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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第78章 天覇繚乱祭編

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第1824話 天覇繚乱祭 ――懸念――

 一年の採掘場での生活を経た事でどれだけ強くなったのかを試したくなったソラ。そんな彼の要望を受けて、カイトは彼の中津国への渡航と天覇繚乱祭への参加を認める事となっていた。そうして、決定から数日後。カイトは予選に出場する面子の見送りに来ていた。


「オレの方は数日遅れて行くが……まぁ、予選頑張れよ。今回の予選は前の予選より遥かに厳しいだろうが……得られる物は多いはずだ」

「ああ」

「おう」


 カイトの激励に、瞬とソラは一つ頷く。やはり今回は本戦も近いという事で参加者は非常に多いと思われる。そして地方で行われた予選では負けたが再度の本戦出場を目指してこちらにも参加、という者も多いだろう。そこらもあり例年中津国で行われる予選は各国で行われる予選に比べてレベルは高く、生半可な腕では苦戦は免れないのであった。というわけで、そんな事を知っているソラはカイトの激励に一つ笑う。


「ま、俺はやれる所までやるだけだ。とりあえずこの一年お師匠さんやらコンラートさんやらに鍛えて貰ったから、どこまで通用するか見てみたいってだけだし」

「そうだな。お前の場合はそれが何より重要だろう。今までお前が得ていた自己評価が大きく変貌してるはずだ。それを、きちんと正しい値に戻してやれ」

「おう」


 やはり非合法な採掘場なので喧嘩は日常茶飯事だったものの、状況から(スキル)や魔術を使った戦いが出来たわけではない。なのであそこでの戦いで連戦連勝出来たとてそれが正当な評価に繋がるわけもなく、今回の様な魔術や(スキル)もありの戦いで得られる相対評価こそが、ソラにとっての正確な評価となる。あの一年の所為でソラ自身でさえわからなくなってしまった彼の相対的な立ち位置を見るには良い場所だった。


「で……先輩。先輩は今回、縛りは無い。存分に戦えば良いだろうさ」

「ああ。そのつもりだ。最近は<<原初の魂(オリジン)>>にも慣れてきた。刀でも戦えるが……と、そうだ。そう思えば、<<原初の魂(オリジン)>>はどうなるんだ?」

「ああ、あれか。そう言えば以前は言ってなかったな……あれだけは、本戦でも使用禁止だ」

「そうなのか」


 僅かに驚いた様に、瞬が僅かに目を見開いた。基本天覇繚乱祭では何でもありだ。なので飛べない奴は飛べない奴が悪い、となるし転移術で消えられない奴は消えられない奴が悪いとなる。

 が、この<<原初の魂(オリジン)>>だけは別で、これだけは使ってはならないものとしてルールに明記されていた。現に瞬も先の予選大会では厳密には<<原初の魂(オリジン)>>を使っていたわけではない。薄く展開して擬似的に刀を使える様になっていただけだ。身体能力の強化も何もしていなかった。


「<<原初の魂(オリジン)>>は前世の己を呼び込む手段だが……それ故に戦士としてどちらの自分が戦っているかわからないからな。それにあれを使うと力技で押し切れたりするから、技が見れなくなる。もちろん、<<原初の魂(オリジン)>>を使って手に入れた技術を使う事は問題無い。それは前世の己の技術を自分の物にしたから、と言い切れるからな」

「なるほど……確かにな。あくまでも武闘大会である以上、見るべきは技か」

「そういうことだ」


 カイトは自身の言葉を正確に理解した瞬に一つ頷いた。つまりはそういうことらしい。飛空術にせよ転移術にせよ、練習すれば誰にでも使える。もちろん、<<原初の魂(オリジン)>>で使える技も然りだ。

 が、同時に<<原初の魂(オリジン)>>で使える技は前世を目覚めさせている間は前世が習得した技術として、使える様になっていると見做せる。故に本人が未習得の技を披露されても判別する術が無く、<<原初の魂(オリジン)>>だけは使用禁止、となっているのであった。

 なお、それで言えば瞬もダメに思えるが、身体強化に倍率が掛かっていないし発動はせずに引き込んだ技術を基に戦っていたので問題はない、とのことであった。そこらは大会委員会に聞いて確認を取っている、という事なのだろう。


「というわけで、使用は禁止。まぁ、それに見たら分かるからな。使う馬鹿もおらんよ」

「なるほど……わかった。気を付けよう」

「そーしておけば安心だろう」


 カイトは瞬の返答に一つ頷く。そうしてそれを受けて、彼らはカイト達に先駆けて出立していくのだった。




 さてソラ達の出立からすぐ。カイトは改めて自身も出立するべく飛空挺の調子を聞きに来ていた。


「どうだ?」

「うむ。総じて拵えとしては悪くあるまい。とはいえ、やはり言えるのは戦闘艇ではなく、というところよ」


 カイトの問い掛けに対して、軍工廠の一角に設けられた飛空挺のメンテナンスドックにて作業を行なっていたティナが笑う。


「防御性能としては、悪うあるまい。ランクSクラスの魔物の一撃ぐらいになら耐えられよう。無論、連発されれば危ういが」

「良い性能だな。玉座機と考えるなら、十分な性能じゃないか」

「うむ。十分な性能を有しておる……というより」

「うん?」


 唐突にジト目になったティナに、カイトは訳もわからず首を傾げる。


「お主がおかしいんじゃろうが。攻撃極振りの攻撃機を旗艦なぞ……これが普通じゃ。一瞬抜けかけたが、総大将が前線切って戦うとか……アホか馬鹿かと」

「だってオレ強いし」

「強くもなくやれば阿呆の所業じゃ。お主じゃから許されるとしか言い得んわ」


 どこか自慢げなカイトに、ティナは盛大にため息を吐いた。間違いなくカイトは世界最強の戦士と言って過言ではない。が、それでも、言い含めねばならない理由があった。


「とはいえ……お主は最強であって無敵ではない。お主とてわかっておろう。例えばスカサハ。あれならば、間違いなくお主に届き得る。他にもお主が先生と慕い敬うギルガメッシュ。かの者であれば、エンキドゥと共にであれば本気のお主であれ下せよう。他にも、かつてお主が戦ったニャルラトホテプ。あれは正しくお主と互角であったのであろう?」

「わかっているさ。オレは、単なる最強だ。どこかのチートの様に絶対無敵じゃない。それを忘れた事なんて一度も無い」


 ティナの指摘に対して、カイトは先程の得意げな笑みは何処へやら、一転して僅かに柔らかな顔を浮かべる。


「最強と無敵は別物だ……オレは所詮、最強でしか無い」

「そうじゃ。それをよく理解せよ……家族を得て愛する者を失うのは、余はごめんじゃぞ」

「わかってるさ……オレは死なない。死ねないしな」

「それがわーっとるなら良い。存分にお主の腕を奮ってこいと言うだけじゃ」

「イエス・マム。優勝は出来んが、善戦はしてこよう」

「難儀な立場じゃのう」


 今回、カイトは依頼されている仕事柄どうしても優勝は出来ない。それを考えれば、やはり本気では戦えなかった。それ故にティナは先とは別の理由で呆れ返っていた。


「ま、そうでもなきゃオレも参加なぞせんよ。流石にオレが本気で出るとなると、全員出る。それは誰もが望むだろうが、来年に持ち越しだ」

「ちょいと余は心惹かれるのう。中々に良い見せ物になりそうじゃ」

「だーら来年なんだろ? 今年は日本人が見せ物になれば十分だ」

「それも道理かのう」


 カイトの言葉に、ティナもまた考えを改めて同意する。そうして真面目な話し合いが終わったかに見えたが、それ故にこそここで本題に入った。


「まー、それはともかくとしてじゃ。話を飛空挺に戻そう」

「あー、そういえばそうだったそうだった」


 ティナとしては一言事あるごとに言っておかねばならないが故い脱線したが、本題はここでは無い。それをカイトも思い出した。


「で、調整は?」

「完璧に近いと保証しよう」

「そうでなければ困る……これが堕ちると面倒じゃ済まん事態になるからな」

「わーっとる。それ故に当日には完璧にまで持っていこう」

「頼む」


 カイトのラエリア渡航に合わせて、シャーナもまた渡航するのだ。皇国からしてみれば、国内の最重要人物二人が一度に同じ船に乗るに等しい。もし落ちれば、と考えれば胃が痛いでは済まないだろう。

 まぁ墜落した所でカイトは平然と戻るだろう、というのは彼を知る者の言葉だし、彼の事だ。普通にシャーナやその側女達も全員無事に連れ帰るだろうというのは、わかり切った話だろう。彼に近ければ近い程、一切気にしている風はなかった。


「で、一応聞いておくんだが、進捗は?」

「現在、ホタルにリンクできる様にカスタムしておる所じゃ。そちらが終われば完璧じゃな」

「ということは、もう殆ど終わったも同然か……なんで今までやってなかったんだ? ホタルとアイギスへの同期は基本システムだろ?」


 カイトが艦隊運用を行う場合、基本的にホタルかアイギスは必ずその補佐として就く事になっている。これは端的に言って、彼女らがティナが創りし者ということで同じくほぼ全てにティナの手が入ったマクダウェル家全てのシステムを操作出来るからだ。

 端的に言ってしまえば基幹システムが同じ故に、という所だろう。さらには権限としても彼女らの方が上に来る様に設定されている。二人はカイトの補佐だからだ。カイトの指示で動く以上、それ相応の権限が必要なのである。というわけで、基本的にはまず最初に搭載されるシステムだったと言っても過言ではなかった。


「ああ、いや……これが実は余も盲点じゃったというべきか、中々に面白い話になってくるんじゃが……」

「端的に頼む。お前の面白い話は大抵技術的な話が絡んできて、オレには理解出来ん事が多い」

「わーっとるよ……というわけで、端的に言ってしまえばあやつ。よほど操られる事を恐れておるらしい。いや、敢えて言ってしまえば自己が失われる事への恐怖かのう」

「ふむ?」


 一つの生命として見れば、それは普通の事だ。言ってしまえば生存本能。それと同じ物をホタルが持っていても不思議はない。なのでカイトからしてみれば当然と言える事なのであるが、それと今回作業が後回しになってしまった理由が理解出来なかった。


「うむ。ここからはまぁ、若干技術的な話にはなる……さて、そもホタルの大本と言えば何じゃ? ああ、スマヌ。言葉が足りぬな。魂の拠り所というべきじゃろう」

「うん? ホタルの魂の拠り所……? それはまぁ……魔石だろう? 大本はと言われればゴーレム側かもしれんが……今の彼女は魔石側に宿っていると言った方が良い」

「うむ。そうじゃ……が、それ故になのじゃ」


 カイトの返答に一つ頷いたティナは、それ故にどこか嬉しげで楽しげに頷いた。それに、カイトは改めて首をかしげる。


「だから、どうしてなのさ」

「うむ……ま、ぶっちゃけ、ゴーレム側が自身に影響してしまう事を恐れておる。それはこの間のマルス帝国の中央研究所で表出した、と言ってよかろう」

「……あの時、自身に何かしらのハッキングが仕掛けられた事を警戒している、というわけか?」

「うむ。それ故、アヤツ自身も気付かぬではあるが、精神防壁とでも言うべき防壁の強度がかなり上がっておってのう。そのままこれに接続は出来ん」

「だが、前の時は普通に接続出来ていなかったか?」


 前の時。それは以前の教国での事だ。あの時、ホタルは飛空艇に接続してそこから様々なサポートを行っていた。にも関わらず、今回は接続出来ない、だ。いまいち合点がいかない話だった。


「うむ。それは端的に言って、余を信頼しておればこそ、であろうな」

「そりゃ、そうだろとしか言えんが」

「ははは。違うわ……あの時、アヤツと飛空艇の間には中継機として幾つかの余が拵えた装置が介在しておった。直接的に飛空艇には接続しとらんかった、というわけじゃな」

「操られる可能性が怖かったからな」

「そういうことじゃな……それ故、あやつも無防備に接続出来た。余の中継機に、じゃがのう。が、あれはお主も知っての通り、臨時の措置じゃ。教国も認めた方法でもあるしのう……が、これはそれが無い」


 ティナは改めて、シャーナの専用機だった飛空艇を見る。この防壁は確かに高度と言える。言えるのだが、それはあくまでも一般的な水準から見て、という話でしかなかった。


「この内部の防壁はまぁ……余からしてみれば児戯に等しい。それはすなわち……彼奴ら(死魔将)達からしてもまた、そうじゃとしか言えん。これに接続しておる時にこれを介して自身が操られておる事を懸念しておる、というわけじゃ」

「なるほど……今回の一件で柔らかく脆い内側から破壊される事を無意識的に恐れる様になった、か」


 言われればカイトとしても理解出来たし、これは彼からしてみれば嬉しい話と言い切れた。なにせ彼女がゴーレムではなく一つの生命としてまた一歩人に近付いた、という事だからだ。手間を喜べど、憤ったりする理由はどこにも無かった。


「ティナ。今後、六番機のこともある。徹底的に彼女らの関わる物については中継機を設けてくれ。万が一が絶対に無いようにな」

「余を誰じゃと思うておる。すでに手は考えておるよ」

「さっすがマザー。アフターケアもばっちりか……ま、そこはお前に任せる。必要なら全て報告しろ。こちらで全て手配する」

「うむ。それでこそお主じゃ」


 被造物については一切のケアを怠る事の無いティナに対して、家族に対しては一切の手抜かりを許さないカイト。その二人はこの後数日掛けて、ホタルが安心して活動出来る様に飛空艇のシステム面を整える事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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