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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第77章 久遠よりの来訪者編

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第1817話 秋の旅路 ――受け継ぎし者たちの戦い――

 クシポス山近郊で起きた邪神の尖兵達による襲撃。その防衛隊の一人として、カイトは戦列に加わっていた。そんな彼は近接戦闘を行う冒険者達と共に黒いモヤで出来た敵の侵攻を食い止めていたわけであるが、後方に控える魔術師達――と言うより具体的にはティナ――の支援を受け、更に前へと突き進んでいた。


「さぁて……」


 獰猛に、楽しげに。カイトは黒いモヤが集まって出来た巨大な敵を前に、楽しげに笑って大鎌を構えて見得を切る。


(話には聞いていたな。邪神もまた神軍を召喚する事が出来る、と)


 見得を切り一瞬先の戦闘に備えるカイトは、一瞬だけ少し前の事を思い出す。それはシャルロットが復活し、大戦の事をより詳しく聞いた時の事だ。が、これはその神軍召喚とはまた別と言って過言ではなかった。


「さぁ……どんな原理でこれをやっている? いや、そもそもお前の権能には洗脳は無いんだが……ま、そんな事を言ってしまえば、オレがお前の<<神軍(ゴッド・ソルジャー)>>を知っているのがお前にとっちゃ疑問なんだろうがな」


 楽しげに、そしてどこか嬉しげに。カイトは隆起し人の形を取る巨大な黒いモヤを前に、そう呟いた。


「……」


 本当なら、もっと自身に敵を引き付けて被害を減らしたい所なんだが。カイトはこの敵が自身にいくつもの縁があるとわかっていればこそ、そして自身にはそれが出来るだけの力がある事がわかっていればこそ、そう思う。が、それは自身の正体を露呈してしまう結果になるし、何より今ここにはアルヴェンも居る。それを彼は忘れていなかった。


「……アルヴェン」

「……何?」

「見たらわかると思うが、こいつの攻撃は大ぶりだ。速い様に見えるし、実際速い。だが、それでもこの巨体だ。それに見合った初速しか出ない。避ける事に専念しろ」

「……倒せんのかよ」

「倒せるか、じゃない。倒すしか無い。何、守ってはやる。死にに行かなけりゃ、生きては返してやる事は出来る」


 強大な敵を前に緊張を隠せないアルヴェンに対して、カイトははっきりと生還させる事を明言する。今はまだ正式な形ではないとはいえ、彼もまた自身のギルドのメンバーなのだ。生きて帰す。それが、彼のここでの唯一無二の任務だった。そうして、そんな彼へと巨大な黒い人影が拳を振り下ろした。


「っ」


 振り下ろされた拳を見て、アルヴェンが即座に地面を蹴る。確かにカイトの言う通り、速くはあるし全体としてみてみれば十分に速い。が、それでも。全体の動きを見て予備動作も含めれば、その巨体に見合った初速でしかなかった。故にしっかりと全体を見ていれば、避ける事は出来た。そんな彼であったが、カイトがそのまま留まっていた事に大いに驚き、声を上げる。


「って、おい! カイト!」

「冥府の神はここに在り……来たれ、『帰還する事のない土地(クル・ヌ・ギ・ア)』」


 振り下ろされる巨大な拳に対して、カイトはその身に宿るエレシュキガルと呼ばれるウルクの冥界神の力を展開。自身に有利な場を創り出す。


「ふっ」


 まるで軽く。自身の周辺のみ冥界をこの世に呼び寄せたカイトは、振り下ろされた拳に対して大鎌で薙ぎ払う。するとどういうわけか無数の斬撃が迸り、巨大な腕が細切れになる。

 この程度であれば、シャルロットの支援がある今なら問題無いと判断したらしい。もっと目立ちたい所ではあるが、それは出来ないだろう。出来て、この程度と考えるべきだった。


「……は?」

「甘いな……復活していない状態で今のオレに敵うわけがないだろう。此方側の住人の状態では、こちらに有利になるだけだぞ」


 巨大な腕を細切れにした挙げ句、大鎌を持たない左手を巨大な人形に突き付けるだけで動きを止めたカイトに、アルヴェンは思わず呆気に取られる。

 が、カイトとしては何も不思議な事はしていない。まだ敵が復活していない、という事は逆説的に言ってしまえばまだ冥界の住人という事だ。神として復活出来るのだろうが、冥界の住人である以上、そして相手の主人がメソポタミア神話の神である以上、エレシュキガルの権能は誰よりも、そして何よりも優先されてしまうのである。


「はっ!」


 左手一つで巨大な敵を押し留めたカイトであるが、改めて両手で大鎌を構え一薙ぎ。それだけで、敵は再度いくつもの巨大な黒い塊へと分解されてしまう。そうしてドシャドシャ、という音を立てて、黒い塊が黒い波へと落ちた。


「はっ……雑魚が」

『エレ……ガル……』


 黒い巨体を意図も簡単に消し飛ばしたカイトへと、何者かの声が響いてくる。それにカイトは思わず目を瞬かせた。


「ん?」

『冥府の……を使い……汝……者か』

「……」


 どうやら、この黒いモヤを生み出す発生源はカイトの事を詳しくは知らないらしい。当然といえば当然だろう。邪神そのものはカイトの事をおおよそ理解しているだろうが、それはあくまでも彼だからだ。それから詳しく聞いていなければ、主人と同じ世界の力を使う何者かにしか思えなかった。


「何者……何者か、か。そうだな。ギルガメッシュ王の教え子、とでも言っておこうか」

『ギルガメッシュ……』


 どうやら、聞き覚えがあるらしい。黒いモヤの発生源は思い出す様にその名を口にする。


「ああ、そうだ。今のオレは……いや、オレ達は地球人類は全て、彼の背を見て育った者だ。人類最初の人。初めて人類として、一個の独立した人間として大地に立った人……そしてオレは……」


 その唯一の教え子だ。カイトは小さく、自らの誇りを口にする。そして同時に思うのは、因果なものだ、という僅かな苦味だ。どちらも当人達では無いのだ。にもかかわらず、カイトは己が信じる者の為。敵は己の奉ずる神の為、戦うしか道は無かった。


『……』


 主人とギルガメッシュの間に何があったのか、というのはこの黒いモヤの発生源は知らない。だが、それでも。生み出された時に埋め込まれた憎悪と憤怒は、消えていなかった。それ故、もはや言葉は不要とばかりに黒いモヤの発生源はカイトの周囲に無数の巨大な人影を生み出した。


「……なんだよ、これ」

「邪神の尖兵だろ……戦いに専念しろ」

「……」


 ぐっ。アルヴェンはカイトの言葉に、改めて剣を握りしめる。それに、カイトはわずかにほくそ笑む。悪くない。そう思った様だ。


「というか、今更だけど」

「ん?」

「あんた器用すぎるだろ。なんだよ、その大鎌」

「ああ、これか。これはちょっとした縁で手に入れた神器だ。流石に神器も無しであんなのとやり合ってられるか?」

「マジかよ……」


 そんなものまで持っていたのか。アルヴェンはカイトの大鎌を見て、思わず顔を顰める。と、そんな所にシャルロットから念話が入った。


『下僕。聞こえて?』

『アイマム。貴方様のお声であれば、この闇夜で届かぬ事がありえません』

『それは結構……来たわ。相当な速度でそちらに進軍してるわ』

『……』


 どうやら、完璧に自分を主敵として認めたらしい。いや、当然だろう。シャルロットの支援があるので、そうなる様にはしておいた。なので後は、戦うだけだ。


「アルヴェン。とりあえずお前は生き延びる事だけを考えろ」

「何回も聞いたよ」

「何回でも言うさ。踏み潰されるなよ」

「おう」


 流石にこの数だ。アルヴェンにもカイトが先程の様には行かない事ぐらい、考えるまでもなかった。そうして、一斉に巨大な人影が動き出した。狙いは全て、カイトだ。故に彼は浮かび上がりアルヴェンから視線を逸らすと同時に、自身に有利になる様に軽やかに滞空する。


「ふっ」


 放たれる拳に対して、カイトは『帰還する事のない土地(クル・ヌ・ギ・ア)』の力を利用して動きを阻害。遅延する拳を軽々と回避しながら、返す刀で大鎌を振るって黒い塊へと変えていく。

 その姿は、彼の主人であるシャルロットと同じく月夜に舞う様に優雅な戦い方だった。そしてそれに呼び寄せられたかの様に雲が割れ、月が現れる。


「おや……」


 月明かりに照らされて、カイトはわずかに眉を上げる。月が出た、という事は即ち、そういう事だからだ。


「……は?」


 月光が差し込む様に降り注いだ無数の白銀の閃光に、巨大な敵の攻撃を避けながら周囲の無数の人形と戦っていたアルヴェンが思わず上を見る。そこに居たのは、月を背にしたシャルロットだ。そんな彼女は遥か天空から、口を開いて声を発する。


『下僕。そっち、行ったわ』

「あいよ」

「っ! なんだ!?」


 がぁん、という何かがぶつかる様な音が鳴り響き、カイトが大きく吹き飛ばされる。そうして遥か彼方のクシポス山の斜面に、彼は着地した。


「やるね……」


 吹き飛ばされたカイトであるが、その顔にはやはり笑みが浮かんでいた。どうやらかつて自身の主人を倒したシャルロットより、主人を激怒させたギルガメッシュの方が優先されたらしい。

 彼を吹き飛ばした邪神の尖兵は、カイトへ向けて再度一直線に突き進んでいた。と、黒い一条の閃光となって突き進んでいた邪神の尖兵に、何かが激突した。


「あれは……」

「天馬?」

「『導きの天馬(エンジェル・フェザー)』だ!」


 自分達を守る様に現れたエドナに、周囲の者たちが歓声を上げる。そんな彼女は吹き飛ばされた邪神の尖兵に対して、高出力の魔力のレーザーを放った。そうして吹き飛ばされていく邪神の尖兵を横目に、主従が一瞬笑みを交わす。


「……」

『……』


 だんっ。地面を蹴ったカイトに、エドナもまた虚空を蹴る。そうして白銀の閃光となった彼女は、次元さえも踏みしめて邪神の尖兵へとタックルを叩き込んだ。


「はい、いらっしゃい!」


 猛烈な勢いで吹き飛ばされた邪神の尖兵に対して、カイトはその進路上に待ち構えて左手を突き出した。


「動くな!」


 どんっ、という音と共に、邪神の尖兵が急停止する。それを見て、エドナが再び高出力の魔力のレーザーを叩き込む。


「おらよ!」


 高出力の魔力のレーザーに焼かれる邪神の尖兵に対して、カイトもまた容赦なく大鎌を振りかぶる。だが、やはり邪神の復活が近いのだろう。邪神の尖兵はすんでのところで大鎌の刃を受け止める。が、受け止められた筈のカイトの顔には、笑みが浮かんでいた。


「ファイア!」

『これも!』


 カイトの肩から飛び降りたユリィの火炎放射とエドナのタックルが邪神の尖兵に直撃する。カイトは一人で戦っているのではない。彼らはパーティなのだ。たかだか一撃が防がれようと、何ら問題にはならなかった。そうして叩き込まれた二発に、邪神の尖兵はたまらず吹き飛ばされていく。


「……いいねぇ、これ」

『どうして?』

「気分が良い。かつてのオレに、今のオレ……オレの目指したい形が段々と出来つつある実感がある」


 少し楽しげに問い掛けるエドナに対して、カイトはわずかに感極まった様な様子でそう告げる。が、そんな彼にユリィが告げた。


「でも、まだまだでしょ」

「あったりまえよ。これはまだ予行演習……まだ、足りない。今はまだ二つの世界だ。ここにあいつらが居て、はじめて三つの世界を渡り歩いたオレという存在の集大成が出来上がる」


 カイトのまぶたの裏には、地球で出会った相棒達の姿があった。彼女ら二人が居て初めて、カイトは自身が完成すると思っていた。そしてだからこその、予行演習だった。


「……さ、もう少し付き合ってくれよ。今は気分が良い。存分に戦える」


 気分は上々。一日中戦っても問題はない。そんな様子で、カイトが笑う。そうして、彼らはそのまま一方的な戦いを続け、邪神の尖兵を完璧に消滅させるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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