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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第76章 ルクセリオン教国編

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第1762話 幕間 ――皇城にて――

 新年、あけましておめでとうございます。本年も初日から投稿です。

 ミニエーラ公国での怪我が癒えて、完全復活を遂げたソラ。そんな彼であるが、そんな彼がまずせねばならなかったのは、彼の療養に合わせて伸び伸びになっていた調書への協力であった。

 というわけで、彼は皇国側の求めを受けて皇都へ向かう飛空挺に一人乗り込むと、何度かの戦いに率先的に参加して今までの療養の鬱憤を晴らしながら、皇都へと到着する。


「やっぱ変わんねー……記憶の彼方なんだけど」


 ソラの主観的な時間としては、およそ一年と少しぶりの皇都だ。が、以前見た光景そのままで、僅かな安堵を得られた。と、そんな彼であるが、彼へと一人の執事が近付く。


「ソラ・アマシロ様でございますね?」

「あ、はい。失礼ですが、貴方は?」

「私はハイゼンベルグ家にて執事をしておりますファストと申します。主命により、アマシロ様を皇城までご案内する様、仰せつかりました。以後、お見知り置きを」

「あ、ありがとうございます」


 ソラは優雅に頭を下げたファストという男に、慌て気味に頭を下げる。そうしてそんな彼に案内され、ソラは空港を歩いていく。


「そういえば、ハイゼンベルグ家なんですか?」

「私ですか? ええ」

「という事は、今回の一件の主導はハイゼンベルグ家か……」


 皇城、ひいてはエンテシア皇国中枢が動くのなら皇城から出迎えが来る。そうではなくハイゼンベルグ家から出迎えが出たという事は即ち、そういう事だった。ソラの旅路はやはり無駄ではなかったらしい。


「ご明察でございます。此度の一件は中々に大事。陛下よりご下知があり、主人が直々に動いております」

「主人というと……ハイゼンベルグ公ですか?」

「はい」

「はー……」


 内部に居たのでさほど実感は湧かなかったが、どうやらやはりかなり大事になっていた様子だ。ソラは公爵が直々に動いているという事を聞いて、改めてそれを認識する。

 と、そういうわけで馬車に揺られて以前の時を同じ時間を過ごし、彼は皇城へとたどり着く。が、案内されたのは以前の時の離れとは違い、皇城の一角だった。敢えて言えば皇城の中の客間という所だろう。


「こちらでお休みください。もし何かご用命の際には、外の者にお申し付けを」

「はい……あ、そうだ」

「如何なさいました?」

「調書って何時ぐらいに開始ですか?」


 一応客間に通されたという事は、少しの時間はあるのだろう。ソラはそう認識していた。そしてその通りだった。


「はい。本日はお疲れかと思いますので、明日の朝一番からの開始となっております」

「分かりました。じゃあ、今日はもうこのまま休んでも?」

「はい。もし何かありましたら、また遣いの者が来るかと」

「わかりました。ありがとうございます」


 ソラはファストの返答に一つ頷いて、頭を下げる。それを受け、ファストは去っていった。そうして一人になった彼が思うのは、これからどうするか、だ。


「さって……どうすっかなー……」


 今回、二泊三日の日程なので、手荷物はかなり少ない。まぁ、最悪は城下町に出ればなんでも揃うだろうし、門限さえ守れば出入りは自由と言われている。が、その前に彼には一つやらねばならない事があった。


「あ……ソルの手入れしとかないと」


 使った以上、手入れはせねばならない。それはいかに優れた神剣であろうと変わらない。何より、この神剣は未だに本当の力を解き放てないような状態だ。なるべく触れ合う時間を長くして、自らに慣らす必要があった。というわけでその清掃を行なうと、あっという間に一時間だ。


「ふぅ……良し。後は鞘に入れとけば、自動修復が働くか」


 神剣はやはり流石は神剣という所だ。多少の傷や歪みなら自動で修復されるらしい。というわけで、ソラは後はその神剣そのものの力に任せて、自身も夕食を食べに行く事にするのだった。




 さて、ソラが皇都に到着して一日。この日は朝から調書を取る事になっていて、ソラは朝からそれに協力していた。


「ふむ……では調書を取った後に薬に睡眠薬が混ぜ込まれたと」

「はい。お師匠さんが言うには、魔術じゃなくて薬だろう。タイミングは回復薬を投与するタイミング、と」

「なるほど……あ、これも調書ですが、睡眠薬を投与という事はありませんのでご安心を」

「あはは」


 少し冗談めかした調書の担当官の言葉に、ソラは笑う。確かにあれも調書だが、今受けているのも調書だった。というわけで、一つ冗談が交わされた後、再度話が始まった。


「あはは……それで異空間の中では採掘作業が行われていた、との事でしたが、貴方は何を?」

「あ、自分は採掘を担当してました。実際にツルハシを使って……」

「ふむ……場所とか、覚えてますか?」

「はい……えっと、基本班で動いてるんですけど、自分の所属していた班は……」


 暫くの間、ソラはハイゼンベルグ家の担当官の質問に答えていく。そうして、何度か休憩を挟んで昼が近付いた頃に一旦終わりとなった。


「はい、ありがとうございます。ひとまずこれで大丈夫です」

「ふぅ……あ、午後からは?」

「ああ、午後からは一応万が一長引いた場合に備えて、という所です。今のところこれで大丈夫かとは思いますが……精査し、何か他に必要となりましたらまたご協力を依頼するかもしれません」

「わかりました」

「はい、ではおつかれさまでした」


 元々一番はじめにソラに調書への協力が持ってこられた時点で、午後の半分は予備に割り当てられていた。そして残りの半分は、軍が話を聞きたい、と言っていたのでそちらへの協力だ。こちらは必須ではなかったが、折角なので時間が余れば話をしても良いだろう、と受けたのだ。


「さってと……これで午前中は終わり、と」


 案内されたのは食堂で昼食を食べたソラは客間に戻り、一つため息を吐く。今日の予定としては午前中にハイゼンベルグ家の担当官による調書で、午後は14時から軍との会談だ。そこまで長引く話ではない、とのことで14時から二時間だそうだ。


「とりあえず後一時間半は暇か……かと言って、何が出来るってわけでもねぇよなぁ……」


 何をするにしても微妙な時間。ソラはそう思うと、一度ソファに寝っ転がる。そうして適当に視線を走らせると、ふと目につくものがあった。


「あれ……確か……」


 ソラが見たのは、一枚の絵画だ。どこかで見覚えがある、と思ったのである。


「あ、そうだ。収穫祭で表彰されてた人の絵……じゃなかったかな……」


 一応言うが、ソラに芸術鑑賞なぞという高尚な趣味はない。なので知っていたのは偶然と言うか、話すかもしれない、と一応は画集を見たからだ。そこで見た覚えがあった様だ。そしてそんな事を思い出した彼であったが、ふと思い出した様に顔を上げる。


「そういや、皇城の一角に一般開放されてるエリアがあったよな……どこだったっけ」


 以前に天桜として皇城に来た際、カイトから聞いたことがあった。皇城の一角は皇室が収集した美術品などを展示する美術館の様な一角がある、と。そこにカイトが瑞樹と桜を連れて行っていたのである。その時は興味が無かったし、今も無いといえば無いが、暇つぶしには良いだろう。


「うっし」


 そうと決まれば、早速行くか。そう決めたソラは一つ気合を入れて立ち上がり、部屋を出る。すると、外で何かあった場合に待機していたメイドの一人と遭遇する事になる。


「アマシロ様。何かご用命でしょうか」

「あ、暇なんでちょっと展示エリア行こうかな、っと」

「そうでしたか。失礼致しました」

「いえ……あ、そうだ。一応通信機は持ってるんで、何かあったら提出してるアドレスの方に連絡下さい」

「かしこまりました。ありがとうございます」


 ソラの言葉に、メイドが頭を下げる。そうして彼女に一つ頭を下げ客間のある一角を後にすると、彼は警備員に証明証を提示して立ち入り禁止区画を出て、展示エリアに向かう事にする。


「ここかぁ……本気で美術館みてぇ……」


 思わず、ソラは感嘆の言葉を漏らす。皇城の中にあるから少しこじんまりとはしているが、そもそも皇城そのものが大きいのだ。故に美術館と言っても差し支えのない広さがあった。

 そんな中で展示されているのは、皇室所縁の品々だ。そうして暫く展示エリアの中を見て回った彼であるが、ふととある物の前で立ち止まる。


「あ、これ……」


 ソラが立ち止まったのは、一つの懐中時計だ。どこかで見覚えがある、と思ったのだ。


(そういや……カイトが仲間内で同じの持ってる、とか言ってたな。パーティ会場でスーツに合わせる為、とかって……)


 その内の一つが、これって訳か。今はもう時を刻まない懐中時計を見て、ソラは僅かな感慨を抱く。もう動かなくなってどれだけの月日が経過したのか。それは分からないが、少なくともカイトが仲間達と別れて短くない時間が経過した事だけは、事実だった。


「……」


 どんな気持ちで、あの勇者様はこの時計を見たんだろうな。ソラは僅かに、自らの親友と呼べる男の心情に思い馳せる。


「ま、あいつなら繋がってるから別に、とでも言うか」


 考えた所で答えなぞでないし、大凡それが正解だ。というわけで、気を取り直したソラは改めて足を踏み出し、幾つもの美術品を見ていく。そうして彼が次に立ち止まったのは、一つの具足の所だった。


「鎧兜……? なんでこんな所に……?」


 いや、皇室所縁の品だと言われりゃそれまでなんだけど。ソラはそう思いながら、美術品には似つかわしくない使用形跡のある鎧兜の説明を見る。


「烈武帝の使用された鎧……? えっと、烈武帝って確か……」


 何度か、カイトが話していたのをソラは覚えていた。それを、彼は古い記憶から呼び起こす。


「えっと……ああ、ウィルさんのお爺さん……だっけ。残ってた……のか?」


 レプリカにしては妙に使い込まれているし、拵えも良い。そんな様子にソラがそう思う。まぁ、これはソラが知る由も無いが、この鎧兜はかつての大戦で今のマクダウェルに安置されていたウィルの祖父の遺体と共にカイト達により回収された物を修繕した物だ。なので本物は本物だった。


「えっと……これは……」


 その後も暫く、ソラは展示エリアの中を見て回る。そうして大凡一時間と少し。そろそろ部屋に戻っておくか、と彼が思った頃だ。唐突に、アラート音が鳴り響いた。


「なんだ?」

「訓練?」

「火事か……?」


 鳴り響いているのはアラートだけで、周囲は至って平穏だ。それこそ人によっては避難訓練か、と係の者に聞いているぐらいだ。が、それは直ぐに、変わる事になる。


「皆さん! 急いで避難してください! 係の者が御案内しますので、慌てず騒がず、避難誘導に従ってください!」

「……」


 どうやら、やばい事になったらしい。剣呑な係員の様子に、ソラはそう理解する。


「すいません、冒険者です。魔物ですか?」

「それは……っ。是非、ご協力をお願いします。すぐに軍の者が参ります」


 どうやら今は少しでも手が欲しいらしい。当然だ。ここは、この国の中枢だ。何かが起きてはならない所の筈だった。そうして、ソラは軍の兵士が来るのを待つ間に、急いで装備を整えるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1763話『幕間』

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