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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第76章 ルクセリオン教国編

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第1752話 ルクセリオン教国 ――鬼と鬼――

 巴との戦いを始めたティナの一方。魔物を相手に戦いを続けていた冒険部一同であったが、その中でも瞬は少しだけ余力を残して戦っていた。


「ふぅ……」

『一条会頭。まだ保ちますか?』

「ああ、天道か。まだ保つ。万が一に備えて、<<原初の魂(オリジン)>>の準備も大丈夫だ」


 通信機を介した桜の問いかけに、一度下がっていた瞬は回復薬をがぶ飲みしながら一つ頷いた。カイトやティナ達を除いた冒険部ではいくらソラに負けたとはいえ、未だに彼は部内有数の戦闘能力を持つ。なので彼の戦闘能力は冒険部単体で見れば切り札と言って良く、温存して戦っていた様だ。

 そんな彼は飲み干した回復薬の空き瓶を専用のウェストポーチに仕舞い込むと、再び槍を顕現させる。


「よし……にしても」


 さてやるか。そう思った瞬であったが、改めて現状を見直して思わず苦笑が浮かんだ。見渡す限り魔物だらけだ。普通の冒険者なら一年に一度あるか無いかの状況。それが冒険部では一ヶ月に一回は起きていた。


「ふふっ」

「……どうしたんだ、急に」

「ああ、悪い。どうにも楽しくてな」

「楽しい?」


 この状況が。正気か? そんな様子で共に休んでいた藤堂が顔を顰める。


「ああ、楽しい……いや、面白い、か? こっちに来てから、あり得ないぐらいの激戦続きだ。まだまだ、俺は強くなれる」

「なるほど。確かにその面じゃ面白いし、ありがたいな」


 瞬の言わんとする所を理解して、藤堂もまた笑う。こんな激戦、普通に過ごしていたのではとてもではないがあり得ない。まだまだ苦戦してばかりだ。が、逆境だからこそ、彼らには楽しかった。


「さて、行こうか。まだまだ敵は一杯だ」

「ああ」


 藤堂の促しに瞬は応じて、改めて魔物の群れの中に飛び込んでいく。そうして藤堂の剣閃が走り、それで出来た穴を広げる様に瞬が吼えた。


「おぉおおおおお!」


 びりびりびり、と大気が振動し、魔物の群れが僅かに気圧される。そうして、直後。気圧された魔物達に向けて、ティナが指揮する魔術師達と飛空挺の砲門により砲撃が加えられる。


「よし」


 これでまた一つ群れは消しとんだだろう。それを横目に、飛空挺の甲板に着地した瞬は次いで陸上で戦う仲間達を見る。


「……こちらもこちらで……」


 多いな。思わず、瞬は苦笑する。が、やる事は変わらない。ただ敵を殲滅するだけだ。と、そんな彼の斜め上で唐突に光が巻き起こった。


「っ……あれは……」


 確か巴と言うのだったか。瞬は現れた少女について、そう思い出す。彼女と直接的に話した事はないが、カイトから聞いた事はあった。


「巴御前……ではないんだろうな」


 おそらく久秀達と一緒でなんらかの偽名やコードネームなのだろう。瞬はティナと一見互角の戦いを行う巴について、そう思う。とはいえ、そんな彼女はすでにかなり飛空挺に接近しており、彼女の腕であればもう一息も無い様に思えた。


「ユスティーナ! 俺が前線に出るか!?」

『良いよ、別に。これな小娘は見たところ、遠近両方いける戦士じゃ。お主でも厳しかろう』


 今は弓一つで戦う巴であるが、その背には何時もの薙刀があり、腰には刀まである。しかもその上、彼女にも生前は無かったはずの何かしらの異族の力が加えられている筈だ。瞬が真っ向勝負を挑んで良い相手には思えなかった。


「そうか、わかった」

『うむ……ま、そう気落ちする必要はあるまい。大凡また石舟斎だの僧兵だのと来るじゃろ。それと遊んどれ』

「い、いやな事を言うな……」


 どちらも今の冒険部であればまともに勝ちなぞ得られない相手だ。が、近接に特化した相手だからこそ、そして瞬もまた同じく近接に特化していればこそ、なんとか持ち堪える事は出来る。あとは増援待ちで良いだろう。


「とはいえ……来る可能性は確かにあるな。しっかり準備しておくか」


 瞬はティナの指摘に一度呼吸を整え直す。そうして、自らの内面に眠る豊久に声を掛けた。


「よし」


 重要なのは流される事なく、コントロールすること。瞬は半分覚醒させた状態で自らを強く律する。流石にもう目覚めて数ヶ月だ。そろそろきちんと準備さえ整っていれば完全にコントロール出来るようになってきていた。


「っと」


 自らを強く律した瞬は僅かに跳び上がり、眼下の仲間達のさらに先。次の魔物の群れへと狙い定める。


「狙うべきは……そこだ! おぉおおお!」


 雄叫びと共に、瞬は思いっきり槍を投げ下ろす。そうして反動でさらに高く舞い上がった彼はそのまま空中を舞いながら、自らの投槍で吹き飛んだ敵陣を観察。周辺に残る魔物達に向けて槍の雨を降り注がせた。


「よし。次だ」


 三百六十度包囲されているわけではないが、魔物の増援はひっきりなしだ。そうして再度戦場を駆ける彼であるが、そんな彼を見ている人物が居た。


「……」


 見ていたのは源次だ。そんな彼の瞬を見る目がどこか嬉しそうだったのは、気のせいではないだろう。


「そうか……そうか……」


 去来するのは僅かな罪悪感。しかし、彼はだからこそと己を強く律する。この罪悪感を殺すために自分は修羅に、鬼になったと。


「……負けて、くれるな」


 とん、と源次は軽い感じで地面を蹴る。そんな彼が次に現れたのは、冒険部が構築した前線の真正面。つまりは敵陣の真前だ。


「!? お前は!」


 やはり源次だけは、目に付くもの全てに斬りかかっていたのだ。冒険部全体が要注意人物として認識し、情報を共有していた。


『総員、一斉射後に後退! 前線は破棄! 可能な限り交戦を避け、即座の撤退を!』


 源次の姿は最後尾にて全体の総指揮を担う桜にも見えていた。それ故、彼女の指示には迷いがなく、そして即座の物だった。


「……良き指示だ。指揮官に恵まれている」


 

 自らに向けて放たれる無数の砲撃を見ながら、源次は身に纏う圧を強める。それだけで、砲撃が曲がり魔術は掻き消える。が、それで良い。これは所詮隠れ蓑。仲間の撤退を支援できれば良い。食い止めるのは、それ専門が居る。


「おぉおおお!」


 雄叫びと共に、瞬が一直線に源次へと肉薄する。彼が誰で、何故自分に会釈をしたのか、というのは未だに謎だ。が、今この場においては敵である事だけは事実だ。故に、彼は一直線に槍を突き出す。


「っ」

「……そんな棒切れで俺は殺せん」


 土煙や煙幕を隠れ蓑に一直線に肉薄した瞬の槍であるが、それはまるで源次から生えているかの様に一切動かない。源次が物凄い力で押さえているからだ。そんな彼の頭には、鬼の角があった。


「ぐっ……」

「さぁ、鬼に成れ。成らねば……後ろの者達が死ぬだけだ」

「っ!?」


 まるで殺意が刃になった様だ。後に瞬がそう語るほどの強大な力が源次から迸る。それに、瞬もまた一瞬の躊躇いを捨てる。


「おぉおおお!」

「っ」


 至近距離から<<原初の魂(オリジン)>>の解放を受けて、僅かに源次の顔が歪む。そうして、彼は閃光の中。瞬が鬼武者と成ったのを見た。


「これで、良いか」

「ああ、十分だ……とでも言うと?」

「!?」


 ずんっ。まるで先ほどの圧さえ児戯だったとでも言わんばかりに濃密な圧が、源次から放たれる。


「俺は久秀達ともあの僧兵や少女とも違う……元々、裏の住人だ」

「ぐっ……う……」


 一歩一歩、ゆっくりとだが瞬が押されていく。明らかな格上。しかもとてつもない格上だ。単なる戦闘能力であれば、石舟斎や宗矩をも遥かに上回っている可能性のある『化け物』だった。


「どうした? この程度で終わりか?」

「ぐっ……おぉおおおおぉおおお!」

「!?」


 強烈な雄叫びと共に、瞬の身体から強大な力が迸る。ここに来て、彼の中に眠る鬼の血が活性化したのだ。強大な敵を前にすればこそだろう。

 そうして押され出した瞬が大きく持ち直し、しかし彼らを繋ぐ槍が先に耐えきれなくなった。


「「っ」」


 仕方がない。両者の力は壮絶で、押し合いの余波で地面が砕けていた程だ。それで槍が砕けない方がおかしいだろう。そうして槍が砕けた瞬間、両者は同時に行動に移る。


「「はぁ!」」


 ほぼ同時に、両者は腰に帯びた刀を抜き放つ。そうして零距離で斬撃が交わって、その余波が舞い飛んだ。


「っ」

「くっ」


 お互いの攻撃の余波により、お互いの頬に赤い筋が入る。そうして僅かに血飛沫が上がるが、二人の鬼武者にとってこの程度は単なる擦り傷に過ぎない。故に即座に傷は癒えて、生まれた衝撃の余波を駆ってその場を離れた。


「来い!」


 空中にて距離を取る瞬は空いた左手に槍を生み出すと、それを源次へと乱雑に投げつける。それは構えも何もあったものではない様な無作法な投げ方にも関わらず、軽々と音の壁を超過した。が、そんな槍に対して源次は地面を滑り急減速を仕掛け、それ故にこそ急速に追い縋る槍を叩き斬った。


「高々貴様が編んだ程度の槍! 俺が壊せぬ道理はない! もっとだ! 貴様の鬼の血は! 稀代の大悪党の血はこんな程度ではないだろう! 見せろ! その先を! お前の鬼の力を解き放って見せろ!」


 槍を一息に叩き斬った源次であるが、一つ吼えて思い切り前へと飛び出した。そんな彼に、瞬は無数の槍を投じて牽制する。


「っ」

「俺を、舐めるなぁああああ!」

「なぁ!?」


 投げ付けられる無数の槍に対して源次が行なったのは、一切を無いが如くに直進するという事だ。それは瞬にとって想定外も良い所で、思わず着地に失敗仕掛けた程である。が、確かに源次には一切届いておらず、彼の牽制にさえなっていなかった。


「ちぃ!」

「はぁ!」


 まさに修羅。そう言わんばかりの苛烈さで、僅かに体勢の崩れていた瞬に向けて源次が斬撃を放つ。そうして解き放たれた彼の斬撃はまるで閃光となり、瞬を大きく吹き飛ばした。


「なぁ……」


 吹き飛ばされながら、瞬は自らが防御の為に振るった刀を見て絶句する。これは彼の前世の力が宿った刀。強度は槍を遥かに上回る。かつての死神との戦いでもヒビ一つ入らなかったにも関わらず、真っ二つになっていたのだ。


「っ」


 いや、今は驚いている場合ではない。そう考えた瞬は一瞬で気を取り直すと、すでに地面を蹴っていた源次に向けて槍を構える。


「はぁ!」


 追撃してくる源次へ向けて、瞬は容赦なく槍を振るう。が、それに対して源次はまるで読んでいたとばかりに、槍の柄を叩き切る。が、これは瞬にとってもわかっていた事だ。彼我の差は圧倒的。ならば、奇策を弄するしかない。そうして、瞬が身を捩ったと同時。その背後に隠れていた槍が射出された。


「……流石に冗談だろう」

「今のは……悪くはなかった」


 ほぼゼロ距離。そんな距離から超音速で放たれた槍を、源次は鎧に僅かにひび割れしたという所で引っ掴んでいた。が、この奇策は中々に読み切れなかった様子で、源次の顔にも笑みが浮かんでいた。と、そんな彼は掴んだ槍を握りつぶし、僅かに呼吸を整える。


「ふぅ……」


 ずん。今まででさえ圧倒的だった源次の圧力が、更に強固な物に書き換わる。そうして、瞬は背筋が凍る様ななにかを感じる。


「っ!」


 これは拙い。瞬は得体のしれない力の解放に、思わずその場から飛び退いた。それに、何時もなら追う筈の源次は一歩も動かなかった。


「……良い判断だ」

「……」


 あり得ない。瞬は肌身に感じる力から、本能的にこの力を感じる事があり得ないと思う。なにせ源次もまた鬼なのだ。なのに、<<鬼殺し>>の力を彼の腰の刀から感じて良いはずがなかった。その圧力たるや、遠くのティナが気付いてその持ち主と共にありえなさに驚愕を得たほどだった。

 が、間近に居る瞬の本能は告げている。あの腰の刀には決して触れてはならない、と。故に、迷いなく腰に帯びた刀を抜き放った源次を見て、瞬は思わず戦慄と共に問いかけざるを得なかった。


「……正気……か?」

「……」


 自らをも食い尽くさんほどの<<鬼殺し>>の力を強引に抑え込み、源次はただ一直線に瞬を見据える。そうして、彼はただ軽い感じで地面を蹴った。


「な……に……?」


 あまりに速すぎる。気づけば、源次は目の前に立っていたのだ。そうして、源次が瞬のみぞおちへと刀の柄での打撃を叩き込む。


「ぐっ!? ごほっ!」


 手加減された。瞬はこの一撃でそれを理解する。柄でさえ、このダメージだ。間違いなく斬撃を受けていれば一撃で死んでいた。が、それ故にこそ、瞬の中に渦巻いたのは疑問だった。


「な……ぜだ……」


 前のめりに倒れ込む様に膝を屈しながら、瞬はなんとか言葉を紡ぐ。が、そんな疑問に対して、彼が倒れ込もうとした所に源次が思いっきりその腹を蹴っ飛ばして強引に立ち上がらせる。


「ごふっ!」

「その程度か? この程度でもう音を上げると? 期待はずれも良い所だ。こんなのが、だと?」

「ぜ……ぜ……」


 特攻によるダメージとみぞおちに受けた打撃で明転する意識の中、なんとか瞬は崩れ落ちない様に槍を杖に倒れない様に堪える。が、そんな彼の膝は笑っており、立っている事もままならない状況だった。


「ふむ……それともまだ、か?」


 何がまだなんだ。瞬は源次の言葉さえ縁として薄れる意識を必死で繋ぎ止めながら、そう思う。今なにかに集中すればその瞬間、意識が途切れそうだった。そうして再度源次が一度収めた闘気を漲らせようとした所で、雷撃が降り注いだ。


「っ!」

「瞬殿! 無事か!」


 どどどどど、と降り注ぐ雷の嵐を避け源次が距離を取った所に、ルーファウスが飛び込んで間に割り込む。


「ユリシアにヴァイスリッターの子息か……ふんっ……存外、『狭間の魔物』とやらも堪え性がない」


 源次は吐いて捨てる様に上を見上げ、弓を構える。どうやら、彼もまた弓を扱えたらしい。そんな彼が狙うのは、上空にて雷の雨を降らせるユリィだ。


「……ふっ」

「っ!」


 独特な音を上げて飛翔する矢に、ユリィは即座にその場を離れる。そうして止んだ雷の雨を見て、再度源次は闘気を漲らせた。


「……良いだろう。三人同時に相手をしてやる」

「……あっちゃー……これ、こっちもっとヤバかったかなぁ……」


 今のユリィは小型化した状態でしか戦えない。彼女の正体は大型化した時点ですぐに露呈してしまうからだ。となると、本気では戦えない。さらに言えば彼女は補佐が中心だ。そしてその補佐はカイトがメインであり、瞬の補佐もルーファウスの補佐も難しい。

 一人ぐらいならなんとかなるかも、と思っていたがこちらもこちらで厳しそうだった。とはいえ、やるしかないのだ。そうして、ユリィは瞬の撤退を援護するべく、戦闘を開始するのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1753話『ルクセリオン教国』

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― 新着の感想 ―
[良い点] 圧倒的な文章量の多さ。 読み応えのある作品なので、まだ最初の方ですがゆっくり読み進めていきたいと思います。 [気になる点] 現在はまだ最初の方(冒険者の説明をしている辺り)なんですが、ちょ…
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