表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第78章 天覇繚乱祭編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1874/3937

第1845話 天覇繚乱祭 ――近付く戦い――

 本戦の中の本戦。最終ブロックへと足を進める為に戦い抜いていたカイト達冒険部一同。そんな彼らは各々の戦いを繰り広げながら、第三回戦へと臨んでいた。が、そんなある時。カイトが唐突に気配を揺らげる事になった。


「これは……」

「どうしたんですか?」

「……」


 わずかに驚きを顕にしたカイトに、暦が問い掛ける。が、そんな問いかけにカイトは目を閉じて意識を集中。何かを読み取っていた。


「……アルの奴が負けたな。第三回戦……保った方ではあるか」

「え?」


 アルと言えば瞬よりも上の実力者だ。冒険部では純粋な日本人を除けば最強戦力と言える。それが三回戦での敗戦となれば、暦も驚きは隠せなかったらしい。とはいえ、カイトの方としてはそこまで驚いてはいない様子だった。


「いや、そこまで驚くには値しない。どうやらアルの奴。一回戦からくじ運が悪かったみたいでな。かなり伯仲した戦いを行っていた。相手はもしかしたら、あいつよりも格上だったかもしれん」

「はー……」


 やはりカイトはこの大会全ての戦いを気配で察知していたらしい。その彼の言葉だ。正確だろう。とまぁ、そういうわけらしく、一回戦で彼は力の大半を使ってしまっていたらしい。

 二回戦での敗戦も考えられたそうであるが、そこはやはり彼にも英雄の子孫という意地があった。なんとか二回戦は乗り越えたものの、この三回戦でも中々の実力者を前にして、ついに力尽きたというわけらしかった。カイト曰く、今回の天覇繚乱祭の冒険部の中で一番くじ運に恵まれなかったのは彼。そう言うほどの戦いだったらしい。


「にしても……」


 どうやら三回戦で戦った相手も相当な実力者らしい。カイトはそう思う。とはいえ、同時にさもありなん、とも思っていた。


(この時点ですでに残っているのはランクB以上。ここから更に選別が進んで、明日には条件付きでランクSの壁にも立てるだろう猛者のみが残る。アルは本当に運に恵まれなかった、という所か)


 明日には間違いなく猛者しかいなくなるのだ。瞬やソラとて猛者と言って過言ではない実力を手にしてきている以上、ここから先に残れるのはこの二人にアルとルーファウスぐらいだろう。カイトは冒険部の地力を鑑みて、そう判断していた。

 が、これはあくまでもくじ運で明日に残れるだろう猛者との戦いがさほど無かった場合に限られる。逆説的に言えば、そういう猛者と戦い続ければこうも成り得たのである。とはいえ、だからこそカイトは楽しげだった。


「はてさて……後は、どうなるか」

「先輩。一つ聞いて良いですか?」

「おう、なんだ?」

「どうやったらそういう風に気配を読めるんですか?」


 カイトの問いかけに、暦が問い掛ける。そうして、彼はしばらくの間暦に教えを授け、時間を費やす事になるのだった。




 これは当然の話であるが、戦いが進めばその分敗者が生まれ、一回戦毎に必要な時間は減る事になる。結果、次の戦いまでの間隔は短くなり、カイトもまた短い時間で次の戦いへと進む事になる。


「……」


 第三回戦の相手を前に、カイトはわずかに意識を研ぎ澄ませる。先にはアルに猛者と戦っていた、と述べた彼であったが、どうやらここに来て彼もついに猛者と言える相手との戦いに臨む事になってしまったらしい。できれば明日に回してほしい所だったが、こればかりはくじ運だ。仕方がないと諦めた。


『さぁ、師弟対決を終えて次へと足を進めた天音選手が戦いますのは、中津国最大の流派である天紋流の門弟。本年初出場ながら、今まで鎧袖一触で相手選手をなぎ倒してきた茉莉花(まつりか)選手。優勝候補の一人ですね……さて、武蔵先生。この戦い、どう思われますか?』

『うむ。どちらも中々に見所のある選手と言えよう。特に茉莉花。こちらは言うに及ばず、この国で最も知られている武芸の使い手。門弟の数は多く、剣士相手の実戦経験値も高い』


 実況に意見を求められた武蔵は、まずはカイトの相手選手――茉莉花と言うらしい――の論評を行う。どうやらカイトが見抜いた通り、彼女は優勝候補の一人だった様だ。そして言うまでもなくカイトも中々の猛者にして、今大会では注目株の一人だ。故に必然として、この戦いは注目の一戦となっていた。


『とはいえ、実戦経験値であれば間違いなくカイトはそれを上回っておろうな』

『天音選手が、ですか?』

『うむ。あれの旅は面白いほどに波乱万丈。名に支配されたか、それともそれがあれの天命か……それは定かではないが、あれの名に相応しい数の戦いをこの一年経験しておる。そして冒険者として、大小様々な戦いを経ておろう。それは道場では学べぬ戦いばかり。十分に茉莉花に負けぬほどの戦いを経ておろう』


 武蔵は笑いながら、改めてカイトの論評を行う。これは言うまでもない事だろう。彼ほど、波乱万丈な戦いを繰り広げてきた者も珍しい。それを語らないのは、解説役として不十分だろう。と、そんな事を語られているとはつゆ知らず、カイトは茉莉花を前に一礼を行っていた。


「「よろしくおねがいします」」


 カイトの一礼と同時に、相手選手もまた一礼を返す。そうして、カイトは改めて相手選手を伺い見る。


(種族は……不明。少なくとも鬼ではない。性別……女。流派……天紋流。段位……印可という所か)


 相当に極まってはいるが、まだ皆伝の領域にはない。カイトは茉莉花と対峙しながら、わずかに肩の力を抜く。が、これは楽に勝てる相手と判断すればこそではない。逆に楽には勝てないと判断すればこそ、入りすぎる肩の力を抜いたのだ。


「っ……」


 どうやら茉莉花の方も、カイトが一端の剣士であると認められたらしい。肩の力を抜いて自然体になった彼に、茉莉花がわずかに気を張った。やはり印可にまで至れば、お互いに警戒もされるのだろう。どちらも、迂闊に攻め込むべきではないと判断していた。


(攻める……べきではないな。印可を相手に油断した戦いをすれば、もしオレが本気であろうとマズい。最終ブロックには進まねばならない以上、些か不格好だが待ちの一手にするべきか。それに相手の流派は天紋流。本質は攻めにこそある。対極なれば、攻める必要も無い)


 カイトは茉莉花を前に、待ちの一手を決める。天紋流がどの様な流派か、というのはカイトにはわかっている。故に戦い方も自ずと定まった。そして案の定、攻め込んだのは茉莉花だった。


「はっ」


 一息と共に、茉莉花が剣戟を放つ。それに対してカイトはまるで倒れ込む様にして、流れる様な動きで回避する。そうして倒れる様な動きで後ろへと姿勢を倒した彼はそのまま軽く跳んで距離を取り、そのまま返す刀で斬撃を放った。


「遅い」


 そんなカイトの斬撃に対して、茉莉花は間断なく斬撃を放ち相殺する。まだまだ、どちらもこれからという所だ。そうして間断なく斬撃を放ちカイトの攻撃を防いだ彼女が、再び地面を蹴る。


「ふぅ……」


 地面を蹴った茉莉花に対して、カイトも再度地面を蹴る。が、両者の蹴り方は対照的。茉莉花が力強い踏み込みだとするのなら、カイトは土埃一つ上げない軽やかな蹴りだった。そうして繰り広げられる『舞』に、観客達は沸き立った。


『これは見事! なんとも見事な天音選手の舞です! 武蔵先生! 私にもわかります! あれは一方的に攻め込まれている様に見えて、その実! なんと見事に返している事でしょう!』

『かかかか。確かに見事。そして実にあれらしい行動、と言えばあれらしい行動であるが』


 一度、笑う武蔵はここで言葉を区切る。そうして彼は真剣な顔で解説する。


『あれが決してその様な雅な舞とは違うのは、お主もわかろう。あれが舞に見えるのは、そこまで極まればこその事。道極まれば、ああも見事なのよ。見よ、あの力の抜け方。あれほどの猛者を前に、全く不要な力みが無い。無いが故にああも軽やかに舞い、飛べる』

『天音選手もそれだけ本気、という事でしょうか?』

『然りよ』


 やはり天覇繚乱祭。武蔵は内心でそう感心を露わにする。確かにカイトが本気と言い難いのは本気と言い難い。だがそれでも、彼も技の観点からは中々に本気で戦っていた。


「……」


 この男。中々どころでは無い領域で極まっている。舞う様に自身の攻撃を完璧に回避しながら返す刀で時に斬撃を繰り出すカイトに、茉莉花は内心で舌を巻く。

 無論、それでも茉莉花とて負けていない。現に彼女もカイトの返す刀を叩き潰している。彼女が攻撃を加えられるのは何時だって自身が攻撃した直後だ。

 そこから間髪入れずに叩き込まれるカイトの斬撃を叩き潰すのである。間違いなく、常人に出来る動作ではない。攻撃の流れを完璧に身体に覚え込ませていればこそ、出来る芸当だった。その一方、カイトもまた茉莉花に舌を巻いていた。


(マズいな……中々どころではないな)


 これはしまった。カイトの内心を一言で言い表すのであれば、そんな所だ。勿論、それは今彼が負けそうだからではない。端的に言ってしまえば、茉莉花にどう勝てば良いかがまだ掴めなかったからだ。


(印可……は間違いないだろうが。才覚が高い。生半可な手だと潰される)


 空中を跳びながら、カイトははてさて、と考える。間違いなく、カイトが勇者カイトとして戦ったとて賞賛に値した相手。それと天音カイトとして戦い、どう勝てば良いか。それがカイトにはまだ掴めていなかった。と、そんな風に考える彼であったが、その思考は即座に切り上げる事になった。


「っ」


 回り込まれた。カイトは茉莉花がここに来て更に一段上に切り上げた事を理解する。彼女は今まではカイトを追撃する様な動きだったのにも関わらず、ここに来て彼の跳躍を上回る速度で移動したのである。<<縮地(しゅくち)>>を利用してカイトをすり抜け、回り込んだのだ。それに、カイトもまた手を変えた。


「はっ」

「ふっ」


 放たれた斬撃に対して、カイトもまた剣戟を合わせる。カイトの動作の妙は、ここにあった。彼の動作には一切の無駄がなく、そして余分な力が込められていない。それ故にこそ彼は着地と同時に即座に振り返り、剣戟を放つ事が出来たのだ。そうして、数瞬の間に数十の剣戟が交わった。


「ふぅ……」


 数十の剣戟の果て。ひとまず互角の剣戟を交えたカイトは、仕切り直しとばかりに地面を蹴って背後に跳んで優雅に着地する。それに茉莉花も今の剣戟の応酬を受けて呼吸を整える為か、追撃しなかった。


「舞う様に剣戟を放つかと思えば、ただ戦う事も出来ますか」

「ああ。オレの流派には定まった型が無いのが特徴でね。連撃も回避も自由自在さ」

「素晴らしい事は認められますが……それは師が師として成立しているのですか?」

「さぁね。実際、事実としてオレは一切の型は教わっていない。だが間違いなく、この流派を極めているオレの師は世界一、二を争う領域の剣士だと思うよ」


 おそらく、このカイトの言葉を武蔵が聞いていれば即座に然りと同意しただろう。そしてカイトが一位二位を争う、と言った意味も。が、それは茉莉花にはわかる事ではなく、そして武蔵の解説も聞こえない。それ故、彼女はここを会話の終わりとして、再度地面を蹴った。


「はぁ!」


 今度は、先に比べて遥かに力強い切込みだ。が、それにカイトは一切の迷いなく打ち合う事を選択する。


「ふっ」

「っ、だが」


 自らの一撃を完全に受け流し一切のダメージなく次に繋げるカイトに、茉莉花はわずかにほくそ笑む。これほどの猛者とこんな早々に戦えるとは。そんな歓喜が、顔に滲んでいた。そうして再度数十にも及ぶ剣戟が一息に交わされ、今度は更に茉莉花が踏み込んだ。


「おぉ!」

「っ」


 強大な力で押し出され、カイトがわずかに押し込まれる。そうして一度押し込まれたのをきっかけとして、彼は大きく吹き飛ばされる事になった。


『おぉっと! ここでついに天音選手が吹き飛ばされた! それに茉莉花選手は一気に追撃を仕掛ける!』


 地面を蹴った茉莉花に、実況が声を張り上げる。そうして一瞬で消えた彼女に対して、カイトは神陰流を以って気配を察知。見るまでもなく居場所を把握する。


(それは、悪手だ)


 勝負を急いだか。それとも、カイトという思わぬ猛者と戦えて気が逸ったか。それは彼にはわからない。とはいえ、一つだけわかっていた事がある。それは茉莉花が悪手に手を出してしまった事だ。そうして背後に回り込んだ彼女に、カイトは空中で軽やかに姿勢を転換する。


「!?」


 空中で吹き飛ばされながら、姿勢を変えるだけで自身の攻撃を避けて見せたのだ。そんなカイトに、茉莉花が思わず目を見開いた。が、やはり彼女とて猛者。即座に返す刀を振るった。


「!?」

「ふぅ……王手、って所かな」

「……」


 軽やかに着地したカイトへと斬撃を放った茉莉花であったが、その斬撃はカイトの刀の鞘により防がれていた。そして彼の方はというと、空いた手に持った刀を、茉莉花へと突きつけていた。その一幕を見て、外の審判が声を上げた。


『勝負あり! 勝者、天音・カイト!』

「……降参です。あそこで背後に回るべきではなかったですか」

「ああ。真正面からなら、オレもこれは出来なかった」


 両者がすれ違う一瞬。カイトは茉莉花に見えない様に鞘に手を伸ばしていたのだ。ここらは二刀流こそを本域とする彼だからこそ安易に思いつけた事で、茉莉花が思い至らなかったとて無理はない。そうして、カイトは苦戦しながらもなんとか第三回戦を突破し、次の第四回戦へと足を進める事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ