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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第77章 久遠よりの来訪者編

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第1797話 秋の旅路 ――ため息――

 裏ギルドの襲撃をきっかけとして語られたアルヴェンの苦悩。それを受けて、カイトは少しだけ彼を見守る事にする。そうして、『導きの天馬(エンジェル・フェザー)』の探索をカイト達が開始して数日。あいも変わらず謎の視線を感じながらも『導きの天馬(エンジェル・フェザー)』探索を行っていたカイトであるが、ある時ふと気が付いた。


「そういや……」

「なーにー?」

「いや、視線を感じないんだよ」

「ああ、例の?」


 カイトのボヤキに、ユリィがあれか、と得心が行った様に問いかける。そんな問いかけに、カイトも一つ頷いた。


「それそれ。基本移動中には感じる視線なんだけど、オレが『導きの天馬(エンジェル・フェザー)』の探索を開始すると、視線は一切来なくなるんだよな」

「へー……って、それは普通じゃない?」

「ん?」

「いや、だって……探してるって事はその間は感覚を鋭敏にして、視線とかにも敏感になってるでしょ? だったら、その間にもし視線を送ったら気付かれるかもしれないじゃん」

「あ……そういや、そうか」


 ユリィの指摘に、カイトも納得したらしい。というわけで、カイトはさほど興味も無くなったのか座っていた椅子から腰を上げる。


「ということは、穿ち過ぎか」

「何が?」

「いや、知り合いかとな」

「あはははは。それなら嬉しいねー」


 少し前に言われていたが、カイトとユリィは何度か『導きの天馬(エンジェル・フェザー)』に助けられている。こちらを見ていた、という事なのでこの『導きの天馬(エンジェル・フェザー)』と自分達を救ってくれていた個体が同一かとおも思ったらしいのだが、流石にそこまで都合良くはならないようだ。


「にしても……それならなんなのかね?」

「さぁ……結局、視線は感じるけど姿は見えず、なんでしょ?」

「ああ……視線は感じるんだよ。ほぼ常にな」


 じー、と何者かがこちらを見詰めているのは事実だ。これについては何度かタウリ達に疑われはしたものの、コロナ達への襲撃の件があった事もあって結局彼らにも本当かどうかがわからないらしい。

 しかも相手が腕利きというのは事実らしく、この数日で一度は正体を掴んでやろう、と念話で作戦を練ると、その途端に消え去ったのだ。こちらの念話を傍受出来るぐらいの腕はあるらしかった。


「まー……後はあっちがどう出てくるか、次第か。敵じゃなさそうだしな」

「なんなんだろうねー」

「さぁな……だが……うーん……」


 ここ数日視線を感じていたからだろう。カイトはこの視線にどこか懐かしさを感じていた。そんな彼の顔を見て、ユリィが首を傾げる。


「どうしたの?」

「微妙に、知ってる気配の気がするんだよ……でもなんってか……こう、喉の奥に魚の小骨が突き刺さって抜けない、って感じが……」

「ふーん……」


 この視線を感じているのはカイト一人だ。なのでユリィもどんな気配なのかはわからず、はっきりとした事は言えないらしい。ということで、生返事だった。


「まぁ、それは良いんじゃない? とりあえず帰ろうよ。皆待ってるし」

「だな……」


 そもそも立ち上がったのも帰る為だ。なのでカイトはユリィの言葉に従って、麓町へと帰還する事になるのだった。




 さて、帰還して宿屋に戻ったカイトであったが、そんな彼の所に来訪者があった。


「ああ、お客様。お知り合い、という方がお待ちです。如何がなさいますか?」

「客?」

「はい。ヴィクトル商会の職員と……こちらを提示すればわかるだろう、との事です」

「……ああ、わかりました。ありがとうございます」


 カイトは宿屋の受付が差し出したヴィクトル商会の証明書を受け取って、一つ頷いた。それはサリアが発行している正規の物で、偽造防止もきちんと入っていた。


「あれ?」

「でしょうね……ティナー。お客さん来たんで先帰っといてー」

「あいよー」


 大凡現状で客という時点で、ティナにも相手が誰かわかったらしい。コロナとアルヴェンと共に部屋へと戻っていく。その一方、カイトは書類に記されていた待ち合わせ場所へと向かう事にした。そこは麓町の一角にあるカフェだ。


「お待ちしておりました」

「おろ……この間のか。そうしていると、完全に一端の商人だな」

「ありがとうございます」


 カイトの賞賛に、以前裏ギルドを隠れ蓑にコロナを拐おうとした男を持ち帰ったヴィクトル商会の職員が頭を下げる。以前は姿を隠す専用の装備を身に着けていたが、今はヴィクトル商会の職員を装っているからかスーツ姿で髪型もきちんとセットしていた。無論、スーツも着せられている様子はなく、彼に見合った様子だ。というわけで、カイトは彼に促され席に腰掛けた。


「それで情報屋が呼び出したって事は情報が手に入ったから、で良いか?」

「はい。以前はありがとうございます。おかげで社長もお喜びでした」

「ほぅ……あれはあまり情報を持っている様には思えんかったんだが……」

「ええ、さしたる情報は持っていませんでしたよ。強いていてば、彼らの本当の依頼人の名を知っていたぐらいですかね」


 カイトの推測に、ヴィクトル商会の職員も笑って頷いた。とはいえ、そんな彼は笑いながら、更に話を進める。


「とはいえ……何も持っていないわけではありませんでした。重要そうな情報を幾つか持っておりました」

「ほぅ……それは?」

「まず、一つ目。彼らは先遣隊だったという事」

「ほぉ……これはこれは」


 随分と喧嘩を売ってくれる物だ。カイトは自領地に更に兵隊を送ろうという何者かに、僅かに獰猛な笑みを見せる。これは更に別の事を示していたからだ。


「コロナちゃんだけじゃなかったか」

「はい。幼気な少女一人を狙うにしては、明らかに尋常ではない数ですから。どうやら報告を受けて偶然近くに居る事を知って、そちらも連れてくる様に命令が出たそうですね」

「なるほどね。で、何が狙いだ?」


 まだ先の裏ギルドだけであれば、カイトとしてもわからないでもなかった。コロナはかなりの恨みを買ったというのは事実だろう。相手が誰かはまだわからない――それも今回の会合でわかるだろうが――が、相当に恨みが深そうな相手だというのはわかった。ならこれだけの規模を送り込んでいても不思議はないが、この上で更に追加が来るのであれば、幾ら何でも他の事情を疑うしかなかった。


「『導きの天馬(エンジェル・フェザー)』です」

「……は?」

「あはは。まさか彼らもひと目みたい、というわけではないでしょう。とどのつまり……」

「捕まえてこい……か?」

「はい。マクダウェル領の裏ギルドに声を掛けてもいる様子ですね」


 思わず呆気に取られたカイトへと、ヴィクトル商会の職員が掴んでいる情報を提示する。ここでカイトに伝える、ということはすでに裏取りも終わり、必要とあらば証拠も提供出来るという事なのだろう。


「……一体相手は誰だ? 相当大きな貴族じゃないと、ここまでの規模の兵員は動員出来んし、何より『導きの天馬(エンジェル・フェザー)』を捕らえようなぞまともな考えじゃないぞ」

「アーベント王国はプラータという貴族はご存知ですか?」

「プラータ? <<退魔の地(シルバー・ランド)>>プラータのプラータ公か?」

「はい。そのプラータ公です」

「アーベント王国有数の大貴族じゃないか」


 プラータ。その名の貴族は小国であれどカイトも知っていた。というのも、ある事で有名だったからだ。それ故、カイトは驚きと共にその特徴を口にした。


「幾つかある魔法銀(ミスリル)の産地の中でもプラータ領で産出される物は最高級の一角とされてる……プラータ領産の魔法銀(ミスリル)で作られた武器は魔法銀(ミスリル)の中でも最高級に位置する。武具を鍛える鍛冶師なら、一度は使いたい所の一つだな。エネシア大陸でも有数の資産家じゃないか」

「はい。そのプラータ公です」

「……いや、それは良いが。だが、あり得るのか?」


 プラータ公爵はカイトが知るレベルの大貴族だ。当然、マクダウェル公爵家としても繋がりがあり、カイトが公職に復帰した場合、アーベント王国でまず会談を開く相手の一人と言い切れる。

 が、それ故にこそ、ここで『導きの天馬(エンジェル・フェザー)』を狙ってカイトに喧嘩を売る意味がわからなかった。そんな疑念を提示したカイトに、ヴィクトル商会の職員は少し慌て気味に首を振った。


「ああ、いえ。彼が主犯では無いですし、彼が関わっているわけではありません。無論、無関係というわけでもありませんが」

「そうか。それはそうか」


 カイトとしても、流石に小国とはいえ自身が知るレベルの大貴族を相手にしたくはなかったらしい。ヴィクトル商会の職員の言葉に、僅かな安堵を滲ませる。そしてそれ故だろう。彼が口を開く。


「プラータ公なら、確実に多くの貴族達が裏でやってる事は知る所になるはずだ。それが無い時点で、な。さらにはプラータ公は就任してすでに二十年以上と聞く。かなりのご高齢で、数年以内に跡目を譲るとは噂だったが……それだと新しく就任した、というコロナの言葉にも合致しないしな」

「ええ。それにプラータ公の周辺には我々を筆頭に、アーベント王国からも監視が居ますからね」

「ああ……それで、この案件とプラータ公にどういう関係が?」


 とりあえずの安堵をにじませたカイトは、腰を折ったと話を進めさせる。それに、ヴィクトル商会の職員は一つ頷いて話を進めた。


「はい……プラータ公の妻についてはご存知ですか?」

「……いや、悪い。流石にプラータ公は知っていてもその妻を詳しく知っているわけじゃあない」


 少し記憶を手繰ってプラータ公の情報を思い出そうとしたカイトであったが、やはりそこまで詳しくは覚えていなかったようだ。一応どんな名なのか、どういう趣味なのかぐらいは覚えていたが、来歴を詳しく知っているわけではなかった。


「フルス伯爵家の先々代の妹君が、現プラータ公のご夫人です」

「ふむ……フルス伯爵……あー……ちょっと待ってくれ……ああ、確か中央部に流れる川の近くにそんな名の貴族が居たな……」

「はい。そのフルス伯爵です。先代のプラータ公が時のフルス伯爵に世話になったとのことで、娘と息子で許嫁の関係を結んだそうです。現代のプラータ公に輿入れした形ですね。仲は良いそうで、今ではプラータ夫人もフルス伯爵家の女というよりプラータ家の女として考えているご様子です」

「それは良い事だ……で、そのプラータ夫人の実家が?」

「はい」


 カイトの言外の問いかけに、ヴィクトル商会の職員がはっきりと頷いた。そうして、彼がざっとした事を教えてくれた。


「プラータ夫人の弟……先代のフルス伯爵ですね。これが中々にやり手といえばやり手の御仁だったご様子です。それが、アーベント王国の裏に蔓延るシンジゲートを作り上げたようです」

「なるほど……確かに、やれない事はないな。腕があれば、だが」


 それなら全体的に辻褄が合う。カイトは裏ギルドの冒険者達が伯爵様、と言っていた事。シンジゲートなら『導きの天馬(エンジェル・フェザー)』を狙うに足る理由があり、更には非合法な魔道具を融通出来るだけのコネクション、裏ギルドを大々的に動員出来るだけの力もあるだろう、と納得する。


「はい……そういう事だそうです。それで、今度開かれるオークションの目玉に『導きの天馬(エンジェル・フェザー)』を据えよう、と」

「馬鹿だねー」

「馬鹿じゃないと『導きの天馬(エンジェル・フェザー)』なんぞ狙わんだろう」


 思わず口を開いたユリィに、カイトも盛大に呆れ返った。『導きの天馬(エンジェル・フェザー)』は生半可な実力で相手に出来る魔物ではない。それを捕まえようというのだ。最悪はクシポスが壊滅しかねない。というわけで、カイトの結論はこれだった。


「悪いが、詳しい情報が欲しい。流石にコロナちゃん云々と言っていられる状況じゃない」

「承知しております。そう仰られた場合はこちらを渡す様に、と社長より」

「あっはははは。ありがとう。借りとくと伝えておいてくれ」

「はい」


 カイトの感謝に、ヴィクトル商会の職員が頭を下げる。そうして、カイトは更に詳しい情報が書かれた書類を手に、その場を後にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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