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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第77章 久遠よりの来訪者編

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第1789話 秋の旅路 ――揉め事――

 ユスティーツィアの遺産となるエンテシア家の当主の座。それをティナが引き継いで、一同はクシポスの麓町に帰還する事となる。そうして戻ってきたクシポスの麓町であるが、そこで一同は喧嘩の声を聞くこととなる。そして聞いた以上は、領主として関わらねばならない立場だ。というわけで、カイトは盛大に呆れながらも関わる事を決めて、声のした方へと歩いていた。


「やれやれ……けが人をパシらすかね」

「仕方がないよ、領主様なんだから」

「まー、そうなんですがね。はぁ……警邏の兵士の数の増員、指示だすかー……」


 丁度今、この麓町は活気が出始めている頃だという。であれば、それに伴って色々と変えていかねばならないだろう。それについて考えながら、カイトは歩いていく。

 そうして少し歩けば、すぐに喧嘩の現場にたどり着いた。とはいえ、流石にすぐに介入はしない。状況を把握せねば、仲介も何も無いからだ。というわけで、彼は野次馬の一人と思しき冒険者に声をかける。


「何が起きてるんだ?」

「喧嘩だよ、喧嘩。薬草を取りに行く奴ら、天馬見に来た奴の魔物の狩りを横取りしたんだとよ」

「あー……よくあるパターンか」

「そ、よくあるパターンだ」


 なるほど、と納得したカイトに野次馬も訳知り顔で頷いた。彼らの言う通り、冒険者で揉めるパターンの多くは魔物の関係か金だ。今回はその魔物だった、というわけなのだろう。


「で、ヤバそうなのか?」

「さぁな。俺も喧嘩してるみたいだから来ただけだ」

「そか」

「あ、おい」


 群衆に分け入るカイトに、先の野次馬が思わず声を掛ける。それに、カイトは後ろ手に手を振るだけだ。そうして野次馬達をかき分けて奥へ入ると、聞いた事のある声が聞こえてきた。


「もう良いでしょ。行こ」

「うっせぇ! こいつらが先に喧嘩売ってきたんだろ!」

「うん?」

「この声……」


 聞こえてきたのはこの数日聞いていた声。コロナとアルヴェンの声だ。それ以外にも何人かの声が聞こえている所を見ると彼らだけではないだろうが、二人の声も混じっていたのは事実だった。

 と、そんなわけで少しだけ足を止めてしまったからだろう。ふとした拍子に、カイトは最前列から弾き出される形で前に出る事になった。


「っと……」

「あ?」

「ん?」


 まぁ、どんな形であれいきなり前に進み出たのだ。当然だが耳目は集める事になる。しかも殺気立っている所だ。殊更に注目を集めてしまっていた。


「あー……別に前に出るつもりはなかったんだが。喧嘩か?」

「あんたは引っ込んでろよ」

「あっははは。オレもそうしたかったんだがな。色々と事情があったのと、お前らの声が聞こえたから立ち止まったら人混みに弾き出されたんだよ」


 不満げなアルヴェンの言葉に、カイトはため息混じりに肩を竦めた。これに一切の嘘はない。彼としても介入するのならもう少し情勢を見極めてからにしたかった。が、弾き出された以上は仕方がない。と、そんな二人の会話を聞いたからだろう。アルヴェン側と揉めていた側の一人がカイトへと口を開いた。


「おう、あんたこのガキの保護者かなんかか?」

「いーや。乗り合いの竜車で相席になっただけだ」

「なら、部外者は引っ込んでて貰えませんかねぇ」


 どこか挑発する様な感じで、冒険者の一人がカイトへとどこか野良犬でも追い払う様な感じで告げる。それに、カイトは若干だが手っ取り早く片付けるか、と内心で考える。が、そこにユリィが肩を叩いた。


「カイトー。落ち着いて落ち着いて。面倒になったら負けだから」

「あいあい……まー、オレとしても引っ込んでるのが筋とは思うが。流石に町中で乱暴狼藉見過ごせ、ってのは筋が通らんだろ」

「へー。じゃ、そいつら引っ込めてくれよ。俺達も絡まれて困ってるんだよ」


 確かに、現状どちらかが引けば事は収まる。なのでこれも手と言えば手だろう。とはいえ、それはそれで中々に筋が通らない話と言える。

 そして更に、明らかにこの男はカイトをも挑発している様ないやらしい笑みがあった。それにカイトは僅かに内心で苛立ちを募らせるも、ユリィが密かに肩を叩いた事で気を取り直す。


「そりゃ、そうしても良いんだが。さっきも言った通り、オレも弾き出されてこの場に立たされた身でな。現状、どっちが悪いかもわからない状況だ」

「はぁ……お前、馬鹿か?」

「あっははは。馬鹿だとは思うがね。色々とこっちにも事情があんのよ」


 カイトとしても見て見ぬ振りを出来れば良いとは思う。が、彼自身が言っている通り、領主として喧嘩を見過ごすわけにもいかない。というより、現状で大凡どちらが悪いのか、というのも掴めていた。明らかに相手方は挑発をしまくっているのだ。これでどちらが悪いかわからない方が可怪しい。


「はぁ……なら、はっきりと言ってやる。引っ込んでろ!」

「はぁ……」


 ま、そうなるわな。カイトは大凡読めていた流れに、盛大にため息を吐いた。現状、色々と見ていた限り『導きの翼(エンジェル・フェザー)』探索組を薬草探索組が挑発して、喧嘩になったという所だろう。というわけでカイトは思いっきり殴り掛かられたわけであるが、それに一切避ける素振りを見せなかった。


「「「っ」」」

「いでぇ!」

「……一応、言っておくんだが。オレ、けが人だぞ?」


 当たり前であるが、怪我をしていようとカイトは世界最強である。その障壁を並の冒険者が素手の殴りで破壊出来るわけがない。出来るとすればバルフレアら拳闘士の中でも極一部だけだろう。と、そうして仲間の一人がやられた――実際は単なる自滅だが――のを見て、薬草組が一気にいきり立つ。


「てめぇ! 何しやがった!」

「何もしてないって……」

「嘘言いやがれ! こいつぁ、中々の腕利きなんだ!」

「マジかよ……」


 相手の力量も見抜けない様な雑魚が腕利き。そう言われて、カイトは盛大にため息を吐いた。これでは薬草組の平均値なぞ見るまでもなかった。


「はぁ……警吏が来るまで時間稼ぎに務めるつもりだったんだが……」

「勝手に自滅しそうかなー……」


 当たり前であるが、カイトが一切引かなかったのは理由がある。まず引く理由が無かった事と、引いた場合コロナに危険が及ぶ――アルヴェンは死なない程度なら仕方がないと思ったらしい――と考えた事、警吏の者が来るまでの時間稼ぎだ。

 治安維持は領主の仕事だが、同時に実際に動くのは警吏だ。というより、そのために警察や軍を設けたのだ。領主として時間稼ぎをすれば十分、と考えていた。とはいえ、どうやらそうは問屋が卸さない事態になってしまったようだ。


「っ! おい、やっちまえ!」

「おい、やるぞ!」


 どうやらカイトが殴られた事でアルヴェン達『導きの翼(エンジェル・フェザー)』探索組は喧嘩は避けられない、と判断し、逆に薬草探索組はカイトが何かをしたのだと思ってカイトを含めて喧嘩の合図と踏んだらしい。全員が武器を抜き放った。


「はぁ……はーい、全員そこまでー。あんまり喧嘩両成敗って言葉は好きじゃないんですが、武器抜いちゃぁ、駄目でしょ」


 ぱんぱん、手を慣らし注目を集めたカイトが、上を指し示す。そこには巨大な魔法陣が浮かんでおり、いつでも攻撃を放つ準備が整っていた。


「なんだ、ありゃ……」

「いつの間に……?」

「これに気付けなかった時点で、どっちもオレから言わせりゃ雑魚だ……それでもやりたいってんなら、オレが相手になってやる。勿論、素手でな」


 そもそも、馬鹿正直に喧嘩に乗り込んでいって仲裁するつもりなぞカイトには皆無だ。なにせ相手は冒険者。素手で軽く人を殺せる。なら、こちらも脅せるだけの武器を持つ必要があった。そうしてカイトは薬草組へと、問いかけた。


「で……どうする?」

「っ……」


 自分達が喧嘩を売った手前、ここで引くというのも言いにくい。だが一方でこのまま行けばマズい事も分かっている。故に薬草組はカイトの問い掛けに苛立ちと苦味の混じった顔で睨み付けるだけで、何も出来なかった。


「オーライ。文句は無い様だな。なら、散った散った。遠からず警察が来る。お前らがなぜ喧嘩を売ったのかってのは知らんが。警察に捕まりたくはないだろう?」

「……ちっ」

「おい、行くぞ」


 カイトの問い掛けに、ようやく薬草組はここでの敗北を悟ったらしい。かなり不満げではあったが、すごすごと引き下がっていく。そうして引き下がった薬草組を見据えるカイトに対して、声が掛けられた。


「おい、あんた」

「うん?」

「ありがとよ。俺としても街中での喧嘩はしたくなかった」


 どうやらカイトに声を掛けたのは『導きの翼(エンジェル・フェザー)』探索のパーティリーダーという所らしい。彼は未然に終わった喧嘩に胸を撫で下ろしている様子だった。


「ああ、いや。単なるお節介だ。ブラフも役に立った」

「ブラフ……やっぱりそうか」

「わかったのか?」


 カイトの言葉に、『導きの翼(エンジェル・フェザー)』探索のパーティリーダーは驚く事は無かった。そうして、頷いた彼が口を開く。


「ああ。実は君の乗っていた竜車に俺も乗っていてな。というより、ここの大半がそうなんだ。それで、アルヴェンから話は聞いていてね。あんな大それた魔術を街中で行使するはずがない、と思ったのさ」

「あっははは。当たり前だ。あんな規模の魔術をここで行使すれば、間違いなく周辺の被害が馬鹿にならん」

「だろうな」


 『導きの翼(エンジェル・フェザー)』探索組のパーティリーダーは、笑うカイトへと笑って同意する。と、そんな彼であったが、カイトが一切自分の方を向かない事を訝しんだ。


「……どうした?」

「……もう、良いか。コロナ、悪かったな。ユリィも助かった」

「あ、はい……」

「うぃうぃー」


 この場の誰しもが何が何だか分からなかったが、どうやらカイトが振り向かなかったのには理由があったらしい。そうして、一転して剣呑な雰囲気を醸し出した彼が口を開く。


「奴らを隠れ蓑にして、コロナを狙ってた奴が居た。ユリィが睨みを利かせたから、無理と悟ったか引いたがな」

「なに?」

「さて……」


 驚きを隠せない『導きの翼(エンジェル・フェザー)』探索のパーティリーダーに、カイトは僅かに苦味を乗せる。単なる喧嘩の仲裁のはずが、面倒な事になってしまった様だ。


「コロナ。何か心当たりは?」

「……」

「……場所を変えよう。ここじゃあ話し難いだろう」


 若干だが顔をしかめたのを見て、カイトはここでは話しにくいだろう、と察した様だ。乗り掛かった船と関わる事を決めたカイトであるが、そんな彼は『導きの翼(エンジェル・フェザー)』探索のパーティリーダーに問い掛ける。


「あんたはどうする?」

「……俺も行くよ。ああ、俺はタウリ。よろしく頼む」


 タウリ。そう名乗った男はカイトへと同行を申し出る。そうして一同は一度場を変えて話をする事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。今日から次回予告は無いです。最近無意味になってましたので。

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