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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第77章 久遠よりの来訪者編

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第1788話 秋の旅路 ――帰還――

 ティナの母ユスティーツィアの遺した遺産。それは一つは映像記録装置であり、その中にはユスティーツィアからティナへと後継者として指名する旨のメッセージと、母として娘の幸せを願う言葉が遺されていた。

 そんな母からの後継者の指名を受け正式にエンテシア家の遺産を継承したティナは、エンテシア家伝説の魔女にしてその家名の由来となったエンテシアの杖を継承し、同時に継承したエンテシアの創り出した使い魔である白猫のシェロウへと現状を語っていた。


『なるほど……私が休眠状態にあった間にその様な事が』

「うむ。今は<<死魔将(しましょう)>>なる者たちと戦っておる」

『ふむ……わかりました。私が何が出来るかはわかりませんが、今の当主は貴方様。私は私の存在意義に従い、貴方様の補佐に務めましょう』

「うむ。すまぬ。大凡の事なら余や余の使い魔達で事足りようが、如何せん余はまだエンテシアの魔女としてはあまりに若輩。まだ自身がエンテシアの魔女と知って少ししか経過しておらぬ。お主の知識。当てにさせてもらおう」

『かしこまりました』


 やはり初代どころか伝説の魔女エンテシアの時代からエンテシア家を支え続けた使い魔だ。そこに蓄えられた知識は間違いなく今後の役に立つ事だろう。と、そんな事を話していると、あっという間に時間は経過していた。気付けばすでに太陽は沈みかけており、後少しで夕暮れが始まろうとしていた。


「む……もうこんな時間か」

「っと……そろそろ戻らないと駄目か。少し予定より時間は食っちまったが……その分の収穫はあったか」


 ティナの言葉にカイトもまた日が沈みかけている事に気が付いた。可能ならこの研究所の隠蔽をもう少し行っておきたい所だが、シェロウに状況を説明していると想定外に時間を食ってしまったらしい。

 仕方がない。ティナが魔族の王位に就いた事を省いたとしても、どうしても現状も相まって三百年の事は語らねばならなかった。そして邪神との戦いを考えれば地球での事も一部語らねばならず、としているとどうしてもこれだけの時間が必要となってしまったのである。


「うむ……さて、シェロウ。一応念の為に聞いておくが、この研究所はそのままで大丈夫なんじゃな?」

『はい。今ご覧頂いている通り、この研究所はエンテシア様の魔術を応用して隠蔽が行われております。現在の技術力を鑑みました場合、<<死魔将(しましょう)>>なる者共でなければ見破れないでしょう』

「その<<死魔将(しましょう)>>が問題なんじゃがのう」


 基本的にカイト達が対策するべき相手というのは<<死魔将(しましょう)>>達だ。それ以外の有象無象については今まで通りしていた所で対処が出来る。そして<<死魔将(しましょう)>>達以外に見付かった所で公爵家が背後に控える以上、どうにでも出来るのだ。それが出来ない<<死魔将(しましょう)>>達が問題だった。


『そうは申されましても、現状私は<<死魔将(しましょう)>>の事を貴方様よりの又聞きでしかわかりません。技術水準を見ませんと、如何ともし難いものが』

「わーっとるよ。まぁ、この研究所にはさしてめぼしい物は無いんじゃろう?」

『はい。この研究所はエンテシア様のご息女が隠棲なさった際に使われただけにすぎません。中の資料につきましても、数代後のご当主様が当時の屋敷に移送されておりますので、一切残っておりません』

「むぅ……その資料、どっかに残っておらんかのう」


 シェロウから出された情報に、ティナが口を尖らせる。この資料であるが、どうやらエンテシア家の書庫に収められているかは不明らしい。シェロウが知り得る限りでは、マルス帝国の首都陥落の後にユスティーツィアとユスティエルがどうしたかはわからないそうだ。少なくとも皇都に持ち込まれたわけではない、との事である。


『それは私にもなんとも。ですがユスティーツィア様の事。書庫に収められた可能性は高いでしょう』

「むぅ……一度皇都に申請して、そこらの調査を出来る様にするか」


 やはりエンテシアの情報だ。先にティナ自身が述べていた様に、その足跡を辿れれば更に古い魔術を知る事が出来るかもしれないのだ。エンテシア家の情報の中でもティナは特にこの伝説の魔女の情報に心惹かれている様子だった。そんな彼女に、カイトが提案した。


「ま、それは後にして。ひとまず麓町に戻ろう。もう良い時間だしな」

「そうじゃな……うむ。隠蔽の結界も正常に動いておる。これならしばらくは保とう」


 先に言われていたが、この研究所には重要な情報は残されていない。唯一残っていたとすればティナが継承したエンテシアの杖であるが、それも今はティナの手にある。

 他にも情報とは少し違うが、シェロウも居た。が、こちらもティナがすでに主人として契約を交わしており、<<死魔将(しましょう)>>達だろうと奪えない状況だ。古い魔術が実際に動く施設としての価値はあるが、それだけといえばそれだけだった。というわけで、ティナは若干後ろ髪を引かれながらもそれを振り払う様に立ち上がった。


「まぁ、可能ならしばらくここに居を構え本格的に調査したいが……流石に今はならぬか」

「ルーファウス達も居るし、今回は単に依頼の物を取ってくる、ってだけだしな……というか、オレは早めに帰らんとリーシャに怒られる」

「それもそうじゃのう。お主、一見するとピンピンしている様に見えて、実際にはけが人じゃったか」


 今まで普通に話している上に黒白の羽だのを使っているので忘れられがちであるが、カイトは現在大怪我をしている状態である。と、そんな事を聞いて、シェロウが口を開いた。


『怪我をされているのですか?』

「ああ。少し前に兄弟子と戦って、手酷くやられてな。おかげで包帯ぐるぐる巻きだ」


 半ば呆れた様に笑いながら、カイトはわずかに胸元をはだけさせて包帯を見せる。それに、シェロウが告げた。


『でしたら、町に向かわれます前にこちらへ。ユスティーナ様。薬品の調合などは出来ますか?』

「余は魔女じゃぞ。叔母上から学んでおるよ」

『なるほど……でしたら、尚更こちらへ』


 どうやら何かがあるらしい。シェロウの様子から、一同はそれを理解する。そうして彼女の案内に従う事少し。一同はティナが当主の座を継承した部屋とはまた少し離れた奥の区画へと通された。


「これは……ハーブ園か?」

『はい。エンテシア様の頃にお植えになられた薬草の類を育てているハーブ園です。『龍鱗仙(りゅうりんせん)』や『鳳凰華(ほうおうか)』なども植わっております』

「なんとぉ!? その二つまであるじゃと!?」

『はい。他にも……』


 元々『龍鱗仙(りゅうりんせん)』と言えば珍しい薬草という事だ。これに加えて更に珍しい薬草もある様子で、ティナは大いに目を輝かせる。


「お、おぉおおおぉぉ……」

「うっわー……これも見たことない品種だよ……近縁種は知ってるけど……これ、原種とかそんなのかなぁ……」

「うおっしゃあ! 宝物庫じゃ!」


 どうやらこのハーブ園はティナにとって正しく宝物庫だったらしい。後の彼女曰く、生育されている薬草の中には現代では生育が難しいとされているものもあり、大いに研究の価値がある、との事であった。


「これも余の物か」

『はい。御自由にお使いください。管理はゴーレムが行なっておりますので、ご安心を』

「なんと……」


 おそらく、このゴーレムの内部に記されている生育方法は非常に有益だ。ティナは喉から手が出るほどの欲求を、今は抑え込む。


「うぅむ……欲しい。持って帰りたい。たいが……今はダメじゃのう」

「枯れちゃうもんねー」

「うむ」


 心底残念そうに、ティナはユリィの指摘に頷いた。このゴーレムもティナの指示に従うが、持ち帰ればハーブ園を管理する存在が居なくなる。複数居るのだから一体ぐらい、と思うのは愚挙だった。と、そんな彼女であったが、ふと何かに気づいた様に、口を開いた。


「む……そうじゃ。そういえば、今外でも『龍鱗仙(りゅうりんせん)』などの珍しい薬草が見つかっておってのう。ここと何か関わりがありゃせんか?」

『ここと、ですか? ふむ……そうですね。一応、ここは次元を隔離しておりましたが、七百年もの月日が流れております。数度ばかり次元に亀裂が入り、外に薬草がこぼれ出ていても不思議はありません。何分、七百年ですから……何事も完璧とは』


 ティナの問い掛けに一つ考え込んだシェロウであったが、あくまでも推論として答えを語る。確かにここには各種の珍しい薬草があり、その可能性は無いではなかった。が、これはあくまでも推論であり、事実かどうかは、定かではなかった。


『必要とあらば、外で見付かっている『龍鱗仙(りゅうりんせん)』などの薬草とこの研究所のハーブ園の薬草の成分分析でも行いますか?』

「……まぁ、それは後ほどで良かろう。気にはなるが……強いてせねばならぬほどでもない」


 珍しい薬草が外で見付かっていて、ここにはその種などが採れるハーブ園があるという。ならその関連性は調べておきたい所であるが、今はそんな場合ではないだろう。


『かしこまりました。では、こちらへ。ハーブ園で収穫された薬草類を保管している保管庫があります』

「おぉ、そうか。では、折角なのでそちらを貰っておく事にするか」


 シェロウの申告を受けて、ティナは早速と保管庫へと歩いていく。そうして、エンテシア家のハーブ園で収穫された薬草を幾つか回収して、カイトの手当て兼サンプルとして持ち帰る事にするのだった。




 さて、ティナがエンテシア家の当主の地位を継承してから、およそ7時間。かなり暗くなり始めた頃に、一同はなんとか麓町へと帰還する。


「なーんとか帰れたか」

「道中、若干チートったがのう」

「しゃーない。暗くなる前に戻りたかった」


 やはりそもそもの出発が黄昏時だったという事も相まって、そのままでは間に合わない、と一同は判断したらしい。なので道中で少し本気を出して一気に駆け抜けたとの事で、それをティナはチートと言っていた様だ。


「まー、それは良いんじゃない? なんとか帰れたんだから」

「そうだな……なんとか、か」


 もう街には夕闇ではなく夜闇が垂れ込めており、あと少し遅ければ、という所だった。そんな光景にカイトはわずかに胸を撫で下ろす。その一方で、シェロウはクシポスの麓町を見て興味深げだった。


『こんな所に町が……えらく人が多いのですね』

「クシポスに入る為の街だったんだが……今は薬草でプチバブル状態だ」

『ふむ……あの山は人里離れた普通の山だったのですが』


 それ故にエンテシア家が研究所を作ったのだが。シェロウはそう告げて、ため息を吐いた。こればかりは時の流れという所なのだろう。


「まぁ、仕方があるまい。そればかりはのう」

『はぁ……貴方様が良いのでしたら、それで良いのですが』

「うむ……む?」


 シェロウの言葉に頷いたティナであるが、そこでふと声に気が付いてそちらを向く。そして彼女が気付いている以上、他の面子も気付いていた。


『……喧嘩……でしょうか?』

「ぽいな……はぁ……」


 気付いてしまった以上、仕方がない。なにせカイトは領主だ。街の治安維持も仕事の内だ。


「ティナ。支援よろしく」

「あいよー。何と戦うのかわからんがのう」

「オレも要るとは思わんよ」


 なんのために必要なのか、と言われると単に万が一暴力沙汰になった場合に牽制する為としか言いようがない。が、それも必要なのか、と言われれば疑問符が付く。カイトだ。ここに来ているだろう冒険者達の大半は、威圧だけでなんとかしてしまえた。というわけで、彼は領主のお仕事へと向かう事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1789話『秋の旅路』

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