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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第77章 久遠よりの来訪者編

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第1783話 秋の旅路 ――導きの天馬――

 ティナの母にしてエンテシア皇国の初代王妃ユスティーツィア。そんな彼女が自身の死期を悟り娘であるティナに残した遺産を回収するべく、クシポスと呼ばれる山へと入る事になったカイト。

 そんな彼はティナとユリィの両名と共にクシポス山の麓にある麓町にたどり着くと、そこで一度今クシポスで有名になっているという薬草類の視察を行う事になる。そうして、少し。宿屋に戻った一同は、一度そこで今得られている情報を洗い出す事にした。


「まず『導きの翼(エンジェル・フェザー)』。これが居るのはほぼ確定か」

「だろうねー。場所まではわかんないけど」


 やはり曲がりなりにもランクSの魔物だ。その活動地域はかなり広く、並の冒険者では捉えきれない。そうなるとソレイユらの出番になるが、この『導きの翼(エンジェル・フェザー)』にはある特徴があった。


「『導きの翼(エンジェル・フェザー)』……別名『時度りの翼(タイム・フェザー)』。次元渡る天馬。生態はほぼ謎という最上位のレアリティを誇る魔物じゃな。というか、今更じゃが次元渡るって誰が調べたんじゃ」

「知らねーよ。元々そう言われてるだけだからな」


 『導きの翼(エンジェル・フェザー)』のもう一つの別名を告げたティナがため息を吐いて、それにカイトは興味無さげだった。


「でも少なくとも転移術を使えるのは事実でしょ。私とカイト、それで何回か助かってるんだし」

「それな」

「そういや、お主ら何度か救われた事があるんじゃったのう」


 カイトとユリィの言葉でティナもカイトの来歴の一部を思い出す。その内一度は彼女も見ており、彼らが『導きの翼(エンジェル・フェザー)』に救われた伝説が事実であると知っていた。


「まぁ、それそのものに不思議はあるまい。『導きの翼(エンジェル・フェザー)』は非常に温厚な魔物。幻想種よ。これに救われたという伝説は割とある。他にも救いの天馬やら何やら良い名で言われておるし、学術的に魔物に属する事にした際、学会が一度それで紛糾した事があるぐらいじゃしのう」

「だわな……複数回はオレぐらいなもんだけど」

「まぁの。そもそも一生に一度お目に掛かれればめっけもんの魔物に、二度も三度も遭遇した挙げ句その背に乗ったお主らがおかしい。同一個体で覚えられとるんじゃないか?」

「それは分からん。確かめようもないしな」


 ティナのどこか茶化す様な問い掛けに対して、カイトは肩を竦めた。まぁ、そういうわけなので今ではカイトの逸話も相まってまず『導きの翼(エンジェル・フェザー)』の討伐依頼なぞ出ない。戦った方が被害が大きく、ユニオンが却下するからだ。


「ま、それは良いんじゃない? 別に会いに行くとかしないし、助けてくれたのと同一個体ならお礼はしないとだけど」

「あっはははは。確かにな。何が良いかな?」

「ニンジンとか干し草とか?」

「ここらで採れた薬草を使った回復薬でも良いかもな」

「これこれ。お主ら話がズレとるぞ」


 楽しげに話し出したカイトとユリィの二人に、ティナが笑いながら軌道修正を図る。そもそもどう考えても本題ではない。


「そうだな……ま、会えたら会えた時に考えよう」

「そだねー……で、それ以外。薬草は……」

「ふむ。こちらは些か気になると言えば、気になるのう」


 ユリィの指摘で話題を展開したティナであるが、その顔は苦々しげだ。厄介な事にどうやらこの薬草の群生地は山の奥らしく、今は特に『導きの翼(エンジェル・フェザー)』と相まって冒険者達が大挙して奥地に押し寄せているそうだ。


「面倒だな……エンテシア家の遺跡はクシポスの奥地なんだが……」

「むぅ……ただの遺跡なら余もさほど何も思わぬが、ここだけはありがたくないのう」


 基本遺跡はすでに持ち主や関係者各位の誰も彼も亡くなっている為、公的な扱いとしては国の保有物となる。が、例えばエンテシア家の遺跡の様に管理者が明白かつ皇室の様に現存している場合、彼らの許可がない限りは彼らの保有物となる。

 なので現代ではエンテシア家の遺跡は全て現当主となるティナの保有物となり、そうなると流石に彼女も自分の遺跡が荒らされるのは許容出来なかった。特にそれが親から継承されたものであれば、尚更だった。


「一応聞いておくが、見付からぬ様にはなっておるんじゃな?」

「ああ。それは大丈夫だ。一度場所を覚える為に爺に案内してもらったが……当時のオレでは見つけられんかった。今でようやく、だろう。黒白の羽出してな」


 黒白の羽。それはティナの叔母であるルイスの力だ。彼女は地球でとある神に仕えていた事があり、その神が創り出した神使の特殊能力を保有していた。

 その特殊能力というのが、天使の力を天使の使徒という形で付与する擬似的な加護に似た力だった。これにより、カイトもまたティナというかその父であるイクスフォスの種族の力を手に入れられていたのである。


「当時とはいえお主で見つけられなんだなら、有象無象では見つけられんか」

「そう思ってもらって大丈夫だろう」


 カイトで太刀打ち出来なかったというのだ。地球に戻り神陰流を学んだ今なら黒白の羽無しで行けるだろうが、そうでないのなら後は厳しいだろう。イクスフォスの力とはそれほどすごい力だった。


「それで、どうするかのう。夜に行きたくはないが……」

「どうすっかねぇ……」


 そもそものカイト達の予定では、あまり人気の無い麓町を拠点として、依頼を偽装として人知れず入って人知れず帰るつもりだった。が、状況が悪い。故に、三人はああでも無いこうでも無い、と頭を悩ませる事になった。


「どうするもこうするもバレない様にするしかないでしょ。バレたら確実に盗掘者とか出るよ」

「ふむ……些か急いたかのう。もう少し力を使いこなしてから、来るべきじゃったか」


 ティナは一度だけ自身の封印を解除して、銀髪赤目に変貌する。この状態になるとイクスフォスの種族の因子が邪魔するからか魔女としての性質が若干低下するが、その分そちらの力も使える様になる。

 が、これはカナンの時と同じく練習していない為、今はまだ満足に使えないのだ。封印を解いた後に再封印を施そうにも、イクスフォス程度は不可能と見込まれていた。


「それはしゃーない……ま、一時的にお前の封印で良いんじゃないか? そっちじゃなくてもお前なら一年二年は保つだろ」

「んー……そうじゃのう。最悪施設に防衛機構でもあればそれを使って余の所に報告を上げさせれば良いか」

「というか、エンテシア家の遺跡だと基本ベースってマルス帝国じゃないの? それならホタル連れてきて互換性確保してもらって、研究室にリンクさせちゃえば? というか、いっそ見付かった事にして公爵家で保有しとけば?」

「おぉ! その手があったか!」


 ユリィの指摘に、ティナが目を見開いた。そもそも元通りに修復する必要なぞ無いし、何より公爵家として見付かった事にしてしまえば立ち入りを禁止する事が出来る。さらにはここら一帯を発展させる事も出来るだろう。丁度この一帯が波に乗り出した事を鑑みれば、丁度良い可能性は十分にあった。


「ふむ……であれば、理由はこの一帯の発展に伴う再調査で良かろう。後は……まぁ、エンテシア家の魔術に似せる事なぞ、余には造作もない。であれば……」


 ああすればこう出来るし。ティナは矢継ぎ早に作戦を考えていく。ここらはやはり流石は天才と呼ばれた彼女なのだろう。隠蔽工作やその他様々な作戦を一気に考えている様子だった。そんな姿を見て、カイトは口を開く。


「あー……全部お前にまかせてオケ?」

「良いぞー。ここらは余の仕事故な」

「オケ。じゃー、オレは再度街を見て回るかなー」

「あ、私も行くー」


 そもそもカイトがするべき事は決定と切り込み隊長だ。なので考える者が考えるのなら、彼の出番は無かった。ということで、カイトはその後はティナに隠蔽工作についてやその後の動きなどの考察を任せて、適当に街を見て回る事にするのだった。




 さて、ティナにこの後の予定の決定を任せたカイトであったが、そんな彼はユリィと共に麓町を改めて見て回っていた。


「ふむ……やっぱり見て思ったが、『導きの翼(エンジェル・フェザー)』って魔物で良いのかね?」

「学術的には、仕方がないって事じゃない?」

「学術的に、ねぇ……」


 確かにカイトとしても地球でいろいろな学説に触れる度、疑問に思う事はある。が、そんな学説の論拠を知り、頷く事も多かった。であれば、『導きの翼(エンジェル・フェザー)』も魔物と属されるには属されるなりの理由があるのだろう。


「とはいえ、やっぱり納得出来ない事は納得出来ないと思うわけで」

「私達だからねー」

「あっははは。まぁな」


 やはり救われた相手が期せずして魔物という悪い呼び名で呼ばれているのだ。生物学などから仕方がないとわかっても、やはりどうしても少しだけ納得できない気持ちがあったのは、仕方がないのだろう。と、そんな事を考えながら歩くカイトであったが、ふと山を見上げる。


「にしても……ふむ……」

「どうしたの?」

「いや、見上げたら『導きの翼(エンジェル・フェザー)』でも見えないかなー、と」

「無理でしょー。あれ、ものすごい速いし、何より実際に転移術とか普通に使うもんねー」

「あの速度。戦闘力も高いが、速度だけなら日向と伊勢を超越してるもんなー……直線距離ならオレでも捉えきれるかどうか」


 三百年の時を経た伊勢と日向の戦闘力と速度は並々ならぬものがある。が、二人の知る『導きの翼(エンジェル・フェザー)』の速度は三百年前の記憶によると、速度だけなら伊勢と日向を遥かに上回っていた。戦闘力ならやはり竜と狼という二つに対して馬だ。流石に分が悪かった。勿論、カイトが言う通り戦闘力が決して劣っているわけではない。並の魔物ならひとたまりもないだろう。


「あの山の何処かに、か」

「お礼はしておきたいね」

「同じ個体なら、な」


 かつて何度となく自分達を救い、そして何処ともなく去っていった一体の白馬。純白の美しい体躯は今でも二人の脳裏に刻み込まれていた。と、山を見る為に立ち止まっていたからだろう。ふと、彼らに声が掛けられた。


「あ、カイトさん。ユリィちゃん」

「ん? ああ、コロナか」

「どったのー?」


 まぁ、ほとんど見ず知らずの街だ。そんな所で声を掛ける以上、相手も限られる。更には街そのものもそこまで大きくない為、尚更知り合いと遭遇しても不思議はなかった。


「あ、はい。明日から山に入るので、その情報収集です」

「ああ、そうか。オレ達も似たような所か。到着したばっかりで山に分け入るのもな。もし道に迷ったら、帰りが辛い。入るなら朝からだ」

「ですね」


 コロナが若干だが、訳ありな様子で笑う。後に聞いた事であるが、どうやらアルヴェンだけはそれがわかっていなかったらしい。今から行くぞ、と言っていたのを彼女がきつく言って止めたらしかった。


「そうだ。情報収集なら、何かわかったか? こっちは奥地に薬草の群生地がある、というぐらいでな」

「こっちもです。『導きの翼(エンジェル・フェザー)』は居るんだろう、とは思いますし、実際に見た人も居るんですけど……」


 やはり何を目的に情報収集しているか、という所で差が出たのだろう。カイト達は奥地に向かうべくどれぐらいの冒険者が奥に向かうのか、というのを調べていたのに対して、コロナとアルヴェンは奥地へ向かうではなく『導きの翼(エンジェル・フェザー)』の情報を中心に集めていた様子だ。カイトが出会えていない目撃者を見付けられている様子だった。


「そうなのか。オレ達の方は目撃者までは見付けられていなくてな」

「そもそも目撃者見つける意味もないしねー」

「あはは……そうだ。奥と言えば、奥の魔物とかはどうなっていそうですか?」

「ああ、それか」


 カイトはコロナの問いかけを受けて、奥地へ向かう際に障害となり得る魔物の情報を彼女へと教えていく。別に隠しているわけでもないし、コロナの側からも情報は貰っている。というわけで、街を見て回る事にした二人はその後はコロナとの間で情報交換を行い、更に情報収集へ勤しむ事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1784話『秋の旅路』

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