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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第77章 久遠よりの来訪者編

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第1776話 秋の旅路 ――知る――

 カイト達が教国から持ち帰った、マルス帝国の中央研究所の研究データ。その解析に関わるあれこれを話し合っていた皇国の上層部。そんな上層部の一人にして、<<死魔将(しましょう)>>達に対抗する最大の切り札となるカイトは、データについてを話し合うとそのまま引き続き彼らへの対策会議を行っていた。


「ということは、こちらはさほど被害は出ていないのか」

「はい」


 カイトの問いかけに、皇都の被害を取りまとめていた文官の一人が頷いた。こちらについてはやはり皇国という事でカイトの伝手やその他いろいろな知り合いなども皇都に居る事もあり、魔物の被害もさほどではなかったらしい。何より、ティナが魔術的に皇城の守りを固めてもいる。結果として人的被害は軽微と言うしかなかった。


「そうか。まぁ、今回は明らかに陽動という所だろう。オレが教国で連絡を受けたと同時に、あちらで襲撃が開始された。こちらはあくまでも陽動で、被害を生むというのは考えていなかったものだと思われる。が、一応聞くが。皇王陛下とその妃殿下の遺された<<導きの双玉>>を筆頭にした重要施設に問題は?」

「今の所、問題は確認されておりません。陛下の命により、すぐに守りにも入っております」

「うむ。そちらについては、余がきちんと請け負おう。人についても間違いない者を就けている。問題は起きぬ」

「わかりました。であれば、これ以上は問いません」


 自身の問いかけに答えた軍高官の言葉を担保をした皇帝レオンハルトに、カイトが一つ頷いた。どちらにせよ、道化師達もティナの関連で遂にイクスフォスが表立って動ける様になった事はわかっているだろう。手を出された所で問題はない。

 これは彼らがしでかした事だ。なぜ自分達に不利になる事をしでかしたのか、という所は疑問であるが、同時にそのおかげで<<導きの双玉>>についてはもう気にしなくて良くなった。こちらには有利に働いた、という所だろう。


「それで……下手人についてを聞きたい。女二人だという事だったが」

「は……こちらに、監視カメラの映像をご用意しました。こちらを御覧ください」


 カイトの要望を受け、軍の高官が吉乃と千代女の二人が写った映像を表示させる。それに、カイトは妙な既視感を得た。


「この二人が、今回の下手人です」

「ふむ……」

「カイト。見覚えは? 久秀とやらを筆頭に、お主の時代の知り合いである可能性は高い」

「どちらも、見覚えがあるような気はするが……如何せん、本人達も顔貌が変わってると明言してるしなぁ……」


 そもそも久秀とて顔が変わっており、織田信長ほど頻繁に会っていた男を前世に持つカイトでさえほとんどわからなくなったほどだ。現状、見覚えがあると言えどもはっきりとした事は言い難かった。


「とはいえ、見覚えがあるとなればお主の時代の可能性は大きかろう」

「そうは言うけどなぁ……ここまで変貌してりゃ、流石にわからんぞ? まぁ、妙に見知ってる気はするから、多分顔見知りだろうが……」


 間違いなく両方知ってる。カイトは吉乃と千代女を見ながら、そう思う。と、そんな彼に更に報告がなされる事になる。


「あ、そうです。これはソラ・天城よりの報告ですが……どうなさいますか? 当人を呼び出しますか?」

「ん? ああ、そういえばソラもまだ滞在中だったか」


 本当なら一泊二日で帰る予定のソラであったが、今回の一件を受けて怪我の治療と更に調書を受けるべく残っていたのだ。なのでカイト達の帰還に合わせて彼も帰還する事になっていた。というわけで、丁度良いとカイトは彼を呼んでもらう事にする。


「ああ、そうしてくれ。どうにもあいつにも関係がある、とかいう話だし……そちらの線でも何か追えるかもしれん。特にオレと同時代の可能性が高い。となると、あいつの目覚めを促す事も出来るかもしれん。そうなると、より情報を集めやすいだろう」

「あ……そういえばそうでしたね。かしこまりました……誰か、ソラ・天城を呼んでくれ」


 カイトの提案を受けて、軍の高官は一つ頷いて机に備え付けられた通信機を起動して外に連絡を入れる。そうして、しばらく。少しの間休憩を挟む事になる。というわけで、カイトがどこか楽しげに、そして敢えてマクダウェル公の口調で口を開いた。


「そう言えば……ハイゼンベルグ公。久方ぶりに前線に出たという事だったな」

「アベルが居れば、アベルに任せるつもりだったが。あれも誰もおらんという。なら、儂が出るしかあるまい」

「あっははは。恥ずかしがってら。懐かしいな。一度ボッコボコにされたんだったか」


 やはり現在は年老いた状態だからだろう。ハイゼンベルグ公ジェイクの心理としては老いて少しはしゃいでしまった、と思ったようだ。僅かに恥ずかしげにそっぽを向いていた。そんな彼にカイトは楽しげだった。と、そんな話をきっかけとして、皇帝レオンハルトも少し楽しげに口を開いた。


「そう言えば……ハイゼンベルグ公」

「は……」

「怪我は良いのか?」

「あれに比べればまだまだかすり傷という所です。これでも龍族。心配ご無用」


 実際、ハイゼンベルグ公ジェイクの怪我は千代女が手加減していた事も相まって、重傷というわけではない。なのでそう請け負った彼に、皇帝レオンハルトは喜色を浮かべた。


「そうか。それは良かった……では、後で俺の試合に付き合ってくれても問題は無いな?」

「へ?」

「何。貴公が出ねば、俺も少しは遊べたかと思ってな。出れなかったので些か身体が鈍っている。これでマクダウェル公が息災なら良いが……マクダウェル公は見ての通り中々の大怪我。それに付き合ってもらうのはな」

「……かしこまりました」


 完全に油断していた。ハイゼンベルグ公ジェイクは自身の言葉の迂闊さに気付いて、盛大に頬を引き攣らせながらも頷くしか出来なかった。そもそも、皇帝レオンハルトにしてもカイトと模擬戦なぞというつもりは一切無かっただろう。

 単なる取っ掛かりに使われただけだ。元々強いと目していた男が実際に強かったので興味を持った、というわけなのだろう。相変わらず老いてなお血気盛んな皇帝なのであった。と、そんな皇帝レオンハルトは、ふと思い出した様にカイトへと問いかけた。


「っと……そうだ。それなら丁度良い。マクダウェル公」

「は」

「貴公の兄弟子殿はどうだったのだ? あの武蔵殿が必ず打ち倒すとまで明言し、貴公にさえそこまでの手傷を負わせるほどの猛者……興味がある」

「ああ、宗矩殿ですか」


 確かにこの興味については、この場の総ての者が等しく持ち合わせる興味だったらしい。これに、カイトは自らが得た所感を語る。


「まぁ、ここまで手傷を負わされた自分が言うのもなんですが……彼は多分、あの七人の中で一番弱いですよ」

「……何? 公にそこまでの手傷を負わせたのに、か」

「ええ」


 驚愕を隠せぬ皇帝レオンハルトに、カイトははっきりと頷いた。しかしこれに、カイトは朗らかに笑った。


「いえ、強い事は強いですし、別に彼らが圧倒的と思って悲観する必要も無い。彼がもし本気で戦えば、皇国も一人で落とせるでしょう……が、今の彼には無理だ」

「……? よくわからんな。こう言うのが最適かはわからんが……生前より弱くなっている、というわけではないのか?」

「ええ。おそらく生前よりも戦闘力は高い……まぁ、彼についてはもう気にしなくて良いでしょう。彼と我が師武蔵の戦いの先は見えた。一武芸者として戦えばこそ、はっきりと断じましょう。師武蔵が勝つ、と」


 この時、カイトはある意味では宗矩への興味をほとんど失っていた。それも仕方がない。彼の言う通り、先を見てしまったからだ。


「その言葉。負け惜しみなどではなく、か?」

「ええ。彼の攻撃を受けてわかりました。柳生新陰流の奥義、無刀取り。これは間違いなくチート。打たせれば負けの武芸です。が……使い手が今の宗矩殿ではそれも泣くというもの。それに何より……」


 皇帝レオンハルトの問いかけを受けたカイトは、敢えてそこで言葉を区切って一つ笑う。そうして、彼ははっきりと断言した。


「戦って、はっきりと理解しました。師が彼だけは生かして捕らえる、と明言している理由が」

「ほぅ……貴公にも教えていなかったのか」

「はい。ただ、生かして捕らえるつもりだ、とは聞いておりましたが」


 皇帝レオンハルトの言葉に、カイトははっきりと頷いた。確かに武蔵の根回しに付き合ったわけであるが、なぜ殺さないつもりなのか、というのは曖昧に理解しているだけだった。が、今回戦ってはっきりと理解したのだ。


「……彼は、本当はもっと強い。あちらに立っているからこそ、弱い。それを、彼は知らねばなりません」

「ふむ……」


 おそらく戦えばこそ、カイトには何かが見えたのだろう。皇帝レオンハルトは僅かな嘆きを浮かべた彼に、同じく戦士だからこそ自身も見えた物があったようだ。


「……まぁ、それについては貴公に一任している。生かして捕らえる事が出来たのなら、死罪にはせんとな」

「ありがとうございます。我が師が必ずや捕らえて帰る事でしょう」


 何が見えているのか、というのは後でカイトに聞けば良い事だ。そう判断した皇帝レオンハルトの言葉に、カイトは深々と頭を下げる。と、そんな話をされた頃合いで、部屋の扉がノックされた。


「陛下。ソラ・天城を連れて参りました」

「ああ、来たか……ソラくん。よく来てくれた」

「いえ……それで、話とは?」

「ああ……ああ、マクダウェル公。彼に席を」

「は……ソラ。ここの空席に座れ」


 カイトは一度ソラに笑いかけると、自身の近くにあるオブザーバー席を勧める。彼の近くなのは、今回の様に高位高官達を前に緊張しないように、と後は何時でもフォローが出来る様に、という配慮だ。そうして彼が腰掛けた所で、再び会議が再開された。


「さて……ソラくん。一つ、先程の戦いの話をこの場の者たちにしてほしい」

「あ、はい」


 皇帝レオンハルトの要望を受けて、ソラが千代女との戦いで感じた事、見聞きした事を話し始める。そうして話が彼女の暴走に及んだ時、カイトの顔が僅かに呆れが滲む事になった。


「お前な……それをするのなら一度は練習してからにしろよ……」

「わ、わかってるよ……あの時はああするしかなかったんだって……」

「結局、最悪の結末だったじゃねぇかよ……」


 やはりソラもあれは自分の選択が悪かった、と思っているらしい。カイトの苦言にかなり苦々しげかつ恥ずかしげで、しかしそれに対するカイトは盛大に呆れ返っていた。と、そんな彼にティナが口を挟む。


「まぁ、此度は仕方があるまい。流石に目覚めさせてそれが敵方と縁あるとは誰も思うまいな……で、ソラ。その目覚めた何某かは何かわからぬのか?」

「それがぜーんぜん駄目。一応、目覚めてるっぽいのはわかるんだけど……うんともすんとも」

「そりゃ、珍しいのう」


 大抵目覚めた時点で何らかの反応はあるものだ。それなのにソラの前世の何某かは目覚めたもののほとんど情報をソラへと明け渡さなかったとの事だ。唯一わかったのは何かを誰かに告げた事ぐらいで、それ以外にはさっぱり、というのが彼の言葉だった。


「カイト。お主が目覚めさせ語ってみればどうじゃ」

「んー……オレが前に出ても何も無し、じゃあそうするしかないが……まぁ、それは後で試すか。流石にここで二人同時に、とやったら気絶者出ちまう」

「それもそうじゃのう」


 ここが自分達だけならそれでも良かったが、ここには戦闘力の無い文官達も居る。更に言うと警備にも影響が出る。であれば、仕方がないだろう。というわけで、これについては後で試してみるという事になり、再びソラへと話が振られた。


「ソラ。で、他に何か聞いた事は?」

「あ……えっと、そうだ。確かあの白い女の人が墨染の女の人を奥方って。後、果心居士……あ、果心って言っただけだけど、それなら多分果心居士だろ?」

「果心……居士……?」


 ソラから出された名に、カイトの顔が真っ青になる。当然であるが、彼が果心居士の正体を知らないはずがない。が、そんな彼は一転して、首を振った。


「っ」

「どうした?」

「いや……悪い。おそらくだが、その果心居士は偽物だな」

「なぜそう言い切れる」


 カイトが明言した事を受けて、皇帝レオンハルトが問いかける。それに、カイトが恥ずかしげに告げた。


「その……なんと言いますか、実は果心居士とはかつての私の妻なのです」

「……は?」

「その……当時の私はどうやら忙しく、それで拗ねさせてしまった様子で……拗ねた彼女が私の気を引く為に幻術を学び、身分を偽りかつての私の所に来たそうなのです」

「……そ、そうか。公の奥方らし……いや、その……なんというか、うむ……」


 些か皇帝レオンハルトをして、流石にティナの前でカイトの妻らしい、とは言い難かったようだ。とはいえ、それなら、と彼にも納得が出来たようだ。


「まぁ、たしかにそれなら公の奥方をわざわざ仲間に引き入れるとは思えん。これについては、か」

「はい……おそらく他の者達と同じく、何らかのコードネームだと思われます」

「うむ……では、再び会議を続けよう」


 カイトの言葉を受け入れ、皇帝レオンハルトは再度話し合いを行う事にする。そうして三人はその後もしばらくの間会議を続けて、翌日に三人揃ってマクスウェルへと帰還するのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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