表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第78章 天覇繚乱祭編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1859/3940

第1830話 天覇繚乱祭 ――密航者再び――

 天覇繚乱祭に向けて中津国へとやって来ていたカイト。そんな彼は天覇繚乱祭に参加するべく予選大会に出場する為一足先に中津国へとやって来ていたソラ達と合流すると、そこでひとまずの現状報告を受けていた。


「そうか。まぁ、祭りだしなぁ……」


 カイトは一度だけ耳を澄ませて、外の喧騒に思い馳せる。聞こえるのは子供達の笑い声や、酔った勢いでの喧嘩の声。それを止めようとしていたり、逆にけしかけたりする様な声もある。それ以外にも花火の打ち上がるぱんぱんっ、という音だ。総じて、楽しげであると断じて良かった。


「……とりあえず、問題は無く、か。羽目を外さなければ、それで良い」

「祭りで羽目を外さなきゃ、何時外すんだか、って思うんだけどよ」

「あっははは。それはそうだがな……とはいえ、羽目を外すにしたって、限度がある。下手に喧嘩を売ったりしなければ、それで良いって所だ。羽目を外し過ぎない様に、ってわけだ」

「それなら問題は無い。一応、俺も目を光らせている」


 カイトの言葉に、瞬がはっきりと請け負った。こういった場合、彼が羽目を外す事はまずない。なのでその点では安心は安心だった。


「そうか……まぁ、そういう意味ならこの陣形は今回は正解だったか」

「うん?」

「ああ、いや……ソラの渡航を認めたのは完全に成り行き、って所だったんだが……こっちはでかい祭りだからな。今思えば、統率が先輩一人だけだと厳しいかと思ったんだ。酔った勢いで、馬鹿をする奴が現れるかもしれないからな。先輩一人だと調整に入ってたら面倒かと思ったんだ」

「「あー」」


 カイトの指摘にソラも瞬も揃ってなるほど、と頷いた。今回、瞬も本戦に出場して勝ちに来ている。なので今の所祭りに本格的に乗り出しているわけではなく、どちらかと言えば大会本戦に向けての調整に余念がない、という所だ。

 なのでもし揉め事が起きても彼だけだと気を遣うかもしれない、とカイトは今更ながらに気付いたのである。が、一方で二人なら相談して調整に入る時間帯などをきちんと調整していた為、問題が起きていなかった。怪我の功名、という所だろう。


「とはいえ、何も起きていないのなら、それで問題無い。あとはそのまま引き続き、という所か。あ、そうだ」

「なんだ?」


 唐突に何かを思い出したカイトに、瞬が目を丸くする。それに、彼が問いかけた。


「そう言えば、リィルも来ているんだったな」

「ああ。何故かは詳しくは知らんが……お前が許可を出した、と聞いたんだが」

「ああ。色々とあってな。少し軍務でラエリアにも同行する事になっている」


 やはりここらは真面目なリィルという事で、幾ら恋人だからと瞬に軍務の事は教えていない様子だった。とはいえ、カイトとしては隠す必要は無いと思っていた。単にリィルが許可が出ていないから、と語っていなかっただけだ。確かに許可を取るのも可怪しいだろう。とはいえ、ラエリアへの同行は彼も聞いていた。


「それは聞いたな」

「ああ……それで一度離れに来る様に伝えておいてくれ。シャーナ様へのお目通りをさせておく」

「ああ、わかった」


 リィルが軍務でラエリアに向かうのであれば、それは必然シャーナの関連。それぐらいは瞬にも理解出来ていた。なのでこのカイトの指示については彼も疑問は無く、ただ素直に応じるだけだった。そうしてそこらの事務的な話を終わらせた所で、カイトが改めて話を進める。


「で……二人共、調整はどうなんだ? 三日後には本戦だが」

「俺は前日には仕上がる。ここらは慣れている。陸上の試合か武術の大会かの差しかない」

「俺もなんとか、かなぁ……」


 やはり元々トップアスリートとして世界的な大会にも出ていた瞬は、何時完璧に仕上げられるかと完全に目測が立っていたらしい。それに対してソラはこういった大会というのには縁がなく、おおまかな感想という所だった。と、そんな問いかけを行ったカイトへと、瞬が逆に問いかけた。


「で、お前はどうなんだ?」

「オレか? オレも似たようなもんだ……と、言いたいが。流石に常在戦場は伊達じゃない。何時でも、だな」

「やはり勇者、というわけか」

「伊達じゃねぇぜ?」


 笑う瞬の言葉に、カイトが敢えて牙をむく様に笑って見せる。そうしてそこらの話し合いも終わらせた所で、一度改めてその先に瞬が視点を向けた。


「で、カイト。これが終わった後はすぐに総会だったな?」

「ああ。大会が終わり次第、すぐにユニオンの総会になる……一応、聞いとくが。登録証忘れた、ってオチは無いよな?」

「何時も持っている。携帯義務は無いが、手放した事はない」


 カイトの問いかけを受けて、瞬が自身の冒険者登録証を懐から取り出した。ユニオンの総会では数多の冒険者が集まる事になる。そして本拠地を治めているのはユニオンだ。なので身分証としての登録証は非常に重要で、これを忘れると何も出来なくなってしまう可能性があったのである。


「なら、問題無い。それさえあれば、最悪は金も借りられる。ユニオン本部だとそれがクレジットカードより便利で重要だ」

「わかった」

「……良し。じゃあ、後は任せる。こっちは基本離れからは離れられん。離れる場合は調整で鍛錬をしているか、シャーナ様の外出に付き合う時だけだ」

「おう……基本はヘッドセットを使えば良いんだろ?」

「ああ」


 ソラの確認に対して、カイトは一つ頷いて自らの耳を指し示す。そこには若干髪で隠れてはいるものの、何時も通りヘッドセットがあった。そうしてそこらの打ち合わせを終わらせたカイトは、改めて離れへと戻る事にする。


「さて……これで打ち合わせは終わりで……ん?」


 次はシャーナと暦か。そう思うカイトであったが、そんな彼のヘッドセットに着信が入る。それを受け、彼は離れと本館を繋ぐ通路の通路上で一度立ち止まった。


「なんだ?」

『……マスター。少々よろしいですか?』

「ああ、アイギスか。どうした? 飛空艇の停止は?」

『そちらは終了です。ホタルも確認済み。オールオッケーです』

「そうか。悪い。なら、こちらに合流してくれ」


 今回、わざわざ飛空艇の操縦に人を使う意味は無かったので、ホタルに全ての操縦を任せていた。彼女が一番正確かつ安心出来るからだ。その補佐にアイギスが就いていたわけである。


『イエス……で、それは良いのですが』

「うん?」

『密航者を二体ほど確保しました』

「密航者?」


 二体とは不思議な物言いだ。カイトは密航者とやらに小首を傾げる。そんな彼へと、アイギスが報告を続けた。


『日向ちゃんと伊勢ちゃんが潜り込んでいたみたいです』

「……はぁ」


 またあいつらか。何かと潜り込む事の多い二人に、カイトは盛大にため息を吐いた。そしてこれなら、二体という話にも筋が通る。というわけで、カイトは呆れながらも口を開いた。


「連れてこい。まぁ、あの二人だ。問題はないだろう……というか、別に元々戦力に勘案されてない二人だし、居たら居たで役に立つ二人でもある」

『イエッサー。密航者は連行しておきますね』

「頼む」


 どうせ小動物だし、何かと色々な所に潜り込んでいる事は冒険部では知られている話だ。シロエとあの二人が物陰から唐突に現れて腰を抜かす、というのは冒険部のギルドホームではよく聞く話で、カイトについて来ていたとて誰も驚かない可能性があった。そして事実、誰も驚かなかった。


「……はぁ。ホタルだな、確実に」


 人間性を獲得しつつあるホタルであるが、それに合わせて甘さというものも確保しつつあったらしい。六号機の件で目覚めた甘さであるが、彼女の中に芽生えた甘さは主に小動物や子供に向けられる事が多かった。

 今回、飛空艇に潜り込むというある意味では何時もの事をやってのけた二人であったが、それがそう安々と成功するわけがない。伊達に二人の王侯貴族を乗せた飛空艇ではない。水も漏らさぬ警備をしている。その根幹を成すのはホタルであり、その彼女が意図的に見逃したとしか思えなかったのである。とはいえ、そこに気付いたカイトであるが、若干呆れながらも楽しげに笑っていた。


「ま……良い兆候か。甘さも人間性の重要なファクター。当人としちゃ、気付かれていないと思ってるんだろうが」


 若干笑いながら、カイトはホタルのここしばらくの行動を思い出す。壁に耳あり障子に目あり、とはよく言ったもので、全ての行動を隠す事は出来ないのだ。

 なので密かに彼女が小鳥などの小動物達に餌をやっていたりする所を目撃されており、人化できようと小動物的な日向と伊勢を甘やかしている所も目撃されていたのである。今回もカイトが許すだろう事、問題はさほど無いだろう事まで見越した上で、彼女らを見逃したのだろう。


「何より……激あまな主人だ。激甘な従者でも、問題は無いだろう」


 自分の従者らしい。結局、カイトは何よりそこを気に入った様だ。何よりそれが自意識として得ていた事が、彼にとっては喜ばしい事らしかった。


「さて……」


 これでひとまず色々と終わりかね。カイトは後はアイギスとホタルの合流を待つ事にして、自身はシャーナ達の所へと合流する事にする。


「カイト……遅かった様子ですが、何かありましたか?」

「いえ……少々、小動物が入り込んでいたご様子でしたので。連れてくる様に命じておりました」

「小動物……あぁ……」


 なるほど。あの二人か。シャーナは何が起きていたのかを理解して、微笑ましげに数度頷いて理解を示す。まぁ、彼女も別邸ではあるが公爵邸に住んでいる。なので二人の事は百も承知どころか時折二人が忍び込んでおり、特に驚く事もなかった様だ。


「大変ですね、色々と」

「いえ……最近構ってやれていなかったので、私の責任かと。ご迷惑をお掛けする様で、申し訳ありません」

「構いませんよ。あの子達は可愛らしいですから」

「ありがとうございます」


 シャーナの許諾に、カイトは深々と頭を下げる。とりあえず、これであの二人については良いだろう。どうせ居ても居なくても問題ない。元々戦力としては数えられていないし、何より強い戦力が居て悪い事はない。更には性格を考えても邪魔にはならない。であれば、このままで問題は一切なかった。


「それで、カイト。この後しばらくは宿にて休息を取るつもりなのですが……貴方はどうしますか?」

「私も基本はその様に。何をするにしても、ひとまずは身体を休めてからかと。ですが、ご用命があればすぐにお申し付けを」

「わかりました」


 基本的な行動の指針はシャーナが立てるが、そこに助言を加え調整を行うのがカイトの役目だ。そしてその為にアリスが居るわけだし、暦もこの場に招いていた。


「それで……改めてですが、これが私の弟子になります」

「こ、暦です。ヨロシクオネガイシマス」

「おい……」


 ガッチガチに緊張しているな。聞く者全てが理解出来る様な殆ど固まった様な暦の声に、カイトは思わず軽く肘打ちする。


「ご、ごめんなさい……」

「ふふ……はい、よろしくお願いしますね。にしても……二人共女の子なのですね」

「? ああ、弟子ですか? 別に男だから、女だからと弟子を取るわけではないですよ。暦は偶然。アリスはルーファウスの依頼を受け、という所です」


 どこか苦言にも似たシャーナの言葉に、カイトが笑いながらはっきりと明言する。カイトとしては弟子を取る云々は考えた事はなかったが、結果的に内外には弟子と通さねば面倒になる事の方が多い。

 特に今回だと事情が事情とはいえ同室だ。弟子と触れ回った方がアリスの風評に差し障らない。シャーナの護衛としても、カイトの弟子であるとしておけば周囲の理解も得られやすい。


「ルーファウス……というと」

「はい……私の申し出に間違いありません。妹は実は類稀な霊力の持ち主でして。それ故、カイト殿よりの指南を受けたい、と父よりも申し出が」

「そんな事が……」


 ここらは流石にシャーナも直近の話題過ぎて把握していなかったらしい。ルーファウスの言葉に驚きを浮かべていた。


「あれ……? そういえばカイト。貴方は霊力を持っていたのですか?」

「ええ……あれ? 語っていませんでしたか?」

「どうでしたか……」


 そもそもカイトその人が死者と共にある者と言われているので、自然と流してしまっていた気がする。シャーナはカイトの問いかけにそう思う。そしてカイトも彼女が自身の正体を知っているので知っていると思っていた可能性はあり、どちらの可能性も否定出来なかった。とはいえ、そこらはどうでも良いといえば、どうでも良い話題だ。なのでここらで、とシェリアが切り出した。


「シャーナ様。あまり立ち話をなさいますと、警備に支障が出る恐れがあります。考え事でしたら部屋でも出来ますし、荷物もあります。一度そちらへ向かわれては?」

「……そうですね。ありがとう」


 シェリアの提案にシャーナが一つ頷いた。そうして彼女は自室へと向かい、それを受けてカイトも暦とアリスを連れて自室へ、アルとルーファウスもまた本館にある自室へと向かう事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ