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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第76章 ルクセリオン教国編

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第1747話 ルクセリオン教国 ――もう一つの暗躍――

 ティナの暗躍によって情報を丸ごとぶっこ抜く手段を確保したカイト。彼は久秀達の行動を待って動く事にすると、ひとまずはこれ以上の暗躍をやめて待ちに徹する事にする。そうして、ティナがぶっこ抜く為の準備を整えた一方で、彼は彼で後始末に奔走していた。


「いやぁ、大親父にこっちに来てる事バレちゃってさー。オレ以外にも来てる奴いるもんだ。流石は、世界最大のギルドってところかねー」

「そうですか。で、今日はそんな雑談をする為にわざわざ私の所に?」

「つれないなー。一晩ご一緒した仲じゃないの」

「あなたが、勝手に妄想の中で私を弄んでいるだけでしょう」


 楽しげに冗談を吐かすカイトに、ソーニャが僅かに強い口調で告げる。実際、これが正解である。というわけで、そんな彼女のツッコミにカイトは楽しげに笑う。


「あははは。まー、そういうわけで……はよ帰ってこい、って言われちゃって」

「……そうですか。では、貴方に説教するのももう終われそうですね」


 ウルカへの帰還を言外に言及したカイトに対して、ソーニャがやれやれ、という様子を見せながら告げる。が、そんな彼女が一瞬返答までに間があった事と、僅かにしかめっ面が浮かんでいた事にカイトは気付いていた。


(深入り、し過ぎたか)


 若干だが、カイトの胸中に罪悪感が去来する。元々はこんな予定ではなかったが、可愛い女の子が苦しんでいるとどうしても身体が勝手に動く彼だ。些か深入りしてしまった様子だった。同時に、それ故に彼自身にもソーニャに対する情が湧いていた事は事実だろう。


「あっははは。そんな顔すんなよ。どーせ、オレ達冒険者は旅人だ。本来はどこかに留まって傭兵の真似事してる方がおかしいんだ」

「……」


 僅かに漂ったしんみりとした空気に対して、カイトがあまりにも分かりきった事を告げる。それに、ソーニャも自身のしかめっ面が気付かれていた事に気付いた。そんな彼女は彼の言葉に胸中の感情を飲み込んで、改めてユニオンの受付嬢としての仕事を開始する事にした。


「……そうですね。では、今日も傭兵の真似事をされますか?」

「流石にやめとく」

「なら何をしに来たんですか、貴方は」


 自分が真面目にやろうとしたら、これである。ソーニャが冷たい目でカイトを見たのは非常に仕方がない事で、同時に当たり前のことだろう。


「いや、仕事仕事。ソーニャたん口説くっていう立派な、うぉ!」

「はい、次の人」

「ちょ、ちょっと!? オレっちまだ終わってませんよ!?」

「……」


 何を言ってやがるんだ、この変態は。心底見下げた冷めた目で、ソーニャは椅子から転げ落ちたカイトを見下ろす。彼が椅子から転げ落ちたのは、ソーニャがカイト専用に纏められたファイルを投げ付けたからだ。ほぼゼロ距離かつタイムラグ無しで投げられて回避できるあたり、流石は彼というところだろう。


「で? 他には?」

「いや、最後の一晩はソーニャたんと一緒、うひゃあ!」

「はい、次の人」

「あはは……ま、今のとこ依頼受ける気は無いが、何かあったら来るわ」

「もう来なくて結構です」


 気を取り直したカイトに対して、ソーニャは相変わらずけんもほろろだ。そんな彼女に笑いながら、カイトはルクセリオ支部を後にする。

 そうして、暫く。ソーニャは一人淡々と時に怯えられ、時に口説かれながら業務をこなす。そうしてお昼になり受付業務が中断するまであと少しの所で、彼女にお声が掛かった。


「ソーニャー。支部長がお呼びー。少し早いけど、看板出しちゃって」

「あ、はい」


 馴染みの受付嬢に言われ、ソーニャは少し早めに終了札を受付に立て掛ける。そうして、彼女はそのままシェイラの所へと向かう事にする。


「シェイラさん」

「ああ、来た来た。よいしょっと」


 自分の執務室に来たシェイラは机の上の資料を一旦横に退けて、ソーニャがシッカリと見える様にする。そうして魔術で椅子を操って彼女に席を勧める。


「また散らかってますね」

「あ、あっはははは。いやぁ、ごめんごめん。片付けらんなくてさー」

「はぁ……三日前、私が片付けたと思うんですが……はぁ」


 この人も何時もこれだよ。ソーニャは変わらないシェイラに、盛大にため息を吐いた。そんな何時もの事と言えば何時もの会話を繰り広げた後、改めてシェイラは本題に入る。まぁ、この話題から逃げたいというのもあっただろう。


「それは横に置いておいて……カイト、行っちゃうんだって?」

「その様子です。ギルドマスターにここでの滞在がバレた、と」

「そ……それは仕方がないわね。どーせ、冒険者なんて一期一会。あんまり深入りしちゃうと後が辛いわよ」


 ここら、やはり元々が冒険者という事があるからだろう。シェイラはどこかドライだった。そんな彼女に、ソーニャははっきりと断言する。


「深入りはしていません」

「そう?」

「はい」


 そうやって感情を滲ませる時点で深入りしてるんだけどな。シェイラは強い否定を滲ませたソーニャに内心でそう思う。とはいえ、本題はそこではない。何より、問題にはならない。


「まぁ、それは良いわ。私が今期でギルドマスターを退任する、と言うのは言ってるわね?」

「はい。冒険者に戻る、と」

「そーそー……そうだったんだけど」


 はぁ。シェイラは深いため息を吐いた。


「どこかのバカが今度はある場所でギルドマスターやれー、って言ってるのよ」

「はぁ……」


 確かにシェイラは実績はあるし、冒険者をまとめ上げるのに必要な腕力もある。不可能ではないだろう。なのでソーニャとしてはそうなのか、ぐらいしか言えなかった。そんな彼女に、シェイラが笑った。


「あぁ、ごめんごめん。そんな事はどうでも良いわね。どう?」

「どう……とは?」

「一緒に来る? 一応、私が貴方の保護責任者だし……旅をするから、で置いていくつもりだったけど、今度の所、下手すると此処より治安良いのよ。まぁ、他国だけど」


 元々冒険者である以上、シェイラとしても危険地帯にソーニャを連れて行くつもりは毛頭無かった。が、安全な場所なら大丈夫だろう、と思った様子だった。


「……そう言いましても、そもそも私の場合装備の事とか色々……」


 ソーニャとしてもあまりシェイラと離れたいとは思わない。保護者だし、何より数少ない理解者だとは思っている。そこらもあって、残留を決めたのだ。


「それなら問題ないわ。あのバカの依頼だし。そこらはあんたでなんとかしろー、って言ってやってるし」

「バカ……」


 基本ざっくばらんなシェイラであるが、それでもバカなどと言う言葉で他者を表す事は少ない。その少ない中でソーニャが知るのは、ただ一人だった。


「彼が……まさか」

「あぁ、違う違う。スパイとかそんなのじゃないわ。どちらかと言うと、逆ね。そうでないと貴方を連れて行こう、なんて言わないわよ」

「逆?」

「そ。どうにも何か誰かを探してるみたいで、見付かったらこっちに連絡を、というわけらしいわね」


 シェイラは厄介な事に巻き込まれた、とばかりにため息を吐く。どうやら教国内で会いたくはない相手らしく、カットアウト、仲介人としてシェイラを使いたいらしい。そして万が一の場合には保護もして欲しいそうだ。その結果としての支部長というわけらしかった。


「はぁ……あー……めんど……」


 そう言う割には色々と手を貸しているように思うのだけど。ソーニャはそう思う。そうしてふと思えば、どうにも彼女とローラントとの関係を詳しく知らない事に気が付いた。


「そういえば。ローラントさんとは昔一体何があったんですか? 色々と無茶を聞いている様子ですが」

「ああ、あいつ? そういえば言った事なかったわね。あいつに私、助けてもらった事あるのよ。というより、私の出身の村ね」

「出身の村?」

「あのね……私にだって親居るわよ。木の根から生えてきたりキャベツ畑に成ったわけないでしょ」


 そんなものがあるのか。そう言わんばかりの顔を浮かべたソーニャに対して、シェイラは盛大に呆れて肩を落とす。なお、この両親であるが、今も存命で畑を耕しているとの事であった。


「まー、それから色々とあって。初恋といえば初恋な訳で……で、あいつにくっついて行動してたら、魔術に適性があって、結果ここにってわけ」

「……ローラントさん、何才なんですか?」

「えーっと……確かまだ30にはいってないわね。私よりいくつ上って言ってたけ……あいつと出会ったのが私が……って、私の年齢を言わそうとしない」


 いえ、勝手に言おうとしただけです。ソーニャは内心でそうツッコミを入れる。そんな彼女に、シェイラが告げた。


「まぁ、それは置いておいて。あいつが冒険者として私に村に来て、それ以来ね」

「……そんな昔から強かったんですか?」

「強いわねー。実際、未だに私も勝てた事無いし。で、そんなだから私が危機に遭う度に助けてくれて……まー、逆らえないのよ」


 シェイラは何度救われたっけ、と思い出してけらけらと笑う。どうやら最低でも両手の指では足りないぐらい救われたらしい。謂わばカイトにとってのユリィと一緒という所なのだろう。強い信頼がそこにはあった。


「それはそれとして。そういうわけで、またちょっと遠出になりそうなのよ。でも、安全だからソーニャもどうって」

「……」


 いきなりの感はあったものの、再び本題に戻ったシェイラの問いかけにソーニャも少し考える。と、そんな彼女にシェイラが告げた。


「で。もしそっちが嫌っていうのなら、もう一個提案があるのよ」

「?」


 どうやらいくつか選択肢はあるらしい。今まで残留以外の選択肢は無かったソーニャであるが、ここに来て一気に増えた選択肢に小首を傾げる。そんな彼女に、シェイラが告げた。


「今、冒険部って言うギルドが来てるの。貴方も知ってるわね?」

「登録に際して、私も対応しましたので。その後も何度か対応を」

「なら、今更詳しい話は良いわね。その子達の所でちょっと人員補充の要請があるそうなの」

「……は?」


 唐突に出された話に、ソーニャは盛大に顔を顰める。まぁ、ナンパな奴らの巣窟に居るよりは、彼らのような純朴な少年・少女達の所に居た方がよほど良い。

 しかも彼らは見るからに擦り切れていない。力に訴えかけてくる様な愚者も居ないだろう。精神的にも安寧は得られるだろう。が、それでもあまりに唐突過ぎた。


「まぁ、わからないわね。こちらもあのバカの依頼といえば依頼よ……これは私があまり乗り気じゃないから、言わなかったんだけど……」


 どうやらシェイラとしては、先の自身への同行を提案したいらしい。が、逆に彼女にこの依頼をした某かはこちらを本来は提案していた様子だった。


「私との連絡役になって欲しい、そうなの」

「どういうことですか?」

「あの冒険部にもカイト、というギルドマスターが居るんだけど……そちらは知らないわね」

「そうなのですか?」


 前日に話されていた事であるが、まだカイトは受付に来ていない。これは忙しい事と様々な事情が重なっており、この時にはすでにギルドマスターとしての来訪はしないつもりで居た事が大きかった。何より、ソーニャとの不用意な接触を避ける為でもある。


「その彼、マクダウェル家と繋がってるらしいのよ。アリスちゃんも褒めてたけど、切れ者とも噂ね。あのバカは誰かを、密かにそのマクダウェル家に連れて行きたいらしいの。私が神殿都市で世界各地からの情報を手に入れて、その誰かが密かにマクダウェル家に行ける様に、というわけね」

「なるほど……」


 確かにわからないわけではなかった。神殿都市の支部長になれば、マクダウェル家とのアポイントは取れる。が、やはり人員を動かせるわけではない。なのでソーニャが密かにカイトとつながりを得て、彼に密かに動いてもらうのが良い案といえば良い案と言えた。


「その誰か、というのはよほど重要な方なんですか?」

「らしいわ。この世界の命運さえ握っているらしいけど……どうやら何か厄介な事に巻き込まれて、どこかに飛ばされたそうよ」

「……」


 飛ばされた。つまりは、それが出来る程度の腕を持つ相手とシェイラに依頼した相手は戦っているというわけだ。よほどの事態と考えられた。であれば、ソーニャとしては答えは一つだった。


「……わかりました。私が行きます」

「……良いの?」

「……怖いですけど……私も、貴方と彼に救われました。その恩を返すべきだ、と」

「……そう」


 そう言うだろうと思ったし、そう言うだろう様に仕向けもした。が、シェイラとしては僅かにさみしげだった。まぁ、そう言っても神殿都市とマクスウェルだ。遠くはないし、ソーニャの安全は確保出来ている。自身の目が届かない所とはいえ、安心は安心だ。と、そんな風に受諾の意志を示したソーニャであるが、ふとした疑問を提示した。


「ですが、その……そんな事が可能なんですか? 支部長はまだしも……人員補充についてそう簡単に進むとはとても」

「ああ、それなら大丈夫よ。安心しておいて」

「はぁ……」


 何故かはわからないが、シェイラはソーニャが冒険部の受付嬢になれる確信を持っているらしい。それにソーニャは彼女がそう言うのならそうなのだろう、と思うだけだ。そうして、ソーニャはシェイラの動きに合わせて何時でも動ける様に、急いで支度を行う事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございます。

 次回予告:第1748話『ルクセリオン教国』

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