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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第76章 ルクセリオン教国編

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第1748話 ルクセリオン教国 ――戦いの始まり――

 二つ三つと様々な所で各々の思惑に沿った暗躍が繰り広げられていたルクセリオン教国。その中でカイト、ローラントの二人の暗躍は一段落を迎える事となる。その、一方。教皇ユナルと繋がり暗躍を行っていた道化師と久秀達の一党はというと、こちらも時同じくして暗躍を終えつつあった。


「さて……道化師さん。あちらさんの状況は?」


 それは丁度ソーニャがシェイラと話をしていた頃の事だ。久秀は全員を集め、道化師に現状を問いかけていた。


「はい。現状ですが……はい。果心さんは順調に作戦を遂行中。千代女さんも同じく任務を遂行中との事です」

「あの千代ちゃんをねぇ……」


 何があったのか。そしてあの千代女は誰なのか。久秀はそれを考えながら、ルクセリオン教国に来る前日。二組に別れ行動する直前の事を思い出す。


『……皆様。先日ははしたない姿をお見せして申し訳ありません』

『……あー……俺が話しても大丈夫か?』

『はい、久秀殿』


 あれ、案外普通だぞ。柔和な微笑みで答えられ、久秀は僅かに拍子抜けする。あの時は毒満載で応対されたのが、急に毒気が抜かれたのだ。ある意味では肩透かしを食らった様なものだった。


『……吉乃ちゃん。あんた一体、何を吹き込んだんだ?』

『何も。ただ、あるがままをお伝えしただけです』

『ふーん……』


 ここまでの変遷っぷりには驚かされたものの、兵力や戦力として勘案するのであれば、千代女が安定した事はありがたいの一言しかない。であれば、これを受け入れておくべきだろう。

 そう判断した久秀は、藪をつついて蛇を出すべきではない、とこの話をここで切り上げたのだ。何より、作戦の前でもあった。安定しているのであれば、不確定要素は一つでも排除しておきたい所だった。


「ご安心を。彼女が何を吹き込んだかは私も知り得ませんが……少なくとも科学者達の診断でも容態は安定しています。今は何も起きないでしょう」

「……そうかい。それなら、良いんだがな」


 兎にも角にも作戦に支障が出ないのなら、久秀としてもそれで良いのだ。というわけで彼はこの会話を切り上げて、目の前の作戦に集中する。というわけで、彼は一人今回は遠距離での狙撃がメインなので通信機でミーティングに参加する巴に声を掛けた。


「さて……巴ちゃん。今回も今回で支援は頼む」

『はい。こちらはすでに準備は整っています』

「良し……さて。で、今回はゲスト参加になった息子の方」

「……は」


 久秀の問いかけに宗矩が頭を下げる。今回、彼は正規に参加しているわけではない。彼は彼の目的故にこの作戦に参加しているだけだ。とはいえ、それを勘案に入れて久秀も作戦を立案した為、彼も自らの目的が達せられるのならその指示に従うと明言していた。


「あんたは作戦の通り、研究所の内部を目指せ。あとはこっちで指示してやる」

「……かたじけない」

「ああ……で、兄さん」

「……」


 久秀の言葉に、源次は相変わらず無口にただその言葉の先を促す。そんな何時もの姿なれどその身に僅かな興奮が宿っていた事に、久秀は気付いていた。


「あんたの方もあんたの方で作戦通りに進んでくれ。ま、そう言ってもあんたの方はただ暴れるだけだがね。釈迦に説法ってか一度死んでる以上変な言葉だが……死ぬなよ?」

「委細承知した。それに俺の目的としてもこの一度で達せられるとも思えん。二度目が必要な以上、ここで死ぬつもりもない」

「あっははは。相変わらず真面目だねぇ……で、僧侶の……は、相変わらず無口にだんまりかい」

『……』


 源次についで問いかけを受けた僧兵もどきであるが、あいも変わらずこちらは無口なまま。何を考えているのか誰にもわからなかったが、少なくとも久秀の指示には従っていた。というわけで、彼には何か念押しをする必要も無いだろう、と久秀は指示を終わらせる。


「ま、指示に従ってくれるのならそれで良いさ……で、あとは道化師さんなんだが……」

「私は私で好きに動かせて頂きます。まぁ、宗矩さんの邪魔にはならない様にさせて頂きますので、ご安心下さい」


 最後に問いかけを受けた道化師であるが、こちらはそもそも久秀の配下ではない。なので好き勝手に動くつもり――と言っても彼の思惑に沿ってだが――だった。そうして一通り全員の動きを確認した後、久秀が告げた。


「じゃあ、あちらさんの行動開始と同時に、こっちも行動開始だ。御大将がご自慢の馬廻衆が動く前に、さっさと撤退しちまわないとな」


 何時もの調子で作戦の開始を明言した久秀は、決行まであと僅かな時間をしっかりと休んで時を待つ事にする。そうして、それに倣って他の一同も今しばらくはゆっくりと過ごす事にするのだった。




 さて、久秀達が作戦の開始まで指折り数え始めていた頃。カイトはというと、今度は冒険部のカイトとして動きを見せていた。正確には朝一番にソーニャの所へ行って出立の話をして、その後少しして冒険部の使い魔と入れ替わったのである。


「ふぅ……」


 これでひとまずは後腐れなく次へ進めるかな。カイトはそう思いながら、僅かに息を吐く。


「とりあえず今の所何も無かったけど……これからどうする?」

「どうもしない。とりあえずは待ちだ」


 ユリィの問いかけに、カイトがあまりにも分かりきった事を告げる。これからどうする、と言ってもどうするかは決まっている。来る敵を叩きのめすだけしか残っていない。


「で、カイト。一つ聞きたいんだけど……」

「ん?」

「結局、六番機はどうするの?」


 小首を傾げたカイトへと、ユリィが問いかける。六番機、というのは言うまでもなくホタルの姉妹機だ。六番機のコアユニットに関しては回収出来ているし、設計図などについても遠からずなんとか出来るだろう。が、肝心要の意志を司る部分はこれにはないのだ。回収した所で、ホタルの自己満足にしかならない。


「さてなぁ……どうするのかね」

「結局、全部決めさせるの?」

「そうだな……」


 どうしたものかね。カイトは少しだけ微笑ましげに、六番機の処遇を考える。


「結局、行き着く先はホタルの胸三寸という所だが……ひとまず、今は決められないだろう。決めた所で今何かが出来るわけでもないしな……それに、今すぐ決めねばならない事でもない」


 何をするにしても、ここは教国だ。好き勝手に出来る場所ではないし、ティナにも資材も機材も足りていない。ホタルの調整用のメンテナンスポッドは持ってきているが、あくまでもメンテナンスポッド。精密な検査は出来るが、調整をする為のものではない。

 更に言うと、六番機を修繕するにしても色々と今の技術でリバース・エンジニアリングする事もあるだろう。そこを考えれば、今決めた所でどうなるのか、というに過ぎなかった。


「まぁ、それに。そこらはお前に任せるわ」

「へ?」

「言っちゃなんだが……ま、そこらお前の方が慣れてるだろ?」

「まぁ、そうっちゃそうだけど」


 忘れられがちではあるが、ユリィは教師である。しかも教師歴数十年というベテランである。それに対してホタルは少し頭の回転が早い子供と変わらない。そこらを見抜いていた二人にとって、別にこの提案は不思議ではなかった。


「とりあえず、六番機についちゃもう予算は付けてる。あとは色々と機を見計らって、って所だろ。ティナも色々と開発してるだろうしな」

「また<<X-ブラスター>>とか搭載するのかな?」

「そこは知らん。魔石をどうするか、というのも気にはなるしな」


 ここら、ティナが六番機をどう修繕するのかは彼女の考え次第だ。が、色々と探し回って神々にも伝手を当たって貰って、いくつかの古い魔石を手に入れている。それを使う事だけは確定だろう。


「ま……そこらを含めてゆっくりと決めていけば良いさ。一歳にも満たないガキがそんな簡単に結論を出せても困る。オレみたいに永劫の時の果てに立とうと、苦しみ、悩み、過ち、迷う。迷い迷い迷い、そして決めれば良いさ」


 カイトはもう一人の己の事を思い出し、少しだけ微笑んだ。これは常々彼が言っている事だ。と、そんな彼にユリィが告げた。


「カイト、それ好きだねー」

「あっはははは……あぁ、大好きだ。悩み、苦しみ、泣き、そして笑う……その姿は何よりも人らしい。オレは人らしい人が大好きだ」


 永劫にも等しい時を生き、永劫にも等しい時を人類の底から眺め続け。そんなカイトだからこそ、人類が何より愛すべき存在だと思っていた。


「その中でもオレは特に愛を持つ者が一番好きだ。狂おしいほどの愛をする者は本当に美しいと心の底から思う。愛だけが、世界を狂わせられる。愛こそ最強の力だとオレは心から思う」

「はぁ……それ、本当に他所様で見せちゃダメだからね?」

「わかってるよ」


 やはりどれだけ言ってもカイトもまた狂っているのだろう。カナタとの会話で浮かべていた、僅かに陶酔の滲んだ顔を浮かべていた。そしてそんな彼である事を、ユリィは知っていた。


「うん、わかってるけど……やっぱりだからお前らが大好きだ」

「もうっ……いきなり抱きつかないでよ」

「あっははは」


 暇を良いことに密かにユリィを抱き寄せたカイトが楽しげに笑う。彼女らも愛ゆえにどこかが狂い、自分と一緒に居る事を望み、無限の時を共に過ごしたのだ。

 そしてその結果、歪な者たちが集まって、ハーレムという結末にたどり着いた。これが正しい結末なのか、間違った結末なのかは彼らにもまだわからない。当然だ。なにせ始まってまだ少ししか経っていない。それは彼らの時間からすれば、まだまぶたを開けた程度にしかならないのだ。


「さて……にしても」

「ん?」

「いつまで待たせる気かねぇ……」


 ゆらり、とカイトの身体から闘気が立ち昇る。僅かにだが、彼は焦れていた。来ると思い、体調も体力も万全に整えている。なのに『待ち人』からのお誘いが来ないのだ。焦れもする。


「あと数日しか残日数は無い……それがわからないではなかろうに」

「カイトが居る間に仕掛けてくる?」

「だーろう。じゃないと、わざわざこんな物を送ってきたりはしないさ」

「手紙?」


 カイトの提示した手紙を見て、ユリィが首を傾げる。それに、カイトが獰猛な笑みを浮かべた。


「冒険者としてのオレの泊まる宿に届いてた」

「わざわざ郵便で?」

「いや? 自分で届けられたんだろ」

「? どういうこと?」


 カイトの顔に浮かぶ笑みを見て、ユリィも何かがあると悟る。が、詳細はわからない。


「送り人は宗矩殿だ。ついさっきだ。オレが少しだけ居た間に、これを置いて行かれた。わかるか? もう相手は来てるんだよ」


 カイトは宗矩からの手紙の中を再度思い出す。要約するとそこには、遠からず相見えたいという旨が畏まった形で書かれていた。


「一切、分からなかった。このオレが……この伝説の勇者が。相手は伝説の剣聖。無念無想を唱えた偉人だ……下手をすると、新陰流の練度は開祖たる石舟斎殿を遥かに上回る」


 宗矩にとってカイトが前座であるように、カイトにとって彼は試金石に過ぎない。そのはずだった。だが、その試金石に触れてみてわかった。試金石は金剛石だったのだ、と。油断や様子見をして壊せようはずがなかった。と、そんな彼の待ち焦がれる姿に呼応する様に、とんでもない気配が漂った。


「カイトー。そんな事言ってるから来ちゃったぽいじゃん」

「あぁ、そうだな……全員、慌てるな! 先輩、戦闘員の統率を!」

「ああ!」

「桜は非戦闘員の避難誘導!」

「はい!」


 室内だろうと感じられるあまりに尋常ならざる雰囲気だ。そんな事態ににわかに騒然となる研究所内に、カイトの指示が飛ぶ。そうして冒険部への指示を飛ばした彼は、即座に通信機を起動させた。


「ルードヴィッヒさん。カイトです」

『ああ、君か。何が起きているか、わかるか?』

「いえ、流石にこちらからは……あぁ、少し待って下さい。ティナの奴が研究所のセンサーを起動させました」


 カイトはティナから念話で提示された話を受け、彼女のところへと歩いていく。


「……わかりました。強大な空間の歪みを検出しています」

『何!? なんだ!?』


 どうやら向こうでも何かがあったらしい。ルードヴィッヒの怒声が聞こえてきた。それに、カイトは努めて落ち着いた様子で問いかける。


「どうしました?」

『……皇国より緊急で連絡だ。皇都に襲撃を受けている、と』

「っ!」


 そう来るか。カイトはここに来ての久秀達の動きに、思わず驚きを隠せなかった。そんな彼に、ルードヴィッヒが告げた。


『落ち着いてくれ。まずはこちらを片付けない事……には……』

「どうしました!?」

『なんだ、あれは……っ! 総員、第一種戦闘配備! ルクセリオの全艦隊、私の非常時の権限で緊急出動! 併せて近隣の艦隊も全艦隊向かわせろ! あれが出て来るのをなんとしても阻止しろ!』


 どうやら、外では本当にのっぴきならない事態が起きたらしい。カイトへの情報の伝達も忘れ、ルードヴィッヒが矢継ぎ早に指示を出す。


「……」


 どうやら、敵は相当な手を打ってきたらしい。カイトはそれを理解する。そうして、彼は今までの闘士の顔を捨て、指導者としての彼として動き出すのだった。


 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1749話『ルクセリオン教国』

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