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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第76章 ルクセリオン教国編

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第1741話 ルクセリオン教国 ――親心――

 ルードヴィッヒの提案で行われた、カイト対ルーファウス、瞬対アリスの戦い。それはどちらも冒険部側の勝利という形で、終わりを迎えることになる。そうして模擬戦が終わった後、ルーファウスはカイトに肩を借りながらなんとか父の所へと戻っていた。


「父さん……不甲斐なく、申し訳ありませんでした」

「いや……今ので不甲斐ない、と言われては俺どころかこの教国の騎士の全てが不甲斐なくなってしまう」

「はぁ……」


 やはり前世の自分と半ば一体化していた様な感じだからだろう。ルードヴィッヒの称賛に対して、ルーファウスは曖昧な返事しか返せなかった。瞬もそうだったのであるが、前世との融合はどうしてもそちらに意識が引っ張られやすい。

 なので慣れない内は熱病にうなされる様な感覚があったり、どこか夢うつつの様な感じがあることが多い。ルーファウスもその例にもれず、彼の意識からしてみれば気づけば終わっていた、という様な感覚だった。


「わからないのか?」

「え、ええ……戦いの最中にこうせねばならない、とはわかったんですが……それをしていただけで、何をどうしていたのかまでは……」

「ふむ……まぁ、今回が初……だな?」

「……以前、半ば似た様な感覚に襲われたことが一度だけ」

「どちらにせよ、ここまではっきりとした覚醒は初だろう。なら、仕方がない」


 ルーファウスの返答に、ルードヴィッヒは改めてはっきりと明言する。実力であればルーファウスの方が上かもしれないが、実際に生きてきた長さ、経験した経験であればまだまだルードヴィッヒの方が上だ。

 故に<<原初の魂(オリジン)>>についてもルードヴィッヒの方が知識としては上だった。今の息子の状況からはっきりとした覚醒は今回がはじめてであり、彼の曖昧な返答にも合点がいく、というものであったのだろう。


「にしても……君にはほとほと驚かされる」

「いえ……私の前世の場合、そもそも自由気ままにやった様子でしたので……案外、私の魂の中から常に見ていたのかな、と思うばかりですよ」

「ふむ……確かに目覚めやすい魂がある、というのは聞いたことがある。君のそれもそうだったのだろうな……まぁ、どちらにせよ前世どころかその前まで目覚めたのは非常に珍しいといえるのだが……」

「そちらは、まぁ……」


 ルードヴィッヒの言葉にカイトは改めてルーファウスを見る。あの中での会話は別に隠してはいない。なので二人の会話は聞こえていただろう。なのでルードヴィッヒの目覚めに合わせてもう一人のカイトが目覚めた、というのは筋が通る話ではあった。

 そして一人が目覚めているのだ。縁をたどり連鎖的にもう一人が目覚めても、不思議がないといえば不思議はなかった。


「まぁ、そういうことなのだろう。にしても、君も騎士だったとは」

「いえ……そこまで褒められた騎士ではありませんでしたよ。ただ、孤児だったのを拾ってくれた義父が騎士で、そのまま流れで弟と共に騎士になっただけですので……」

「いや、僅かしか垣間見えなかったが……あの当時のカイト殿はたしかに護国の英雄だった。詳しくはわからなかったが……俺も救われた様だ」


 やはり繋がったのは少しの間で、目覚めたと言っても完全ではない。故にルーファウスが垣間見たのはカイトに関する断片的な記録と、アルという双子の弟のこと、愛する者たちのことなどの他は、彼が忘れがたいと心に刻み込んだいくつかの風景ぐらいなものだった。


「そうだろうな……にしても、ルー」

「あ、はい」

「お前も随分と腕を上げていた。まさか、<<原初の魂(オリジン)>>までたどり着いていたとは」

「いえ……自分も冒険部で共に鍛えていましたから……」


 父の手放しの称賛に、ルーファウスは僅かに恥ずかしげに視線を逸らす。やはり彼とてここまで手放しに称賛されては恥ずかしいものがあった様だ。


「そうか……修行の旅にもなったか」

「はい。良き経験を積めました」

「ああ……アリスも、そうなのだろう」


 ルードヴィッヒは今の二つの戦いを思い出し、自身の子供達の成長を満足気に頷いた。


「はい」

「あぁ……改めてであるが、カイトくん、瞬くん。2人が世話になった。感謝するよ」

「いえ……」


 ルードヴィッヒの改めての感謝の言葉に、カイトは首を振って謙遜を示す。そんな彼に、ルードヴィッヒは首を振った。


「いや、今の戦いを見れば、二人にとっても良き日々となったのだろうと察せられる。君達のおかげだろう」

「……それなら、私としても幸いかと」

「ああ……それと、疲れたろう。シャワーを用意させた。そちらを使いなさい……ミュンツァー。四人をシャワー室へ」

「かしこまりました」


 ルードヴィッヒの指示を受けたミュンツァーが頭を下げる。そうして、四人は一度シャワーを浴びに行くことになる。そんな四人の背を見送って、ルードヴィッヒは僅かに真剣な顔をする。


「……」

「どうしたの?」

「ん? あ、あぁ……少し考え事をな」

「カイトさんと瞬さん? 物凄い強かったね」

「まぁ、それもあるが……」


 確かに、あの二人は化け物じみて強い。高々半年やそこらの少年には見えない。特にカイトはもはや自身の息子をも超えていると認めるしかない。無論、その訓練の尋常ならざる様子を見ればそれも致し方なしとは思うが、だ。


「ふむ……特にアリス、だな」

「お姉ちゃん?」

「ああ……ふむ……」


 ルードヴィッヒが思うのは、娘の事だ。確かに彼女がカイトを慕っている事は報告で聞いていたし、ルーファウスが万が一や困った時にはカイトを頼る様に言っていた。なので慕う事は特に不思議ではない。と、そんな事を考えていた彼に、ゲルタがまるで合点が行った、とばかりに笑った。


「あぁ、お姉ちゃんとカイトさんの事?」

「ああ」

「ちょっと惚れてるっぽいよねー」

「ああ……あぁ!?」


 考え事をしていたからだろう。うっかり何も考えずに返答してしまったルードヴィッヒが素っ頓狂な声を上げる。それに、ゲルタが目を丸くした。


「え、あれ? 違うの」

「それは私のセリフだ……唐突に何を言い出すんだ……」

「絶対そうだって」

「そ、そうか……」


 ゲルタはこの家の中で最も俗っぽいと言えば俗っぽい。この三兄妹の中で最も人望があるのは誰か、と言われればおそらく彼女だろう。

 実際、密かに部屋を抜け出しては女中達と気ままなお喋りとかもしているそうだ。ここらは神秘的な姉や生真面目な兄とは正反対の性格故、という所なのだろうとルードヴィッヒは考えていた。と、そんな彼は娘の言葉に対して気を取り直す。


「そ、それはまぁ、追々考えるとして。違うさ」

「ふーん……」

「霊力をな。あそこまで仕上げてくるとは思わなかった」

「あー……」


 ルードヴィッヒが思っていたのは、アリスの霊力だ。これについてであるが、実はアリスどころか教国さえ彼女の霊力を持て余していたと言える。育てたいが、育てられる人材が居なかったのだ。


「ただでさえ退魔師や除霊師は数が少ない。それが一つの所に留まって、となると誰も居ないんだ」

「お父さん、そこら苦労してたっけ」

「知ってたのか?」

「うん」


 ゲルタの言葉に、ルードヴィッヒは僅かに目を見開く。やはり折角持ち合わせた才能で、それを活かせる場が近くにある。そして幸いな事に、優秀な教育者に巡り合える場を作ってやれるのだ。親としては、可能な限り伸ばしてやりたいというのが親心だった。


「そもそも優秀な除霊師は引く手数多だからなぁ……今の教員とてかなり無理を言って、に近い。願えるのなら、カイトくんにはこのままこちらに残ってもらって、アリスの個人教員を務めて貰いたいぐらいだ」

「そんなに凄いの?」

「彼当人の腕……この場合は除霊師としての腕か。そちらは知らんが、アリスは随分と伸びていた。そして彼ほどの辣腕だ。様々な見地での伸びが期待できる」


 間違いなく、カイトの下での修行はアリスの才能を飛躍させていた。いや、飛躍はおかしいだろう。本来は、こうなれた筈だ。ただ、教国側が彼女に最適な教育の場を用意してあげられなかった、というだけだ。


「……」


 たった数ヶ月。それであれだけ伸びたのだ。もしもっと長期間修行出来ていたなら、もっと伸びる可能性があった。


「惜しいな……」


 これならもっと前から向かわせられれば良かった。まだまだ成長の余地がある娘の事を思い、ルードヴィッヒは非常に苦い顔をする。これを、ここで終わらせねばならないのだ。親としては、慚愧に絶えなかった。


「はぁ……いや、そういえば……ユニオンにも除霊師が居た……あぁ、いや……あの子はダメか……」


 どうすれば良いだろうか。ルードヴィッヒの悩みは尽きなかった。そうして彼は僅かに思考の海に沈む事になるが、しばらくするとミュンツァーが現れる。


「旦那様」

「ん、ああ、ミュンツァーか」

「はい……如何なさいました?」

「いや、なんでもない」


 どうせもう考えても詮無い事だ。故にルードヴィッヒは首を振って気を取り直すと、改めて彼に先を促した。


「それで、どうした?」

「いえ、お召し物を変える、という事でしたが……中々戻られませんでしたので、お呼びに参りました」

「あ、ああ、そうだったな」


 基本的にヴァイスリッター家では当主や分家に隔てなく、全て一つの墓に詣でる事になる。喩えそこに遺体や遺骨、遺品がなくとも、だ。

 なので名目上は初代ルーファウスもまたそこに居ることになっており、平服のままというのは当主として憚られたのである。無論、それを鑑みてカイトも礼服を用意して、ヴァイスリッター家の家令に預けていた。


「悪かったな。先の戦いで少し考え事をしていた」

「アリスお嬢様の事ですか?」

「お前にはお見通しか」


 やはりここらは身内より長く連れ添った家令という所だろう。ルードヴィッヒの考えをミュンツァーも理解していた様だ。


「ゲルタ。お前も一度身嗜みを整えなさい。ご先祖様の前だ。失礼のない様にな」

「はーい」


 ルードヴィッヒが立ち上がったのに合わせて、ゲルタもまた立ち上がる。そうして、二人もまた邸内へと戻っていくのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1742話『ルクセリオン教国』

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