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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第77章 久遠よりの来訪者編

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第1782話 秋の旅路 ――クシポス――

 話数が一話飛んでしまっておりますが、別に一話抜けているわけではないのでご了承をお願い致します。

 クシポス山にあるというエンテシア家の遺跡。そこに納められているというユスティーツィアの遺産を求めて足を伸ばしたカイト達三人。そんな彼らは道中の竜車の中でコロナとアルヴェンという姉弟に出会うと、二人と共にクシポスへと到着していた。


「……まーた、こりゃ……」

「活気付いてるのう……」


 たどり着いたクシポスの麓町であるが、そこはカイト達が聞いていた様な田舎町ではあった。が、最近になり珍しい薬草が見つかった事で活性化しつつあったのか、多くの冒険者達が立ち入っている様子だった。


「ふむ……珍しい薬草という事だが、何が見付かったんだろ。ユリィ、何かわかるか?」

「流石にここじゃあねー。市場とかに行けば、分かるかもだけど……」


 カイトの問い掛けにユリィは肩を竦める。確かにここで確かめてくれ、は無茶振りだろう。と、そんな三人を見て、特に意味もないので一緒に降りていたコロナが懐を弄った。


「あ、薬草ならえっと、確か……『龍鱗仙(りゅうりんせん)』……?」

「『龍鱗仙(りゅうりんせん)』じゃと?」


 やはり流石は魔女という所だろう。ティナは薬草の名を聞くなり、目を見開いていた。


「知ってるんですか?」

「うむ。これでも魔術師じゃし調合もやるからのう……ふむ……『龍鱗仙(りゅうりんせん)』が採れるか……そういや、そろそろ貯蔵庫の在庫が心許なくなっておったのう」

「お前な……」


 昨日自分に本題を忘れるな、といったのは一体どの口だったのか。カイトは盛大にため息を吐いた。が、そんな彼にティナの方も言い分があったらしい。


「そうは言うてもじゃ。『龍鱗仙(りゅうりんせん)』は中々にレアな素材でのう」

「ふーん……どんなのなんだ?」

「うむ。龍鱗という名からもわかるかもしれんが、その葉は龍の鱗な見た目でのう。幾枚もの葉が集まっている様子から、龍に例えられた。まー、お主にわかりやすーく言うてやれば、漢方薬に近い素材と言うて良いじゃろ。古代の王様が長寿の為に服用していた、とも言われる。由来の一説には龍の如き長寿を約束する、と言われておるな」


 つまりは生薬の一種という所か。カイトとしてもそう言われるとなんとなくではあるが、理解できた。というわけで、彼は少しの興味本位で問いかける。


「高いのか?」

「高いぞ。葉一枚も高いが、『龍鱗仙(りゅうりんせん)』一輪で大ミスリル数枚という時もある」

「超高級生薬っすか……」


 それはここまで冒険者達が大挙して押し寄せるわけだ。カイトは冒険者達が集う様子に納得する。高位の冒険者であれば、まさに濡れ手に粟。見付けられれば大金持ちも夢ではない。勿論、そう簡単に見付けられるとも思わないが。


「ふむ……ちょいと市場覗いて」

「せめて先にやるべき事をやってから、にしようぜ……」


 そもそもお前の母親の遺産を手に入れに来たんだが。カイトは遺産だなんだより完全に自身の欲望を満たしに行くティナに、盛大に呆れるしかなかった。が、そんな彼女は一転して、カイトへと告げた。


「いや、ここに母上がおられたとて、おそらく『龍鱗仙(りゅうりんせん)』を優先せよと言うぞ。というより、そっちの確保が先にやるべき事じゃ」

「……」


 本当に言いそうだから反応に困る。カイトはイクスフォスやその周辺から聞かされているユスティーツィアの性格を思い出し、思わず返す言葉を失った。どうやら魔女の血は喩えその背を見ずとも受け継がれるらしい。というわけで、おそらく本人さえ同意するだろうティナの言葉に、カイトは盛大に肩を落とす。


「わーったよ。どーせあの爺もお前のその言葉を聞いたら大笑いするだけだろうし。はいはい、好きになさってください」

「うむ!」

「あはは……なんだかんだティナは変わらない、と」


 喜色満面のティナに、ユリィが僅かに苦笑する。結局、両親の生存とその正体を知ろうと彼女は彼女。性根は何も変わらなかった。それに何より、ティナが良いのならそれで良いのだ。


「じゃ、オレ達はここから市場へ向かうよ」

「あ、はい。ありがとうございました」

「おう、じゃあな」


 所詮は道中で一緒になった、というだけに過ぎないのだ。なのでカイト達にはカイト達の、コロナとアルヴェン達には二人の向かう先があった。というわけで、ここで両者はお別れとなる。そうしてカイトはとりあえず、麓町を見て回る事にする。


「そういえば……ここには来た事が無かったな」

「無いでしょ、そりゃ」


 ふとつぶやいたカイトに、ユリィが笑う。ここはカイトが不在の三百年でできた街だ。なので彼が来た事がなくて当然である。そんな興味深げなカイトに対して、ティナは全く別の所に視点を向けていた。


「ふむ……気候としては『龍鱗仙(りゅうりんせん)』が採れても不思議が無い気候じゃな。若干肌寒く、水源地にも近い。生育に必要な条件は割りと満たされておる」

「生育に必要な条件ってなんだ?」

「む? 『龍鱗仙(りゅうりんせん)』の生育に必要な条件か。それは端的に言えば、良質な水源と寒さ……寒冷地という所か。『龍鱗仙(りゅうりんせん)』は暑い所が苦手な植物でのう」

「なるほどね……」


 カイトは若干だが肌寒い気候を肌で感じ、ティナの言う通りである事を理解する。そしてここらは田舎町であったからか、環境汚染とも無縁だ。元々環境汚染が進んでいないエネフィアだ。その中でも殊更に水は綺麗だった。と、そんな事を話しながらしばらく歩いた所で、三人は薬草を取り扱う薬屋にたどり着いた。そこで、ティナが目を輝かせた。


「おぉ! ほぼ採れたばかりの『龍鱗仙(りゅうりんせん)』! これほどの鮮度の物はまさしく産地でなければお目にかかれん!」

「お! お嬢さんお目が高い! こいつぁ、今日の朝収穫されたばかりの『龍鱗仙(りゅうりんせん)』だ! どうだい、この街の外で買ったらこの倍の値段はするよ!」

「ふむぅ……」


 やはり一旦魔女としての性質が表に出れば、そこは魔女の中でも最優の一人と言われるティナだ。店主の言葉は完全に聞いていないらしい。収穫されたばかりだという『龍鱗仙(りゅうりんせん)』を時に切り口を見たり、時に葉の乾燥具合を見たり、として観察していた。そんな彼女の姿を見て、カイトも少し気になったので『龍鱗仙(りゅうりんせん)』とやらを彼女の背中越しに覗き込む。


「へー……確かに、龍の鱗みたいだな」

「ねー……何回か乾燥した物は見たことがあるけど、生は久方ぶりかも」


 カイトとユリィが見た『龍鱗仙(りゅうりんせん)』であるが、それは確かにティナの言う通り龍の鱗に似た小さな葉が生えた15センチほどの草だった。かなり特徴的といえば特徴的な見た目で、僅かにだが薬に似た匂いが漂っていた。と、そんなユリィの言葉に、ティナが口を尖らせた。


「乾燥は薬効を若干損なうからあまり推奨はせんの。叶うのならなるべく生の方が良い。それか、細かくして水に溶かす。後は酒に溶かして薬酒というのもあるのう」


 どうやらティナが『龍鱗仙(りゅうりんせん)』の断面図などを見ていたのには、そういう理由があったらしい。乾燥するとあまり良く無い為、断面図を見て乾燥具合やその進行速度を見極めていたのである。そんな彼女はカイト達に少し語ると、『龍鱗仙(りゅうりんせん)』の断面から視線を上げて店主を見た。


「店主。『龍鱗仙(りゅうりんせん)』の根は?」

「ああ、根だな。それならあっちだ」

「かたじけない」


 店主の指差した方角を見て、ティナが一つ小さく頭を下げる。そうしてそんな彼女はカイトの横を通り抜ける一瞬、彼の裾を引っ張った。


『カイト。ここはもう良いぞ』

『ん?』

『品質があまりよくない。本来、長期保存に備えるのなら根は刈り取らぬ。水に付けて保存するからのう。それを分けて保存しておる時点で、ここで余が買う意味はない』

『ここで刈ったのか?』

『うむ。断面が摘まれたにしては綺麗じゃ。根と茎、葉を別売りする為に剪定様の鋭利なハサミで切りおったな』


 カイトの問いかけに、ティナは一つ小さく頷いた。どうやらこの店は彼女のお眼鏡に適わなかったらしい。そんな彼女は更に告げる。


『後、些か暴利が入っておるな。まぁ、ラッシュという事で仕方がない側面はあるが……カイト。帰り次第、クズハに言うて一度見張らせた方が良いやもしれん。バブルになりかねん』

『りょーかい』


 これは予定にない事であったが、偶然にも『龍鱗仙(りゅうりんせん)』からここら一帯での価格相場や状況は知れたというわけなのだろう。これについては帰り次第対応する、という事にしておく事にする。

 バブルが起きない様にするのも領主の重要な仕事の一つだ。今はまだ些か顔を顰める程度にしかなっていないが、これ以上値上がりする前に手を打たねばならなかった。そうして若干麓町の視察を兼ねながら市場を歩いていると、他にも色々と見付かる。結果、期せずして現状を理解出来てきた。


「ふむ……なるほどな。奥地に近年薬草の生い茂る一角が見付かった、と」

「ふむ……おそらく『龍鱗仙(りゅうりんせん)』もその一角というわけなのであろうな」


 市場を見た限りであるが、どうにも色々と珍しい薬草が幾つか見付かっている様子だった。『龍鱗仙(りゅうりんせん)』はその筆頭株という所なのだろう。と、市場で得られた――で根と茎を切らずに販売している店があった――薬草に保存処理を施すティナに、ユリィが問いかける。


「何が原因か、とかってわかる?」

「それはわからぬよ。例えば『龍鱗仙(りゅうりんせん)』と言うても、余らが勝手に薬としての効能を見出しておるだけで、実際には普通の植物と一緒じゃ。渡り鳥達の動き次第で偶然にもここに流れ着き、それが繁殖した可能性は十分にあり得る。そして水源地もあるし、確かここは渡り鳥達も来たはずじゃ。ここらに生息域が広がっても不思議はないのう」

「人の手とかあり得ない?」

「そりゃ、確定じゃ。流石に『龍鱗仙(りゅうりんせん)』を野生化させ収穫、というのはあまりに非効率的じゃ。それなら最初から植木などに植えて生育方法を確立した方が良いわ」


 人の手で行うにはあまりに消極的。ティナはユリィの重ねての問いかけにそう言って、首を振った。後の彼女曰く、一応『龍鱗仙(りゅうりんせん)』も生育方法は確立されていないわけではないが、無計画に野生化してそれが根付くほど甘い植物でも無いらしい。誰かが意図的に植えたとは考えにくいそうだ。


「ま、それについては良かろ。とりあえずサンプ……いや、調査資料は手に入った。これで後は薬効などを調べ、どの程度の等級かを見極めれば良いじゃろ」

「ということは、今日はもう終わりか?」

「そうじゃな……それに、案外今日は行かぬで正解じゃったやもしれん」


 カイトの問いかけに頷いたティナは一度周囲を見回して、一つ真剣な顔をする。


「どうやら『導きの翼(エンジェル・フェザー)』がおるというのも事実らしい。面倒にならねば良いが」

「そこは行ってみるしかない。それにユニオン支部なら何か情報があるかもしれんしな」


 ティナの危惧に対して、カイトが笑う。そんな二人の視線の先には、天馬を象った様子の土産物の人形があった。どうやら薬草類と共に『導きの翼(エンジェル・フェザー)』を全面的に売りに出しているらしい。


「……さっさと来てさっさと帰るつもりじゃったが……些か状況を見守るべきなのやもしれん」

「どーの口がさっさと帰るつもりじゃった、なんだか……」

「まったく……」


 ティナの前にはこのクシポスで収穫されたほぼ全ての種類の薬草があった。そしてすでに夕方。どこをどう聞けばさっさと帰るつもりだった、なのかさっぱりだった。そうして、三人は一通り視察まがいの情報収集を終わらせると、その日はそのまま押さえておいた宿屋に入って眠りにつくのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1783話『秋の旅路』

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