第1839話 天覇繚乱祭 ――開幕――
世界最大の武術の大会となる、天覇繚乱祭。その前日になり、カイトは冒険部の面々の中でも本戦出場者達を率いてくじ引きを行う事になっていた。そうしてくじを引き終えた後、彼は一度控室に入って次の工程を待つことになる。そんな中、暦がふとした疑問を口にした。
「そういえば……今回は前日なんですか?」
「くじ引きか?」
「はい」
皇国で行われた予選大会の時には大会当日にくじ引きが行われ、そのまま即座に試合と相成っていた。が、本戦となる今回は大会前日にくじ引きを行い、明日の朝一番から試合開始との事だった。本戦の参加者数が予選大会と大差が無かった事を考えれば、些か可怪しい様に思えても無理はなかった。とはいえ、これに理由が無いわけがなく、カイトはそれを教えてやった。
「ぶっちゃければ、金だな」
「金?」
「そう、お金。前日にくじ引きやって、今日の夕刊の一面に大々的に出すんだよ。勿論、くじ引きでチケットも売れるし。開会式みたいなもんだからな。それだけで売上が上がる。で、更に明日の朝一番に詳細な内容を書けるし、そちらもまた売上が上がる」
「なんていうか……えーっと……なんていうか……すごい現金な理由だったんですね……」
「ここの統治者が誰かを知ってれば、無理もないさ」
どこか興ざめな様子の暦に対して、カイトは別に驚く事もないと笑う。ここの統治者は燈火。サリアとどちらが守銭奴か、と比べられる人物だ。この商機を逃すわけがなく、徹底的に利用するつもりらしかった。
「え、えーっと……仁龍様は何も仰らないんですか?」
「? ありえねー……あの爺なら酒が飲める日数増えたー、って喜んでるぞ」
「そ、そうですか……」
確か古龍達は揃ってウワバミだったっけ。暦はカイトが酒盛りを開く度、気付けば参加している事が多い彼らを思い出して頬を引き攣らせる。実際、今回の来訪でもカイトは仁龍につけ届けとして酒を樽で複数届けさせており、今の仁龍は非常に上機嫌との事であった。
「というわけで、気にするだけ無駄だろ。実際、オレ達としても前日の時点で出場者が分かるのは良い話だ」
「はぁ……」
「わからないか? 前日の時点で対戦相手が分かっていれば、それに向け対策が立てられる。もう戦いは始まってる。相手の情報を集めて、試合を確認して……ってな」
「あれ? でも確か、この大会って他の試合の覗き見とか禁止なんじゃ……」
「ああ、禁止だ。が……気配で読み取れる奴は読み取れる。だから、戦いの数は限られるんだよ。読み取りやすい様にな」
つまりそれができない時点で優勝は難しいのだろう。暦はカイトの言葉をそう読み取った。そして事実そうだった。
「ま……丁度良い訓練の機会だ。気配を読んで戦いを察する方法を学んでおけ」
「……どうやって遠くの戦いの気配を読むんですか?」
「……頑張って、としか」
暦の問い掛けに、カイトはそんな曖昧な答えしか返せなかった。流石に彼も感覚を得る方法までは説明できなかったらしい。とはいえ、流石にそれだけでは終わらなかった。
「ま、まぁ、そう言っても。すでに気配は読める段階には到達しているんだから、後はその範囲を伸ばしていくだけだ。特に今回は猛者同士の戦いだ。練習には丁度良い」
「はぁ……」
確かに暦としてもカイトの指南により気配を読むことぐらいはできるようになっており、なんだったら暗闇の中でもある程度なら戦える。基礎はある以上、後は練習しかないのもまた事実だった。彼女もそこには異論は無かった。というわけで、そんな彼女にカイトが問いかける。
「後は……そいつを十分に使いこなす事だな。使ってみたか?」
「あ、はい。一度アリスと模擬戦を……ただ、強すぎて少し使い難いです」
「それこそ慣れだ。武器を替えた以上、どうしても使い勝手に差は出る。そこを慣らすのは冒険者にとって避けられない事だ」
冒険者は基本、戦っている。である以上、何かしらの武器は持っていると考えて良い。そして武器は消耗品。どれだけ大切にしようと、失われる可能性はある。その度に新しい武器を手に入れるわけであるが、その度に慣らしていかなければならないのは、当然の話だった。
「とはいえ……強過ぎると思えるという事は、今までよりずっと弱い力で今までと同じ威力の攻撃を放てるという事だ。より持久力が上がったと考えて良い。勿論、使いこなせればの話だが」
「はい」
「ああ……刀に振り回されるなよ? 刀は振り回すもんだかたな」
「はい」
カイトに助言に、暦が再度頷いた。そうして指南に似た会話を繰り広げていたわけだが、どうやら気付けばそこそこ時間が経過していたらしい。しばらくは控え室に入ってくる人が途絶えていたのだが、大会の係員が入って来た。
「試合のトーナメント表が出来上がりました! ご確認される方は本戦会場、もしくは受付があった場所までお越し下さい!」
「出来たか……良し。行くか」
係員の言葉を聞いて、カイトは一同へと声を掛ける。そうして向かったのは、本戦の会場だ。こちらの方が見やすいらしい。
「……おぉう、こりゃまた。面白い構成になったもんだ」
トーナメント表を見て、カイトは思わず頬を引きつらせる。そして彼の感想はソラもまた、得たらしい。
「結構、固まっちまったな」
「そうだなぁ……見事に固まったか」
結論を言ってしまえば、そう言う事だったらしい。冒険部の半数ほどが蒼のブロックに固まっており、カイトを筆頭にソラ、暦もこのブロックだ。おまけで言えばセレスティアまで同じであるが、カイトとは順当に行けば基本は戦わない形ではある。そうしてそんなトーナメント表を見て、カイトは笑った。
「で……まさかまさかの展開か」
「うぅ……最悪です……」
「……なんってか……ご愁傷様」
ガックリと落ち込む暦に、ソラが半笑いで慰めを送る。というのも、原因は彼女の二回戦にあった。
「初戦ではないだけ……まぁ、マシでは……ないか」
「だね……」
流石に掛ける言葉が見当たらなかったらしい。ルーファウスもアルも頬を引き攣らせるだけで、慰めを送る事も出来なかった様だ。それに対して唯一、カイトが楽しげだった。
「まぁ、遊んでやるから安心しとけ」
「全然安心出来ませんよ!? というか、なんで私が一番最初に先輩と戦う羽目になるんですか!」
「大丈夫。二回戦だから」
「何が大丈夫なんですか!?」
カイトの返答に対して、暦が半べそを掻きながら声を荒げる。というわけで、そういう事だったらしい。基本これだけ居れば冒険部の誰とも戦わないかな、と思われるわけであるが、何の因果か暦とカイトは二回戦で戦う事になったらしかった。
そして当然、暦が一回戦敗北はあってもカイトが一回戦敗北は無い。というより、依頼がある以上、よほどの相手でなければ負ける事はありえない。つまり、暦は一回戦に勝った時点で自動的にカイトとの戦いが確定した様なものだった。
「たまさか師匠が弟子の腕を見てやるのも、修行の一環だ。まー……全力でやりゃ良いんじゃね? 後考えんで良いだろうし」
「相手先輩で後先なんて考えられませんよ!?」
お気楽極楽なカイトに対して、暦は只々自身のくじ運の無さを嘆くしかない。そうして、そんな師弟を横目に一同は自分達のトーナメントの状況を確認し、明日に備えて宿へと戻る事にするのだった。
さて、明けて翌日。この日は朝から天覇繚乱祭が始まる事になるわけであるが、そういうわけなのでカイトは開会式に出ていた。とはいえ、今年はどうやら大会出場の選手達もそうであるが、主催者の側にも一味違う状況になっていたらしい。
『……では、仁龍様よりお言葉を頂きます』
『うむ』
開会式の場が不自然なほどに静寂に包まれる。当然だ。なにせ相手は仁龍。古龍の一角にして、この国の真の統治者だ。誰しも――ただしカイトを除く――に緊張が見て取れて、誰もが仁龍の言葉を待った。
『儂はあまり長々と話すのは好かん。というより、話すつもりも無かったが……』
というかぶっちゃけ。酒飲みたいからさっさと帰らせろって考えてるんだろうな。カイトは仁龍の言葉を聞きながら、彼の内心を正確に読み当てる。言うまでもないが、彼はカイトからの付け届けの酒を飲んでいた。で、カイトが出るというので一応の義理と酒の肴に、と思い大会を見に来たそうだ。
が、そうなれば当然大会関係者達が大慌てで席を用意して、となるし、そうなれば必然大会の運行にも支障が出る。そして当然、彼から一言貰えれば、という話が出ても無理はなく、最終的に燈火の押し込みに負けて一言述べる事になったらしかった。
『まぁ、かつての勇者でさえ、この大会では負けがあった。それほどに波乱万丈な大会となる事を期待し、儂は酒でも飲ませてもらう。大いに武を競うが良い』
「「「おぉおおおお!」」」
ここまでいい加減な言葉でありながら、それでもある程度の覇気があるのはやはり仁龍が超常の存在だからなのだろう。彼の言葉が終わり背を向けたに合わせて、選手達が雄叫びをあげる。
これで、大会が正式に開幕したと言って良い。そうして大会が開幕したわけであるが、ここからは各々四つの会場に分かれて各々の戦いだ。というわけで、カイトは同じブロックの者たちと一緒にあてがわれた会場に向かう事にする。
「うっし……やるか」
ごきごき、とカイトは首を鳴らして手を振る。簡易の準備運動、という所だろう。そんな彼の横を歩くセレスティアがふと、彼へと声を掛けた。
『そういえば……今回カイトはどうするんですか?』
「どうする? 何が?」
『いえ、戦い方です』
「ああ、それか」
カイトの戦い方は基本、様々なスタイルを切り替える戦い方だ。これについては敢えて自身がもう一人の自身と違う事を印象付ける為、セレスティアの前では見せる様にしていた。なので彼女もそれについては知っており、どうするか少し興味があったのだろう。
「流石に今回はオール武器オッケーな戦いでも、こいつ一つで戦い抜くさ。武器の登録も面倒だしな」
『……魔力で武器創れるのでは?』
「それはそうだが……今回は剣士として勝ち進みたいからな」
セレスティアの問いかけに対して、カイトはそう嘯いた。今回、彼にとってこの戦いはあくまでも石舟斎に向けた調整の意味合いがある。
そして石舟斎は剣士として下す、と決めているカイトだ。ここでわざわざ勝つ為に武器の創造という切り札の一枚を見せてやるつもりはなかったし、何より調整ができなくなる。この大会に出た意味が無かった。
「で……その一方でお前はどうするんだ?」
『私ですか? 私は何も隠していませんよ?』
「違う違う。その大鎧だ。無ければ、もっと速いだろ?」
不思議そうなセレスティアに対して、カイトは笑いながらはっきりと明言する。それに、セレスティアが笑った。
『内緒です……それにこの大鎧は目印ですし、何より『敵』を前に手札を明かす必要は無いでしょう?』
「あ。オレ言ったのに」
『勝手に言っただけです』
僅かに楽しげなカイトの言葉に、セレスティアが楽しげにそう嘯いた。まぁ、彼女も優勝する事にさほどの意味は感じていない。特に今回はシード権を貰ってしまったので参加しただけ、というのが彼女のスタンスらしい。あまり有名になりすぎても困るので、とのことだった。そんな二人の背を見ながら、暦が呟いた。
「……やっぱりお二人共、普通じゃないです……」
「だな……なんでこんな場であんな平然と出来るんだよ……」
暦のつぶやきに対して、ソラも素直な同意を示す。なにせ周囲ではすでに殺気立っており、無言で歩く者が大多数だ。それに対してカイトとセレスティアは至って何時もの通りで、何も変わった様子はない。
この状況下でこれである。やはり二人共大物としか言い得なかった。無論、大物で間違いない。なにせ二人共英雄と言える存在なのだ。当然である。そうして、そんな彼らは各々の様子で大会の会場へと向かう事になるのだった。
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