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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第78章 天覇繚乱祭編

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第1843話 天覇繚乱祭 ――師弟の戦い・2――

 冒険部蒼ブロック各員の勝利で終わった一回戦が終わり、僅かな休憩を経て開始された天覇繚乱祭の二回戦。その戦いの序盤で、カイトは弟子である暦との戦いに臨んでいた。そうしてそんな師弟対決の中でカイトは暦の成長を実感すると共に、彼女が自身の弟子である事を再確認。改めて、彼女との戦いを開始していた。


「はぁ!」

「ふっ」


 カイトが<<一房(ひとふさ)>>を防いだ直後。暦はカイトの<<奈落(ならく)>>を何度も見ていればこそ、それに対してどう対処が出来るのか、と理解していた。それ故に彼女は即座にカイトへと次の一撃を叩き込まんとして、一方のカイトはまるで流れる様な動きでその前に剣戟を置いていた。


「っ」


 きぃん、という澄んだ音が鳴り響いて、剣戟が交わる。<<奈落(ならく)>>の長所。それは一切合切攻撃全てを無効化してしまえる事。<<奈落(ならく)>>の短所。それは一切合切を無効化してしまえるが故にこそ、生半可な腕では反動さえも無効化してしまう。

 現状、カイトもまだ本気ではやっていない。故にこそ、暦に伝わる筈の衝撃もまた無効化されてしまっていた。そしてだからこそ、彼女はカイトに攻撃が防がれてもほぼタイムラグ無しで次の攻撃に移れた。


「はぁ!」


 剣戟を防がれた直後、暦がそれをてこの様に利用してカイトの顔面へと飛び蹴りを叩き込まんとする。これに対して、カイトは僅かに首を傾げ回避する。そうして通り過ぎた暦の足であるが、追撃とばかりにもう一方の足がカイトへと飛来する。


「足グセが悪いな」

「先輩譲りです!」

「そうかい」


 暦の軽口に対して、カイトは刀を手放して徒手空拳を以って暦の蹴りを受け止める。そうして彼は絡め取る様に、暦の足を掴んだ。


「っ」

「さて、一度少し距離を取ろうか。おらよ!」


 暦の足を引っ掴んだカイトであるが、彼は軽々片手で暦を放り投げる。元々彼女は同年代の少女らに比べて小柄は小柄だ。軽く投げた筈でも、相当な勢いで吹き飛んでいた。


「つっ」


 吹き飛ばされる暦は虚空に刀を突き立てて急減速。二十メートルほど吹き飛ばされたものの、なんとか停止する。が、そんな所にカイトが一気に攻め込んだ。


「さぁ、こちらから行くぞ」

「っ」


 一瞬で自らの前に立っていたカイトに対して、暦はその場でバク宙。カイトのなぎ払いを天地逆さまにして回避する。そうしてくるりと空中で一回転して着地した彼女は、そのまま返す刀で横薙ぎの剣戟を放った。


「ほいよ」


 暦の斬撃に対し、カイトは即座に屈んで回避。そのまま地面を強く踏み締めると、一度だけ呼吸を整えて身に纏う圧力を増した。


「!」


 来る。圧力を増したカイトに、暦は本能的にそう理解する。それ故に彼女はカイトの射程圏から逃れるべく、後ろに跳んだ。と、そんな彼女であったが、どうしてか何かにぶつかる事になる。


「なーんてな」

「ひゃ!」

「圧力を感じ逃げたのは良いが、それがブラフか否かは考えるべきだったな……さぁ、ここから平静に戻して見せろよ」


 基本何も無い試合会場である。そこでぶつかった以上、それは相手選手しか居ない。である以上、この場合だとカイトしか居なかった。彼が優しく暦を抱きとめたのである。

 とはいえ、如何に彼でも状況は分かっている。なので抱きとめたのは一瞬で、即座に彼女放り投げた。


「ほらよっと!」

「ひゃあ!」


 再度投げられ、暦が可愛らしい悲鳴を上げる。とはいえ、それで終わりかと言うと、そうではない。故に彼女は空中で数度深呼吸を行なって、虚空を蹴った。


(ほぅ…… <<空縮地(からしゅくち)>>か。うん。十分な練度になってるな)


 カイトは暦の<<空縮地(からしゅくち)>>を見て、これなら十分に合格点をあげられる、と内心で喜ぶ。とはいえ、<<空縮地(からしゅくち)>>とて<<縮地(しゅくち)>>。一瞬で彼女はカイトへと肉薄した。そんな事を考える間があるのはやはりカイトだから、なのだ。と、そんな彼でも、次の一手には思わず僅かにでも目を見開く事になった。


「む」

「はぁ!」


 <<空縮地(からしゅくち)>>で虚空を蹴って急加速した暦であるが、彼女はカイトへと肉薄するも停止はしなかった。

 が、これは決して攻撃を放たなかった、という意味ではない。彼女はカイトの真横を通り過ぎる瞬間に刀を抜いて、カイトへと斬りかかっていたのである。


「とっ……へぇ……見事なもんだ。<<空縮地(からしゅくち)>>……いや、この場合は<<縮地(しゅくち)>>でも良いが。その最中に攻撃を放つか」


 暦の一撃を相変わらず剣戟を置く様な形で防いだカイトは、今度は<<縮地(しゅくち)>>で消えた暦に称賛を述べる。


「さて……」


 どうしたものかな。カイトは続く第二撃を同じように防いで、僅かに考える。別に彼だ。どうとだって料理してやれる。が、本気を出すとすると中々に味気ないし大人げない。


(いっそ、強引に止めてやるのも手だが……)


 <<縮地(しゅくち)>>を止めずに攻撃する利点は、やはりその速度に見合った攻撃速度になる事だろう。当然、その速度は時として優に音速を超える。故に相手は逃れ難い。平然と防いでいるカイトがおかしいだけだ。


(音速は超えてないわけだが、この速度だ。必然威力は高い。これを強引に止めるのは、今はまだやめたほうが良いな。となると……)


 手は決まるな。カイトは暦の一手から、自らの一手を導き出す。そうして、彼は次の暦の一撃に対して反撃を叩き込む事にした。


「ふぅ……」


 小さく、カイトが息を吐く。そうして一気に動体視力を高速化し、暦の一挙手一投足を捉えられる様になった。


(大分柔軟性が増したなぁ……)


 やはり身体性能であれば、カイトの方が圧倒的だ。そして動体視力をどれだけ上げているのか、というのはよほど高位の魔術師でも無ければ見抜けない。なので安心して、カイトは暦の一挙手一投足を見破れた。


(それに力の使い方もきちんと練習出来ているな。うん、真面目で良い事だ)


 この真面目さはオレには無いものだからな。カイトは内心で笑いながら、<<縮地(しゅくち)>>の再始動の為におそらく常人であればわからないほど一瞬だけ立ち止まる暦の動作をしっかりと見極める。

 この<<縮地(しゅくち)>>の連続をどれだけ高速化出来るか、というのはかなりの技術を要求される。これに近道なぞなく、何度も何度も<<縮地(しゅくち)>>の停止と始動の練習をして、初めて連続が出来るのだ。暦は少なくとも、この初歩の<<縮地(しゅくち)>>の連続についてはすでに極めつつあった、と言っても良いだろう。


(さぁ……さらに上を見せてやろう)


 弟子が技を見せたのなら、師は更に上の技を見せねばなるまい。そう考えていたカイトは、一直線にこちらへと向かってくる暦に対して、彼女が刀を抜く直前に行動に移った。


「!?」


 消えた。暦は一瞬で居なくなったカイトに、思わず目を見開く。が、すぐにカイトは見付かった。本当に一歩だけ、横にずれていたのである。動いた様子は一切無い。にも関わらず、一歩分だけ横にずれていたのである。


(<<縮地(しゅくち)>>……の亜種!?)


 何をしたのか、というのは暦はわからない。が、関係性からわかっている事があった。それは今自分が技を見せたのなら、それを上回る技を見せるのがカイトだ。なら、今の不可思議な現象も<<縮地(しゅくち)>>によって引き起こされていると考えて良かった。


「っ」


 一瞬だけ、暦の脳裏に迷いが生ずる。<<縮地(しゅくち)>>を連続させる攻撃がこれ以上通用するのか、と言うとそれは疑問が出るだろう。いや、そもそもの話として彼女の攻撃が通用するか、と言うとそれはまず首を振るしかない。

 だが、ある程度は通用してくれる様にはしてくれているのだ。なのでこのままこれを続けて通用する様になっているかは、わからなかった。とはいえ、まだ確定ではない。故に彼女は地面に一瞬だけ停止すると、反転して即座に<<縮地(しゅくち)>>を起動。カイトへと斬りかかる。


「今度は、もう少しゆっくりやってやろう」


 きぃん、という澄んだ音が鳴り響いて、暦の剣戟は防がれる。そしてその衝突の直後にカイトが口を開いており、それは鋭敏化されている暦の耳にも聞こえていた。つまり、もう一度向かってこいという事なのだろう。それに、暦は乗った。


「はぁ!」

「っと……見えたかな?」


 暦の斬撃を避けて、カイトが楽しげに笑う。それを受けて、暦はもうこれ以上この攻撃が通用しないと理解すると共に、カイトが何をしたかを理解した。


「……なんですか、今の」

「<<縮地(しゅくち)>>……ではあるな。練度は問うな、だが」


 おそらく今外では物凄い歓声が上がっている事だろう。カイトはそれを分かればこそ、僅かに苦笑を浮かべる。何がすごかったのか、と言うと彼の移動距離だ。

 言うまでも無い事であるが、<<縮地(しゅくち)>>は長距離を一瞬で詰める事が出来る移動技術だ。が、同時にその原理により、どうしても僅かな距離の移動には不向きだ。速度が速度故に移動しすぎるからだ。

 が、カイトはなんとそれをたった一歩分だけ移動してみせたのである。おおよそ名うての剣士だろうと完璧には出来る事ではなく、地球にてスカサハの指南を受けた彼だから出来る事と言ってよかった。


「それは兎も角。これに名は無い。単に<<縮地(しゅくち)>>だ」

「……思いっきり普通じゃない様にしか思えないんですが」

「あっははは。そうだな。だが、それでもこれは<<縮地(しゅくち)>>。ただ横に跳ぶというだけのな」

「どうやってるんですか……」


 <<縮地(しゅくち)>>は地面を強く蹴って行うもので、確かに背面に跳べる以上は横に跳べても道理にそぐわないわけではない。が、その難易度は想像を絶するものだ。人体が横に跳ぶのに適した構造をしていないからだ。それで<<縮地(しゅくち)>>をしようというのだから、簡単であろう筈がなかった。


「それは自分で考えて、頑張って練習しましょう」

「またですかぁ。たまには最初から教えて下さいよー」

「あっははは。弟子を甘やかす師匠、ってのも珍しいもんだぜ? 甘いのは自覚してるがな。ま、何時もの通り、取っ掛かりに気付けばそこから先はきっちり手取り足取りで教えてやるよ」


 えー、という顔の暦に、カイトが笑いながら師としての顔を覗かせる。とはいえ、暦は<<縮地(しゅくち)>>については十分な練度を得ていると彼は見た。なのでそう掛からずにとっかかりぐらいは掴んでくれると思っており、そこから先はまた自分が教えてやるつもりだった。そんな彼に、暦はため息を吐いた。


「はぁ……良し」

「ああ……来い」


 一瞬だけ何時もの二人に戻った師弟であるが、一転して気を取り直して試合を再開する。そうして、今度はカイトの側が地面を蹴った。こちらも当然、<<縮地(しゅくち)>>だ。が、練度はやはり段違いで、そして更に言えばまた別の技を披露していた。


「っ!」

「ほらよっと」

「はっ!」


 カイトが背後に回り込んだ事を悟ったと同時。暦は<<縮地(しゅくち)>>で一気に前へと飛び出した。それに、カイトが追撃する様に<<縮地(しゅくち)>>を始動。その速度はやはり比較にならず、彼女を追い抜いて真正面に立ちはだかる。


「ちょっ! 先輩! さっきから平然と私の横を通り抜けるの止めてくれません!? しかもわざわざ<<縮地(しゅくち)>>の最中を追い抜いて!」

「頑張れよー。これ、重要技術だからなー」


 自分が<<縮地(しゅくち)>>で距離を取る度に時に背後に、時に正面に回り込むカイトに暦が声を荒げる。とはいえ、彼女も中々と言えば中々なものだ。なにせカイトが正面や背後に回り込んだと気付くや否や、即座に各種の<<縮地(しゅくち)>>で距離を取るのだ。

 追撃を受ける事もなく、千日手にはなんとか持ち込めていた。まぁ、そんな事を言ってしまえば後出しにも関わらず常に先行出来るカイトはどれだけすごいのだ、という話にはなるだろう。


「っ、こうなったら!」

「ん?」


 どうやらカイトに良い様に弄ばれ、ムキになったらしい。暦がムキになるのはカイトとしてはよくある事では有ったが、それ故に何をしだすかは気にはなった。そうして、暦は<<縮地(しゅくち)>>を始動。そしてカイトが同じく<<縮地(しゅくち)>>を始動した直後に、急制動を掛けた。


「お……」

「はぁ!」

「とはいえ、まだ甘い」


 <<縮地(しゅくち)>>の最中に急制動を掛けるのは、かなりの高等技術だ。本来の移動先とは全く別の所で止まらねばならないからだ。そしてこれを応用したのが、カイトが使った<<縮地(しゅくち)>>の最中での軌道修正だ。が、やはり所詮は付け焼き刃。カイトは簡単に屈んで攻撃を回避していた。そうして自身を追い抜いた暦に向けて、彼はとんっ、と手刀を叩き込んだ。


「はい、終わり。あまり長々とやっても他所でやれ、と言われかねんからな」

「そうですね……降参です」

「はい、よろしい」


 このままやった所で、どうやっても暦に勝ち目はない。そしてカイトとしては暦の練度を見たかっただけだ。そろそろ良いだろう、と二人は思ったらしい。暦としても今の自分に出来るほぼ全てを披露した。これ以上出せる手は一切無かった。そうして、二人は予選大会の時とは違って何時もの様に会場を後にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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