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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第78章 天覇繚乱祭編

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第1850話 天覇繚乱祭 ――もう一つの第一試合――

 最終ブロック第一試合。それはこの最終ブロックにおいて最もくじ運が無いと言われるカイトと、仮面の子供こと睡蓮の戦いだった。その戦いはカイトが圧倒的な余裕を見せて、睡蓮を下していた。


「おっと」


 おそらく<<狐影(こえい)>>や<<狐影(こえい)>>を使用しての<<万軍招来(ばんぐんしょうらい)>>の亜種<<瞬花終刀(しゅんかしゅうとう)>>は睡蓮にとって多大な負荷が掛かる技だったのだろう。

 負けを認めるや否や、張り詰めた糸が切れるかの様に地面へと落下を開始していた。が、その兆候を見て取ったカイトが回収し、お姫様抱っこの様に回収していた。


「ふぅ……」


 これでひとまず、懸案事項の一つは解決か。カイトは地面に着地すると、一つ息を吐いた。と、そんな彼であったが、一転して水仙へと問い掛ける。


「で……水仙」

『ん?』

「お前、どこまで知っててオレを巻き込んだ?」

『……確証は無い、という所だよ。だから君に頼りたかった。どちらでも対処出来る様に、ね』


 カイトの問いかけに対して、水仙は少しだけ苦い顔で笑う。元々カイトは仮面の子供の正体が睡蓮であることを知っていた。それは言うまでもなく、この水仙が密告したからだ。あの時水仙がアルミナへ渡したのは、睡蓮が天覇繚乱祭に出る旨が察せられる何らかだった。


「ま……噂には聞いた事があったが。まさかそんな物が実在していたとはな」

『初代木蓮の作った妖刀の一振り。隠されたのも無理はないさ』

「然りだな」


 水仙の言葉に、カイトはわずかに笑う。どうやら二人が言及していたのは、それほどまでに危険か厄介な物らしい。と、そんな事を話す二人の所へ、試合が終わった事を受けて審判が駆け寄ってきた。


「はてさて……オレはどちらでも良いのだが」

『私がよくない。だからの依頼だ』

「オーライ。受けよう」


 水仙のどこか強い意志の滲んだ言葉に、カイトは睡蓮を抱えながら肩を竦める。と、そんな所で審判が到着し、カイトへ向けて口を開いた。


「お預かりします」

「いや、構わん。保護者も一緒だしな。何より、保護者から今後の世話を任されちまった。このままこの子はウチで引き取る」

「は?」

「ああ、いや。私の申し出だ。彼の申し出が正しい」

「貴方は……」


 唐突に姿を露わにした水仙に、審判は一瞬だけ困惑を露わにする。とはいえ、流石に審判は試合の全てを見ていたのだ。故に彼が名刀<<百合水仙(ゆりすいせん)>>の付喪神である事は理解していた様子である。


「彼女は木蓮流の遺児。私はその木蓮流の代々に仕えていた刀の付喪神だ。それ故、生き残りの彼女を庇護してきたのだが……彼を介してマクダウェル家の保護を頼んだんだ」

「そういうわけでな。大会の後にクズハ様に伝える。あそこは孤児院もあるし、専門的な教育も出来る。鍛冶師になるにせよ剣士になるにせよ、どちらでも選べるのならあちらの方が良いだろうからな」

「は、はぁ……あ、はい。はい……」


 カイトと水仙の言葉に困惑を浮かべていた審判であるが、ヘッドセットを介して入った何かしらの指示に数度頷いていた。そうして、数度の頷きの後に彼はカイトへと自身のヘッドセットを手渡した。


「こちらを。燈火様がお話になられるそうです」

「あいよ……あいよー」

『うむ。まさか睡蓮とはのう。妾も大いに驚いた』

「なんだ。この子を知ってたのか」


 燈火の言葉に、カイトが僅かな驚きを滲ませる。木蓮流は中津国でも有名な刀鍛冶だ。大規模な流派ではないので数こそ少ないが、その刀鍛冶の特殊な製法と特徴的な黒刃は剣士であれば国外でも知られていた。


『知らぬ方がどうかしておろう。水仙も妾が知っておるよ』

「なら保護しろよ」

『したわ。ただ逃げられただけで』

「逃げた?」


 まぁ、水仙と二人で行商人を偽って旅をしていた様子なのだ。であれば、この燈火の言葉もわからないではなかった。そうして、訝しげなカイトに燈火が告げる。


『……大方、仇討ち目指して修行でもしておったのであろう。元々剣士としての素養はあったとの事であったが……妾が知る限り、そこまでの腕は無かった』

「なるほどね……オレも身に覚えがありすぎて、笑うしか無いな」

「……」


 どうやら睡蓮の小さな手を見るカイトを見て、水仙もおおよそ話し合われた内容を理解していたらしい。わずかに苦笑しながら、まるでそうだ、と言わんばかりに頷いていた。

 後に聞けば木蓮流の開祖が過ごした場所に籠もって二年の間修行をしていたらしい。その最中に噂話に黒羽丸が今年の天覇繚乱祭に出る事を聞いて、彼女らも行動に出たとの事だった。


「……だが、ま……少し無茶しすぎだ。手にマメやらなんやら……もう少し身体を労ってやれ」

「そうは言ったんだがね。聞かなくてねぇ……その子、案外頑固なんだよ」

「あっははは。そんな気はしてる……さて。あまりここに留まっていても邪魔か。予備、貸してくれ。後はこちらで燈火と話しておく」

「あ、はい」


 水仙と笑い合うカイトであったが、このまま舞台上で話していても試合の邪魔になると判断したらしい。審判にヘッドセットを返しながら、予備を受け取っていた。そうして、第一試合を終えたカイトは舞台を降りて、睡蓮の引取に関する諸々の話し合いを燈火と行う事になるのだった。




 さて、それからおよそ二十分ほど。睡蓮の保護に関する話し合いを終えたカイトは、続いて行われていた試合を観戦していた。そうして、そんな彼の見守る前で一つの戦いが終わりを迎えていた。


『……』

『……』

「まぁ、これが限界か」


 結界内部で行われていた一つの試合を見て、カイトは順当な結果に落ち着いたかと納得を示す。今行われていたのは、目下木蓮流壊滅の真の下手人と目される黒羽丸とソラの戦いだった。

 これについては結論から言えば、ソラの敗北だった。途中まではエルネストの剣技やこの一年で培った頭脳プレーで善戦した彼であったが、やはり昨日の本戦での疲労と魔力の消耗がボディブローの様に効いてきた。十分程度経過した頃合いで息切れを起こし始め、十五分ほどで終始押される展開になっていた。

 とはいえ、これは彼が悪いというよりも、黒羽丸が賢かったと言うべきだった。彼はソラが昨日の疲労を残している事を見ると、前半はスタミナと魔力を温存。ソラの体力が切れてきた頃合いで一気に攻め込んだのである。


(無論、ソラもそれはわかっていたが……やはり後先を考えちまったか。こればかりは賢くなった弊害かね)


 カイトは一礼を交わし合う二人を見ながら、内心で今の一幕をそう読み取った。事実、この推測は武蔵も同様に行っており、ここではソラが賢くなってしまったがゆえの敗北と見て良かった。そうして、そんなソラが戻ってきて少し悔しそうにカイトの横に腰掛ける。


「はぁ……負けた」

「あはは。しゃーない。黒羽丸は間違いなく優勝候補。昨日から何人も優勝候補を下してきたとはいえ、流石にここまであまり苦戦が無かった黒羽丸相手じゃあ分が悪い」

「だな……ふぅ」


 やはりどこか余裕が見て取れたのは、ソラが余力を残して戦っていた証だろう。ソラはこれがまだ第一試合という事で、どうしても心理的に全力で戦うのを忌避してしまっていた。故に攻めきれなかったのである。こればかりは昨日からのくじ運も相まって、という所が大きかった。

 ここからを考えて余力を残すべきだ、と思ってしまったのだ。しかも相手の一人にカイトが居た事がわかっていた事が尚更、悪かった。


「流石に疲れた。まだ第一試合だから余力は残ってるけど……それでも疲れた」

「そりゃそうだろ。こればかりは致し方がない事だが、全員息切れに対しての練度がまだまだ足りてない。こればかりは練度の問題だからな」

「息切れねぇ……確かに、そうだよなぁ」


 カイトにの指摘に対して、ソラもまた同意する。この息切れ対策というのは、端的に言ってしまえば回復力と言い換えても良い。どれだけ消耗に対して短時間で回復出来るか、という訳だ。

 息継ぎ、などとも言われるが、すっからかんになった場合はそれになぞらえて息切れと言われるのである。


「で、次は……」

「セレスだな。まぁ、ここに負けは無いだろうさ」


 カイトはソラと共に前に進み出たセレスティアを見る。こちらもすでに戦闘に備えており、何時もに『聖域』が出来上がっていた。


(やはりこっちは練度が違うな。伊達に戦争中の世界から来たわけじゃないか)


 自分達が平和な世界から来たのであれば、セレスティア達はその真逆。戦争真っ只中の世界から来たのだ。練度も覚悟も段違いで、風格は圧倒的だった。


(それに何より……ま、問題は無いだろうさ)


 それに何より。そう考えたカイトは一切の不安もなく、視線を逸らす。見る必要はない。勝敗は見えている。


(後は、セレスに預けるか)


 どうせ依頼で優勝は出来ない身だ。カイトの思惑としては黒羽丸との戦いで出し切った体にして、勝負を降りるつもりだった。そうして、彼はソラと共にしばらくの間、幾つかの試合を観戦する事にするのだった。




 さて、カイトの第一試合からおよそ一時間。第一回戦も次の一戦が最後となっていた。


「よっと」

「あ、起きやがった」

「起きてたよ、最初から。ただ目を閉じて気配を読んでただけだ。なんだったら、すべての試合の試合運びを話してやろうか」

「時間がありゃな」


 カイトの言葉に対して、ソラは舞台を見ながらそう口にする。とはいえ、カイトが目を開いた以上、そこには理由があった。そしてその理由も非常にわかりやすい。


「流石に、先輩とリィルの戦いとなりゃ、オレも目で見るさ。気配でも読めるが……見ておいた方が良い」

「そか……どっちが勝つと思う?」

「十中八九でリィルだな。流石にここは分が悪い」


 お互いに使う獲物は一緒。流派も今でこそ瞬は雑多になってきているが、根は一緒だ。であれば後は単純に地力の差だろう。そんなカイトの予想は、ソラもまた同じだった。


「まー、やっぱそうか」

「そりゃそうだろう。潜在能力なら、おそらく先輩が上回るだろうが……それでも地力の差が大きすぎる」


 地球に戻ったらみっちりしごいてやる。瞬の師であると言い切れるクー・フーリンはそう述べ、槍の才覚であれば自分にも匹敵するだろうと言わしめる瞬であるが、それはあくまでも育ちきればの話だ。

 行末はリィルを上回れても、それは今ではない。故に、結末はみえている。そのはずだ。が、そんな二人を見るカイトの顔は、どこか楽しげだった。


「十中八九、リィルの勝利。そこは変わらない。が……」

「が?」

「先輩はお前じゃない、ってことさ」

「はぁ?」


 当たり前だと言えば当たり前としか言えない上に唐突なカイトの言葉に、ソラが顔を顰める。言っている意味が理解できなかった。しかし、それで良い。


(十中八九であって、百ではない。十中に一つは勝てる。ソラが育って後先を考えられる様になったのなら、あんたは育ってなお一試合一試合を重要視する……元々が元々だからかね)


 カイトはソラと瞬の違いを内心で考察する。ソラが知恵を付けてきたと言って、瞬もまた知恵をつけていないわけではない。彼とて指揮能力はある。

 が、これは一つの戦いに向かう姿勢という戦士としての性質と言い切って良かった。そこで、ソラがどうしても上になっている所があった。そして同時に、瞬が上になっている所も。


(さぁて……この試合だけは、楽しめそうだぞ)


 カイトは僅かではない興味を示す。そうして、そんな彼らの見守る前で一回戦の最終戦は開始される事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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