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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第78章 天覇繚乱祭編

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1867/3942

第1838話 天覇繚乱祭 ――くじ運――

 ついに始まった天覇繚乱祭。その会場にやって来たカイトが出会ったのはかつてラエリア内紛において彼と交戦し、命辛々なんとか逃げおおせていたディガンマという凄腕に剣士だった。そんな剣士との遭遇をきっかけとして、カイトはこれからの戦いの激闘を予測する。そうして、彼との遭遇の直後。鳴り響いたアナウンスに従ってカイトは他の冒険部の面々と共に会場へと足を踏み入れていた。


『おぉっと! 次に来ましたのは、本大会の実況を務めて下さっております武蔵先生の同胞! そして伝説の勇者達の後輩達! そしてそしてそして! かの聖騎士の子孫と、その本家の天才騎士二人だぁ!』

「「「おぉおおおおお!」」」


 カイト達が入ってくると同時に、まさに割れんばかりの喝采が響き渡る。どうやら、それほどまでに待ち望まれていたらしい。


「すごいな! こんな喝采! 日本でも受けなかったぞ!」

「それだけ、望まれてるって事なんでしょ!」


 あまりの大歓声に声を大にしなければ話せないらしい瞬とアルが声を張り上げる。とはいえ、それでもギリギリだった。


「しゃーない! この大会には世界中から腕利きが、観客が来る! 海を越えて名を馳せる様な戦士も多数いる! 観客のボルテージは上がる一方だ!」


 どうやら有名所がひっきりなしにやって来るからなのだろう。観客の歓声は鳴り止む事を知らず、カイトが言っている間にも再度の大歓声が響いた程だった。


「「「わぁあああああ!」」」

『さぁ、次は……おぉっと! こちらは大会の常連の一人! この大会を毎年追っているのなら誰もが知る優勝候補の筆頭! 三年前の優勝以降、一昨年は初戦でこちらも優勝候補の一人と戦い二回戦で武蔵先生に惜しくも敗れ、去年は去年でくじ運に恵まれず消耗! 今年はその悪運を払拭できるか!』

「……」


 そのレベルが後ろから来るんっすか。カイトは思わず言葉を失った。これで怖いのは、これがディガンマではない所だろう。戦闘力では定かではないが、この大会に限れば彼に匹敵するかそれ以上というのだ。間違っても戦いたくはなかった。と、そんな大歓声に対して、暦が緊張している事にカイトが気付いた。


「……」

「緊張はするなよ。いつも通り戦えば良い。どうせ戦いが始まれば、歓声も全て消える。やれるだけやる。それだけだ」

「は、はい」


 カイトの助言に、暦は若干上ずった声で頷いた。こちらはやはり修練の違いという所だろう。普通の声で聞こえている様子だった。そうして一通り話をした所で、順番待ちの列にたどり着いた。


「これ……何人ぐらいいるんだろ」

「さぁ……例年だと二百人ぐらいだったかなぁ……」

「に、二百人……」


 相変わらずとんでもない規模の大会だ。ソラはアルの返答にそう思う。と、そんな彼は改めて列を見直して、妙な人物を見つけ出した。


「……へー」

「どうしたの?」

「ほら、あれ。ハーフリングかな?」

「……本当だ。かなり小さいね」


 ソラの指摘を受けてそちらを見たアルが、驚いた様に目を見開く。そこに居たのは、丁度彼らの腰ほどしかない狐面を被った小柄な剣士だ。とはいえ、その身に似つかわしくない程に長大な刀を背負っており、大会の参加者だと察せられた。


「あれで振るえるのか、とは言わない方が良いんだろうな」

「間違いなくね。ハーフリングにも腕利きの剣士は多いよ。それどころか、小柄さを活用した技で翻弄される事の方が多い。十分に、注意するべきだよ」


 僅かに剣呑な雰囲気を醸し出したソラに、アルが同意した。が、その顔にはやはり剣呑さが見え隠れしており、相手はひとかたならぬ相手と察している様子だった。そしてそんな様子に、カイトもまた気付いたらしい。


「正解だ、二人とも。あの刀……間違いなく最上大業物に類する刀だ。あれを扱えるとなると、相当だぞ。間違いなく、この大会の優勝候補の一人と考えて良い」

「最上……」

「大業物……」


 刀に中で最上位に位置するそれを手にした剣士。それは間違いなく、今のソラ達より強い存在だった。小柄と油断すればまず間違いなく、一瞬で勝敗は決するだろう。勿論、こちらの敗北で、だ。


「……真正面からはやるなよ。あの子は間違いなく化物になる可能性を秘めている。真正面からやって育てると、本気で勝てんぞ」

「……気をつけよ」


 やはり英雄の技と魂を受け継げばこそだろう。ソラにも相手が化物かどうかぐらいは、見えるようになって来たらしい。決して真正面からは戦わない事を決める。


「それが良い。他にも……あっちの眉目秀麗な剣士やさっきのディガンマ。他にもこいつもな」

『……私は叶うならこの大鎧を着て貴方と戦いたくないのですが』


 とんとん、と何時もの調子で自身の鎧を叩くカイトに、セレスティアは小さく呟いた。彼女も予選大会でカイトの戦闘力を嫌というほど思い知った。その結果、出来る事ならカイトとは二度と戦いたくないと思うようになったらしい。


「そ、そこまで言うか?」

『……妙に戦いにくいんです。貴方とは』

「なんでさ」

『いえ、言っても詮無きことではあるのですが……』


 どこか気恥ずかしさを滲ませて、セレスティアは言葉を濁す。とはいえ、これはカイトが悪いといえば、カイトが悪い。彼の戦い方は確かにかつて存在した彼とは異なっているわけだが、本気になった彼の武器やその在り方は変わっていない。結果どうしてもセレスティアの脳裏には伝え聞くもう一人のカイトの姿がチラついて、やり難いそうであった。


「?」

『……いえ、なんでもありません』


 カイトがかつて自分達の祖先と共に戦った伝説の勇者かどうかは、セレスティアにはまだわからない。だがそれを口にする事は出来ない以上、今は何を言っても無駄と彼女も理解していた。というわけで、何も言わねばカイトにも伝わるわけがない。


「まぁ、それなら良いけどさ……っと、そういうわけで、ソラ。基本お前は特にこの大鎧とは戦うべきじゃないな」

「わかってるよ。明らか勝ち目ないし」


 素のスペックとしては自分を上回るし、戦闘スタイルも速度より威力を重視するスタイルだ。これで勝とうと思うのならこちらがセレスティアを圧倒できる何かが必要になる。

 それはソラであれば神剣と受け継いだ英雄の武芸になるわけであるが、残念ながらセレスティアの武器も実態は物凄い領域の武器だ。そして彼女当人も英雄の武芸を引き継いでいる。ここまで相手が圧倒的に有利な状況では、勝ち目なぞ見えなかった。


「あっははは。端から諦めるもんじゃないさ。そりゃ、初戦で当たればキツいだろうが……初戦で当たらなければ、なんとかなるかもしれん。そこらは運次第。運に身を委ねるのも、時には大切だ」

「それ、逆説的に言えばまともに戦ったら勝てない、って言ってると同じだよな……」

「そうとも言う」


 流石にカイトも真正面からセレスティアと戦わされる事になった場合、ソラに勝ち目があるとは口が裂けても言えない様子だった。こればかりは流石に彼女の方が圧倒的に潜り抜けてきた死線の数が多い事と、血統や培ってきた年月がある事が大きいのだから仕方がないだろう。

 故に笑いながらはっきりと明言したカイトであったが、どうやらそうこうしている間にもくじ引きは始まっていたらしい。ゆっくりとだが列が動き出した。


「ん……どうやら、動き出したらしいな」

「予選でも本戦並に人出るんだな」

「世界最大の大会だからな……さて、どうなりますことやら」

「とりあえず俺は初戦ぐらいは突破しときたいなー……」


 楽しげなカイトに対して、なんとも気弱な発言をするソラもどこか楽しげではあった。とはいえ、流石にランクA相当の冒険者であるソラだ。予選がどうなっていたかはカイトにもわからないが、その経過次第では勘も取り戻せている事だろう。であれば、十分に初戦ぐらいは突破する事が出来るだけの素養はあると認められたらしい。


「初戦は運がよほど悪くなければ、突破出来るだろうさ。さっき要注意と言ったわけだが……逆に言えば、それ以外は今のお前なら順当に戦えば勝てるというわけでもある」

「あ……そっか。そうだよな……」


 ディガンマ然り、先程の小柄な剣士然り。ああいった存在は目につくしどうしても視線が引き寄せられてしまう相手であるが、逆に言えばそれ以外の存在はそれ以下であるか、カイトの様に上手く爪を隠しているが故に注目に値しない、と本能的に判断しているわけでもある。

 となると、それは即ちなんとかなる、と直感で察していたに他ならなかった。運良くそういった者たちを引き当てられれば、冒険部の面々でも十分に三回戦ぐらいまでは突破出来たのである。故にカイトは僅かに気負いが見え隠れするソラに、一応の事実を告げた。


「ま、これだけ多いんだ。運が悪くなければ、早々引き当てはしないだろう」

「運が悪ければ?」

「オレと当たる」

「それ最悪」


 どうやら、この軽口のじゃれ合いはソラにとって気分転換になってくれたらしい。何時もの調子が大分と戻ってきていた。というわけで、何時もの調子が大分と戻った彼を良しとして、カイトは改めて自身の敵達に目を向ける事にした。


(あの小柄の剣士は……まぁ、考えるまでもないか。であれば、後は天運に身を委ねるしかないが……最悪は決勝になるわけだしな。こうなると面倒だが……)


 先にソラとアルが見ていた狐面の小柄な剣士。あの正体をカイトは知っていた。が、それを知っているのはカイトだけ。そしてソラ達はその正体を聞いた所でわからないだろうし、カイトとしてもわざわざ時間を割いてまで教えてやるつもりはなかった。


(ここは本当に天運に身を任せるしかない、か。可能なら二回戦……望めるのなら三回戦。そこで当たっておきたい所だが……)


 今回、言うまでも無い事であるがカイトも一般人として参加している。なので本来の彼ならば可能なくじを引かずに場所を決める、という特別待遇での参加も無い。本当に天運に身を任せるしかなかった。


(ちっ……仁龍の爺か燈火の奴に大会の報奨見直しを進言しておくか。もし万が一悪用されれば面倒だ、とは前にティナが指摘していたが……いや、悪用を考えて優勝出来る奴なんぞ早々いないし、優勝出来る腕を持つならわざわざんなこと考えんでも合法的に色々と出来るしなぁ……)


 カイトはここ数日掛けて調べ上げたとある事を思い出して、盛大にため息を吐いた。大会の報奨。これが何か、というのは改めて言うまでもない事だろう。天覇繚乱祭の賞品だ。

 常々単なる最強という名を決める大会、と言われているわけであるが、それだけが全てというわけではない。先に言われていた<<月天>>という系統の刀に加えて、実はもう一つ。あまり注目されない報酬があったのである。


(……可能な限りの望みを叶える。それが他者に迷惑を掛けない程度であれば、だが。それが大会のもう一つの賞品……中津国に限り超法規的措置も可能なミラクルな賞品)


 はぁ。カイトはそれを思い出し、盛大にため息を吐いた。これが、もう一つの賞品だった。基本半分以上が他国の出身者なので興味を持たれないが、こと中津国に至ってはその効力は絶大と言って良い。

 これを悪用すれば犯罪歴を帳消しにしたり、逆にそれまでに限るが犯罪を不問にも出来たのである。これは本来想定された話ではなかったのだが、かつてとある優勝者が止むに止まれぬ罪を犯した友を助ける為に使った事があり、すでに前例があったのである。

 この時はその止むに止まれぬ事情が世間から認められたが故に問題にはならなかった――それどころか今では美談扱いだが――が、これを悪用しようとしている者が居る、というタレコミがあったのである。

 と、そんな悪用を考える者の企みを阻止するべく策を巡らせたカイトであるが、そんな事を考えていると気付けば、くじ引きは彼の番になっていた。


「……」


 後は天に身を委ねるだけ。カイトは箱の中に手を突っ込んで中を弄りながら、上手く行ってくれる様に願いながら手を引き抜いた。


「……十七……って、またかよ。予選もこの番号だった気がするな……」

「「「あ、あははは……」」」


 基本的には大会の形式は予選も本戦も変わらない。なので試合は幾つかのブロックに分かれて同時進行で行われる。が、やはり本戦で違う所はあり各ブロックの上位数名になった時点で再度くじ引きを行って、最終的な優勝者を決めるのであった。

 勿論、ここからは一戦ずつの戦いになる。ある意味ではここからが本当の本戦とも言い切れた。なお、本戦はブロックは書かれておらず、番号でブロック分けされるらしい。


「はい、十七。次の人ー」

「じゃ、あっちで待ってる」

「あいよ」


 後は天に身を任せるだけか。カイトはそう考えながらソラに片手を挙げて、他の面子がくじ引きを終えた時点で一度控室へと向かう事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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