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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第77章 久遠よりの来訪者編

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1842/3943

第1813話 秋の旅路 ――撤退――

 クシポスでの色々を終えて、更にアーベント王国にまで出向きコロナを狙っていた伯爵を片付けたカイト。そんな彼は全てを終わらせて事後処理に取り掛かる。そんなわけでのんびりと事後処理を行っていた彼であったが、すっかり忘れていたがシャルロットからかつての大戦の残党の討伐に取り掛かる事になっていた。


「はぁー……あー……面倒臭いなぁ……」

「色々とやってたもんねー」


 朝から昼はエドナの探索。夜は彼女を狙う裏ギルドの冒険者達の戦いに始まり、果てはアーベント王国まで行ってきたのである。カイトが心底嫌そうな顔を浮かべたのも、無理はなかった。


「まー、そう言っても。やらなきゃならないんだから、仕方がないでしょ」

「ですわなー」


 言うまでも無い事であるが、カイトはこの地の領主である。その領主が領地の守護をほっぽりだしては領主たり得ない。であれば、カイトとしても覚悟を決めてやるだけだ。


「とはいえ、だ。せっかく暴れるつもりで向こう行って結局なーんもせんと帰ってきちまったから、些か力が有り余ってるっちゃあ、有り余っているんだよな」

「あ、やる気になった?」

「なったなった。ちょっとは遊んでやっても良いかなー、ぐらいにはなった」


 ユリィの問いかけに、カイトは笑いながら骨を鳴らす。せっかく暴れずに帰ってきたのだ。その分ぐらいは、発散したい所だったらしい。というわけで、そんな彼にユリィが号令を掛けた。


「じゃ、やろっか」

「おっしゃ!」


 幸い、別件ではあったがクズハとアウラ率いる艦隊も来ている。防衛網は構築出来るとして良いし、ここにクズハとアウラが居ても不思議はない土壌が出来上がった。というわけで、やる気を出したカイトは改めて陣頭指揮を取る事にした。


「クズハ、お前に艦隊の総指揮は任せる。アウラ。お前は冒険者達の陣頭指揮を」

『りょーかい』

『かしこまりました』


 クズハとアウラ。この場合どちらが艦隊の指揮でも良かったが、やはりアウラの方が種族特性上守りに長けていた。なので彼女に地上戦を任せておけば安心だろう、というのがカイトの考えだった。そうして二人の返事を聞いた後、カイトは更に指示を続ける。


「言い訳はシャルロットのルートで、という事にしておいてくれ。で、その最中に内偵中のー、としておけば問題無いだろう。オレの事は公表しても構わん。特段の問題にはならん。なんだったら、バルフレアの所に口裏合わせは頼んでおけ」

『わかりました。そちらはこちらで良い様に』

「任せる。オレは何時も通り戦う」


 これで後はおまかせで良いか。カイトは公爵軍については二人に任せる事にして、自身は改めて周囲の流れに意識を研ぎ澄ませる。


「……」

「……どう?」

「来てるな。結構でかいのが」


 流石にこう何度も戦ったのだ。邪神の残党の気配をカイトも覚えつつあり、復活が近かった事もあってよくわかった様だ。


「どれぐらいで出そう?」

「んー……後持って一時間か、二時間か……いや、二時間は無いな。撤収の用意を行って、ぐらいか」

「外れよ。正解は一時間も無い」


 声が響いて、ふわり、とシャルロットが舞い降りる。


「ん? どうした?」

「どうせそんな事だろうと思ったのよ。忘れてたら、私が消して後でお仕置きしようかな、って」

「それは残念」


 少し楽しげなシャルロットに、カイトもまた楽しげに答える。これで、いくつもの状況は整ったと見て良いだろう。後は実際に戦うだけだ。と、そんな彼の所にティナが念話を飛ばした。


『おーい、カイト。そろそろ戻ってこーい。立て直しでお主も主力に含めるとかなんとか出とるぞー』

「っと……ああ、わかった。すぐに戻る」


 そもそもカイトが別行動をしていたのは、グリムからの要請があったからだ。彼としてもあの場でカイトが一人別格だった事はわかっていたし、以前のラエリアでの内紛でカイトの事を見知ったとしていたので申し出ても不思議はない状況ではあった。が、そのグリムも去った以上、カイトも他の冒険者達と協力するべきだろう。


「シャル。そっちはどうする?」

「どうでも良いわ。一応、私も冒険者ではあるし」

「どうでも良いって何さ」


 カイトの問いかけに答えたシャルロットの返答に、ユリィが思わず笑いながらツッコミを入れる。とはいえ、本当にどうでも良かった。


「所詮は小物。私が手を下すまでもないわ……それに、今日はあまり月が綺麗ではないの。やる気が出ないわ」

「「あー……」」


 カイトとユリィは天空を見て、月が隠れてしまっている事に気が付いた。彼女は月の女神。その力が最高に到達するのは、双子の月が二つとも満月になる時だ。が、逆に月が何かしらの影響で隠れてしまっている時はあまり調子がよくないのであった。というわけで、そんな彼女の言葉に納得したカイトは


「ま、お前は好きにしてくれれば良いさ。この程度の小物に女神様の手を煩わせては、神使の名がすたるってもんだ」

「そうね……さぁ、下僕。今は月が隠れている……貴方の好きになさい」

「アイ、マム」


 カイトは敢えて慇懃無礼に、シャルロットに対して恭しく頭を下げる。相変わらずわかりにくいが、とどのつまり好き放題やっても問題無い様に補佐してくれる、というわけなのだろう。

 そうして雲に月が隠れる様に隠れた彼女とその場で別れ、カイトはユリィと共に地上へと舞い降りる。そんな彼が舞い降りたのは、ティナの前だ。


「シャルの奴、来おったのに来んのか」

「月が隠れててやる気が出ないんだと」

「あやつもあやつで好き放題じゃのう」


 お前もだろ。カイトは内心でそうツッコミを入れる。とはいえ、それについてはティナも知っている話だし、彼女が居ないでもなんとかなる。なのでカイトを出迎えた彼女はそのまま、撤収する冒険者の中でも指揮を執る一人になっていたタウリ――カイト達の支援部隊は彼が率いていた――と合流した。


「ああ、カイト。帰ってきたか」

「ああ。現状は? オレは帰ってきてすぐにこれだからな」

「幸い、こちらに消耗はないが……グリムの奴は本当に帰ったのか?」


 カイトの確認に対して手早く返答したタウリは改めて、カイトへとグリムの帰還を問い掛ける。それに、カイトは一つ頷いた。


「それは間違いない。流石にあいつも邪神の残党の気配までは感じ取れなかっただろう。こればかりは、な。帰ったのもオレがアーベントへ向かう前だ。どうしようもない」

「そうか……残念だ。奴を主力とできれば、こちらも勝算が上がったんだが……」

「それは言っても詮無いことだ。なら、言うだけ無駄だろう」


 もう帰ってしまっていた以上、どうしようもないといえばどうしようもない事なのだ。後は運良く気付いてくれれば、とも思うが彼がどの様な手段で帰ったかはわからない。彼を頼みの綱にするのは、あまり良い事とは思えなかった。


「そうだな……まぁ、居ないなら居ないで考えてはいる。後はなんとかするしかないだろう」

「だろうな……で、オレを呼んだ以上、何かあるのか?」

「お前が一番この場では交戦歴が豊富だ。意見を聞きたい」


 やはりカイトは何の因果か、邪神の関連とはよく戦っている。それに合わせて冒険部もまた多くの交戦を経ているわけであるが、それはやはり彼らが異常と言って過言ではない。本来は、神話の時代の残党との交戦なぞ一度もした事がない、という方が多いのだ。なので情報はまだ皆無に等しいのだろう。


「そうだな……すでに一部の情報は開示されていると思うが、洗脳や操作される可能性がある。特に今は邪神の復活が近い。その力は日に日に強まっていると言って過言じゃあないだろう」

「やはりか……対応策は?」

「力技……と言いたい所だが。あの艦隊はクズハ様とアウラ様が乗っている公爵軍の旗艦だ。洗脳対策の特殊な魔道具が積んであるらしい。その効果範囲で戦うべきだろう」


 カイトは改めて、空中に浮遊する飛空艇の艦隊を見る。今回、カイト達が彼女らの出立の準備の指示を出していた時点まではシャルロットからの言葉を覚えていたので、飛空艇はそれに対応した編成を組んでいる。なので効果範囲にさえあれば十分に守れるだろう、というのが一応の公式的な見解だった。

 が、実はこれが本当に有効かどうかは、定かではない。まだ試した事が無いからだ。今まで基本的に神話時代の残党との戦いは此方側に準備が整わなかった事の方が大半だ。試す事ができなかった、とも言える。なので今回はその試験運用も含まれていた。と、そんなわけで飛空艇の艦隊を見るカイトへと、タウリが問いかけた。


「お前らはそれが整う前から戦ってたよな? どうやったんだ?」

「気合で防いだ」

「……は?」

「気合で防いだ」


 言い直さなくても聞こえてたよ。カイトの言葉に、タウリは目を丸くしながら内心でそうツッコんだ。とはいえ、彼が目を丸くするのも無理はない。何より、他の冒険者達も揃って目を丸くしていた。が、これにカイトは盛大に呆れ返る。


「しょうがないだろ。実際、オレ達だって情報は皆無だったんだ。なら、気合と根性で防ぐしかなかったんだよ。というか、なんだったらおたくらより情報無い状態だったんだぞ」

「そ、それはそうだが……またすごい事をやったもんだ……」


 カイトだから出来たのか、それともやはり異世界人だから若干の抗体の様な物があったのかもしれない。カイトの言葉に目を丸くしながらも、タウリはそう納得しておく事にする。そんな彼に、カイトが改めてはっきりと明言した。


「とはいえ……それだって今も通用するかは未知数だ。あれはあくまでも十数ヶ月も前。邪神の復活が本格化していない段階だ。出来る事ならやらない方が良い。ウチだって今でもやる時は神剣持ちが中心となって、洗脳に対抗しているからな」

「そうか……それなら、やっぱり効果範囲から出ない様に戦って、なんとか増援を待つ方が良いか」


 幸いクズハ達が来ている事により、各地からの増援は即座に送って貰う事が出来る。しかも今は裏ギルドによる大規模な活動があった事もあり、周囲のユニオン支部も警戒態勢のままだ。勿論、マクスウェルの方も同じで、敵が敵なので<<無冠の部隊(ノー・オーダーズ)>>も動かせる。どうにかなるだろう。


「それが最良だろうな。それに幸い、アウラ様が下に降りて戦われるという事だ。多少なら防ぐ事は出来るだろう」

「そうなのか?」

「ああ。聞いてないのか?」

「ああ……」


 まぁ、カイトが指示した以上カイトが知っているのは当然だが、どうやらこの情報はまだタウリ達には届いていなかったらしい。後に聞けば撤収の際に飛空艇に乗るので、その時に伝えた方が確実だろう、との事だった。と、そんな打ち合わせをしていると、再び地震が一同を襲った。


「っとととと!」

「でかいぞ!」

「来るか!?」


 一際大きな揺れを感じ、一同が思わず身構える。そうして十数秒も続いた大きな揺れであったが、結局は揺れるだけ揺れて何も起きずに終わる事になった。


「……何も起きず、か」

「とはいえ……この大きさだ。確かにそろそろ、ってわけなんだろうな」

「おい、弓兵共! 何時でも逃げられる準備をしつつ、山の上から周囲の警戒を行え! ずらかり損ねたら、そこで終わりだと気を付けとけよ!」


 まだ少しの猶予はあるのだろう。そう判断した一同は、話し合いを早々に終わらせて即座に再度の指示を開始する。そんな中、カイトはタウリへと問いかけた。


「オレはどうする?」

「お前も指示出し頼む。手が足りない」

「方針は?」

「一部の弓兵と魔術師は残る。それ以外は全員撤収だ。残る奴も足が速い奴だけだ。どこから来ても良い様に、連絡も密に取る」


 何も情報も無いのが一番対応に困るからな。敵が何時どこから現れたか、と分かれば覚悟が出来る。そしてそれに合わせて準備も出来る。そう判断し、どうやら指揮官達はこの判断を下したらしい。

 彼らとて知恵者として知られているのだ。どういう議論が繰り広げられてこの結論に至ったかはわからないが、カイトとしても異論は無かった。というわけで、逆に彼は今自分が成すべき事を確認する事にする。


「わかった。オレはどの指示を担当する?」

「確か、公爵家と面識があったな?」

「ああ。元々が元々だからな」

「そちらとの打ち合わせを頼む。こちらは何時でも戦闘に移れる様にするが……公爵軍と連携が取れれば被害を減らせる」

「わかった」


 幸い、カイトこそが公爵軍全軍を率いている。なのでそのどちらもの間に立てる立場というのは、最も適材適所と言って良い場所だろう。無論これをタウリが知る良しも無いが、カイトとしてもやりやすい指示だった。そうして、カイトはもう間もない邪神の残党の復活に備えて、大急ぎで撤収の用意と迎撃の準備を進める事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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