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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第78章 天覇繚乱祭編

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第1831話 天覇繚乱祭 ――長閑な日――

 天覇繚乱祭に向けて中津国へとやって来ていたカイト。そんな彼はシャーナの護衛を行いながら、ひとまずは中津国で世話になる宿屋へとたどり着く。そうして各々の自室に入る事になった一同であるが、カイトは今回の仕事の関係でアリスと同室となっていた。というわけで、彼女とシャーナから特別の許可を得て同室となった暦の二人と共に、カイトは自室へとたどり着いていた。


「ふぅ……」

「……すごいですね」

「でしょう?」


 まるでさも平然と何事も不思議は無いかの如くに座椅子に腰掛けたカイトを見て、アリスが思わず呆気に取られ、暦が呆れ気味に肩を落とす。そんな二人に、カイトが首を傾げた。


「……どうした? 二人共座らないのか?」

「いえ……失礼します」

「はぁ……」


 この女の子と一緒だろうと平然としてしまえるのは、やっぱり先輩が勇者だからなのかなぁ。暦はアリスと一緒だろうと一切の緊張も無いカイトを見ながら、盛大にため息を吐く。

 なお、彼女は気付いていない様子であるが、これで緊張されても逆に彼女の立場が無い。無いのだが、それに気付かないあたり、まだまだ頭の面では桜らには到底及ばないのであった。


「さて……で、ここでの二人の仕事だが、基本的にはオレが居ない間のシャーナ様の護衛だ。粗相の無い様にな」

「「はい」」


 今回、二人の様な若輩がシャーナの様な重要人物の護衛として配置されているのは、間違いなくカイトの名があればこそだ。それはカイトが勇者と知らないアリスも、かつてのカイトの功績から理解していた。なのでここでなにかがあればカイトの名に差し障る事は二人もわかっており、二人共気を引き締めていた。


「良し……まぁ、改めて何かを言う必要はない。何時もの通りであれば良い。シャーナ様は気さくな方だ。そこまで緊張する必要もない」

「……それが出来るのは先輩だけかと」

「あっははは。慣れだ、慣れ。暦には厳しいかもしれんが」


 アリスはこれでも騎士の名門の出だ。なので高位高官や教会のお偉方、各地方の統治者達――当然だが教会の聖職者達が各地を直接統治しているわけではない――が出席するパーティなどには出席してきている。そういう意味で言えば、まだこんな状況には対応出来た。ある意味では桜らと一緒だからだ。もちろん、それでも桜や瑞樹ほど慣れてはいないだろうが。


「慣れるほど経験はしたくないです」

「あはは……で、一応なんだが……アリスは本当に出なくて良かったのか?」

「別に興味はありません。そもそも、騎士に興味があるわけでもありませんので……」

「そうなの?」


 暦はアリスが語った自身の騎士としての展望に、思わず小首を傾げる。これにアリスは一つ頷いた。


「はい。別に騎士になりたい、と言うわけでは……特に今は何がしたい、というのも無いので騎士をしているというだけです……あ。い、一応ですけど、これ、兄には内緒でお願いします」


 どうやらのんびりとした空気の中、居るのが自身が友人と思う暦にこういう事に対して一切気にせず笑い飛ばすだけだろうカイトであった事で、うっかり言ってしまった事に気が付いたらしい。アリスは慌てて他言無用を頼んでおく。


「別にそれで良いと思うがね……騎士ってのは立場じゃなくて心構えだろうし」

「はぁ……」

「あ、あはは……あ、そうだ」


 そんなものなのでしょうか。わかったようなわからない様なアリスの顔に僅かに頬を引き攣らせた暦であったが、そんな彼女は何かを思い出したかの様に懐を弄った。そうしてそんな彼女に首を傾げる他二人の前で、暦が小さな包を取り出した。


「忘れる前に、これ」

「これは?」

「出発前に頼まれてたの」

「ああ、あれですか。ありがとうございます」


 いそいそ、と言った具合にアリスが暦から受け取った袋を異空間に仕舞う。どうやら元々出発前に暦に頼んでおいたらしい。というわけで、そんな二人のやり取りに興味を持ったカイトが問い掛ける。


「何を頼んだんだ?」

「ビーズ……の様な物でしょうか」

「ビーズのような物?」


 一応、この世界にも手芸用品は存在しており、その一つとしてビーズ類もある。というより普通の装飾品だけでなく魔道具の飾り付けにも使われたり、果ては魔道具の増強としても使われる分、ビーズの種類であればエネフィアの方が多いと断言出来るほどだった。

 とはいえ女子力が高いと言われるカイトだろうと、流石に手芸は嗜んでいない。なので中津国でビーズと言われてもわかるわけがなかったので、小首を傾げるだけだった。


「はい。装飾に使うビーズを幾つか。散策している余裕はなさそうでしたので、暦に買い出しを」

「これとかアリスが作ってくれたんです」

「へー……」


 元々仲良くしていることは知っていたし、アリスが色々な装飾を持っている事も知っていた。が、カイトとしても手芸を出来た事は知らなかった様子で、暦の差し出した小さなブローチを見て驚きを露わにしていた。


「ハイ・エルフのエリスさんと話をさせて頂いて、一度作ってみたんです」

「ああ、エリスか。そう言えば彼女が好みそうなデザインだな……」


 どうやらアリスはエリスとも知り合いだったらしい。どちらも基本あまり人付き合いが得意なタイプではなかったが、いつの間にか交友関係が広がっている事にカイトは僅かな微笑ましさを感じていた。と、そんな彼の言葉に、アリスも一つ頷いた。


「はい……それで幾つか自作すると共に彼女に色々と作ってもらっていたりしたんですが……少し今度は魔道具も作ってもらおうかと」

「それで、その袋の中にその素材が?」

「はい。中津国に良い素材がある、と聞きましたので……」


 確かにマクスウェルには多種多様な素材が揃い、一級品の素材がある事が多い。が、それでもどうしても他国にはそこでしか手に入らない素材があり、今回もそれの一つだったのだろう。


「何なんだ? ここらでしか手に入らない素材なんだろうが……」

「えっと……これです」


 カイトの問いかけを受けて、アリスが袋の中に入っていた包を開いて中を少しだけ見せる。そうして見せてもらった包の中には、少し大きめのビーズに似た何かが入っていた。


「……なんだ、これ。オレにはビーズにしか見えんが」

「ビーズは合ってます。素材が特殊だそうです」

「素材が、ねぇ……」


 一見すると普通のガラス製のビーズにしか見えなかったが、わざわざ中津国で仕入れるぐらいなのだから特殊な素材なのだろう。


「魔物の骨を加工したもの、だそうです。詳しくは私にも」

「へー……ガラスに見えたが、違うのか……」


 やはり一言でビーズと言っても、色々とある様子だった。カイトはアリスの言葉に素直に感心した様に頷いていた。そうしてその話に一区切りがついた所で、改めて二人に今後の予定を問いかけてみる事にした。


「で、二人共。これからどうするんだ?」

「とりあえず私は先輩がアリスに手を出さない様に見張ろうかと」

「おい」


 完璧に冗談です、という様な笑みを浮かべながらそんな事を述べた暦に、カイトが笑う。ここら、やはり大分と彼女も大人になってきたという所なのだろう。

 こんな冗談も言える様になってきたらしかった。余裕が出た、と言っても良いのかもしれない。カイトとしては良い事か悪い事かさっぱりであるが、暦にとっては良い事なのだろう。そんな彼女が、カイトへと告げる。


「あはは……私は一度武器を見てみようかと」

「新調するのか?」

「かなー、と」


 確かに暦はカイトの下で修行しているので、普通の剣道部よりは戦闘力が高い。武器は一応村正を使っているが、やはり程度としては数打ちの量産品と言っても良い。流石に桔梗と撫子でも今の冒険部全員分の刀鍛冶は無理なので、基本は研ぎなどの修繕だけで大元から作っているわけではなかった。


「ふむ……それなら、オレも行こう。一応は師だしな」

「お願いします。流石に私も武器はわかりません……」

「あっははは。だろうな。こればかりは、別の腕が必要になる。本戦に出れた事を考えれば、悪くない武器が手に入れられるだろう」


 うぐぅ、という呻き声に似た声を上げた暦に対して、カイトは笑いながら同行を明言する。そんな彼に、アリスが告げた。


「……味気ないデートですね」

「あのな……一応は師弟なんだが。今回はそっち優先だ。大事な大会前に師匠が男としての顔を覗かせるのは、戦いの邪魔になる」

「はぁ……」


 そんなものなんでしょうか。アリスは反論しない暦の様子を伺いながら、彼女が納得しているのならそれで良いのだろうか、と生返事だ。そんなアリスに、カイトが告げた。


「この大会……生半可なものじゃない。全員が揃って初戦敗退という可能性だってある。せっかく幸か不幸か本戦に行けたんだ。なら、可能な限り良い成績を、と願うのは師としての仕方がない心情さ。恋人として、味気ないのはわかるがな……それでも、世界最大の大会だ。そちらを優先させたいのさ」

「はぁ……」


 そんなものなんでしょうか。再度、アリスはそう思う。やはり教国の出身者という事もあり、アリスにはこの大会の凄さがわからなかった様だ。

 とはいえ天に覇をと言うだけはある。生半可な覚悟で挑めば、本戦の初戦どころか予選さえ突破できないのだ。カイトが師としてを優先しても、一切の不思議はなかった。と、そんな彼が改めて、アリスに問い掛けた。


「で……アリスはどうするんだ?」

「私は……少しお茶を見ようかと」

「「お茶?」」


 アリスの言葉に、師弟は揃って首を傾げる。


「はい。ここらに銘茶があるという事なので……それを探そうかな、と」

「銘茶ねぇ……何かあったか……中津国だから緑茶か?」

「それもあります。けど、紅茶もあるそうです」

「へー……」


 それは知らなかった。カイトは僅かに驚いた様に目を見開いた。彼は言わずもがな、コーヒーより紅茶派だ。なのでマクダウェル家には各地の銘茶が揃っているし、各地の希少な茶葉が献上品として届く事も多い。そこからお茶好きとして知られる様になったからか、何か新製品が出来ると、彼に試飲を頼む者も居たぐらいだ。


「美味いのか?」

「らしいです」

「ふむ……」

「……行きます?」

「……うん」


 暦の問い掛けに、カイトは少し恥ずかしげながらに頷いた。そうして、彼が告げる。


「アリス。その探索の旅。オレと暦も同行して良いか? お前もそちらの方が良いだろうし」

「大丈夫です……思えばそちらの方が良い気がしました」


 アリスはそう言うと、窓に外に視線を向ける。ここは離れの一階なので外の景色は見えないが、それでも外の喧騒は聞こえてきた。燈火の言う通り盛況な様子で、それだけ活気に溢れている様子だった。が、だからこその問題もある。


「だろう?」

「……あー……」


 アリスに釣られて外を見た暦であるが、外を見ながら苦笑するカイトとアリスになるほどと納得する。

 基本兄や兄の親友と異なり空気を読めるアリスだ。デートに女を同行させるとはなんたる朴念仁だと憤慨しそうであるが、現状そうも言っていられる状況ではなかった。


「多そうですもんねー……」

「多そうじゃなくて多いだな……祭りになれば人は酔う。酒にも酔うし、場の雰囲気にも酔ってしまう。普段はそうでなくても、雰囲気に酔ってナンパしようとする奴もいる」

「でしょうねー……」


 カイトの明言に、暦はこれは良い判断だと判断する。それに彼女としても一応は単なる師弟の買い出しよりデート紛いの方が良い。というわけで、三人は明日はひとまずは様々な買い出しに出かける事にして、その日一日はのんびりと過ごす事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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