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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第78章 天覇繚乱祭編

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第1832話 天覇繚乱祭 ――買い出し――

 中津国に到着して一日。ソラ達先発隊と合流したカイト達はひとまずは長旅の疲れを癒すべく骨休めを行うと、翌日からは大会に向けて活動を開始する事になっていた。そうしてまず行うのは、大会の本戦に出場する事になった暦の武器の新調だった。


「さて……買い出しのリストは問題無し。茶菓子の買い出しも行わないとな……」

「お茶菓子……ですか?」


 買い出しのリストが書かれたメモを見るカイトを見て、アリスが訝しげに問いかける。それにカイトがリストをふ無くさない様に異空間に仕舞ながら頷いた。


「ああ。昨日、夕食前にシャーナ様と会ってたのは覚えてるか?」

「はい」

「その際、何か必要な物は無いか聞いておいた。その買い出しのリストだ。シャーナ様はそう易々と出歩ける身分じゃないしな」


 確かに、それはそうだ。この離れは芍薬を筆頭にした戦士達が守っているが、外でも同じ様に万全の警備を敷けるかと問われれば誰もが首を振る。特に今は祭りの最中。人は多い。

 なので出るにしても前準備は必要で、それは買い出し一つにしてもそうだった。彼女の従者に何かがあると困るのは中津国側だ。というわけで、自由に動けるカイトが買い出しに出る事になったのである。


「ま、これはオレが勝手に買って勝手に戻る。分身もあるし、オレの場合だと男だからな」

「「お、おぉう……」


 相変わらずすごいというかなんというか。アリスと暦の二人は思わず呆気に取られる。とはいえ、これぐらいできねば、公爵という地位は務まらないそうである。


「それはどうでも良いだろう。とりあえず……お茶は後で良いか? どうせならアリスも茶請け、見たいだろ?」

「そうですね。その方が良いかと」


 カイトの提案に、アリスも一つ頷いた。やはりお茶は兎も角、お茶請けには温かい物も少なくない。今は特に屋台も並んでいるし、時期的にも温かい物が多くなってくる。となると、温かい物は温かい内に食べたい物だ。であれば、武器を買う前に買うより帰ってからお茶と一緒に楽しめる方が良いだろう。


「良し、じゃあ行くか」


 ここで突っ立っている必要はない。そう決めたカイトはアリスと暦に向けてそう言うと、早速とばかりに歩き始める。そうして向かうのは当然外になるわけであるが、幾ら何でも目的もなくでは問題だ。というわけで、スタスタと歩くカイトへとアリスが問いかけた。


「どこか当てはあるんですか?」

「一応はな……ここに来るまでに街の案内状みたいなのは読んだか?」

「……なんですか?」


 聞いた事がない。カイトの問いかけにアリスは怪訝な様子だった。とはいえ、これは仕方がない事といえば、仕方がない事なのだろう。これは冒険者だから詳しく知っている様な所があるからだ。


「ああ、一応これ。ユニオンが発行してる機関誌。どこでどんな魔物が出てて、新しい魔物が発見された、とかそんなのが書かれてる本」

「そんなのがあるんですか?」

「ああ……今回の特集は天覇繚乱祭だ。で、街の案内状みたいなのも乗ってるんだ」


 幾らカイトとて、三百年前に来た事があるからと何から何まで全てに明るいわけではない。というより、三百年経過しているのだ。詳しく無い事の方が多い。というわけでここらについては燈火から聞いた事もあるが、同時にこうやってユニオンの機関誌などを活用して情報収集を行っているのであった。


「そんなものが……」

「まぁ、知らないのも無理はないかもな。実は密かに執務室にも立て掛けられているが……読んでる奴の方が少ないだろうし。何より、冒険者以外が読む事はさほど無いからな」


 冒険者ユニオン協会の機関誌だ。対象は当然ユニオンに所属する冒険者で、本質が騎士であるルーファウス――流石に彼は知っていたが――やアリスが知らないのも無理はない。

 特にアリスの場合はまだ本来は学生だ。特例的に軍務で来ているとはいえ、そこの本質は変わらない。機関誌というものが存在するという事を知っているかどうかさえ、定かではないだろう。とはいえ、何か思い当たる節がある事はある様だ。アリスがそう言えば、と思い出す。


「そういえば……何度か皆さん回し読みされていた様な……」

「そうだ、それだ。まぁ、人数分配布すれば良いんだろうが……機関誌とはいえ手に入れるとなると金は掛かる。数を手に入れる意味もないからな。回し読みしてた」

「へー……」


 どこか困った様な照れ臭そうな、なんとも言えない表情で笑うカイトに、アリスはそういう事だったのか、と感心した様に頷いた。やはり彼女はまだ冒険者として活動して少し。幾らカイトの指南もあり実力は壁の上付近に立とうと、それはあくまでも戦闘力という面だけだ。冒険者として知らない事は多い様子だった。と、そんな彼女はふと暦を見る。


「暦も……読んでるんですか?」

「……時々は読んでるよ?」

「……そうですか」


 自身の問いかけから一瞬で視線を逸した暦に、アリスはなんとも言えない表情で全てを察する。考えるまでもなく、気が向いたら読んでる程度なのだろう。

 そしてその気が向いたら、も本当に読んだ事があることやら、という程度だ。これにはやはりカイトが苦言を呈した。それぐらい察せられない彼ではないし、そうだろうな、とは思っていたらしかった。


「はぁ……月一回出るから読めって言っただろ」

「い、一応見掛けたら読んでますよ?」

「……はぁ。執務室に暦の席も用意させるかなぁ……」

「や、止めてください!」


 盛大にため息を吐いたカイトのぽつりとした一言に、暦が泣きそうな顔で頭を下げる。実のところ、彼女の冒険部での立ち位置は非常に微妙な所にあった。現在、彼女は一応の所カイトの弟子というわけであるが、それは公的な冒険者という立ち位置で考えれば何ら一切の意味を持たない。

 が、他方ギルドという面で見ればカイトの弟子は裏返せばギルドマスターの弟子という事で、ある程度の役職に相当する立場といえる。カイトの持つ勇者カイトの名と同じく、地位は無いが名から来る権威があるというわけだ。

 なのでこの際いっそ執務室に椅子を用意しておいても、何も変わらないといえば何も変わらないのであった。とはいえ、逆に言えばそれは用意しなくても問題が無いわけでもあって、カイトも本気で用意するつもりはなかった。単なる脅し文句である。


「なら読め。命に関わるんだから」

「は、はい……うぅ……」

「はぁ……まぁ、アリスもこういうのがあるから、暇があったら読んでおく様にな」

「はい」


 やはり何かが変わっても暦は暦。剣は熱心に修行しても、勉学はそこまで好きではない事に変わりはないようだ。カイトの指導に半べそだった。そうしてそんな師弟とアリスはそんな他愛もない話をしながら、ユニオンが出す機関誌を頼りにして、買い出しを行う事にする。


「えっと……ここらへんが武器を売っている通りになるんだが……」

「……やっぱり人が変わりましたね」

「の、様子だな。人混みは減ったが……」


 僅かに先程までとは雰囲気を変えた暦の言葉に、カイトもまた僅かに気を引き締めて周囲を目ざとく観察する。ここに来るまでの雰囲気は敢えて言えばお祭り騒ぎという雰囲気であったし、ここにも確かにお祭り騒ぎという様な雰囲気はある。

 が、それでもここは武器を取り扱う一角かつ本戦出場者達も見受けられるからか、明らかに場の雰囲気が他と違うと理解出来る様な場が漂っていたのである。そしてそれは、アリスもまた気が付いていた。


「……すごいです。多分、ここの方の半分ぐらい、私以上です」

「だろうな……その内半分は本選出場者だろう」


 やはり武芸者達が屯しているからだろう。カイトの顔にも声にも先程の様な遊びがあまり無く、どこか試すようであり、同時にどこか楽しげで獰猛な闘士に似た声音が混じっていた。


「ナンパの心配はなさそうだが……どうやら、場の雰囲気に当てられない様に気を引き締める必要はありそうだな。良くはないが……仕方がないか」


 それだけ本気という事だ。カイトは言外に、そう告げる。まだお祭りという事で本戦に出場する者をひと目見てやろう、という野次馬は良い。が、本戦出場者達の目は真剣そのもので、武器を選ぶ者は当然、そんな武器を選ぶ者たちを見て力量を推し量る者たちの目もまた真剣だった。


「アリスも暦も、なるべくオレの影に隠れておけ。おそらくこの場だと誰も彼もが武器を見に来たら一度は敵意混じりの視線を受ける。下手に目立つと、当てられる」

「はい」

「わかりました」


 流石にこの場の雰囲気が違うぐらい、二人にも理解出来る。そして下手に目立つと面倒事を引き起こしかねない事も。なのでカイトが矢面に立つというのであれば、二人は素直にそれに従うだけだ。こういう場合、カイトに従うのが良いと二人も理解していたのである。そしてそれは功を奏した。


「……あれは」

「……確か日本人か。なるほど……あれは中々に……」


 やはり何度となく新聞に乗り、そして皇国が鳴り物入りで喧伝しているのだ。カイトの事を見知っている者はそれなりには多くなっている様子だ。カイトが武芸者としての風格を出して場に立ち入った事で、多くの者がカイトの事に気付いた様子だった。


「あっちは……確か本戦出場を決めた者の一人か。確か……」

「ふむ……確かギルドマスターの弟子という事ではあったが。弟子を連れて武器を見に来た、という所か」


 なるほど。どうやらカイトも一角の武芸者と考えて良いらしい。多くの者はカイトの風格からそれを理解し、それならここに来ても不思議はないだろうと納得する。

 そして幸いな事に予選大会の折りに暦の事も若干だが俎上に載った様だ。カイトの弟子である事を知っている者も居て、師弟が揃って武器を見に来たのだろう、と思われたらしかった。これで面倒事の大半は避けられた、と考えて良いだろう。


「さて……これで面倒事は避けられたんだが……どうしたものかね」

「あてとか無いんですか?」

「おいおい……お前も知ってるだろ? オレの主要武器は村正だ。残念ながら、他の流派には詳しくない」


 暦の問いかけに、カイトは困った様に笑う。一応三百年前の旅においては村正以外の流派の刀を使っていた事はあるが、竜胆と海棠翁の二人を仲間に引き入れた時から専ら村正流の刀しか使っていない。

 使う意味も必要性も皆無だからだ。なので本当に他流派の刀については明るく無く、武器を売る一角に来たからとどこかに当てがあるわけではなかった。が、決して何も無いわけではなかった。


「とはいえ……せっかく師が師として来ている以上、少しは技を披露しないと格好がつかん。少し見てろ」


 カイトはそう言うや否や、意識を集中して世界の流れを垣間見る。神陰流の<<(まろばし)>>だ。そんなカイトに、暦が驚いた様に問い掛ける。


「<<(まろばし)>>……ですか?」

「ああ……<<(まろばし)>>は便利な技でな。こうやって流れを読み解けば……」


 カイトは<<(まろばし)>>を使いながら、周囲をしっかりと観察する。やはりこの場は武芸者達やそれに武器を売る鍛冶師達が大半なので、流れもそう言う流れになっている。が、やはり細々とした所ではその流派や人それぞれの独特な流れがあり、その強弱や歪さなどから様々な事が読み取れた。


「ふむ……」


 どの店が良いだろうか。カイトは世界を満たす流れを読み解きながら、暦の腕や彼女の武芸への相性などを考えて店を選ぶ。弘法は筆を選ばず、とは言うが筆は使い手を選ぶ。下手に優れた武器を使ってしまうと、それは誰にとっても不幸になる。丁度よい塩梅の武器を選んでやる必要があった。


(やはり流石は天覇繚乱祭……並の刀匠ではない刀匠まで参加しているな……まぁ、海棠の爺や竜胆も来てるぐらいだ。当然か。流石にあの二人は店を出さんがな)


 見渡す限り、今の暦では到底使えない様な武器まであるらしい。それどころか後のカイト曰く、瞬クラスでも使えない様な逸品――当然槍だが――まであったそうだ。そうして、そこらを読み取ったカイトは世界の流れから、一店の店舗を見つけ出してその店へと向かう事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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