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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第76章 ルクセリオン教国編

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第1740話 ルクセリオン教国 ――勇者と騎士――

 ルードヴィッヒの提案で行われた、カイトとルーファウスの模擬戦。それはカイトの目論見により、ルーファウスの過去世に居るもう一人のルーファウスという騎士の目覚めを促す結果となる。そうして目覚めたもう一人のルーファウスと、カイトの中にて目覚めていたもう一人のカイトは共に人知を超えた領域で戦いを行っていた。


「……」


 無数の氷像とそれを操るルーファウスの繰り出す斬撃の嵐の中を、カイトは目を閉じたまま回避していく。これは神陰流の基礎。世界の流れを読む力を使っただけだ。が、流れを読めばこそ、回避不能の状況を理解する事が出来てしまう。


「む……」


 今まで閉ざされていたカイトの目が開き、目でしっかりと現状を確認する。そうして見えたのは、今まで転移術の囮として使われつつも時に彼を攻撃していた氷像達が転移術を行使せず、一斉に己に向かってきている所だった。元々氷像の数は無数と言って良い。それが一斉に襲いかかるのだ。物理的な逃げ道は皆無と言って良かった。


「さて……そろそろ、良いか」


 少しは遊べるぐらいには成長していたのだ。なら、そろそろ本気でやってやるべきだろう。なにせ相手もまだこちらが本気でない事を見抜いて、本領発揮とはなっていないのだ。であれば、こちらがそろそろ本気で行くぞ、と見せてやっても良いだろう。


「……行くぜ、相棒」


 カイトはかつての神剣を模した二振りの剣を取り出し、ゆっくりと噛みしめる様に、しかし圧倒的な速度で構えを取る。そして、次の瞬間。すべての氷像が消し飛んだ。


「……」


 残心の様に、カイトは僅かに静けさを保つ。そうして周囲をキラキラと煌めく氷の欠片が舞い落ちる中、音もなく斬撃が翻った。


「「……」」


 音もなく翻った斬撃は、ルーファウスの物だ。彼はすべての氷像を囮として、カイトへと肉薄したのである。そうして、斬撃の交差した直後。カイトが氷の欠片を吹き飛ばして、その場を離脱する。


「っ!」

「行け!」


 その場を飛び退いたカイトに対して、ルーファウスは身に纏う炎を操り追撃させる。それに、カイトは両手の大剣を交差させて斬撃を放った。


「っ」


 自らの炎を斬り裂いて飛翔する二つの斬撃に、ルーファウスは一瞬だけ片眉を上げる。が、彼は一切の迷いなく地面を蹴って飛び上がり、斬撃を放って消えた。


「っ」


 背後か。カイトは転移の兆候から、ルーファウスの動きを把握。が、カウンターは叩き込めない。前の斬撃があるからだ。

 転移術のもう一つの弱点は、障壁が一瞬だろうと解除されてしまう事だ。そこを狙い打つ事なぞカイト達程の戦士であれば、容易い事だ。なら、打てない様にしてしまえばよい。この斬撃はそういう事だ。


(当然、上にも……)


 これぐらいはやってくれるだろう。カイトは上空に現れた氷塊を気配だけで察する。これで、彼は前にも後ろにも上にも逃げられない。が、だからといってこれで終わりなわけがない。遊びは、終わったのだ。


「はっ」


 カイトから小さく、息がこぼれる。そうして気付けば氷塊は粉雪に変わり、彼の眼前にあった斬撃は斬り飛ばされ、彼自身はルーファウスと鍔迫り合いを行なっていた。


「……」


 なんだ、今のは。ルードヴィッヒは思わず、言葉を失った。今のは常識的に考えれば、転移術での回避が常道だ。が、彼は圧倒的な速度で全てを叩き切ったのである。


「氷炎よ!」

「おぉ!」


 ルーファウスが周囲に浮かせた氷剣と自らを包む炎を操り、鍔迫り合いで逃げられぬカイトへと襲い掛かる。これに、カイトは楽しげだった。


「いいねぇ! そうじゃなきゃ、面白くない!」


 自らの障壁を刻一刻と浸食する氷と炎に、カイトは力を漲らせて相対する。そうして、彼の両腕に龍に似た紋様が現れた。


「っ!?」


 過去の自分が見たことのない現象に、二人のルーファウスが思わず驚きに包まれる。まぁ、当然だ。この力を手に入れたのは、彼らと別れ一人旅をするようになってからだ。知るはずがない。そうして、その一瞬の驚きを使い、カイトは一気にルーファウスを吹き飛ばした。


「おぉおおお!」

「ぐっ! まだまだ!」


 押し飛ばされたルーファウスであるが、単に押し飛ばされただけだ。故に彼は即座に体勢を立て直すと、再度カイトへと向かっていく。


「はぁああああ!」

「遅い!」


雄叫びを上げて突っ込んできたルーファウスに、カイトは返す刀で剣戟を叩き込む。が、動体に大剣の一撃を受けたルーファウスは、氷塊となって砕け散った。が、これにカイトは驚かず、即座に今度は刀を振るう。


「おぉおおお!」

「遅いつってんだよ!」


 雄叫びを上げて再度突っ込んできたルーファウスに、カイトが再度剣戟を合わせる。今度は、砕け散る事はなかった。その代わり、ルーファウスが大きく吹き飛ばされる事になる。


「ぐっ! ちぃ!」


 吹き飛ばされたルーファウスは舌打ち一つで立て直すと、即座に振り向いて斬撃を放つ。すでに彼の背後には、蒼い閃光と化して正に閃光と見まごうばかりの速度で移動していたカイトがいたのだ。


「はっ」


 放たれた斬撃に対して、カイトはそれを容赦なく大剣で叩き切る。そうして彼は地面を蹴って、ルーファウスへと肉薄する。が、そんな彼の眼前に、氷像が立ち塞がった。


「こんな物で、!」


 こんな物で止められると思うなよ。そう言おうとしたカイトであるが、自らの剣戟が空振りして僅かに驚きを得る。


「そうか……そうだよなぁ!」


 空振ったカイトはであるが、故にこそ彼の顔は満足げかつ楽しげに歪む。彼が何が楽しかったのか。それは彼自身の思い違いだ。過去のルーファウスは氷を得意とした。今の彼は、炎を得意とする。だから、今は両方使えるのだ。つまり、この現象は。


「蜃気楼か!」


 カイトはさらに背後から唐突に現れた様に見える氷像に向けて、本来はルーファウス自身に叩き込まんとした刀を振り抜く。

 そうして、彼は更に加速。大剣で自らの真横に回り込んでいたルーファウスへと打ち合った。が、やはりかなり無理のある動きではあった。故に体勢は十分とは言い切れず、大剣の腹にルーファウスの攻撃を受け、弾かれる事となる。


「っ!」


 ぎぃん、と鈍い音を立てて大剣を弾かれ、カイトの顔が僅かに歪む。とはいえ、合わせられた。故に即座に大太刀を振り抜いた。これに対して、ルーファウスは片手剣ではなく盾を振り、その軌道を逸らす。そうして彼はカイトに向けて片手剣を突き出した。


「はぁ!」

「甘い!」


 思いっきり突き出された片手剣に対して、カイトは自らの魔力で編んだ武器を投じて対応する。そうして極至近距離から投ぜられた剣に対して、ルーファウスは思わず目を見開くも、頭部を守る兜に全力で魔力を通して障壁を全開にして対処する。


「っ」


 やるな。カイトは内心でルーファウスを称賛する。その動きに一切の迷いはなく、間違いなく実戦でも同じ動きが出来るだろう。上出来と言い切れた。


「なら、こちらも!」

「!?」


 自らの刃の切っ先が虹色の輝きに阻まれ、ルーファウスが思わず驚きを得る。これに対して、カイトの動きに迷いはなかった。


「気張れよ!」

「ごふっ!」


 障壁を全開にしてルーファウスの刃を食い止めたカイトが、回し蹴りを放ってルーファウスを吹き飛ばす。流石にこの状況だ。どうすることも出来なかった。鎧が砕けるという事はなかったが、それでも内部に浸透する一撃が彼を襲い、僅かに意識が暗転する。


「っ!」


 気を失えば負ける。そう自らを強く律したルーファウスは、間一髪のところで意識を保つ。そうして彼は迫り来る地面になんとか着地して、滑る様に減速。真正面から追撃してくるカイトに向けて、盾を構えた。


「そこで足を止めるのは愚策だろう!」

「!?」



 突っ込んできた状態から急加速して自らの側面に回り込んだカイトに、ルーファウスは思わず瞠目する。が、彼は咄嗟の機転を利かせ、その場から転移術で退避。さらに逃げる折に氷塊を落とし、カイトへの足止めとする。


「ふぅ……はぁ……」


 転移術で距離を取ったルーファウスは敢えて追撃しないカイトを見ながら、荒れた呼吸を整える。彼我の差は歴然だ。

 が、やる気は俄然満ち溢れていた。自分は彼の父の戦友の息子で、あの男の部下なのだ。伝説の一人なのだ。なら、この程度で折れてどうするのか。あるのは、それだけだ。そうして、彼は再度地面を蹴る。その背後には、無数と言える程の氷像があった。


「……いいねぇ……昔を、あの地獄を思い出す」

「今なら、もっとやれる」

「よく言った……敵はでかいぞ」

「わかっている」


 剣戟の最中、両者が僅かに言葉を交わす。が、そのルーファウスの言葉に、カイトは告げた。


「いいや、お前が思うよりもっと、だ……そうだ。第五次はもう始まっているらしいぜ」

「っ!」

「あっはははは! 行こうぜ、いつか。オレ達には関係がないが、オレ達を結びつけるものでもある」

「……あぁ、貴方らしい」


 何年掛けても、帰ったのだろう。これは知り得ぬ事だ。だからルーファウスの中に眠る騎士ルーファウスは、只々素直な安堵を得る。そしてだからこそ、今までで一番の力が漲った。


「おぉおおおおお!」


 ルーファウスの全力の雄叫びで大気は震え、空間が鳴動する。


「……」


 遂に垣間見えたルーファウスの全力の闘気に、カイトは笑う。これが、彼の本気。自分の知らない自分の仲間達。こんな出会いが、まだまだ沢山待ち構えているのだ。嬉しくなくては、何なのか。楽しくなくては、何なのか。だから、彼もまた。


「……あぁ、やっとわかった。カイト殿。おそらく、この俺は貴殿の事を団長と呼んでいたのだな」

「然り……そうだ。オレがお前ら千人を率いた。そして、守り抜いた」


 揺らめく様に、カイトの右目に淡い真紅の光が宿る。それに対して、ルーファウスもまた騎士の構えを取る。そうして、両者同時に名乗りを上げた。


「『蒼の騎士団』団長……カイト・シンフォニウス・シンフォニア」

「風迅卿が第二子にして<<風刃騎士団>>副団長……ルーファウス・ウィンディア」

「「いざ、参る!」」


 両者名乗ると同時に、地面を蹴る。そうして、両者はほぼ中央という所で激突した。


「っ」


 初撃のぶつかり合いの後、カイトが消える。転移術だ。これを単に行使したのでは、見付かるだけだ。だが、カイトはそれ故にこそを利用する。


「そこ!」


 自らの背後に回り込む形で行使された転移術の兆候を見抜き、ルーファウスは振り向くことなく氷の剣を背後に放つ。背後に回り込んだカイトが何かの罠を仕掛けないはずがない。彼はそう読んでいた。そして、これは確かに正解ではある。が、同時に対策としては、間違いだった。


「それは失策だ!」


 投げつけられた氷剣に向けて、カイトは剣を射出する。こう来るだろう。そう読んで転移したのだ。であれば、最初から準備していた。


「ちっ!」


 しくじった。ルーファウスは内心でそう思いながら、自身の眼前に何も起きない状況を理解して一歩前に出る。これはやはり、熟練度の差が大きかった。ルーファウスはまだ目覚めて少し。一時間と経過していない。故にどれだけ意識しても、どちらかの戦い方に引っ張られてしまう。

 それに対してカイトはもう年単位で目覚めていて、そして更に彼らの特異性から両者は非常に近い存在だ。故にどちらの戦い方も可能となり、結果としてどちらにも偏らない戦い方が出来るのだ。勿論、どちらかに偏った戦い方も出来た。


「ばーか。それがオレの狙いだ」

「っ!」


 一歩前に踏み出したルーファウスであるが、その直後。これこそが誘われたのだと理解する。ルーファウスの目論見としてはカイトが背後に転移したと同時に、障壁の切れ目を狙い撃つつもりだった。

 勿論、これが成功しないだろうぐらいは読んでいたし、その後はカイトが自身が振り向いたと同時にその背後、つまり今の正面に何かを仕掛けていて、それを発動させると読んでいた。

 が、カイトはそれを見越した上で、ルーファウスが振り向かず対処して、それに失敗して前に飛び出して反転しようとするだろう、として元々自分が居た場所に罠を仕掛けたのであった。そうして、次の瞬間。ルーファウスの足元で爆発が起きた。


「ぐっ!」

「さぁ、なんとかしてみせろよ」


 天高く舞い上げられたルーファウスに対して、カイトは一切の容赦をしない。そうして迫りくる彼に対して、ルーファウスは即座に転移術を行使してその場からなんとか離脱する。が、その背後に、カイトが回り込んだ。


「っ、おぉおおおお!」

「はぁ!」


 力任せに放たれた氷と炎の波動に、カイトは一切の迷いなく大太刀と大剣を振りかぶる。そうして、僅かな間二つの力がぶつかり合う。


「ぐっ!」


 この戦いに勝ったのは、言うまでもなくカイトだ。というわけで、しばらくしてルーファウスが放つ氷の壁が砕かれて、彼の姿が露となる。と、そのタイミングだ。ルーファウスが唐突に膝をつく。


「ぐっ……」

「……ま、こんなもんでしょ」

「……消え……た?」

「眠っただけだ。疲れただろ?」


 原因なぞ簡単にわかる。あれだけの力を連続で、それこそ今のルーファウスだけなら出来ない領域の戦闘をしたのだ。いくら前世からのバックアップがあるとはいえ、そんな長時間出来るわけもなかった。瞬よりも随分と保った方だろう。

 最後の本気の競り合いが限界だった、というわけだろう。そうしてルーファウスとカイトの戦いは、ほぼほぼカイトの勝利という形で終わりを迎えるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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