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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第78章 天覇繚乱祭編

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第1823話 天覇繚乱祭 ――参加――

 瞬の不可思議な遭遇に端を発しアルミナと再会したカイト。そんな彼らは冒険部のギルドホームにて少しの話し合いを持つと、その後アルミナはどこかへと消えていった。


「……帰ったのかな?」

「いや、普通に居るぞ?」

「ふぇ!?」


 部屋を出て瞬きをした瞬間に居なくなったアルミナに対してそう思ったソラであるが、逆にカイトには彼女の存在が感知出来ていたらしい。


「しばらくこっちに居るつもりなんだろ。あの人、一度来たら数日は帰らんからな。今回は特に他に目的もあったんだろ。そうじゃないと、オレが呼ぶ前から普通に居て接触も無し、ってのも珍しいからな」

『そうね。グリムの情報集められたら持ち帰れ、って大長老に言われてるの』

「……どこに居るんっすか」


 見渡す限り、アルミナが隠れられる様な場所はどこにもない。にも関わらず彼女は声しかしていない。おまけに言えば、視線も一切感じない。声はすれども姿は見えず、を地で行く様子だった。


「おいおい……暗殺者に隠れ場所を聞くなよ。教えてくれるわけがないだろ」

「……そりゃそうか」

「それに、ま……あの人は表に出られる身分じゃない。聞かれても面倒だしな」

「確かに……特にルーファウスは面倒だな」


 カイトの指摘に、ソラも一つ思考を巡らせて同意する。騎士と暗殺者だ。正反対の存在としか言い得ない。となると、あまり関わらせない方が揉めないで良いだろう。しかもアルミナの立場を聞かれてもカイトとて困る。なら、隠した方がよほど良かった。


「ま、後は気にせず帰るか」

「りょーかい。ってか、結局収穫なしって所になっちまうのか」

「まさか。収穫ならあった。暗殺者達じゃない、って収穫がな」


 ソラの言葉に、カイトが一転して僅かに獰猛に笑う。これは彼にとって幾つも良い側面のある収穫だった。


「暗殺者達じゃない、ってことは少なくとも冒険部の活動は周囲に認められているという事だろう。大長老が暗殺は無いな、と言うなら尚更だ。大長老は自分の基準を持っている人物で、あれがそう判断したなら、少なくともこちらの判断も信用出来る」

「ふーん……」


 その大長老なる人物が何者かは分からないが、少なくともカイトが信頼するだけの事はあるのだろう。ソラはその一点を以って信頼しておく。


「とはいえ、それならなんなんだろうな」

「さぁなぁ……流石にもう分からん。何かがあった、と思うしかない」


 最悪は本当に寝ぼけていたという可能性しかないが。二人はそう考えながら、ひとまずは執務室に戻って仕事を終わらせる事にするのだった。




 さて、カイトとソラがアルミナと出会って数時間。夕方になろうかという頃合いだ。そこでふと、ソラがカイトへと提案する。


「あ、そうだ。なぁ、カイト」

「うん?」

「そういや、今度中津国に行くんだったよな?」

「ああ。大会があるからな」


 ソラの問い掛けにカイトは書類にサインしながら、顔を上げる事もなく頷いた。大会、というのはこの世界最大級の武闘大会、天覇繚乱祭だ。

 あの後幾つかの部門に分かれて大会が行われ、全ての地方大会が終了したとの事で、既に本大会の日程も通達が出ていたのである。こちらはカイトは仕事なので参加せねばならなかった。


「それ、俺も出たらまずいか?」

「うん?」

「いや、ほら。前の旅でパワーアップしたから、どこまでパワーアップしたか試したくてさ。今回の大会、ルール変更で無差別級になったんだろ? いろんな相手と戦える機会って早々無いからさ。出ときたい」

「んー……」


 一応、天覇繚乱祭はシード枠以外にも一般参加の枠があり、本大会の数日前に行われる予選突破出来れば、本戦に出場出来る。ソラの場合予選に出場していないのでそちらから参加せねばならないだろう。とはいえ、その為には幾つかの状況をクリアせねばならなかった。


「……お前、残留の統率は?」

「ティナちゃんに任せらんないか?」

「んー……まぁ、不可能ではないが……お前が強行軍になるぞ?」

「分かってるよ。日程的にギリギリなんだろ?」

「まぁな。だからオレは戻らんし」


 ギリギリの日程。それはなぜかというと、今度のユニオンの総会があるからだ。流石にこれへの不参加はカイトは許可されない。必須としてバルフレアより依頼を受けている。なのでカイトは中津国から直接ラエリアへ向かう予定だった。

 また、それに合わせて今回の渡航ではラエリアで受け取った王族専用機を使うことになっており、シャーナが同行する事になっている。彼女を首都に預けて、自身は一度ユニオンの総会に出席。その後再度シャーナらと合流して『大地の賢人』の所に向かうというのが、カイトの大まかな予定だった。


「……まぁ、腕試し、ってのは分かるが。あんまりこっちの面子減らしたくもなぁ……」

「やっぱダメか?」

「うーん……」


 残念そうなソラの顔に、カイトは苦い顔で再考する。ここ暫く彼には残留であまり戦闘をさせていなかった所が、カイトには気にかかった。

 いや、これは仕方がない側面はある。ソラの回復は最優先事項で、千代女に負わされた怪我も回復せねばならなかったあちらについては既に癒えているが、それ故に彼の本格的な再始動には時間を要してしまった。腕と感覚を落とさないためにも、そして今後を考えれば参加は悪くない判断だった。


「……わかった。こっちで手は考える。行ってきて良いぞ。先輩も行くし、他にも今回の予選から参加というのも少なくない。それに同行してこい」

「マジで?」

「ああ」

「おっしゃ! サンキュー!」


 やれやれ。喜色を浮かべるソラに、カイトは僅かに苦笑する。


(……まぁ、良いか。今のあいつがどこまでの力を得ているか。それを測るには良い機会だ。それに……)


 あわよくばソラの前世について何かわかるかもしれない。カイトはその一点を最大の理由にしていた。ソラの前世については現状、戦国時代の人物と目されている。

 これについては理論的に間違ってはおらず、唯一気になるとすれば他世界からの転入者である事だ。が、こちらも千代女達が知っていた事を鑑みれば、間違いなく地球の日本と考えられた。と、そんなことを考えたからだろう。彼はふと、ペンを動かす手を止め、どこか剣呑な雰囲気を醸し出した。


(果心居士……どういうつもりでその名を名乗る……? あの名は遊びで名乗った名なんだ。遊びのつもりか……?)


 報告書に記され、そしてソラからも聞いた果心居士の名。それにカイトは僅かな憤慨を得ていた。が、同時にどこか得も言われぬ焦りにも似た感情を得てもいた。


(……違う……だろう)


 おそらく。ここでカイトを知る者が居た場合、このカイトの内心の呟きをこう捉えただろう。そう思いたいだけ、と。まさか果心居士が吉乃ではない。カイトは自らが愛した者なればこそ、そう思っていた。


(いや……よそう。下手に考えるだけ、精神が乱れるだけだ)


 カイトは首を振って、果心居士が吉乃かもしれない、という疑念を振り払う。そうせねば、今すぐにでもここを出て行きかねなかった。そんなカイトの内心なぞ露知らず、ソラは楽しげに問いかける。


「じゃあ、取り敢えず用意してくるけど……帰りってどうすりゃ良い?」

「オレと先輩は本戦が終わった後は即座にラエリアに飛ぶから、お前は帰還する面子の統率を行え。飛空挺の行きは先輩で帰りは雇う予定だったんだが……帰りはお前が動かせ」

「あいよ。じゃあ、行きの時点からコ・パイしてりゃ良いか」

「それで良いだろう」


 そもそも飛空挺を一隻チャーターしてる時点で、ソラ一人が増えた所で問題にはならなかったようだ。ただ統率の面子が、というだけだろう。とはいえ、そちらもなんとかなる目算はあった。


「トリン。悪いが、この馬鹿の補佐は頼む」

「はい。どうせ大会期間中ですし……問題なく」

「頼む。大会が終わり次第、こいつにはすぐに帰らせる」


 トリンの返答に頷きつつ、カイトはソラについてを語る。本戦であるが、実はこちらは武器種毎に大会が別れる事はない。ただ予選大会でまで全部を一緒くたにするとそれだけで大会が大きくなり過ぎてしまうから、との事であった。

 但し、流石に距離を詰められれば負けに等しい弓兵などの遠距離の者達は参加できない。いや、参加しても良いが、参加はしないと言える。範囲が限られる場かつ両者の距離がある程度近い会場では彼らに圧倒的に不利だからだ。そのかわり弓兵や魔術師達には専用の部門があり、別枠として設けられていた。


「はい」

「よっしゃ……じゃ、取り敢えずすぐに準備してくる。武器の調整とか必要だし」

「それが良いだろう」


 先の予選大会の時には無かった基礎能力が今のソラにはある。それを鑑みれば、彼でも十分に本戦は射程圏内と言える。怖いのはやはり相性の問題だが、そこはもう運次第と言うしか無いだろう。


「さて……オレも参加の支度はしないといけないんだが……アル。ルーファウス。二人とも、調整は良いのか?」

「ああ」

「うん」


 カイトの問い掛けを受けて、二人が一つ頷いた。やはり世界最大の大会で、相手は間違いなく自分達以上がゴロゴロしているだろうのだ。少しばかり調整には熱が入っている様子ではあった。そしてそれ故にか、それとも過去世故にか、最近は二人で組み稽古をしている様子だった。対等に戦える相手だからこそ、何よりも訓練になっているのである。


「カイトの方はどうなの? 最近ちょくちょくどこかへ消えてる、って聞いてるけど」

「うん? ああ、調整か……まぁ、ある程度は、か」


 アルに問い掛けられて、カイトはここ暫くの自身の行動を思い出す。実のところ、ここ暫く彼は必要に応じて消えていた。

 というより、可能な限りどこかへ行って修行をしている様子だった。なぜそれが分かるかというと、帰ってくるなり疲れ果てていたからだ。相当な修行を積んでいたらしい。


「……」


 カイトは無言で、自らの手を握り締める。返ってくる感覚に違和感は無い。既に傷は癒えている。傷の治りのあまりの速さにリーシャが驚くほどだった。


「……後は、向こうでやる。なぁに、運が悪くなけりゃ、初戦で化け物には当たらんだろう。勝負はくじ運も絡む。当たったら当たった時。何時もの火事場のクソ力でなんとかするさ」

「「あはは」」


 カイトらしいと言えば、カイトらしい。そんな彼の返答に一同が笑う。とはいえ、この正確な意味を理解できたのは、一人もいなかった。


(存分に、試させてもらうぞ……)


 今のカイトにとって、主敵は今回の戦士たちにはない。彼にとっての敵はただ一人。柳生一族が開祖にして、おそらく日本でも有数の剣士である剣士。自分より一回りも二回りも年上の偉大な剣士。柳生石舟斎その人だった。


「ああ、そうだ。そう言えば……二人共一度聞いておきたいんだが、武器は今のままで良いのか?」

「「武器?」」

「ああ……ああ、聞いてないのか。天覇繚乱祭では有数の戦士たちが集うから、同時に世界中の鍛冶師も集うんだ。だから名うての鍛冶師も来ている事も多い。それこそ、僻地で滅多に人前に出ない様な鍛冶師が来たりもする」

「ああ、聞いた事あるなー。僕、何気に本戦出るの初めてだから忘れてたけど……」

「どういうことだ?」


 まぁ、中津国とマクダウェル家はかなり親しい。なのでマクダウェル家の軍人であるアルは聞いた事があっても忘れていた様子で、逆にルーファウスは今まで鎖国に等しかった教国に居たが故に知らなかったらしい。それに、カイトが頷いた。


「まぁ、当然といえば当然なんだが……やっぱり鍛冶師でも自分の武器がどこまで通用するか、を知りたくはある。それはわかるだろう?」

「ああ……当然の話だろう」


 ルーファウスは自分が懇意にしていた鍛冶師の事を思い出し、一つ頷いた。確かに鍛冶師の中には金の為に鍛冶をしている者も居なくないが、竜胆や海棠翁の様に自分で神々の領域に辿り着こうとしている鍛冶師は少なくない。そんな鍛冶師の多くは、何かしらの目的があって僻地に住んでいる事も多かった。そんなわけで、カイトの言葉をアルが引き継いだ。


「だからだよ。自分の武器が……自分の武器がどこまで通用するか知りたければ、実際に使ってもらうのが一番。だから、それを見に来るわけ。で、ついでに売っていこう、って人も多いんだって」

「なるほど……確かにな」


 言われてみれば道理ではあった。ルーファウスはアルの解説に一つ頷く。やはりなんだかんだこういった指揮の要素が絡む場ではアルの方が一歩上手の事が多い様子だった。


「ま、そういうわけでな。せっかくだから武器を見てくるって奴も少なくない。思わぬ良品に巡り会える事もある。見に行くのなら、止めはしない」

「そうか……そうだな。少し興味がある。覗かせてもらおう」


 ルーファウスとて騎士であるが、同時に戦士としての側面もある。なので強い武器に興味が無いわけではない。何より今の武器は父から一族の所以に従って貰ったものだが、別にこれ以外を使ってはならないという掟は無い。より優れた武器があれば、そちらを使う者も一族にはいた。実際、ルクスはその筆頭と言って良いだろう。なので見に行く事にした様だ。そしてアルもまた同様だった。


「そうだね……僕も少し見てこよ。そろそろ、だし」

「そうだな……お前はそろそろ更に上でも良いだろう。一度良い剣が無いか見てくると良い」


 アルの言葉にカイトも同意して、その行動を許可する。優れた武器を手に入れて貰えば、彼にとっても利益なのだ。止める理由はどこにも無かった。そうして、出立に向けて動く者は動き、逆に残る者も残る為の支度に勤しむ事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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