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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第77章 久遠よりの来訪者編

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第1775話 秋の旅路 ――対策会議――

 ティナとイクスフォスが再会して、数時間。おおよその状況とおおよその今後の展望を聞いた後、彼は再びエネフィアを去る事になっていた。


「……じゃ、ちょっと行ってくるよ」

「うむ」


 イクスフォスの言葉に、ティナは一つ頷いた。そうしてそれを最後に、イクスフォス達は再び世界と世界の狭間にある彼らの拠点へと帰っていった。


「……」

「……どうだった、実際に会ってみて」

「ふむ……」


 カイトの問いかけに、ティナは少しだけ考える。そうしてしばらくの後。彼女がようやく口を開いた。


「なんというかのう。実感が沸かん。そも、此度はあまりに唐突すぎた」


 覚悟が出来ていたのなら、また違った感覚も得られたかもしれない。何度も言われていた事だ。が、そんなティナに、カイトが告げた。


「何時だって、なんだって重要な事は唐突なもんさ。オレがお前と出会う事になったきっかけ……イクスが来たのだって唐突だった。オレがこっちに来たのも、唐突だ。何時だって、唐突だった」

「ふむ……確かに、重要な事は何時も唐突じゃったかのう」


 思い出せば、何時だって唐突だ。自分が封じられたのだって唐突だったし、そこからカイトと出会ったのだって唐突だ。


「……そういう意味で言えば、重要な選択で余はきちんと正しい選択は出来ておったのかのう……」

「さて……そこは知らんね。わかる事でもない。全てが終わったその先に、答えがあるんだろうさ」

「そうじゃな……で、お主はこれからどうするつもりじゃ」

「こちらもこちらでまた面倒でな」


 ティナの問いかけを受けて、ルイスが盛大にため息を吐く。彼女には彼女で為すべき事があった。


「貴様の家族は本当に厄介事しか引き起こさん。貴様の周辺に楽という言葉は無いのか」

「それはオレが一番言いたいよ……」


 出来る事ならのんびりとして過ごしたい。カイトは心の底からそう思う。が、それが出来ないのが現実だ。そしてそれ故にこそ、彼は悲しげだった。


「……まぁ、色々と任せる。やらないといけない事、やるべき事……色々とあるが、どうしてもな。オレは一人だ。そっちは任せるしかない」

「わかっている……あまり、無茶はするなよ」

「アイッサー……なるべく早く帰れる様に頑張りま」

「そうしろ。あちらはあちらで貴様が居ないなら居ないで面倒しかない」


 ルイスはそう言うと、イクスフォスと同じく世界と世界の壁を越える力で消える。そうして、道化師の策略により仕組まれた再会は、まるでそれが泡沫の夢の様に消え去ったのだった。




 さて。それから一晩明けて。カイトはというと、皇国上層部との間で情報の交換会を開いていた。


「ではルクセリオの被害は軽微、と」

「ああ。被害状況としては、軽微と見て良い。幸いな事なのか、当時のルクセリオにはヴァイスリッター家が白騎士達を率いて控えていた。結果、迅速な部隊の展開ができ、だ」

「ふむ……」


 結果的にの話にはなるが、被害の程度であれば皇国より教国の方が僅かにだが程度は低い。これは先の研究所の一件でルードヴィッヒ率いる<<白騎士団(ヴァイスリッター)>>が最初から控えていた、という所がある。更にはカイト達が迅速に陣地を形成し、反撃の取っ掛かりとなった事も大きかった。


「それが意図的に、という可能性は?」

「流石にそこは読めんよ。が、少なくとも当代のヴァイスリッター卿は知っていたとは到底思えん」


 すでに教皇ユナルが白か黒かは不明、とは報告している。故にカイトは彼が敵側である可能性を排除はせず、あくまでもルードヴィッヒに限ってそれは無いと断言する。それに、軍の高官は一つ唸る。


「うぅむ……やはり気になるのは、教皇ユナルの不在時を狙って事を起こした事。しかもこちらにも手勢を送り込む、か」

「本命はあちらではないか?」

「それを決めるのは早計だ。確かに彼奴らめは陛下の首が狙いではない、と言い決して本気では無かった様子だが……」


 敵の本命がどこにあったか。一同はそれを重点的に考察する。今回、現状で狙われたと思しきなのは、皇都とルクセリオの二つだけ。その内皇都からは千代女が暴走するなり即座の撤退を行い、教国ではなんらかの情報に手を加えたか入手したかして撤退だ。相変わらずの鮮やかな撤退だが、それ故に狙いが見えなかった。と、そんな話し合いを行う軍の高官の一人が、カイトへと問い掛ける。


「閣下。入手した研究所の情報の分析は?」

「ティナ」

「流石にミリも進んどらんよ。情報を入手したのが帰国の数日前。そこからはホタルのメンテナンスカプセルの大本を回収と安全に運ぶ為の処置。帰国したのは昨日じゃ。それで解析なぞ出来ようはずもない」

「奪われた情報、もしくは失われた情報に検討は?」

「そんなもん出せるわけがあるまい。流石に情報量が多過ぎる。しかも今はまだ暗号化処理がされておる上に、情報がバラバラに並んでおる。これからまず暗号化を解除して、その後にソート。解析はそれからじゃな。で、その後に情報の整合性をチェックして、となるかのう」


 軍高官の問い掛けに、ティナが情報の解析の予定を語る。それに、軍高官は重ねて問い掛ける。


「どれぐらいでその作業は終わりますか?」

「そうじゃのう……暗号化の解除なら実は然程掛からん。一週間……は流石に無理か。二週間もあれば終わろう。その後はわからん、と言うしかあるまいな」

「そうなのですか?」


 エネフィアではまだ解析技術は未発達だ。なので古い文明の暗号化された情報の解析に一年どころか十年掛かる事だってザラにある。それが、半月やそこらだ。情報量からティナでも年単位の時間が必要と思っていた軍高官達にとって、これは思ってもいない朗報だった。


「うむ……いや、これは勘違いせんで欲しいんじゃが、余が凄いのではなく、望外の幸運があったが故じゃ」

「望外の幸運?」

「うむ。今回、ルクセリオでの活躍の報酬に、ホタル……ゴーレム開発の生データが手に入ってのう。これが、鍵となった」

「はぁ……」


 そうなのか。軍の高官達はティナのどこか嬉しそうな返答に生返事だ。まぁ、彼らからしてみれば、まさにだからなんなのだ、という話でしかない。


「そも、情報の暗号化がされ、それの解析に時間が掛かる掛かる最大の理由はそれを正しい情報に戻してやる事が難しいからよ。正しい情報と暗号化された情報の二つが有れば、そこから逆算して法則性は導き出せよう」

「な、なるほど……」


 言われてみれば尤もな話と言うしかない。故に軍の高官達としても道理の指摘に頷くしか無かった。が、そうなると疑問も出た。


「ですがそれなら、教国も最も早い段階で解析が終わっているのでは?」

「そうなれば、良かったんじゃがな。ここで流石はかつての大帝国、という所が付き纏う」


 軍高官の指摘に、ティナが盛大にため息を吐いた。そんな彼女は、自分が情報を持ち帰ったもう一つの理由を口にする。


「実はのう。そうも話は簡単には行かぬ。この暗号化処理はどうやら、複数個のパターンはある様子での。しかも重要な情報は多重の暗号化処理が行われておる様子じゃ。暗号化した物を更に暗号化するわけじゃな。暗号化処理の順番、経時変化などなど……複雑な要因が絡んでおった。流石の余も教国での解析は諦めたぐらいの厳重さじゃ。機材もあそこのでは足りんしの」

「は、はぁ……あ、あの。もしまともに解析しようとしていたら、どれぐらいの機材が必要だったんですか?」


 ティナほどの魔術師がこうも言うのだ。少し興味があったらしい。これに、ティナはきょとん、と視線を宙に泳がせる。


「む? そうじゃのう……まーず地球製のスパコンが一台。可能なら量子コンピュータならベスト。で、カイト説得して魔術用のスパコン作る。それでようやく真正面から挑めるかのう。それ以外には人海戦術で脳味噌並列化して処理速度上げて挑むしかあるまいな」

「「「……」」」


 おい、聞いたのお前だろ。何か言えよ。全員が到底真正面から挑めない様な条件を出したティナに、質問者を伺い見る。そもそも量子コンピュータなぞ聞いた事もない。それに加えて魔術用のスパコンである。こちらもまた聞いた事がない。とどのつまり、何と返答すれば良いかさっぱりだった。とはいえ、そんな軍の高官達であったが、幸いな事に唯一これを理解し得た男がこの場には居た。


「ダメに決まってんだろ。そもそもスパコンが幾らすると思ってんだよ。更に制作時間だけで年単位になるだろ」

「じゃな。なので余もこれは言わぬよ。今から拵えるにはあまりに時間対効果も費用対効果も悪い」

「「「ほっ……」」」


 何がなんだかはさっぱりであるが、到底望めないような条件を出されている事だけはわかっていた。故に軍の高官達というかその場の出席者達は揃って、カイトが反論した事に盛大に安堵していた。


「それになにより、こちらはレガドがあるからのう。解析能力であれば、あれはまさしくスパコン級じゃ。ホタルの数倍の処理速度はある。こちらなら普通にリモート接続出来るので、そこらで解析処理が手早く進められる、というわけじゃな」

「なるほど……それでこちらに持ち帰った、と」

「うむ。それも一因ではあった。更に言えば、あれの暗号化処理における経時変化の項目を何とかするには、一度ネットワークから切り離さねばならぬと理解してのう。お主らに言うてもわからぬと思うが、パソコンに内蔵されておる時計の様に、中央研究所のメインシステムにリンクして時間により異なる暗号化処理を行う手法が行われておる。あれから切り離さねば、解析中に別の暗号化処理が行われかねん」

「それは……なんとも……」


 確かにそれが最善の防衛策なのだろうが。軍の高官達は非常に苦い顔をする。重要な情報については、何時何分に呼び出しが行われたか、に合わせて暗号化の処理を変えているらしい。

 結果として一度解読出来たと思っても、次の日にやろうとすると全く別の情報になっているという事が起きるらしい。そうなるとこれは中央研究所での解読は出来ない、と判断して、外への持ち出しを決めたそうである。


「あれの時計を止められれば、なんとかなったかもしれんが……これが厄介でのう。可怪しいとは思うたんじゃ。あれの時計を止めるのに最上位の権限が必要、という時点で……メインシステムに絡んでおるが故に止めるのに必要かとも思うたが、時間にリンクした暗号化処理があるとはのう」

「……とどのつまり?」

「まー、時計を止める方法を見付けるか、時計を止めずに毎刻毎刻変わる暗号化処理の法則の法則性を見つけ出さねば、解析は永遠に終わらぬわな。余は後者はめんどいので放棄した」


 あのティナが面倒くさい。これは非常に難儀な作業になりそうだ。参加者達は思わず、教国の学者達に対して内心で同情を送る。と、そんな彼らに対して、カイトが尤もな疑問を提示した。


「にしても……時計程度なら気付かなかったのかね?」

「ああ、それは難しいじゃろ。一見すると完全に規則性なぞ無いからのう」

「……じゃあなんでお前気付いたし」

「余も気付いたわけではない。後一年おっても気づけたかどうか。ホタルが教えてくれただけじゃ」


 確かに、ティナは一度も気付いたとは言っていない。あくまでも理解した、としか言っていないのだ。そして言うまでもなく、ホタルはあの研究所で創られた存在。そして権限は最上位の物が与えられている。彼女は最初から答えを知っていたわけである。と、そんな事を言った彼女に、カイトが問いかける。


「それ、言わなかったのか?」

「言わすわけがあるまい。余に報告が来た時点でストップ掛けたわ。敵か味方かもわからぬ相手にそう安々と情報は渡さぬよ」

「あ、そりゃそうか」


 ティナに言われて、カイトも当たり前としか言えなかった。そもそも教国が味方か敵かはまだわからない。それなのに安易に武器となり得る物を与えるわけにもいかないだろう。ルーファウスや教皇ユナルの一件があり、些か教国の好感度が高くなっていたようだ。


「というか、それならホタルも暗号化処理の解除用のパスかアプリか持ってね?」

「これが持っとらんそうじゃ。というかあの研究所のデータに普通にアクセス出来る権限持っとるのに、わざわざ解析の為のシステム組み込む必要もあるまい。キャパ食うし、情報漏えいの可能性高くなるしの」

「あー……確かに。そもそも奪取される可能性なんて考えて無いだろうしな……」


 解析しないでも解析した結果を手に入れられる権限を持つのに、わざわざ無駄な機能を搭載する必要はない。そう言われてしまえばカイトも納得出来た。そうして、彼らはその後もしばらく今回の旅路で得られた情報の取り扱いや解析についてを話し合う事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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