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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第77章 久遠よりの来訪者編

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第1816話 秋の旅路 ――勇者と魔王――

 クシポス周辺に現れた邪神の尖兵にして、かつての大戦の残党。その侵攻を阻止する冒険者達の戦列に、カイトは指揮官の一人として参加する。そうして始まった戦いの中で、カイトはアルヴェン、ユリィの両名と共に最前線にて黒いモヤが実体化した人形との戦いを行っていた。


「はぁ!」


 基本的な話と言っていしまえばそれまでなのだが、カイトは世界最強にして女神の神使。それもかつての大戦において主力の一人であったシャルロットの神使である。その上に地球に所以のある存在であるのだから、黒いモヤが実体化した尖兵はカイトを率先して狙ってきていた。というわけで、彼の周囲にはもはや黒い渦の様に黒いモヤの実体化した尖兵が屯する様な状況となっていた。


「ユリィ!」

「あいさ!」


 とまぁ、そんな黒い渦に飲み込まれんとするカイトであったが、彼がその程度でどうにかなるわけではない。これがまだこの黒い渦を構成する人形が神々だというのであれば話は違ってくるだろうが、所詮は邪神の尖兵である。ユリィと二人、お互いの背後を庇い合う様に戦っていた。そうして舞い飛ぶ剣閃と魔術の嵐に、アルヴェンは思わず呆然となっていた。


「おい、アルヴェン! 呆けるな! そんなんだと敵、全然減らないぞ!」

「いや、これそういう問題か!?」

「とりあえずやらないと終わらないんだから、そういう問題だ!」


 倒しても倒してもきりが無い状況に声を荒げるアルヴェンに、カイトは楽しげに声を上げる。そして更に言えば、ここで一歩でも前線が引けばそれだけ後方の町が危険になるのだ。引くわけにもいかなかった。


「飲まれれば終わり! とりあえず敵を倒し続けろ! 一体一体はさほど強く無い! もっとペースを上げろ!」

「いや、強ぇえよ!?」


 先程から一閃十体ぐらいの勢いで切り飛ばしていくカイトに対して、一体一体確実に討伐するアルヴェンが声を荒げる。これについてはどちらも正しいと言える。カイトの様な壁越えを果たした様な冒険者達からすれば、この黒いモヤで出来た邪神の尖兵は雑魚にすぎない。

 が、壁越えを果たしていないアルヴェンの様な冒険者からしてみれば、中々に歯ごたえのある敵と言って良かったのだろう。おおよそランクCかD相当の実力がある、と見るのが妥当だった。何時も言われている事であるが、冒険者として壁を越えるというのはそれだけの差があるという事なのであった。


「というか、そんなハイペースで戦って大丈夫なのか!?」

「補給はしっかりしろ!」

「何時、どーやって!?」

「こーやって?」


 アルヴェンの問いかけに対して、ユリィがカイトのウェストポーチに入っている回復薬を放り投げる。そうして空中を舞う小瓶を尻目に、カイトが特大の斬撃を放った。


「ほいっと……ん……こんな感じで」

「……出来るかぁあああああ!」


 特大の斬撃を放って黒い波の侵略を押し返し、その隙を利用して回復薬をキャッチ。まるでコマーシャルでも見ているかの様な流れで回復薬を口にしたカイトに、アルヴェンは思わず呆ける。が、そうして気を取り直した彼は、声を荒げるしか出来なかった。


「出来るか、じゃねぇよ。やるしかない。やらないと死ぬだけだ……ほらよ!」


 現状、黒いモヤで出来た邪神の尖兵は無限に増え続けると言って過言ではない。なので一瞬押し戻した所で、すぐに押し戻した所に後ろから邪神の尖兵が入り込み、すぐに包囲網を構築する。そうして再構築された黒い波に対して、カイトは再び一閃につき十体程度の勢いで切り飛ばしていく。このペースを常に守って、彼は戦っていた。


「自分のペースを常に保て。補給のタイミングが必要ならすぐに言え。以心伝心で補給が出来るのは、お互いのスペックを完璧に理解し合うバディぐらいだ」

「そーいうこと」


 カイトの助言を聞きながら、ユリィはカイトが常に一定の数を相手に出来る様に魔術で牽制を放っていく。常に彼が同じペースで戦い続けられるのは、ひとえに彼女が敵を牽制しているからと言い切れた。そうして行われるワルツにも似た戦いは、戦場全ての注目の的になっていた。


「おぉおぉ、まーた随分と狙われておるなぁ」

「良いの、そんなのんびりで……」


 間違いなく一番の激戦区がどこか、と言われればカイトの所だ。なにせあそこだけ巨大な渦の様に黒いモヤで出来た邪神の尖兵が攻め込んでいるのだ。ティナがのんびりとしているのでコロナも落ち着いていられたが、そうでなければ大慌てで支援を行う所だった。

 とはいえ、この状況は仕方がない様にも思える。他にも腕利きの冒険者は居るにも関わらず、カイト達の殲滅速度はあまりに尋常ではない。相手の増援の勢いが緩む事が無いのなら、こちらの殲滅速度は途絶える事が無いのだ。カイトが言った通り、常に一定のペースで倒し続けていた。

 しかも、おそらく戦場全体で見てかなりのハイスピードで、である。そんな二人を見て心配そうなコロナに対して、ティナは相変わらず何時もの通りだった。


「良い。あれらにとって敵陣中央は最も輝く場。カイトという高い殲滅力を有する戦士に、ユリィというそれを完璧にフォロー出来る人材。おおよそこの状況において、あれらは戦い抜けよう」

「へ、へー……」


 それ、もう伝説の勇者様なんじゃ。コロナはティナの語る二人を聞いて、思わず直感的にそう思う。まぁ、これはそれが事実なのだから何も言えない。とはいえ、そんな彼らが戦えばこそ、彼女ら最後方の魔術師達は準備が出来た。


「さて……そんな駄弁ってばかりもいられんな。そろそろ、支度も終わるしのう」

「支度?」


 そういえば。コロナは自身が遠距離から攻撃する間にも何もしていない様に見えたティナ――そしてなぜかそんな彼女に何も言わない魔術師を統率する者――に、ふとした疑問を得る。

 先程から遠距離で戦う魔術師達はカイト達最前線で敵を食い止める者、そんな彼らを支援する中衛の弓使いや投擲武器の使い手達の支援を受け、強大な敵に対抗するべく詠唱を含めた大規模な攻撃行動を行っていた。が、そんな中でティナは詠唱もせず、かといって連撃を加えるでもなく、本当に楽しげにカイト達の戦いを見ているだけに見えたのである。


「うむ……さて、そろそろ良かろう。カイトー。聞こえとるなー」

『あいよー。そろそろかー?』

「うむ、そろそろじゃ」


 どうやらカイトには最初からこの流れがわかっていたらしい。当然だろう。なにせ彼らはあの三百年前の戦いにおいて、伝説の勇者達としてパーティを組んで戦っていたのだ。この規模の戦闘なぞ、両手の指では足りないほどに戦っていた。なら、ティナが何を狙い何をしているのか、というのは言われずとも手にとるように理解出来た。そうして、そんな彼女の言葉にカイトはアルヴェンに告げた。


「アルヴェン。支援が来たら即座に更に前に出る。戦線を押し上げる」

「支援?」

「ああ。でかい支援が来る」


 楽しげに、カイトが笑う。そんな彼の言葉に合わせたかの様に、唐突に闇夜が明るく照らされた。


「……は?」

「はい、来ましたー」


 思わず呆気に取られたアルヴェンの横。上空に浮かぶ無数の魔法陣をしっかりと感じながら、カイトがにたりと獰猛に笑う。こういう場合、ティナがどうするかなぞわかりきったことだ。

 すでに乱戦である以上、誤射が怖くて大規模な掃討用の魔術なぞ使えない。なのでちまちまと操作出来る単体攻撃用の魔術を使い一体一体狙い撃つのが常道だ。なので彼女はそれを大量に使っただけだった。


『では、行くぞ』

「はいよ。こっちも準備万端。何時でもどうぞー」

『うむ……では、フルファイア! 踊れ踊れ!』

「うらぁ!」


 カイトの返答を受け迸った無数の魔術の雨あられを上に見ながら、カイトもまた強大な一撃を放って黒いモヤの波を真っ二つに切り裂いた。何時もならこんな攻撃でもすぐにどこからか生み出される黒いモヤにより修繕されるのであるが、今回はそうはならない。なぜなら、ティナが周囲の黒いモヤを吹き飛ばしていくからだ。そうして真っ二つに割れた黒い波に、カイトが一気に突っ込んだ。


「良し! 俺達も続け!」

「あの道を途絶えさせるな!」

「どこかに敵の親玉が居る! そいつを倒せば、名が挙がる! 全員、気張れよー!」


 一気に敵陣に突っ込んでいくカイトを見て、冒険者達も今が攻め時と理解していた。そうして彼が作った黒いモヤへと突っ込んでいく冒険者達を見て、アルヴェンが思わず呆ける事になった。


「……」

『おい、馬鹿! 立ち止まってるな! 一気に攻め上れ!』

「へ!? うぁあああああ!」


 カイトの念話が響いて、アルヴェンが鎖にがんじがらめにされて引き寄せられる。最初に言われていたが、今回アルヴェンは常にカイトの傍で戦う様に言われている。そうしなければ最前線で彼の実力では死ぬからだ。そうして引き寄せられていく彼を見ながら、カイトは目ざとく目を光らせる。


「……」

「見えそう?」

「わからん……シャル」


 地上から、この黒いモヤを生み出している親玉は見つけ難い。そう判断したカイトは、おそらく雲に隠れて狙われない様に潜むシャルロットに声を掛ける。


『……まだよ。まだ、奴は地上に這い出していない。相当な知恵を持っているわ』

「オーライ。なら、もっと暴れて暴れて、引きずり出す」

『お願い』


 シャルロットの言葉に、カイトは再度獰猛に牙をむく。敵がまだ地上に出ていない、という事は即ちこのままでは倒せないという事だ。なら、もっと戦って敵を引きずり出してやる必要があった。と、そんな彼らの前で、唐突に黒いモヤが集まって隆起する。


「へー……ちょっとは骨のある奴が来たな」

「ぁぁああああ……っと……へ?」

「アルヴェン。早速で悪いが、少しヤバいぞ?」

「……」


 なんでこれを前にそんな楽しげなんだ。アルヴェンは黒いモヤが集まって出来た巨大な人形に思わず呆気に取られながら、カイトについてどこか他人事の様にそう思う。

 どうやらカイトが先程の人形では止められないと見て、更に強大な個体を生み出す事にしたのだろう。そしてカイトもまた、敵が強大な個体を作り出したのを見て自身も少し出力を上げる事にする。


「来い!」


 飛来するのは、シャルロットの神器。死神の大鎌。それを手に、カイトは巨大な個体を相対する。そうして、戦場の戦いは更に加速していくのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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