表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第九章 冒険部強化編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

179/3933

第164話 懇願

 地下の掃除を終えて、地上階のロビーへと戻った一同だが、ロビーはなぜか騒がしかった。


「あー……これは大方幽霊騒ぎになってるな。」

「まあ、地球の常識で考えればポルターガイストだもんなぁ……」


 幽霊が出る、そう言って掃除を開始したのだ。勝手に動く掃除道具を見た生徒や教師がそう考えて騒ぎになってもおかしくはなかった。


「あ、天音だ!ちょっと助けてくれ!」


 集まっていた生徒の一人がカイトを見つけ、手招きする。カイト達が集団に近づいていくと、聞いたことのない少年少女の物らしき声が複数聞こえてきた。


「ん?なんだ……幽霊騒ぎじゃないのか?」


 カイトは自分が聞いたことのない少年達の声に首を傾げ、横のソラと顔を見合わせる。


「子供?誰か来たのか?」

「いや、まあ、そうなんだけどよ……」


 カイトが近づいたことで、困惑する生徒の輪が2つにわかれた。その先には、様々な種族で構成された十数人の子供たちが集まっていた。見れば、掃除の手伝いに来た教師達も大勢居て、その多くが困った表情を浮かべていた。


「あ!兄ちゃんがここ買い取ったって奴か!」


 そう言って集団のリーダーらしき10歳ぐらいの耳が少しだけ尖った少年がカイトに駆け寄る。少年の顔はどこか焦りを帯び、目には涙を浮かべていた。


「ああ。それで、ガキンチョ、お前は?」


 カイトは膝を曲げて少年に目線を合わせ、笑みを浮かべる。正確には違うのだが、少年に詳しいことを話してもわからないだろう、そう考えたカイトは買い取った事を認める。


「ガキじゃない!って、そんな事はどうでもいいんだよ!」


 近づいてきた少年が抗議の声を上げる。


「兄ちゃん!名前聞くなら名乗れよ!」

「そうだよー!」


 また別の長い耳の先端が尖った少年もコウモリ羽の生えた少女も、カイトが名乗っていない事に抗議の声を上げる。


「おっと、そりゃそうだ。オレはカイト。カイト・アマネだ。よろしくな。」


 そう言って笑い、少年の頭を撫でるカイト。冒険部の生徒たちはいつもと様子の異なるカイトに目を見開いた。


「俺はリュート!で、兄ちゃん!ここの地下の幽霊を退治するってホントか!」

「ん?ああ、その予定だった。」

「なあ、やめてくれよ!シロエ姉ちゃんはいい幽霊なんだ!こいつらも!なあ、だから退治しないでくれよ!」


 リュートは勝手に動いている箒やバケツを指さし、涙ながらに懇願し、頭を下げる。リュートの嘆願に合わせて他の子供たちも頭を下げた。何人もの子供達が涙を流していた。


「お願いします!」

「おいおい……よく聞けって。予定だった、そう言ったろ?」


 そう言って苦笑するカイト。その言葉にリュートが顔を勢い良く上げる。


「え……あ、じゃあ!」


 カイトが何を言ったのかを理解したリュートや他の子供達が一気に顔に満面の喜色を浮かべる。


「ああ、シロエの退治はやめた。つーか、そもそも退治対象じゃなかったし。」

「やったー!」

「兄ちゃん、マジか!」


 カイトの言葉を聞いて、子供達は大喜びだ。だが、すぐにリュートが真剣な顔をしてカイトに問いかけた。


「なあ、兄ちゃん。なんで退治やめちゃったんだ?ここの幽霊は悪さする、って有名なんだろ?」


 どうやら後でやっぱり退治する、と言われないように理由を聞いておきたいらしい。そこには何処かカイトを疑う様な視線があった。


「ああ、悪さするって聞いたから、オレ達も退治しよう、って考えたんだ。でもな、悪さしてたのは別の幽霊だったんだ。」


 そう言って、カイトはニヤリと笑う。


「え?でも俺達シロエお姉ちゃん以外に幽霊見たことないぞ?なあ?」


 リュートとは別の少年が他の子供に確認を取る。


「うん。えーと……ほうきさんにバケツさんとかしか見たことないよー。シロエおねえちゃんも知らないって言ってた。」


 集団の中でも一際幼い少女が小さく頷く。それに、カイトがにっ、と笑って告げた。


「おう。まあ、そう思ってたんだが……実はもう一匹居てな?クズハ様もそいつがやった、って認めてくれてるよ。直ぐに通達も出るだろうよ。」

「兄ちゃん、マジ!?じゃあ、姉ちゃんが色々悪さしたっていうのも取り消されるのか!?」


 子供達がカイトに事情を聞こうと群がり始める。そこへ、彼らが知る少女の声が響いた。


「あ、それが私も知らなかったんだけどね、居たみたいなんですよ。」

「あ!シロエ姉ちゃん!」

「リュート君、ありがとう。あ、ごめんなさい、ちょっと幽霊が通りますよー。」


 そう言って半透明状態になったシロエが生徒たちをすり抜けていく。シロエに気付いた少女の一人がシロエに抱きつこうと突進した。それに気付いたシロエはすぐに実体を取り戻した。


「お姉ちゃん!」


 そう言って、少女が嬉しさのあまり感極まってシロエにダイブする。


「あーあ、ミーナの奴またやってるよ。……え?」


 いつもなら、少女の突進はそのままシロエを突き抜け、壁に激突するか、地面にダイブするかの二択であった。しかし、今日は違っていた。


「お姉ちゃーん!」

「わー!ミーナちゃんも触れますよ!」


 そう言ってくるくる回り始める2人。他の子供達と生徒達がそれに驚愕する。


「え!?どうなってんだ!」


 いつもは触れないはずのシロエが事もなく触れ合うのを見て、子供達が我も我もとシロエに群がり、全員半信半疑でシロエに触れ始める。


「あ!すっげぇ!触れる!」

「あ!ちょっと!どこ触ってるんですか!……んぅ!」


 何人もの少年少女の手で触られたことで、触る場所がなくなり、誰かの手が胸やおしりに当たったらしい。シロエの可愛い嬌声が何度も上がっていた。


「うっわ!ホントだ!」


 シロエは子供たちによってもみくちゃにされる。ちなみに、尚も所々で嬌声が聞こえるが、誰もが無視した。


「うきゃあ!誰か助けてくださいー……」


 シロエの声は子供たちの歓声でかき消され、誰にも届かなかったのである。


「……ねえ、天音君。あれが件の従業員の幽霊?どう見ても悪霊には見えないんだけど……」


 その様子を呆然と見ていた生徒の一人が同じく呆然としているカイトに問いかける。二人共顔は未だシロエと子供たちの方を向いている。


「ああ。シロエは悪霊じゃなかったからな。」

「幽霊って、触れないんじゃないのか?」


 他の生徒も顔はシロエ達の方向を向けたまま、問いかける。


「まあ、色々と。」

「そっか……」


 急転直下に進行した事態に、周囲の生徒達も見たままの状況を受け入れた。何か聞いても無駄の様な気がしたのだ。


「あ、後シロエとその他付喪神達はここで働いて貰うから。」

「へえー……えぇ!?」

「どーいうことだ!」


 流れで発表されたカイトの通達に、周囲の生徒達が危うくスルーしそうになる。しかし、意味を理解した瞬間、一気に騒ぎ始めた。


「ん?そのままの意味だ。」


 あっけらかんと言うカイト。そうして再び生徒達も騒ぎ始め、カイトやソラと言った幽霊退治に行った面子に、事情を問いかけたのである。




「と、言うわけで、こいつらには行く宛がない。……ウチで預かるしかないってわけだ。」


 そう言ってソラが締めくくる。現在、カイトからの指令によってソラは他の生徒達への説明をやらされていた。今後の活動における経験の一環である。


「他の子達共々、よろしくお願いします!」


 そう言って頭を下げるシロエ。服は既に整えられていた。


「……で、いいのか?」


 疲れた表情でカイトに問いかけるソラ。滅多に無い前に出ての説明に、疲れた様子であった。


「ああ、それでいい。」

「じゃあ、これからもシロエ姉ちゃん達はここに居ていいんだな!兄ちゃん達、ありがとう!」


 そう言って満面の笑みを浮かべる子供たち。それを見た他の生徒達は誰も文句を言えなくなってしまう。これを狙って、カイトは敢えてこの場で付喪神とシロエの雇用を発表したのである。それに、敢えて言えば彼らが平穏に生活している所に自分達がやって来たのだ。文句は言い難かった事も大きい。


「あ、そうだ!カイト兄ちゃん!地下に行ったんだろ?シロエ姉ちゃんの殺された刀には触らない方がいいんだ!気をつけてくれよ!」

「そ、そうだ!凄いんですよ!カイトさん、あれを抜いたんです!」


 説明に参加していたシロエが、今直ぐ誰かに話したいという様な感じでリュートに告げる。ちなみに、リュートは本来の性格のカイトに懐き、いつの間にか兄ちゃんと呼ばれていた。本来のカイトは弟妹や親戚も多い事からかなり面倒見が良いので、懐かれるのも早かったのである。


「え!ホントか!すっげぇ!なあ、見せて!」


 少年の一人に懇願され、カイトが持って来ていた妖刀を周囲に影響の無い程度に鞘から抜く。


「ほれ。」

「うわー!ホントだー!」

「すごーい!」


 波紋の無い特徴的な刀は子供達にも印象的だったのか、全員がカイトが本当に抜いた事を認めた。


「すっげぇ!クズハ様もユリシア様も抜けなかったって刀だろ!?カイト兄ちゃんもしかして、本物の勇者なのか!?」

「さぁな。」


 そう言って口端を上げるカイト。子供達から賞賛されるのは、悪い気分では無かった。そんなカイトがふと外を見ると、既に薄暗くなり始めていた。それを見て、カイトが手拍子をして告げる。


「さて、ガキンチョ共。飯の時間だろ?そろそろ帰らんと怒られっぞ。」

「え?うわ!もう結構暗いよ!」

「え?うわあ!母ちゃんに怒られる!」


 カイトの言葉に、旅館の外を見た子供達が焦り始める。何処の世界でも暗くなるまでに帰る様に言われているのは同じ様だ。まあ、種族によっては夜が本番というのも居るので、一概ではないが。現に数人の少年少女達は逆に元気になり始めていた。


「カイトお兄ちゃん、学校終わったらまた明日も来ていい?」

「おう、いいぞ……いいよな?」


 そう言って、カイトは周囲に問いかける。周囲の生徒もそれに頷き返した。さすがにこの場でこの子供たちの懇願を拒絶できるほど、誰もひねくれてはいない。


「じゃあ、また明日なー!」


 そう言って子供たちが手を振って、走って行った。


「おーう!気をつけて帰れよー!」


 そう言ってカイトが手を振り返す。


「……行った?」

「ん?ああ、ユリィか。どうした?」


 子供たちが去った事を確認し、ユリィがカイトのフードから顔を出す。


「何人か知り合いだった……」

「ああ、なるほど。大変だな、ユリィ先生?」

「もー。」


 往年のカイトを見て楽しそうなユリィに、カイトも楽しそうに笑う。ちなみに、それを見た周囲のソラ達や生徒と教師達がヒソヒソと話し合っている。内容はほぼ全員同じである。


「なあ、あれ、誰だ?」

「……カイト、だと思う。」

「ええ、カイトくん……の筈です。」


 翔の問いかけにソラと桜が自信なさげに答える。


「いえ、別人ではないですの?」


 瑞樹の言葉に、魅衣と由利が勢い良く頷いている。そんなソラ達に苦笑で顔を引き攣らせつつも、アルとリィルがフォローする。


「えーと、ルクス様の手記には、あのカイトが書かれてたかなぁ……」

「始祖様の手記では……すいません。読めませんでしたので、わかりません。」


 バランの手記が読めない理由は私的な手記なので、字が乱雑であるからである。公文書などではキチンと読める字を書いている。ちなみに、バランの字の乱雑さは、手記を後々本人が読み返しても、読めなかった事が何度か―それも少なくない―あるレベルである。公文書ではまだ、読めるレベルと言った具合だ。


「昔のカイトね。あれ。」


 そう言って一同に答えを言ったのは皐月。皐月だけは、あのカイトに見覚えがあった。


「カイトがこっちに飛ばされた、って中二まではカイトはあんな性格だったわ。浬や海瑠が居た影響で子供の面倒慣れてるのよ。本人も子供好きだ、って言ってたわ。」


 そんな皐月の言葉に、ユリィが何処か懐かしげに小さく頷いた。


「うん。カイトは孤児院とかも熱心に経営してたからね。アレで戦災孤児なんかへの処遇がかなり改善されたよ。」

「当たり前だろ。オレたちの終わらせた大戦の最大の犠牲者はああいった子供たちだ。ああいうガキを守らんで何が勇者だっての。」

「至言じゃな。子供の笑みのない街ほど、活気のない街はない。よく言うじゃろ、子宝、とな。子供が活気あふれれば、自然と街も活気が溢れおる。」


 為政者2人が去っていった子供たちに優しい笑みを浮かべる。だから、だろうか。カイトが何処か、遠い目であった事に気付かれなかったのは。その時、カイトが何を思っていたのかは、誰にもわからない。


「アレを守る為なら、オレは勇者だろうと悪魔だろうとなんだって引き受ける。」

「余も同じじゃ。魔王と呼ばれようと、力を使うのは守るためじゃ。」


 たとえ自分を知る者達だけにしか聞かれていなくても、柄にもない事を言ったと2人は思ったらしく、カイトが柏手を打つ。


「さて、全員運び込まれた荷物を開封してくれ。早くしないと今日は床で寝る事になるぞ。」


 声を大にして、聞き入っていたソラ達だけでなく、カイトの様子をヒソヒソと話し合っていた他の生徒や教師達にも号令を掛ける。その言葉に、全員まだ掃除途中であった事を思い出し、大慌てで掃除を再開するのである。



「なあ、そういえばオレたちの部屋って誰が掃除してんの?つか、何処?」


 地下の掃除を終わらせ、上層階の掃除の応援へと移動し始めるカイト達一同。階段を登る最中にソラがカイトに問いかけた。


「ああ、最上階の最上級V.I.Pがオレと先輩と、桜田校長などの学園上層部の面々が来られた時や、外部の来賓用だ。4階のスイート・ルームが他の上層部の面々と雨宮先生達駐留する教師、来訪する教員方だ。他の生徒たちは3階以下を使用する。こっちに旅行程度で逗留する生徒達も3階以下の各階にある客間だな。」


「え?いいのか!」


 最上級ではないものの、スイートルームを与えられたと聞いた翔とソラが大喜びする。由利や魅衣は逆に少しだけ気後れしたようだ。


「ああ、言ってなかったか?オレたち上層部は外部の人間と会う可能性も高い。そのときに、あまりみすぼらしい部屋だと足元を見られる。多少無理してでも、良い部屋を使用しないといけない。まあ、家具はオレがなんとかしてみよう。私物は自分で集めろ。」


 来賓と会う以上は、それなりに目利きの腕が必要な調度品を設置する必要がある。それに、場合によっては一流のギルドや商人達とも会わないといけないのだ。安易に安物や成金趣味の物を置くわけにはいかない。とはいえさすがに、全員にソレを要求するのは金銭的にも、目利きの腕的にも、酷であった。なのでカイトが引き受けたのである。


「おけおけ。んで、誰が掃除してんだ?」

「……多分、誰もやってない。」


 当然だが、まずは調理場や大浴場などの共通スペースを掃除し、その後は自分たちの私室から整える事になり、最上階は最後となる。


「げ……ってことは、もしかして?」

「今から、だな。」


 カイトもげんなりした様子で告げるが、聞いていたシロエが否定する。


「あ、いえ。4階と5階は最も重要なお客様をお迎えする、とあってみんなが重点的に掃除してますから、かなり綺麗ですよ。」

「あ、成る程……確かに、それはそうだ。助かる。」


 そうして、なんとか付喪神とシロエ達の手助けを借りつつ、深夜になる前には、各員が部屋の掃除を終わらせたのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第165話『新たなる始まり』


 2015年10月27日 追記

・誤表記修正

 作中『アル』が『ルクス』になっていた所を修正しました。ご先祖様が出てしまいました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ