにカイトは即座に逆手持ちだった左手を何時もの普通の持ち方に変えて、即座の追撃に入った。


「はっ!」


 即座の追撃に入ったカイトに対して、黒羽丸は空中で斬撃を放って加速。置くように放たれた斬撃に対して、カイトは右手の刀を振り抜いて相殺すると、そのまま一気に地面を蹴って再度の追撃を開始する。が、その頃には流石に黒羽丸も立て直しを終えており、カイトを真正面から迎え撃った。


「「はぁ!」」


 両者同時に、刀を振り抜く。が、そうして驚きを得たのは、黒羽丸だった。なんとカイトは利き腕で無い左手一つで黒羽丸と互角の威力の攻撃を打ったのである。


「何!?」

「生憎、馬鹿力がオレ本来の持ち味でね!」

「くっ!」


 片手で自身と鍔迫り合いを行ったカイトに驚愕した黒羽丸であったが、なんとか立て直しに成功して次のカイトの右手の一撃を防ぎ切る。が、やはり一度二刀流を見せたカイトを前には、どうしても無理やり立て直した感が否めない。故に彼は仕方がない、とばかりに若干の苦渋を見せながら、切り札を一枚切る事にした。


「吼えよ、<<黒牙(こくが)>>!」


 自身がこのままでは立て直す事もままならず押し切られると判断した彼は、黒刀に命じてその力を解放させる。すると、ただでさえ漆黒だった黒い刀身が更に黒く染まり、もはや闇よりも深い黒に変わる。それは続くカイトの攻撃を全て吸収し、衝撃さえ無効化した。


「マジか!」


 さすがは木蓮流の最上大業物。カイトは目の当たりにした<<黒牙(こくが)>>の力に、思わず感心を得てしまう。そうして楽してに笑みを浮かべてしまった彼であるが、身体は危機に対してしっかりと対応してくれた。


「はっ!」

「むっ!」


 確実に不意を打った。そう思っていた黒羽丸であるが、カイトが楽しげに笑いながら自身の反撃に対応した事に思わず目を見開いていた。今のは必殺と言って良いタイミングだった。それを、カイトは防いだのである。


「見事だ。さすがは木蓮流最上大業物の一つ<<黒牙(こくが)>>。オレの斬撃を一切合切喰らったか」

「それが<<黒牙(こくが)>>の力。漆黒の牙だ」


 どこか誇らしげに、黒羽丸は少し幅広になった刀身を晒す<<黒牙(こくが)>>を語る。どうやらこの漆黒の刃はおおよそ全ての攻撃を喰らってしまうブラックホールの様な力を有しているらしい。持ち主への衝撃は全て無効化し、一方的に衝撃を相手に伝えていた。と、そんなカイトの賞賛に対して、黒羽丸もまた賞賛を返した。


「だが、見事だというのなら君の方もまた見事だ。まさか今のを防ぐとは。<<黒牙(こくが)>>を解き放って正解だった……私の予定では、決勝戦までは使わないで済む筈だったんだが」

「それはそれは。お互い、上手く行かないもんだ」

「あはは」


 楽しげなカイトの言葉に、黒羽丸は楽しげに笑う。カイトとしては公的には二刀流を切り札としている事になっている。それと同じ様に、黒羽丸もここで切り札を切らねばならなかったのである。


「ふむ……」


 このぐらいでおおよそは自身の目的は達せられたかな。カイトは今までの黒羽丸との戦いから、自身が求める答えを得た事を理解していた。そうして彼は一度だけ、舞台の外へと視線を向ける。


(眠り姫は……お目覚めか。さて。じゃあ、そろそろ。因縁に決着を付ける事にしますかね)


 カイトが見たのは、黒羽丸に多大な恨みを持つ睡蓮だ。試合の最中までは眠っていた彼女は目を覚ますや否や一心にカイトと黒羽丸の戦いを見守っていたのだ。そうして、カイトは今回の大会のもう一つの目的に決着を付けるべく、口を開く事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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