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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第77章 久遠よりの来訪者編

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第1790話 秋の旅路 ――助力――

 ティナの当主就任から数時間。エンテシア家の研究所を後にしてクシポスの麓町に帰還したカイト達であったが、そんな彼らが出会ったのは『導きの翼(エンジェル・フェザー)』探索を行う冒険者達と薬草を探す冒険者達の喧嘩の現場だった。

 そうして自領地での暴力沙汰を未然に防ぐべく喧嘩の仲裁に乗り出したカイトであったが、そこで何者かがコロナを狙っている事を察知する。そんな彼は一度コロナとアルヴェンから事情を聞くべく喧嘩現場から場所を変えて、冒険者で賑わう酒場へと移動していた。


「ふぅ……それで、何か事情がありげだったが。何やらかしたんだ?」


 酒場に着いてまずは一杯と酒で口を潤わしたカイトは、どこか気まずそうなコロナへと問い掛ける。それに、彼女はおずおずと口を開いた。


「その……前に私達がアーベントから来た、って話は……しましたよね?」

「ああ……それが?」

「その……実は私、その……アーベントではお尋ね者なんです……」


 ボソボソと消え入りそうな声で、コロナが事情を告白する。それに、カイトが訝しんだ。


「コロナが? 確かアーベントを出たのはまだ一桁の頃だろ?」

「え?」

「ご、ごめん……ちょっとだけ話しちまった」


 何故そんな事を知ってるんだ。そんな驚きに包まれたコロナに対して、アルヴェンがバツが悪そうに謝罪する。とはいえ、彼の性根はわかっている。なのでこの程度はわかってみれば驚きに値しなかったようだ。


「……はぁ……えっと……その……そういう事なんです」

「すまん。俺の方はよく分からないんだが……何があったんだ? 少なくとも昨日今日と一緒で、アルヴェンならまだしもコロナちゃんが何かお尋ね者になる様な事をするとはとても思えないんだが」


 大凡が分かっているのなら、と話を進めようとしたコロナに対して、タウリが待ったを掛ける。彼はこの様子だと、何も知らないと見て良いだろう。


「あの……大体五年ぐらい前です。私の両親も冒険者だったんですけど、住んでいた街が魔物の群れに襲われて……」


 ここから語られたのは、大凡アルヴェンが語った通りの内容だ。基本的にはそれをコロナの視点から語られたというだけで、大凡の差は無い。違いがあるとすれば、それは物心がついた彼女だからこその主観的な話が含まれていたというぐらいだろう。


「それから……三年ぐらい、です。私達が暮らしていた森を統括してた領主が死んで、次の領主がやって来たのは……ただ、その……その人があまり良くなくて。表向き良い領主様だったんですけど……」

「良くない?」

「裏でその……少女達を攫っては、その……」


 タウリの問いかけに、コロナが若干言い淀む。その姿に、タウリも大凡何があったかを察したようだ。


「……ちっ」

「……はい」

「……それで、なぜそれがお尋ね者に繋がるんだ?」


 胸糞悪い。そんな様子で一つ舌打ちしたタウリと、その言外の言葉に同意を送るコロナへとカイトが問いかける。ここまでは、カイトもアルヴェンから聞いていた。その先がわからなかった。


「あの……その、実は襲われそうになったんですけど……咄嗟に、近くにあったナイフで刺したんです」

「ナイフ? 相手はお貴族様だろ? 良く持ち込めたな」

「持ち込んでなんか居ないだろ。大凡、暗殺者対策で寝室に隠してたナイフをコロナが見付けて、って所だろう」


 訝しむタウリに、カイトが大凡を見越してそう口にする。やはり貴族だ。いつ何時狙われるかわかったものではない。なので寝室に護身用のナイフを持ち込んでいる貴族はエネフィアでは決して少なくなく、それどころか持っていない貴族の方が少数派だろう。そしてその言葉に、コロナもまた頷いた。


「……はい。その、昔お父さんの馴染みの冒険者の一人から、貴族の寝室には武器が隠してある、って聞いて……それで、偶然押し倒された時に見つけて……」

「間一髪、か」

「……」


 こくん。カイトの言葉に、コロナが一つ頷いた。当然だが、齢一桁の少女の腕だ。幾ら不意をついたとはいえ、大の大人の、それも貴族の男が殺されるとは思えない。が、ひるませる事にはなったらしい。


「それで、怯んだ隙に寝室から逃げ出して……そこでお父さんの昔馴染みの冒険者達が私を連れて逃げてくれたんです」

「ふむ……」


 大凡はアルヴェンから聞いた通りか。カイトはコロナの言葉に内心でそう考える。基本的な流れとしては、アルヴェンから聞いてカイトが想像した通りと言えた。想定を超えていたとすれば、それはコロナが間一髪の所まで追い詰められていた事ぐらいだろう。そうして大凡考えていた通りだ、と考えた彼は口を開いた。


「ということはお尋ね者扱いになってるのはアルヴェンやその当時の親父さんの仲間達も、か」

「……はい」

「なるほどね……」


 確かに筋が通る話ではあった。エネフィアも地球も大差はない。なので表で善人を演じながら、裏で何をしているかわからないという者なぞ山程いる。

 なので表の顔でお尋ね者扱いにしてしまえば、別に誰にも怪しまれないだろう。大方、コロナらはおまけ程度の扱い、もしくは冒険者達に操られて攫われた扱いになっている可能性も考えられた。


「デッド・オア・アライブ……じゃあないだろうな。明らかに密かに拐おうとする気配があった」

「「……」」


 カイトの明言に、コロナもアルヴェンも苦い顔だ。当然だろう。他国までわざわざ追手が掛かるとは思ってもいないはずだ。そうして、そんなコロナが問いかけた。


「あの……何か良い手は無いでしょうか」

「うーん……」

「ふむ……」


 悩むタウリの傍ら、カイトもまた苦い顔で頭をひねる。これは中々に面倒な事態と言い切れた。まず面倒なのは、今回の主体が皇国ではなく遠くのアーベント王国の貴族だという事だ。

 流石にカイトも一介の冒険者の少女の為に皇国貴族の権能を使うわけにはいかない。かといってなんとかしようにも、現状カイトはけが人だ。大それた事は出来ない。と、そんな事を考えていたカイトへと、タウリが告げた。


「……確かカイト、だったな?」

「ああ」

「この案件については、今すぐ良い手は思い付かない。お前は?」

「オレも似たりよったりだ。考えつくのはろくでもない事ばかり、という所でな」

「だろうな」


 幾ら軍略家としても名を馳せるカイトであれど、この現状で何かが出来るとはタウリにも思わなかったようだ。肩を竦めたカイトの返答に、一つため息混じりに同意を示した。そんな彼に同意したタウリであったが、一転してカイトへと提案する。


「どうだろう。乗りかかった船、ということでしばらく一緒に来ないか? さっきの奴ら。また何度か喧嘩を売ってきそうだしな」

「ふむ……」


 いっそ、ここでコロナを見捨てるのが最善の一手と言えば一手だろう。が、それはカイトらしくはないだろう。それに何より、自領地での他国貴族の犯罪行為を見過ごすわけにはいかない。いや、他国貴族でなかろうが、犯罪行為を見過ごすわけにはいかないだろう。


「……まぁ、良いか。どうせ予定より数日早いしな。それで、何日だ?」

「ああ。俺達は四日の予定でパーティを組んでいる。そこから先は各自他のパーティを編成したり、そのまま次の依頼に向かっても問題はない」

「四日……今日が一日目だから、明日から三日か」


 元々クシポスは空港から馬車で二日三日の距離だった。これが竜車に変わった事でまず半減されたわけで、予定には大幅な余裕があると見做して良いだろう。


「まぁ、良いか。オレも『導きの翼(エンジェル・フェザー)』には興味あったし」

「良いの?」

「幸い、予定に余裕はある。このまま見過ごすのもな」


 何より、自領地での犯罪行為を行おうとしているのだ。現在のクシポスの状況を鑑みた場合、コロナに割ける人員は居ない。かと言って、誰かを向かわせるのも少し違う。自分でやるしかないだろう。それ故にユリィの問い掛けに、カイトは肩を竦めるだけだ。そんな彼に、コロナが問い掛ける。


「良い……んですか? 確か依頼が……」

「そっちは気にしなくて良い。終わったからな」

「終わった?」


 何かを取りに行く事が目的だった筈だ。カイト達の予定を思い出して、コロナは小首を傾げる。


「ああ。今日なんとかな……そもそも、ティナが居ないのは報告の為だ」

「あ……」


 そういえばティナが居ない。コロナもアルヴェンも今更ながらそれに気が付いた様だ。


「それに、幸い向こうも急ぎじゃない。報告さえしておけば問題は無い。物分かりの良い依頼人だからな」


 カイトはさらに、二人に状況を語る。実際にはティナをエンテシア家の遺跡に連れて行く事が目的だったのだ。それが果たされている以上、誰にも文句は言われない。


「そうか……まぁ、なら乗り掛かった船という事で頼む」

「構わんさ。何より、ここで見捨てたら男が廃る」

「あんまり良い気はしないしねー」


 相手は下衆な貴族だという。元々反腐敗を掲げて動いているカイトだ。喧嘩を売る理由としても買う理由としても十分だった。


「……ありがとうございます」

「良いさ、別に。金が絡むわけでもなし。アーベントならオレに関係ないしな」


 頭を下げたコロナに、カイトは笑って問題無いと明言する。今回の『導きの翼(エンジェル・フェザー)』探索は全て金が絡まない、あくまでも単なる一人の冒険者としての旅路だ。なら、こんな寄り道も醍醐味の一つだろう。それ故にか、彼の顔にはどこか懐かしげな笑みが浮かんでいた。


「ま、そうと決まれば飲むか……おっちゃっん! 酒次おかわり!」

「……あれ?」

「……いぃ!?」


 さっきまで全員で話しながらだったはずなのに、どういうわけかカイトのグラスは完全に空だった。それに、一同思わず目を丸くする。そうして、相変わらずのザルなカイトはその後も一同を唖然とさせる飲みっぷりを披露して、どういうわけか酒場で宴会じみた様相を作り出すのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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