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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第78章 天覇繚乱祭編

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1862/3940

第1833話 天覇繚乱祭 ――不思議な商人――

 天覇繚乱祭の本戦に出場するにあたり、武器の新調を考えているという暦。そんな彼女に師としての立場から助言を与えるべく、カイトは彼女の武器の新調に同行する事になっていた。

 そうしてたどり着いた街の一角にある武器を売る店や露天商が軒を連ねる一角にて、カイトは神陰流の<<(まろばし)>>を応用して暦の腕に見合った店を見つけ出していた。それは通りから少し入った所で、街の喧騒や武芸者達の読み合いからは少しだけ離れた所だった。


「いらっしゃい」

「……武器屋……で、間違いないか? それも刀を扱う武器屋で」

「知ってて入ったわけじゃないのかな?」

「ああ」

「これは驚いた。まぁ、看板も売り物も出していないウチも悪いかもしれないけどね」


 カイトの返答に、店番をしていたらしい若い男が楽しげに笑う。どこかひょうきんな様子のある若い男の店であるが、確かにそこには看板も何もなかった。

 一応営業中という看板は出ていたので店である事はたしかだが、言われなければ武器屋とはわからなかっただろう。というわけで、そんなひょうきんな男は刀を扱う武器屋とわかっていたらしいカイトへと問いかけた。


「どうやってウチが刀を扱う武器屋だと気付いたんだい? 別にこの一角にあるからと刀を扱うとは限らない」

「気配、というべきか。これでも長く武術には携わっていてな……店から漂う気配から刀の気配を感じた」

「へぇ……私も長く商いをやっているが……そんな事を言われたのは初めてかな。一応万屋だけど、それ故に刀も扱っている」


 これに嘘はなさそうだ。カイトはひょうきんな男の驚いた様な返答にそう思う。と、そんなひょうきんな男は即座に気を取り直して、カイトへと告げた。


「ああ、申し遅れたね。私は水仙(すいせん)。行商人……に近くはあるね」


 水仙。そう名乗った若い男は、狐目に似た細長い目が特長的な男だった。そんな彼の不思議な物言いに、カイトが首を傾げる。


「行商人? 店を構えているのに、か?」

「ここは金を払えば誰でも使えるフリースペースみたいなものさ。大通りから離れているから安くてね。私の様な若輩者でも手が出せた」


 カイトの問いかけに対して、水仙は笑いながら明言する。こういうある一時期のみ出店出来る様な貸店舗の様な所はこの街にも幾つかあり、ここもその一つというわけなのだろう。マクダウェルにも同じ様に祭りの時期のみ店を出す為の貸店舗がある為、不思議には思わなかった。と、そんな水仙はカイトの技に触発されたからか、彼もまた技を披露する。


「ふむ……まぁ、この時期にこうやって店を見ている時点で当然だろうが。一応の確認として。刀をお求めで間違いないかい?」

「ああ」

「ふむ……そうなると、求めているのはそっちの彼女か。君は……そのお師匠様という所かな?」

「わかるのか?」


 これは当然ではあるのだろうが、カイトの事を知っているのはあくまでも武芸者か、皇国出身かのどちらかだろう。幾ら彼が鳴り物入りで喧伝されていようと、それはあくまでも皇国を中心としての話だ。

 なので他国であればカイトの事を知らない者の方が多いし、水仙も中津国で行商を行っている以上は知らないでも無理はないだろう。であれば、これは彼が何かしらの推測を立てて述べたのだと推測された。


「ああ。なぁに、簡単な推測だ。君の腰にある刀。それは明らかに君に合わせて調整されているし、かなりの逸品かつかなり使い込まれた品と察せられる。その君が武器を求めるとは思いにくい。で、そちらの彼女。彼女は見るからに刀を使う者ではない。気配に刀使い特有の癖が無い」

「ほぅ……」


 どうやら水仙は若い様に見えて、目の方は確からしい。いや、そもそも見た目で若いから、と実年齢が若いかどうかはわからないのだ。当人が若輩者と言ったものの、その実相当年を食っている可能性だってあった。


「が……彼女は君を慕っている。とはいえ、似ている風はない。であれば兄妹ではない。そして気配には似ている所がある。そこでまず、君たちは何かしらの師弟である事を読み取れた。だが動きは違う。そしてその上で彼女を見ると……やはり彼女にも君たちに似ている雰囲気がある。であれば、こちらも師弟と思われる。そしてその推測の上で動きを見ると、こちらには君に似た雰囲気があった。であれば、こちらの彼女の武器を選びに来た、という所だろうとね」

「ご明察だ。彼女に見合う武器を探している。相談出来るか?」


 水仙の推測を全面的に認め、カイトは改めて要件を告げる。ここでカイトとしては一つ安堵していた事があった。それは水仙が刀匠ではなく、単なる商人だという所だ。

 流石にカイトも店の外から気配だけで刀鍛冶か商人の店か察する事は出来ず、後は入ってみて確認するか、と考えていた。刀匠ならやはり話が面倒になる可能性もあったのだが、商人なら商売のドライな話し合いだけで終わらせられたからだ。


「もちろん、可能だとも。とはいえ、私とて商人。お互いにウィンウィンの関係を構築したいと考えている。それ故に売れる物、売れない物があってね」

「店先に商品を出していないのは、それ故と」

「おや……ご明察だ。些か事情があって店は構えねばならないのだけれど、同時に些か事情があって店先には品物を置けなくてね。まぁ、一番の理由はもし盗まれた場合に面倒というだけだけれど」


 一番の理由。そういうという事は、案外曰く付きの品を取り扱っているのかもしれない。カイトは水仙の話を聞きながら、そう思う。


「一番、と言うことは二番以降もあると」

「無論、あるとも。二番三番とね」

「ふむ……」


 店先に品物を置かず、あまり商売をする気の無い商人。サリアとは対極的な人物と言える。が、同時に目利きは確かで、商人としての腕は良さそうだった。


「わかった。それで、品物を見せてもらいたい」

「……勿論、構わないとも。君達なら歓迎だ」


 一瞬、狐目にも似た細長い目が見開かれて、暦を鋭い眼光が貫いたのを、カイトは確かに見た。客として彼女が十分か否かを見定めたのだろう。どうやら、水仙は客を選ぶ商人らしい。


「っと……そうなると……すまないが、少し待ってくれないかな? 実は私は店番というか裏の整理とかを任せている子が私の遣いで出ていてね。ここを離れられないんだ」

「いつ頃戻るんだ?」

「もう戻るはずなんだが……あの子は真面目だから、サボっているとかは無いはずだ」


 カイトの問い掛けに対して、水仙は僅かに苦い顔をする。と、丁度その時だ。店先の扉が開いた。


「ただいま戻りました」

「ああ、睡蓮。おかえり」

「はい……客……ですか?」

「ああ。客だよ」


 帰るなり店に居た見知らぬ人物に警戒を浮かべた睡蓮なる少女に対して、水仙は柔和に笑って頷いた。そうして少しの会話を交わした後、水仙がカイト達へと睡蓮を紹介する。


「彼女は睡蓮。店を手伝ってくれている奉公人……という所かな。私の子供ではないよ?」

「似ていると思ったんだが……違うのか」

「あはは。似てるのは偶然だよ。知人の子で、少し故あって預かっているんだ」

「そうか……ああ、オレはカイト。カイト・天音だ。よろしくな」

「っ」


 びくっ。カイトに笑い掛けられた睡蓮であったが、一瞬だけ飛び跳ねる様に驚いて、慌て気味に水仙の後ろに隠れる。とはいえ、カイトを嫌っていたり警戒しているわけではないらしい。水仙の後ろに隠れるも、カイトを見て口を開く。


「あ、あの……はじめまして」

「ああ……大丈夫なのか?」

「この子は若干人見知りでね。気に触ったのなら申し訳ない」

「構わないさ……それで、店番を彼女が?」

「まさか。私さ。商品を管理しているのが、この子でね。私じゃ何処に何があるかさっぱりだ。だから帰ってくるのを待つしかなくてね。実は内心、出てってすぐに客が来たら追い返そうかと考えていた所だった」


 だろうな。カイトは水仙の軽口を聞きながら大凡店番が出来るとは思えない少女を横目で見て、納得する。


「さて……それで睡蓮。そっちの子が刀を御所望だ。君になら、どの程度が相応しいか分かるはずだ」

「……」

「あ、暦です。よろしくお願いします」


 睡蓮から見つめられ、暦が少し慌て気味に頭を下げる。それに睡蓮も小さくだがしっかりと頭を下げて、水仙の後ろを離れた。


「あの……こちらへ」

「あ、はい」

「しっかりね」


 睡蓮の案内に従って店の奥へと歩いて行く暦の背を見ながら、水仙が睡蓮の背へと投げかける。そうして少し歩いた先には、普通の倉庫があった。とはいえ、そこに並んでいるものを見て声を上げたのは、なんとアリスだった。


「すごい……」

「お分かりに……なるんですか?」

「はい……でも一体、どうやってこんなに……」


 驚いた様に、アリスは倉庫に納められていた数々の品々を見る。基本は武器が多い様子だが、水仙が言うように万屋というだけはあって様々な物が置いてあった。勿論、刀もある。一番数が多いのは刀だと言って良い程だ。


「……色々とあって、その……あ、でも盗んだわけじゃなくて……」


 ぽそぽそという具合であるが、しどろもどろになりながら睡蓮はここに納められている品が盗品ではない事を明言する。それに、アリスもまた同意する。


「あ、いえ……わかります。確かにこれは盗まれたわけじゃないって」

「ありがとうございます……」


 どうやら二人にしか分からない何かがあるのだろう。そう思う暦であるが、実の所。理解できていないのは、彼女だけだった。


「あ、あの……カイトさんもそう思いますよね?」

「ああ……すごいな。これは……」

「え?」

「あ、この人は私のお師匠様で……見方とかを教えてくれたのもこの人なんです」


 驚きに包まれた睡蓮に、アリスが補足を入れる。それでようやく、話が理解できていないのは自分だけだと暦の理解した。


「何が見えているんですか?」

「ああ、暦には見えないか。ここにある品々……全て名品珍品の類だ。ここまで揃うのはまず美術館でもなければお目にかかれん」


 やはりこれはカイトがカイトだからだろう。これはそこそこ知られている話だが、彼は名品珍品の類の収集家としても名を馳せている。アリスはそうではないのだが、名家の出として目利きは出来た。そう言った所から特殊な目利きのやり方をカイトから教わっており、わかったのである。


「へー……言われてみれば、気配が……」

「ああ、明らかに違う。なるほど。確かにこれなら店主が店先に出さないのも理解出来る。相当な品々だぞ……」


 どうやら、カイトが立場を忘れるぐらいにはすごい品々らしい。暦は興奮を滲ませる彼にそう判断する。


「これだけの品をよく集められたもんだ。睡蓮ちゃん。君の店主はすごい人物なんだな」

「あ、は、はい。ありがとうございます」


 カイトの興奮から、彼が一切の世辞抜きで称賛していると分かったらしい。睡蓮は一瞬だけ戸惑いながらも、少しだけ嬉しそうに礼を述べる。


「この中から、一振りか……かぁー! こっれは難しいぞ! 名品だらけの中から一振りを選ぶのか!」

「この中から……この中から!?」


 この中に、自分のこれからの相棒となる一振りがあるのか。そう思った暦であったが、一転してその意味を理解して大いに目を見開いた。


「え……この中から、ですか……?」

「ああ。かー……自分用の一振りも欲しいなぁ……でもなぁ……観賞用になるしなぁ……」


 どうやら、本当の本当に凄い品々らしい。カイトの楽しげな顔に、暦は心底震え上がった。それはつまり、とある事を意味していたからである。


「え、えーっと……れ、睡蓮ちゃん……?」

「あ、はい。なんでしょう」

「ここにあるのって……幾らぐらい……?」

「さぁ……値段は水仙が決めてますので……私はそこに関してはとんと。ただ、いつも大ミスリル数十枚とかは言っていたかと」


 つまり、ぶっ飛んだ値段が出てくる可能性が高いのか。暦は少年の顔で暦に見合う一振りを探すカイトを見て、卒倒しそうだった。が、カイトはそんな事を気にせず、ただ少年の様な輝いた顔で一振りを探すのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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[一言] 水仙がカイト達へと水仙を紹介する。が直ってません
[一言] 水仙がカイト達へと水仙を紹介する。 彼女は水仙。 睡蓮が水仙になってます
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