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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第77章 久遠よりの来訪者編

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第1778話 秋の旅路編 ――旅へ――

 カイトとティナの何時もの事といえば何時もの事となる痴話喧嘩の後、少し。二人が何時も通り仲直りして帰還して少しの事だ。カイトは溜まった書類を処理しながら、現状の報告を受けていた。


「と、言う感じですわね」

「そうか……ひとまず、こちらには何も無しか」

「はい」


 不在の間冒険部の実働部隊の統率を担っていた瑞樹が、カイトへと報告し頷いた。今更言うまでもない事であるが、ソラが吉乃と千代女に出会ったのは全くの偶然だ。そもそも偶然でないのなら二人はソラの正体を最初から知っていた事になり、吉乃が千代女の暴走を許す結果になぞなっていない。


「わかった。ソラ、トリン。ひとまずお疲れ様……と言いたい所なんだが」

「ん?」

「はい?」


 帰ってきた以上はここからはカイトの仕事と相成るのが本来の姿なのであるが、それなのに切り出した彼に二人が小首を傾げる。別に帰ってからでも良いだろう、と飛空艇の中ではソラに語っていなかったのだ。


「悪いが、数日頼む。ハイゼンベルグ公からの依頼があって、ちょいと出掛けないといけなくなった」

「へー……デカイ依頼か?」

「いや、そこまで大きいわけでもない……単にとある物を回収してくれ、というだけの話だ。で、今回の来訪でオレが行ったから、ウチに依頼がという所だ。マクダウェル領だしな」

「うむ。そういうわけで、余とカイトで行こうと思う」

「……お前ら二人が? てか、お前。けが人じゃないのか?」


 この世界最強クラスの戦闘力を持つ二人が同時に、である。ソラが顔を顰めたのも無理はなかった。


「あっははは。デカイ依頼じゃない、ってのは本当だ。そこまで難しいエリアでも無いしな。ティナはその物を鑑定する為に、という所だ。戦力目当てじゃない」

「ふーん……」


 一応、カイトの言っている事には筋が通っている。が、やはり詳細は明かせないというわけなのか、はぐらかしている様な印象を受けた。こればかりは相手が相手である事を鑑みれば、仕方がない事と受け入れるしかなかった。そしてであれば、とソラも受け入れた。


「ま、数日なんだろ? なら大丈夫だ」

「頼む。ちょっと色々とあってな」

「ほんとにのう」

「だーら悪いってば……」


 ただただ盛大に呆れた様にため息を吐いたティナに、桜らティナの不機嫌を教えられていた者たちは彼女の機嫌が治っていた事を理解する。確かに言われてみれば、どこか精細さを欠いていた様な気はしたらしい。敢えて言えばどこか余所余所しいというか、どこか事務的。そんな様子があったとの事だ。


「というわけで、椿。悪いが明日朝一番ですぐに出掛ける用意を頼む」

「かしこまりました。おかえりは何時頃になりますか?」

「現地までは飛空艇、としたいんだが……向かう先がクシポスでな。着陸出来ん。道中徒歩というか、馬車に乗って行くしかないだろう。あそこ、竜車も無いし」

「クシポスですと……大凡六日という所ですね。かしこまりました。そこまでの手配はこちらで」

「すまん」


 椿の理解にカイトは一つ頭を下げる。クシポス、というのがユスティーツィアがティナへの遺産を隠した遺跡のある山の名だった。ここにもまたエンテシア家の隠された施設があるそうで、もし自身に何かがあった時に備えて、ここの事はハイゼンベルグ公ジェイクとヘルメス翁に告げていたそうだ。

 これもあって、ハイゼンベルグ公ジェイクは三百年前の大戦で無茶が出来ないと生き延びるしかなかった、とのことであった。と、そんな会話を聞いて、瞬が小首を傾げる。


「クシポス……聞いた事無いが、どんな所なんだ?」

「ああ。切り立った山々が連なる場所だ……そこまで標高は高くないし、何か有名な物があるわけでもない。さほど攻略難易度は高いわけじゃないな」

「……なぜそんな所に?」

「いや、依頼だろ」


 瞬の問いかけに、カイトが思わず素でツッコミを入れる。これ以外に理由なぞ無いに決まっている。が、彼の疑問もそういうことではなかった。


「いや……なぜそんな所に用事があるのか、という所だが……まぁ、依頼と言われてしまえばそれまでだが」

「ああ、それは簡単だ。マルス帝国時代の遺物があそこにあるらしくてな。今回の襲撃の参考になるかもしれない、と情報媒体を取りに行く様に頼まれたんだ」

「明かして良かったのか?」

「別に黙ってろ、なんて言われてないぞ? そもそも別に隠してたわけじゃないし」


 大いに驚きを露わにした瞬に対して、カイトが笑いながら明言する。別に隠しているわけではない、というのは本当の事だ。が、相変わらずの手練手管というべきか、情報の一部を抜く事で真実にはたどり着けない様にしてしまっていた。


「まぁ、それでも辺鄙な所にあるし、色々と面倒が絡んでくるのは絡んでくる」

「面倒?」

「公爵家からの依頼が面倒でないとでも? 下手に下の面子を動かすとギルドの体面に関わってくる。怪我も割りと癒えてきたから、体面上の事も鑑みてオレとティナが、というわけだ」


 なるほど。全員がたしかに通っている筋を見て、思わず納得するしか無かったようだ。確かに公爵家からの依頼であれば、基本的にはギルド全体で臨むかギルドでも上の方に位置する者が主導して然るべきだろう。下手を打つと皇国での動きがやり難くなる可能性もあるからだ。


「というわけで、数日こちらは任せる。遺跡の内部構造なんかはすでにわかってるし、安全性の有無も確認済みだ。ま、本当に行って帰ってくるだけだ」


 要は使いっぱしりという事ね。一同はそう理解する。何より現在カイトがけが人というのは事実だ。そしてこの場の大半が彼もまた公爵である事を知っている。であれば、下手に無茶はさせない筈。そう理解していた。というわけで、今回の依頼は本当に危険性の無い物と全員が理解して、その日はそのまま通常業務に励む事になるのだった。




 さて、明けて翌日。カイトとティナ、そしてユリィの三名は飛空艇に乗って、エンテシア皇国中東部にあるクシポスという山脈を目指して進んでいた。


「ふーん……私達が居ない間にそんな事がねぇ」

「そーいうことでのう。すまぬが、お主にも手伝って貰うぞ」

「良いよ、別に。そもそも私も結構前には聞いてたし……というか、一度来てたし」


 ティナの言葉にユリィは二つ返事で了承を示す。ここら彼女はカイトがティナに隠した前世の事も聞いている。なのでこの程度の事は特段気にする事もなかったようだ。その一方、ティナはティナでそんな彼女が語った事にあきれていた。


「お主も会っておったのか……」

「うん……と言っても、三百年前じゃなくてついこの間だよ。三百年前はまだ私子供だったし」

「そこも呆れポイントじゃが……それ以前に父上はそこまで前から何度となく来ておった事に呆れておるだけじゃ」


 自身に隠れて自分の周囲をチョロチョロチョロチョロとしていたイクスフォスに、ティナは呆れを隠す事が出来なかったようだ。今まで彼女に隠れていただけで、本当に彼女の事が心配で堪らなかったのだろう。


「ま、良いわ。さて……」

「なんか嬉しそう?」

「うむ。些か心がおどる。なにせマルス帝国時代の情報……それも叛乱軍側の情報じゃ。一体何が遺されておるのやら」

「「そこか……」」


 ティナらしい。そう言われてしまえば二人も納得するしかなかったが、ティナの興味は母親が何を残してくれたか、という所ではなくどんな情報が遺されているのだろうか、という未知への興味で占められていたようだ。とはいえ、そんな彼女には彼女の言い分があった。


「ふふっ……お主らはわかっておらんのう。情報を残すということは逆説的に言えば、必ず自分で帰還するという強い意志があればこそ。死なぬ、という強い意志があればこそにほかならぬ。なら、母が一体どの様な情報を重要として残したのか。そこが余には気になる」


 おそらく、これはお互いに同じ魔女であり学者であればこそなのだろう。二人には二人にしかわからない何かが、ある様子だった。そして娘たるティナにこう言われては、カイトもユリィも肩を竦ませ笑うしか出来なかった。


「ま、お前がそれで良いならそれで良いさ」

「ね……それで、今回の旅の行程表はどんな感じ?」


 ユリィとしては二人が行くので同行する、というだけで決めた事だ。なのでこの行程の大凡を理解していなかった。


「ああ。今回は今日の昼に一番近い空港……ゲーヌに到着して、そこから馬車だ。竜車無いし」

「あそこ確かに無いよねー……というか、何も無いんだけど。そうだ。もしかして開発してないのって、それ故?」

「それも無いわけじゃないが……流石にあそこは道路と道路の隙間だからなぁ……」


 どうしても広大な領地であるマクダウェル領だ。全てを整地する事は出来ないし、道を繋げるにしても一苦労だ。最終的に全ての道はカイトの本拠地であるマクスウェルか神殿都市の二つに繋がる様に設定しているが、どうしても広大さに比例する様に手を伸ばしにくい地域というものが存在してしまっていた。今回向かうこのクシポスもまた、そんな隙間にある所の一つだった。


「まぁ、余が三百年ほど前にした地質調査でも、あそこらにはあまり良質な鉱物資源が眠っているというわけでもない。事情を聞けば納得、と言うしかないわけであるが……それ故にイマイチ手は出せんからのう。このまま手つかずの自然の残る地として使うのが良かろう」

「ま、そんな所だろう。何より、あんまり開発しすぎてもな」


 カイトとしては立場上、そして付き合い上自然はなるべく残しておきたい。ならこういう隙間は敢えて開発せず、残しておくのもマクダウェル領の在り方と言えた。有り体の言い方をしてしまえば費用対効果に見合わない、とでも言えば良いだろう。


「ふーん……まぁ、それなら今回はあんまり難しい話にはならないかー」

「ああ。なにせ遺跡はティナが完全に掌握出来るからな」


 基本、エンテシア家の遺跡は現在ティナに全ての権限が移譲されている。これは自身のある種の死期を悟ったユスティーツィアがティナの魔力波形などを利用して、自身が数十年アクセスしない場合は自動的にティナか妹のユスティエルの両名を自身の代理人とする様に設定していたからである。

 というわけで、今回のエンテシア家の遺跡もまたティナが代理人として設定されており、今回の遺跡でも前のエンテシア家の遺跡の時と同じ様に彼女の指揮下に加わる事になっていた。


「さて……ま、そこまで苦労はしない筈なんだが……」


 クシポスはさほど難易度の高い山ではない。このカイトの言葉に嘘偽りはない。なので楽に終わる筈といえば、楽に終わる筈ではあった。そんな事実に対して僅かな苦味を滲ませるカイトに対して、ユリィが問いかけた。


「何か気になる事でもあるの?」

「いや……ねぇな。ただ、一点。今更ながらに思えばリーシャの視線が痛かった……」

「……そりゃそうでしょ」


 一応言うが、カイトの怪我はまだ完治したわけではない。リーシャは半月で治癒するとは明言したものの、あれはあくまでも安静にしていた場合、半月で治るという意味だ。今回の様に旅をする事は勘案されていなかった。


「ただなぁ……今回ばかりはどうにもならんのよ」

「まぁねぇ……」

「そりゃのう……」


 カイトの言葉に、ティナもユリィも盛大にため息を吐いた。今回ばかりは、カイトが行くしかない。そして状況が状況である事はわかっている為、リーシャもまた今回の旅を許している。どう頑張ってもカイトしかティナを案内出来ないのだ。というわけで、カイトには目的を達成次第即座に帰還する事、というドクターストップが掛かっていたのであった。そうして始まる前から終わった後について微妙に憂鬱になりながら、カイトは飛空艇に揺られて進む事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1779話『秋の旅路』

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