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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第78章 天覇繚乱祭編

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第1825話 天覇繚乱祭 ――出立に向けて――

 ティナの報告からホタルの懸念を知る事になったカイト。そんな彼であるが、だからといって何かする事が変わるわけではなかった。そもそも彼が家族の為に全力を尽くすなぞ何時もの事だ。なので変わった事があるとすると、アイギスからの報告を聞く事にした、というぐらいだろう。


「イエス。実際、あの子段々と人に近付いて来ていますね。特にそれはこの間の教国行きの頃から顕著に見受けられますよ」

「そうなのか……やっぱり姉は見ているか」

「イエス」


 カイトの言葉に、アイギスが楽しげに笑う。基本、ホタルのメンタルケアはミースか彼女に任せている。前者はそもそもそちらの方面が専門だし、後者は言うまでもなく姉にしてほぼ同一の存在だから、と言っても良いだろう。

 しかも彼女の場合、意志を持って数千年以上の月日が経過しているというこのエネフィアでも有数のご長寿という話もある。なので実は意外と彼女の言葉には含蓄があったりするらしく、冒険部でも密かに相談を受けている事も多いらしかった。


「っと、そうだ。そう言えば今度のラエリア行き。お前も同行する事になってるのは聞いてるか?」

「? ノー……だった気がします。ここしばらくマスター専用機を再起動しようとしているので、そちらに忙しかったからか連絡が抜けてる可能性が」

「そうなのか……そちらは?」


 以前の戦いでカイトの専用機はボロボロになっており、その改修作業が現在のアイギスの主な任務だ。というより、専用機と言いながらまだ試験機でしかない。なので完成はまず急務だったし、これについては彼女自身の性能をフルに発揮する為には魔導機が必要という話もある。なので旅に同行しない彼女は後方支援を取り仕切る事が多かった。


「現在前の戦いからの修繕は完了。専用機の第二次改修案は9割5分が終了。えーっと……出立が三日後という事でしたから、それには間に合う様になっていたかと」

「なるほど。ということはお前に連絡が届いていなかったか、それとも忘れてるだけの可能性が高そうだな」


 進捗を聞く限り、どうにもアイギスもホタルも同行出来る様にはされていそうだ。カイトはそれを理解して、一つ頷いた。そしてこれはアイギスも同意する所だった。


「イエス……で、私もですか?」

「ああ……これから『大地の賢人』に会いに行く、というのはお前も聞いてるな?」

「イエス。マスターの予定は基本、頭に叩き込んでいます」

「助かる……まぁ、そういうわけでな。お前らもどちらかというとあの爺さんと同じく精霊に近い。顔見世してやってくれると助かる」


 ホタルの言葉に一つ頷いて感謝を示したカイトは、改めて『大地の賢人』についてを語る。『大地の賢人』。それはカイト曰く、このエネフィア最大の知恵者だという事だ。

 そして同時に大地に宿る精霊に近い存在だとも言われており、そういう意味で言えばアイギスやホタルに近いというのは正しいだろう。彼女らは魔石に宿る魂。精霊に近いとも見做せた。


「はぁ……そんなものなのでしょうか」

「ま、そんなもんだ」


 アイギスの問い掛けに、カイトは一つ頷く。そうして、そのあと少しの間は彼女から作業の進捗を聞き、一日は終わる事になるのだった。




 さて、ソラ達が出立してから明けて翌日。カイトはシャーナの所にまで顔を出していた。今回の来訪には彼女も同行する――正確には彼女の帰郷にカイトが同行するだが――ので、こちらの状況を自身でチェックすると同時にいささか用事があったのだ。


「と、いう形になります。御兄君よりも許可が出ております。また、私が不在の間の警護はこちらの四人が執り行います。それ以外にも一応冒険部としての体面上、今この場にはおりませんがアリスがお傍に」


 カイトの紹介に、一葉以下四人が頭を下げる。今回、どうしてもカイトはシャーナの警護から離れなければならない。これは対<<死魔将(しましょう)>>達を考えた際には彼が筆頭戦力であると同時に指揮官の一人でもあるからだ。となると、どうしてもユニオンの会合には出席せねばならないわけであるが、それにシャーナを同行させる意味はない。

 しかも距離として首都から遠く離れているし、総会の時には冒険者達が多数集まっている。下手に何か要らない事態を引き起こさない為にも、連れて行かない方が安全だった。

 とはいえ、そうなると未だ残る大大老の残党に狙われる可能性が怖い。そのために、何時もはカイトの護衛や補佐となる四人を彼女の警護に就ける事になったのである。


「わかりました。貴方のよしなに……と、言うは良いのですが。それだと貴方の警護が居なくなるのでは?」

「あはは……そうですね。ですが今回の渡航において、私の側にはティナを筆頭に剣姫クオンなど有数の戦士が揃う事になります。万が一何かが起きたとて、かつての戦いの主力がほぼ全て揃う状況。警護が必要が無いほどに戦力が揃っていると判断しております」

「そうなのですね……わかりました。全ての手配は貴方に任せています。全て、貴方に任せます」


 シャーナは自身の問いかけに対してしっかりとした考えを述べたカイトに、再度全てを彼に任せる事を明言する。それに何より、一応の補佐としてはアイギスが飛空艇から補佐出来る様にはしている。

 そして護衛の艦隊には密かに魔導機を搭載している――ユニオン本部への移動にはそれを使う――為、万が一の際にはそれも使用可能だ。最悪は一葉らも遠距離での支援が出来るし、神使としての権限で何時でもシャルロットも介入可能だった。きちんと色々と考えられていた。


「はい……それで一つお伺いしたいのですが……『大地の賢人』とお会いになられた事は?」

「一度だけ、王となった時に」

「そうでしたか。では、逐一紹介の必要は無いですか?」

「はい。およそ一時間ほどですが……そこでの会話で大凡彼の事は覚えています」


 カイトの問いかけに、シャーナは一つ頷いた。やはり自分達の開祖を育てた偉大なる賢人だ。その事は改めて紹介されるまでもない事だったし、何だったらラエリアでの彼の歴史については彼女の方がよく知っていた。


「かしこまりました……それで……」


 カイトはシャリクとの間で行った会談をシャーナへと伝えていく。基本的にはそれは今の王都ラエリアの状況を伝える物や、今回宿泊する施設の事などが大半だった。


「わかりました。では王都はかなり復興したと」

「はい。まぁ、あれからすでに幾許の月日が流れております。慰霊碑も建って久しいですからね」

「そうでしたね」


 カイトの指摘にシャーナもまた笑って頷いた。ちょうどカイト達が収穫祭で忙しなく動いていた頃に先の内紛で亡くなった戦没者を祀る慰霊碑が建てられており、収穫祭へのシャリクの来訪はそれをシャーナへと直に伝える趣もあった。そしてそれに対してシャーナもまた弔事を述べており、慰霊碑への参拝が今回の帰郷の最大の理由と言っても過言ではなかった。


「御兄君曰く実際に見てもらった方が早いだろう、とのことです。どうやら相当ご自信があられるご様子です」

「そうでしたか。わかりました。では、もし兄に伝える機会があれば楽しみにしている、と」

「はい」


 シャーナの伝言をカイトは笑って受け入れる。実際にはカイトも現在の王都ラエリアがどうなっているかは知らない。が、シャリクが僅かな自信を滲ませていた事から、カイトも相当復興が進んでいるのだろうと理解していた。そうしてそこらの話をひとまず終わらせて、カイトは改めてシャーナへと問いかけた。


「それで、ご支度の方に問題はございませんか? 何かがあればすぐに当家の者に申し付け頂ければ、とお伝えしておりましたが……」

「はい。そちらも問題無く。こちらに来てから出る事が多かったので、色々と慣れてきました」

「そうでしたか……ああ。そうだ。シャマナ様のお加減は如何ですか?」


 シャーナ達の準備に問題が無い事を理解したカイトは、更にそのまま続けてシャマナの事を問い掛ける。薬物の投与や魔術による精神操作などで自我を失われていた彼女であるが、現在もまだ療養中だ。

 というより、十年以上掛けて行われた非道だ。幾らマクダウェル家の医療チームだろうと、半年も掛からず彼女を完治させる事は出来なかった。そして姉妹としてシャーナが責任を持って世話を行っているらしく、カイトは基本的に彼女から状況を聞く事にしていた――もちろんミースらからの報告も受けるが――のである。


「ええ。最近、少しですが反応してくれるようになりました。少しずつですが、おしゃべりなんかも」

「おしゃべり、ですか?」

「はい。昨日は……」


 僅かに驚いた様なカイトの問いかけに、シャーナが楽しげに話し始める。そうして、カイトはしばらくの間そちらに留まって、シャーナ達の近況の把握とシャマナの治療の進捗の把握に務める事になるのだった。




 さてソラ達がカイトに先駆けて出発し、カイトがラエリアに向かうべく様々な手配を行い始めてからはや一週間。明日にはカイトも出発というタイミングで、彼の所に一つの報告が速達で届く事になっていた。


「マスター。中津国に先に向かわれた方々から報告でーす」

「お……来たか。悪いな」


 カイトはシロエの持ってきた手紙を受け取って、一つ礼を言う。言うまでも無いが今回のソラ達の渡航はあくまでも冒険部のギルドとしての活動となる。

 なので状況や進捗を報告する義務がソラ達にはあり、ユニオンの支部を通して報告をさせていたのである。そして現状の報告となると何か、というとそれは言うまでもなくこれで占められていた。


「予選大会の結果……やっと出たか」

「どうなっておる?」


 ソラから出された封筒の中に同封されていた一枚の紙を広げたカイトに、ティナが少し興味深げに問い掛ける。ソラ達が出立したのは大会の予選の三日前。二日前に到着し、一日休養と調整に充てられる様にしていた。そして規模が規模なので予選大会の公式的な結果が公表されるのは二日後の朝一番となっており、そこから即座に出されても検閲が入りどうしても出立から一週間後の今になったのである。


「ふむ……まぁ、ソラは本戦出場か。これは妥当だな」

「じゃろうな。今のアヤツは剣士としても相応の腕は持とう。さらには……まぁ、のう。いささか卑怯じゃが」

「あははは。実際には擬似的な<<原初の魂(オリジン)>>みたいなものだもんね」


 どこか苦笑する様に笑うティナに、ユリィが楽しげに笑う。ソラにはかつて神剣と共にエルネストの剣技も受け継がれている。これは見様によっては<<原初の魂(オリジン)>>と同じと見做す事が出来るのであった。

 とはいえ、これは厳密には<<原初の魂(オリジン)>>ではないのでルール上使い放題と言ってよく、ソラは一年の間学び続けたそれを存分に使って勝利を得ていたらしかった。伊達に英雄が培った武芸ではない、というわけなのだろう。


「で、他には……ああ、やっぱり先輩も本戦出場か」

「こちらは順当と言えば順当じゃろう。前に不利な条件で出たのが悪かっただけじゃな」

「だろうな。予選大会ぐらいなら、突破出来ても不思議はない。それでもくじ運に恵まれなければ、というのが天覇繚乱祭の怖い所だが」


 ティナの言葉にカイトも同意し、僅かに笑う。伊達に世界最大の武闘大会というだけの事はあり、本戦にすでに出場を決めた者たち以外にも本戦直前の予選大会にさえランクSの猛者が出る事はある。

 が、やはり連戦のトーナメント形式となるのでどうしても大番狂わせは起きやすく、結果としてソラや瞬の様にランクSでなくても高ランクの冒険者に勝ててしまう事だって起きるのであった。


「ま……後は順当といえば順当な所か」

「じゃろうて。運が通用するのも地力があってこそ。大凡残った者も不思議の無い地力があろう」

「だわな……椿。悪いがこのリストを保管しておいてくれ。今後の編成の参考資料にする。ついでにスキャニングしてデータ化してくれていると助かる」

「かしこまりました」


 カイトの指示を受け、椿がソラの送ってきたリストをファイルに閉じておく。後でこれをスキャナーに掛けてデータ化。カイトが使う時の参考資料に出来る様にしてくれるのであった。

 そうして、出立前の最後の一日はソラからこの結果が届けられる事以外は特筆する事は起きず、カイトは明日に備えてこの日は早めに業務を切り上げる事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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