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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第77章 久遠よりの来訪者編

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第1787話 秋の旅路 ――継承――

 白猫の案内を受けて入った、エンテシア家の研究所の奥。そこに設置されていたのは、ティナの母ユスティーツィアの遺した映像記録装置だった。そこに遺されていたのは、ティナにエンテシア家全ての遺跡を譲渡するという正式なある種の後継者指名だった。そうして改めて母より正式に後継者指名がされた後、ティナは一つ深呼吸をした。


「……うむ。もう良いぞ。実に母上らしい……うむ。実に余の母上らしいメッセージであった」

『そうでしたか。それはユスティーツィア様もお喜びになられましょう』


 告げられたティナの感想に、白猫が柔和に微笑んだ。白猫はまだティナの性格を知らないに等しい。

 だが、この言葉が何より、しっかりと母の血を、エンテシアの血を受け継いでいるのだと知らしめていた。


『それで、どうされますか?』

「そんなもん、返事は決まっておろう。ここの事を聞いた時から、覚悟なぞ決まっておるわ」


 部屋の奥に安置された杖を見ながらの白猫の問い掛けに、ティナは迷いなく返答する。これを手にする為に、ここに来たのだ。これを持ち帰らねばただ母の言葉を聞いただけになってしまう。それでは意味がないのだ。


「どうやれば良い」

『ただ、手に取られればそれで。そうすればこの研究所も全ての機能を取り戻します』

「なんじゃ。何かせねばならぬかと思うたが、そんなのも無しか」

『非効率的かつ非合理的ですので』

「魔女の一族じゃのう」

『魔女の一族ですから』


 笑うティナの言葉に、白猫もまた笑う。古い一族の当主の座を継承するというのだ。何か大それた儀式が必要かと思ったが、単に杖を手にするだけで良いらしい。拍子抜けではあったが、確かに先代が既に継承の意思を示している以上、非合理的だろう。


「ま、そういう意味で言えば、余は色々と異端かのう」

『天才とは得てして、異端なものですよ』

「訳知り顔じゃな」

『歴代の天才達や秀才達を見て参りましたので』


 ティナの指摘に、白猫が笑う。そうして少しの会話を交わした後、ティナは杖の前まで歩いて行く。が、そこですぐに触れはせず、一度口を開いた。


「カイト。何が起きるかわからん。万が一に備えておいてくれ」

「あいよ」


 ティナの求めを受けて、カイトは背に黒白の羽を生み出した。これでもしここが次元の狭間に封じられたとて、脱出は容易だろう。


「よし……なんというか、今の今まで知らぬというのに、妙な感慨があるもんじゃ」

「んなこたぁ良いから、さっさとするならやってくれ。現状、封印は解かれている。いつまでも見つからないとは限らん。オレも力を解放している以上、遠からずバレるぞ」

「むぅ……まぁ、道理じゃし、所詮そう感じるだけか。ほいよ」


 カイトの指摘に気を取り直したティナは、まるで軽い感じで歴代の当主達が継承した杖を継承する。


「……本当になーんも起きんな」

『だからそう申しましたでしょう? それはエンテシア様の杖ではありますが、所詮は杖。それを持ち何をなさるかが重要なのです』

「ふむ……」


 これが伝説的な開祖が使った杖。それを手にしてみて、ティナはどんなものなのだろうか、と思う。


「材質は……ふむ。この順応度であればまず間違いなく世界樹の一部じゃろうな。余も同じ物を使っておる」

『ほぅ……よもやエンテシア様が方々渡り歩いて手に入れられた物をお持ちとは。その点は既に歴代の当主達を大きく上回りましたね』

「べっつに一国の王になっとりゃこれぐらいは手に入る」

『一国の王?』


 どうしてもこの白猫は今まで休眠状態だったという事が付き纏う。故にティナが封じられていた事も、百年の封印にあった事など様々な事を知らなかった。


「そうか。お主は知らんか。あまりに常識になっておったので忘れかけたわ」

『よろしければ、お教え願えますか』

「良いぞ。お主もこれから外に出る以上、余の力になってもらうからのう」

『もとより、その所存です』


 ティナの言葉に、白猫は笑って快諾する。と、そんな所に、ユリィが口を挟んだ。


「その前になんだけど、白猫さんのお名前は?」

「む?」

『ああ、そういえば名乗っておりませんでしたか。思えばユスティーナ様はご存知だとばかり。私、エンテシア家に代々仕えておりますシェロと申します』


 シェロ。白猫はティナのそういえば、という顔を見て自身の名をそう名乗る。そしてその名を聞いて、ティナがふと口を開いた。


「シェロ……シェロウじゃな」

『覚えておいででしたか?』

「なぜかそう思うただけじゃが……どうやら、身体が覚えておらんでも魂は覚えておった様子じゃのう」

『はい。ユスティーナ様はよくシェロとお呼びでしたので、こちらは絶対に忘れていると思っておりましたよ』

「それでも、存外真の名は覚えておるもんじゃ」


 どこか感慨深げに、ティナが笑う。後に彼女曰く、なぜ自分が名を問わなかったかというと知っている様な気がしていたので、との事だった。幼き日で封じられた記憶でも、決して失われずに残る何かはあったのだろう。


「ふむ……立ち話もなんじゃ。どこかで落ち着いて話せる場は無いか? 可能なら一時的な隠蔽もしておきたい」

『かしこまりました。既にこの遺跡は全て、ユスティーナ様の物。貴方様の意思一つで、如何様にも』

「という事は、姿を隠せと命ずれば、姿を隠す事も出来るか?」

『勿論です。その機能もこの施設にはございます』

「そうか……では、隠れよ」


 ティナの命令を受け、この研究所全域に高度な魔術が展開される。これで一時的にだが、この研究所を隠すことが出来るだろう。


「ふむ……この魔術の形式。マルス帝国初期の物じゃな。じゃが……いや、待て……」

「どうした?」

「これはより古い。似ておるし、解析するのであればそれを取っ掛かりに……いや、してはならぬな。これは……」

『ふふ……やはり流石はユスティーナ様。即座に気付かれますとは、大凡お母君が受け継がれた頃を超えておりましょう』


 何がどうなりどうなっているのか、と夢中で解析を行うティナに、シェロウは目を細める。誰に言われずとも、そしてもし何も分からずとも、代々エンテシア家に仕えてきた使い魔には彼女こそ正統なエンテシア家の長だと理解できた。


「ほう……母上をか。母上はいつ頃当主を継承した」

『さて……いつで御座いましたか。一族の中でも早くに継承されていた事は覚えておりますが……ああ、大凡二百の頃ですね』

「余よりも百は若い頃か。なら、仕方があるまい」


 少しだけ鎌首をもたげた母を超えたという優越感だったが、一転してティナは霧消させる。百歳も若い頃の母も同じようにここに立ち、この結界の解析を行ったという。比べるだけ無駄だと思ったらしい。


「ふむ……これは誰の作じゃ」

『エンテシア様の遺された魔術を、お孫様が改良されたものです』

「なるほど。それでマルス帝国に似た風があるわけか」


 ティナは隠蔽の為の結界を見ながら、得心がいった様に頷いた。大本はマルス帝国よりも遥かに古い様子が見て取れたが、似た様子があったのはそれ故なのだろう。そんな結界を見ながら、ティナはふと思う。


「初代様は何時の時代の存在じゃったんじゃろうな」

『さて……詳しい事は私も申し上げかねます』

「知らぬのか? それとも、語れぬのか?」

『知らないのです。そこら、エンテシア様は特段意味もないとでも思われたのか、語られませんでした故……』


 シェロウはティナの問いかけに、少しだけ苦笑気味に笑う。確かにエンテシアにより作られた彼女であるが、そこらは知らないらしかった。


「ふむ……そうなると、少し気になるのう。これは明らかにマルス帝国……いや、時代柄を考えればマルス王国時代の物じゃ。そうじゃ。初代様はなぜ亡くなられた?」

『なぜ、ですか。さて……これが杳として知れず、という所』

「死んだのではないのか?」

『おそらく、死んでおりましょう』


 今までとは違い、シェロウはどこか曖昧に言葉を濁す。これに、ティナが小首をかしげた。


「よくわからんのう」

『私にもよくわからないのです。エンテシア様はある日唐突に旅に出られました。私はその際、ご息女様を補佐する様に、として作られたのです。故に旅に出られた事は知っておりましても、なぜ旅に出たのか。どこへ向かわれたのか、というのは知らないのです』

「ふむ……そのご息女は何と?」

『さぁ……エンテシア様が旅立たれた事にさほど興味を持たれておりませんで、エンテシア家……当時はその名ではございませんでしたが……いえ、兎にも角にも、特に何も語られておりませんでした。ご存知だったが故に語らなかったか、それとも知らないでも興味が無かったのか……それは私にも何も』


 二代目となると、エンテシア家としての初代から一代前――開闢帝に仕えエンテシア家を興したのがエンテシアの孫――だ。丁度エネシア大陸の戦国時代に生まれたと言って良いだろう。


「ふむ……初代様の事は書庫にも無いからのう。何か手がかりでもあれば良いが……」

「興味あるの?」

「ある……特にこの魔術を見て、そう思うた」


 ユリィの問いかけに、ティナははっきりと頷いた。書庫というのは以前にエルーシャ達が見付けた遺跡の事だ。あの書庫には残念ながら、エンテシアの事は書かれた書物は無いらしい。

 あの書庫の書物は、エンテシア家が開闢帝からの命令により史家として歴史を記していた物だ。それ故、エンテシア家としての初代の二代前となるエンテシアの事は殆ど書かれていないそうなのである。


「この魔術は明らかに古代の魔術に属しておる。が、その中でも殊更に高度じゃ。余が手を出さぬでも十分な隠蔽効果が得られるほどにはのう。となると、初代様の足跡を辿れば色々と古い魔術が知れるかとな」

「なるほど……」


 別に何かに役に立つというわけではないのだろうが、知的好奇心という所なのだろう。ユリィはティナの返答に納得する。と、そんなティナであったが、一転して首を振った。


「ま、それは良かろう。興味は尽きぬが……そうじゃ。一応念の為に聞いておくが、その初代様はこの様な女性ではあるまいな?」

『……違います。が……これは懐かしい。まさかリル殿の絵姿を見るとは』

「……まさかリル殿はその時代から生きておるのか……?」

『さて。それは私にも申し上げかねます……が、お母君の師である以上、私が知らない道理はありませんでしょう?』


 少しだけ楽しげに冗談を述べたシェロウは、ティナへとあまりに道理を問いかける。ユスティーツィアの師がリルだという。そしてユスティーツィアが当主に就いた際には、まだユスティエルはリルの下で修行中だった。そこらを鑑みると、シェロウが知らないという方が可怪しいだろう。


「む……それもそうじゃのう。ああ、リル殿じゃが、今は少しの縁あって余らと共に行動しておる。余の師にも近い立ち位置じゃ」

『なるほど。それは良い判断かと思われます。確かに貴方様の才覚、現在の習得度などは高いとお見受けいたしますが……それでもリル殿の見識にはまだ及びますまい』

「うむ。余もそう思うておるよ」


 シェロウの発言に、ティナは即座に同意する。一応魔術の一部についてはリルを上回っているティナであるが、やはりリルは数多の世界を巡り『もう一人のカイト』の拠点を見つけ出したほどの存在だ。高位の大精霊の事、『時空石』の事を筆頭にティナでも知り得ない事を山程知っており、その師事を受けるのは不思議でも何でもなかった。


「っと、そうじゃな。であれば、一度そういった事を含めてきちんと話をしておこう。これらの事も語っておかねばなるまいし、何より今の余らの現状を語らねばなるまい」

『わかりました……では、こちらへ。貴方様の即位に合わせ研究所の設備も復旧しておりますので、各部屋も入れる様になっております。応接室も使えるでしょう』


 ティナの求めを受けて、シェロウが再度案内を開始する。そうして、一同は応接室で少しの間、現状をシェロウへと語っていく事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1787話『秋の旅路』

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