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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第77章 久遠よりの来訪者編

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第1812話 秋の旅路 ――最後のひと仕事――

 『導きの天馬(エンジェル・フェザー)』捕縛作戦の阻止の余勢をかって一気にフルス伯爵邸へと攻め込む予定だったカイト。そんな彼がフルス伯爵邸で見たものは、<<天翔る冒険者ヴェンチャーズ・ハイロゥ>>によるフルス伯爵の襲撃だった。そんな襲撃を受けて結局何もせずに一応フルス伯爵に脅しを掛けただけに留めたカイトは、再び愛馬であるエドナに乗ってマクダウェル領のクシポス山麓にまで帰還していた。


「ふぅ……」


 叶うことならこのまましばらくは飛んでいたい所であったが、流石に現状でそうも言ってはいられない。曲がりなりにもカイトと勇者カイトは別人という事になっている。なら、ここで一度エドナの背から降りねばならなかった。


「ただーいま」

「も、戻りました……」

「……えらく早かったのう」

「ああ、色々とあって向こうでなーんもせんままに終わっちまった」


 行ったと思えば即行で帰ってきたカイトに、ティナは思わず呆気に取られていた。とはいえ、それでも事情を聞けばなるほど、と納得出来た。


「なーるほどのう。ここに来いというのはそもそも、という話じゃったか」

「そういう事らしい。で、コロナが狙われるだろうというのも読んだ上で、敢えて大きく動かしてやる事で『導きの天馬(エンジェル・フェザー)』の捕縛作戦もわかるだろう、と踏んだらしい。そうなれば軍が動くだろうし、というわけだな」


 カイトはティナの言葉にはっきりと頷いた。あの情報交換の際、バルフレアは自身がこうなるだろう筋書きを書いていたと聞いていた。その彼もまさかカイトが関わるとは、と驚いていたが、少なくとも『導きの天馬(エンジェル・フェザー)』捕獲作戦の妨害までは彼の筋書きだったらしい。

 なお、そんな彼も流石にグリムの増援については完全に読めておらず、これについては本当に偶然としか言い得なかったそうだ。なのであくまでも妨害さえしてくれれば、後は彼らがなんとかする――具体的には余勢をかってシンジゲートの本拠地を潰すつもりだったとのこと――つもりだったそうで、彼にとってもこちらの壊滅は完全に想定外だったそうだ。


「二兎追う者は一兎も得ず、かのう」

「そういうことだろうな。コロナを狙わねばオレに気付かれず、最後まで『導きの天馬(エンジェル・フェザー)』に集中出来ていたかもしれない……ま、今更言っても詮無きことだがな」


 なんと言おうと、フルス伯爵が欲を出してコロナを狙ったという事実は消えない。である以上、今更そんな想定は無意味だ。強いていえば、『導きの天馬(エンジェル・フェザー)』捕獲の可能性が僅かに高くなるという程度だっただろう。


「ま、そこらはどうでも良いさ。さて……」

『……』


 カイトは先程まで己を背に乗せて飛んでくれていたエドナの背を撫ぜる。こうして撫ぜるのは、もはや星の数より昔の事だ。そうして僅かな感慨を胸にカイトは普通の馬にする様に顔を寄せる。


「……どうせ、見てたんだろうが……オレの街で待つ。来いよ」

『……』


 カイトの言葉を聞いて、エドナは何も言う事なくそれがまるで普通とでも言う様に翼を広げる。そうして、彼女は数度地面を蹴って舞い上がり、虚空へと飛び出した。


「……行ったか」

「……また会えるかな?」

「うん? さてなぁ……」


 アルヴェンのどこか普通の少年の様な言葉に、カイトはどこかいたずらっぽく笑って首を振る。まぁ、答えとしてはすぐに会える、であるがそれを言う事は出来ない。というわけでエドナの出立を見送る形を取ったカイトは、一転して前を向く。


「ま、とりあえず帰ろう……そうだ。二人共、今度ユニオンの全体会合に参加する事になってるんだが、二人も来るか?」

「ユニオン本部か!」

「ああ」

「行く行く! 一回だけ、行ったんだけど……もう一度行きたいって思ってたんだ!」


 カイトの言葉に、アルヴェンが期待に目を輝かせて頷いた。先程バルフレアがコロナを知っていた事からもわかるが、一時コロナとアルヴェンはラエリアに居たらしい。その後ヘクターの渡航に同行してこちらに渡り、彼に従ってしばらく旅をしたとのことであった。


「そうか……ま、何はさておき、とりあえず帰って休んでからだな」

「おう!」


 カイトの言葉にアルヴェンが頷いた。と、そんな時だ。唐突に、地響きが鳴り響いた。


「……うん?」

「なんだ?」


 もう裏ギルドの冒険者達は捕えられているし、である以上何かが起きるはずがない。周囲の冒険者達もおおよそ殆ど戦わずに終わった事で安堵を浮かべており、誰しもに油断があった事は否めなかった。と、それと同時だ。自身の保有する異空間の中で異変が起きている事に、彼が気が付いた。


「あ、あー……そういや、そうだっけ」

「どしたの?」

「ほら、そういやさ。シャルから一仕事頼まれてたじゃん」

「あー……そう言えばそんな事あったねー」


 カイトに言われ、どうやらユリィも思い出せたらしい。納得した様に頷いていた。そんな二人に、ティナが小首を傾げながら問い掛ける。


「なんじゃあったか?」

「シャルがほら、デカブツ封じたって」

「おぉ、そういやそんな事を言っておったのう。すーっかり忘れとったわ」


 ぽむ、そんな感じでティナが手を叩く。どうやら彼女も忘れていたらしい。とはいえ、今回はそれぐらい色々な事があった。仕方がない事だったのだろう。と、そんな三人に、アルヴェンが問い掛ける。


「……どうしたんだ?」

「ああ、ほら、オレ。収穫祭の時に神様と知己を得ててさ」

「……マジかよ」


 神様と知り合い。そう言われてアルヴェンは思わず頬を引き攣らせる。地球とは別の事情だが、エネフィアもやはり神様とは早々に知り合えるわけではない。それを知り合っていたのだから、こうもなる。

 が、これについてはやはりアルヴェンが新聞を読まないから、という事で良かったらしい。コロナが盛大にため息を吐いた。


「アルヴェン……新聞読みなさい、ってあれほど言ってるのに……収穫祭でカイトさんが演説したの、乗ってたの読んでないわね」

「……乗った事あんの?」

「何回かな」


 驚いた様子のアルヴェンに、カイトは特に自慢するでもなく頷いた。そもそも彼の場合、公爵としての時代も含めれば一千にも届くだろうほどのインタビューを受け、それに類するだろうほどの記事が書かれている。それで今更新聞に載ったから、と自慢しよう筈もなかった。


「とはいえ……まぁ、報告しなくても良いだろうが。一応、あっちの艦隊に報告してくる。公爵家から、オレ専用の番号貰ってるから、艦隊の指揮官にも普通に話が出来るだろうからな」


 このまま放置は悪手。そう判断したカイトは、言うだけ言うとユリィを肩に乗せて再び空中へと舞い上がる。そうして艦隊に近付いていくわけであるが、この艦隊の指揮官はそもそもで彼で、クズハとアウラが実際の指揮をしている形だった。


「我が愛おしの姉妹のどちらか、応答プリーズ」

『はいはい! クズハです!』

『……一瞬、出遅れた……』


 どうやらマクダウェル家の面々は、今日も今日とて元気らしい。夜なのに元気な声――片方は落ち込んでいたが――が返ってきた。そんな二人にカイトは笑いながら、ひとまず状況の報告を受ける事にした。


「まずゴミ掃除は?」

『そちらはすでに。牢屋に入れて始末されない様にもしております』

「よろしい。牢屋より居心地が良い豚箱に入れてやるだけで済むな」


 どうせもうすでに罪状なども整っているので、シンジゲートと繋がっていた役人については帰ってから考えれば良いだろう。カイトはそう判断し、クズハの報告に一つ頷いた。


「で、一応一つ言うのを忘れててな。いや、オレもティナも揃って完全に忘れてたんだが」

『はぁ……お兄様とお姉さまが揃って、ですか』


 何かあったかな。クズハはカイトの言葉に、記憶をたぐる。が、特には思い浮かばなかった様だ。


「実はこっちに居るときに大昔のゴミが封印されたままになっているそうでな。どうやらエドナ……天馬の次元を操る力の影響で、そいつが目覚めつつあるらしい。このまま掃討戦に移る」

『え……い、今からですか? ですが下は今……』

「わかってる。とはいえ、もう地響きなどが起きてる状況でな。遠からず、そちらにも報告が入るだろう」


 僅かに慌てた様子を見せたクズハに、カイトも肩を竦める。どれぐらいで目覚めるかは未知数だが、そう時間は残されていないだろう。下で待機している冒険者達が収容出来るかどうかは微妙だったし、何より今は彼らを収容するより、麓町を守る為の戦力として期待したい所だった。


「ひとまず、収容は急がせろ。麓町に被害を出したくない」

『では、そのデカブツとやらは……』

『報告入った。地響きと魔力の増大』


 クズハの言葉を遮って、アウラが一つ報告を入れる。どうやら、言っている間に下の人員から報告があり、時同じくして飛空艇のシステムにも引っかかった様子だった。


「か……やはり、あまり時間は無いらしいな。ひとまず、撤収の人員以外には再度の戦闘配置。このまま迎撃戦に移る」

『かしこまりました。ご武運を』


 すでに結果として報告が上がっている以上、猶予はあまり残されていないらしい。クズハもそれを理解すると、カイトの指示に腰を折る。そうして、一同は大慌てで再度の戦いに備えた支度を行う事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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