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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第78章 天覇繚乱祭編

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第1842話 天覇繚乱祭 ――師弟の戦い――

 エルネストから受け継いだ<<走追閃(そうついせん)>>から<<無塵連閃(むじんれんせん)>>までの流れを使い難なく一回戦を突破したソラ。彼の勝利を以って、冒険部蒼ブロックの面々は初戦を勝利で飾る事に成功する。

 まぁ、そう言ってもここまで残っているのは冒険部でもエース級と言える面々なので不思議はないし、妥当な結果ではあった。なのでカイトはひとまず初戦を勝利で飾ったソラに対して、さほど大きな喜びは見せず普通に出迎える事になった。


「おめでとさん」

「おう……って、軽いな。一応ダチなんだから、もうちょい喜んでくれよ」

「おいおい……当たり前だろ。今のお前なら初戦敗退はよほど運が悪くなけりゃありえない。それだけの実力を身に着けてるんだ。ここで負けたなら、逆に相手選手に興味が湧くぐらいだ」


 どうやら自分の勝利を確信してくれていたからこそ、ここまで簡素な祝福らしい。ソラはそれを理解しながら、試合を待つ間の休憩に使う椅子に腰掛ける。


「ふぅ……にしても、やっぱり本戦になると全体的に腕が違うよな。予選の初戦はもっと楽勝だった気がしたし」

「そ、そりゃそうだろ……予選はあくまで予選。ここに残った奴ら以下の実力だけだ。ここに残ってるのは、お前と同じ様にそんな奴らとの戦いを勝ち抜いてきた奴らばかり。予選の最終戦ぐらいの戦闘力が最初からある、と考えた方が良い」

「か……」


 大会後のソラ曰く、予選の初戦であれば(スキル)も使わずに勝てた、との事だ。が、本戦では初戦からアーブル流の二つを使わざるを得ない状況であり、彼も使うと決めていた。ここからあまり手札は温存出来ないぞ、と最初から思っていたらしい。


「……まだ余裕そうだな? 手札はあれだけじゃない、という事か?」

「おい……一応ここじゃライバル扱いなんだから、聞くか?」

「あはは」


 カイトは肩を落とすソラの返答に笑い、それで良いとばかりに肩を竦める。とはいえ、そんな事をしている間にも一回戦終了を受けて休憩に入った大会は二回戦が始まっていた。


「で……お前は次は暦ちゃんか」

「ああ……だから、暇でな」

「おい……いや、俺はもう最後しかない、ってわかってるから良いんだけどさ」


 やはり暦は相手がカイトだ。なのですでに戦いに向けて集中状態に入っており、カイトも声を掛ける事は遠慮したらしい。一方、ソラはどうやら次の相手は彼と同じくここでの予選を勝ち抜いた者らしくまだ気楽で、当然カイトはこの場で気負いがあるわけもない。なのでカイトはソラに声を掛けていた、というわけなのだろう。


「瞬殺するのか?」

「まさか……弟子の成長ぐらい見るさ」

「あんま、時間掛けてなぶり殺しみたいな事してやんなよ?」

「おいおい……可愛い弟子にそんな事はしないさ。後で拗ねられるしな」


 なんだかんだ恋人になった事で見える側面もあるし、見せられる様になる顔もある。カイトは暦について、内心でそう評していた。そうして、集中する弟子に対して師は何時もの様にどこか傲慢にも見える姿で、自分達の試合の開始を待つ事にするのだった。




 さて、天覇繚乱祭の第二回戦が開始されてしばらく。数度の戦いが行われた後に、ついにこの時がやって来ていた。


「天音・カイト。天ヶ瀬・暦……前へ」

「「はい」」


 自分の名を呼ばれた二人が、ほぼ同時に立ち上がる。が、その在り方は正反対と言って良い。一回戦からどころか試合開始前から何も変わらないカイトと、二回戦でカイトと戦うと理解してから完全に剣士としての顔になった暦。やはり経験の差が、余裕として現れていた。


『さて……先生。二回戦注目の一幕。日本人同士の師弟対決がついに行われようとしております』

『うむ……一応、暦の方は儂も教えてはいるが。基本はカイトが育てたと言って過言ではあるまい』


 やはり日本人同士。しかも師弟の戦いとなるのだ。ただでさえ師弟での戦いは注目の的になるのに、この上に日本人同士の戦いという事で相当な注目を浴びていた様子だった。とはいえ、すでに試合の場に上がっている二人にはそんな声は一切聞こえていない。が、武蔵はそれ故にこそ遠慮なく告げた。


『さて……まぁ、この試合については敢えて儂が師の立場から述べよう。まず、勝敗は確定しておる』

『と、言いますと……やはり天音選手で?』

『しかあるまい。これは下馬評通り。ここに大番狂わせは起こりえん。両者の付き合いは地球であればすでに年を超える。どちらもお互いの性格も熟知しておろう』


 しかも両者は今は恋人でもあるしのう。武蔵は口にはしなかったものの、内心でそう思う。この時点で、おおよそ暦がカイトの意表を突くというのは不可能に等しい。これがまだアリスが居れば状況も異なるというものであるが、暦一人だけであればどう足掻いても意表を突く事は難しかった。


『とはいえ、それで見所が無いか、と言われるとそうではない。これが良いか悪いかは定かではないが……先の予選にてカイトは兼続……ああ、あれのギルドの幹部の一人。黒ブロックで戦っておった儂の弟子の一人じゃな。あれとの戦いで些かの遊びを見せた。故に、この戦いは終始カイトが遊ぶ展開にはなろうが、それ故にこそ、暦の飛躍も起き得る』

『その飛躍がどの様な物になるか、というのが楽しみですね』

『うむ。儂も師である以上、師範代がどの様な指南を授けるか、と興味がある。まぁ、ここらは儂らの内輪ネタで悪くは思うがのう。とはいえ、師弟が戦い師が上であれば、これは起こり得る展開と言うしかあるまいな』


 実況の言葉に笑いながら、武蔵はこの戦いの間はこの二人の試合を常に自分の見える位置に置いておく様にする。そうして、そんな武蔵や観客達の見守る前で、二人は試合会場に立った。


「ふぅ……ここ一週間碌に稽古はつけてやっていないな。この予選でお前がどんな成長を遂げたか。それを確認させて貰おうか」

「はい……勝つつもりで行きます」

「その意気だ」


 真剣に、剣士の顔で自身を見る暦にカイトは嬉しそうに頷いた。前の予選とは違う、しっかりと心技体の整った一端の剣士の顔。暦が浮かべる顔はそれで、曲りなりにも師であるカイトには剣士としてそれが嬉しかった。


(信綱公……なんとなくですが、貴方が長い時の中で弟子を受け入れる気持ちがわかる様な気がします)


 おそらくこんな風に弟子が剣士として成長していくのを見て、嬉しくもあり楽しくもあるのだろう。カイトはおそらく信綱の影響で得る様になった自身の新たな側面を理解して、内心で師へと小さく感謝を述べる。そうして、カイトは審判へと一つ頷いて、その視線を受けた暦もまた一つ頷いた。


「では、はじめ!」


 審判が告げるや否や、試合が開始されて結界が展開する。そうして場にはカイトと暦。師弟のみとなった。


「……」

「……」


 やはり師弟だからだろう。どちらも形は違えど本気であればこそ、初手は攻め込まない。が、その構えは違っていた。カイトは言うまでもなく神陰流。一切の構えを無くした自然体。それに対して暦は基本使えるのは蒼天一流のみ。故に基礎となる正眼の構えだった。


(さぁ……どう来る?)


 この模擬戦はもう何十回も繰り返した。故にこうなるのは何時もの通りであり、カイトはそれ故にこそ初手は暦に選ばせる事にしていた。以前の予選とは違い、悩みも迷いも無い。圧倒的に格上の師を相手にどう攻めるか、というのを必死で思案する彼女の邪魔をするのは師として頂けなかった。

 そうして、少し。観客達からすればほぼほぼ有ってない様な時間にして、彼ら二人にとっては熟考と言っても良い時間が経過する。


(……そう、来るか)

『ほぅ……』


 刀を鞘に仕舞った暦に、カイトが僅かに目を見開いて武蔵が思わず感心した様に吐息を漏らす。そんな二人なぞ一切気にせず、暦は意識を集中していた。


「……」

「……」


 ああ。最大までやれる限りをやって、掛かってくると良い。カイトは更に集中を重ね、自身との戦いに備えて力を蓄積する暦に向けてそう内心で告げる。そうして、十数秒。集中状態に入っていたからかそれだけの速度で、暦は自身のフルスペックを出せる状態に持っていった。


「……これが、今私が出せる全力です」

「……来い。それが全力であろうと無かろうと、お前にはそれしか道がない。それが全力と示したいのなら、身を以てそれを証明してみせろ」

「はいっ!」


 カイトの返答に、暦は強く声を発する。そうして、直後。彼女は音を置き去りにした。


「はぁあああああ!」


 <<縮地(しゅくち)>>で以って音を置き去りにカイトへと肉薄した暦が放ったのは、<<一房(ひとふさ)>>だ。それは彼女が最も得意とする攻撃で、蒼天一流の全ての基本にして極めれば最強の一撃にも成り得る攻撃だった。そんな一撃に対して、カイトは敢えて刀で受け止めた。


「……」


 吹き飛ばされながら、カイトは僅かな感慨を得る。やはりこの一撃はなんとも暦らしい一撃と言える。そして同時に、自身の弟子らしいとも。


(やっぱ師と弟子で似てきているのか、それとも似ているからこそ師と弟子であるのか……どちらかはわからんなぁ……)


 吹き飛ばされるカイトが考えるのは、そんな事だ。常々言われている事であるが、カイトに天才的な武芸の才能は無い。唯一石舟斎や宗矩らを遥かに上回ると言われる神陰流の適性を除けば、あくまでも彼の才能は秀才から凡才止まりと言える。

 まぁ、人によっては逆に下手な分野が無い方がすごい、とも言わしめるわけであるが、それはある特定分野において天才達と同じ土俵で戦うにおいて大した役には立たない。彼が天才たちと渡り歩けるのは、そのある程度の才能に加えて彼の弛まぬ研鑽があればこそだ。


(数千、数百……それだけの鍛錬を経ている。十分、この<<一房(ひとふさ)>>だけなら免許皆伝だ)


 元々暦が得意としていたのは居合斬りだ。それに指南を与え他の技術を、戦い方を教えたのはカイトであるが、元々得意な分野が失われたわけではない。

 それどころか他の技術が得られた事で更に先鋭化されたとも言える。故に、この<<一房(ひとふさ)>>であれば暦は自身と同格。十分に極めたと言って良い領域だった。とはいえ、それだからとカイトに勝てるわけではない。彼はこれを極めた上、他の武芸についても極めている。


「……」


 吹き飛ばされたカイトは空中で身を捩り、まるで軽やかに地面へと着地する。そうしてそんな彼の眼前に、暦が再度肉薄した。その刀はすでに鞘に仕舞われており、再度の<<一房(ひとふさ)>>に備えて力が溜められていた。


「はぁ!」


 一度目の攻撃を受け止めたカイトであるが、流石に二度も同じ事はしない。確認は一度で十分。二度目は単なる戯れにしかならない。そして、ここではそんな戯れを見せる場ではなかった。


「<<奈落(ならく)>>」


 暦の<<一房(ひとふさ)>>に対して、カイトは神陰流の<<奈落(ならく)>>と呼ばれる技術を以って相殺する。全く逆の流れを打ち込む事で敵の攻撃を一切合切無効化してしまう、という絶技だった。


「っ、はぁ!」

「ふっ」


 かき消えた自身の<<一房(ひとふさ)>>を見て一瞬驚いた顔を浮かべた暦だが、即座にカイトならこれぐらいは何時もやっていることだ、と気を取り直す。そうして、師弟の戦いは本格的な段階へと進んでいく事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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